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第5話◆耳と尻尾の女の子

神宮にてお祓いをしにいく和也だったが、神主たちは不可解な表情を浮かべる。その顔はまるで和也の言動を不思議に思うかのような⋯⋯


 学校から飛び出し、そのまま目的地へと突っ走りその場所の目の前へと来ていた。


「ここだな⋯⋯かなり久しぶりに来たが⋯⋯」


 僧稲荷神宮⋯⋯狐の神様と縁が深いと聞き人々が沢山来たと聞くが、今はかなり人気が無くなってしまった。

 話を聞くと、10年前はかなり繁盛していたらしく『願いが叶う』という噂もされていた程だと言う。


 自分が子供の頃はこの神宮によく遊びに来ていたんだが、1つの出来事をきっかけにここには来なくなったんだった。


 その頃の事は⋯⋯あまり思い出せない。最寄りの神社ではないけど、何かとここが信頼出来る。

 それに神宮でもお祓いはしてくれるらしい。


 何より、ここの神主さん達には昔からお世話になっている人たちだし都合がいい。

 学校から近い神社もあったけれど、こちらの方が安心だ。


 そして俺が神宮へと足を運び出し、ある程度建物へ近づいたその時。


「───おぉ、久しぶりだな、和也」

「カズちゃん!久しぶりね、元気にしてたかい?」

 建物の内部から俺に気づいたのか、手を振って呼んでくる神主さんと巫女さん。


 俺はそれを認識して手を振り返す、そうすると彼らは笑顔を俺に向けてくれた。


「こんにちは、お久しぶりです!神主さん達も元気にしていましたか?」

 俺は神主達に笑顔を向ける、相変わらず元気そうだなと安心してくれたようだ。


「元気いっぱいだ!まだまだ老いる歳でもないぞ?」

 そう言っても神主さんはそろそろ40歳になるほどだったはずだ。流石としか言えないほど、不思議と老いを感じさせない人達だ。


「カズちゃん、貴方がこの場所まで来るってことは相当の事なのかしら?あの件以来───いいえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」


 巫女さんは何かを思い、言葉を詰まらせて俺に忘れるように言ってきた。


 まだあの頃のことを心配してくれていたのか。自分はあまり思い出せないけど⋯⋯1度だけ火事になったことがあったな。


「───実は⋯⋯」


 俺は霊のことに関して問題があったことを伝えるため、真剣そうな顔をして前を向く。


 ________


 

 ───そして要件を話し終え、俺はお祓いをお願いし神宮の中へと足を運び終えていた。


「お祓い⋯⋯?」

 少し疑問に感じている神主達、何かを心配して神主さんたちはお互いを見つめ合い、沈黙が流れた。


 神主さん達は霊などを感じ取ることが出来るはずだ⋯⋯なぜ疑問に思うことがあるのか不思議で仕方がない。


 そして彼らは意を決したのか、お互いに言葉を交わす。


「⋯⋯物は試しね、アナタ、準備に取り掛かるわよ」

「了解、ちょっくらお経を唱えるからな」


 神主は些細な返事をし俺の前に座る。

 そして目を閉じてお経を唱える準備をしていた。


 俺はあまりこういうことに関しては詳しくない、神主さんたちに任せて大人しくしていた方がいい気がする。


 ───体の力を抜き、安静にし全てを神主さんに預けるとする。

 そしてお経を唱え始めると同時に異様なオーラを放つ神主。


 やはりこんな気さくな人でも神主という名の神聖な職だ、それなりの業を積んできたのだろう。

 神主の先程の温和そうな顔はどこかへと消え去っていた。


 そうしている間に巫女が御幣を持ってきて神主の隣に座る。


 ああ言うものは映画や漫画の中だけのものだと思っていたが、実際に見るのは初めてだ。


「カズちゃん、出来るだけの事はするわ。貴方がこの場所に来るほど⋯⋯の事なのでしょう?」

 巫女は少し心配そうな目で俺に問いかけてくる。


 俺にとって、巫女は母親のような存在であり巫女もそんな俺を自分の子供のように心配してくれていた。


 俺は頭をコクリと頷き、神主と同様に巫女もお経を唱え始めた。


 _________


 ───結局、そのお祓いは30分ほど続いた。


「やれることはやった、後は和也、全てはお前自身だ。絶対に乗られるなよ」


『乗られるな』というのはどういう意味だろうか?神宮寺先生の話ではもう既に憑かれているはずなんだが⋯⋯

 わからないがここは頑張ると言った方があちらも安心だろう。


「頑張ります、この歳で死ぬのはごめんですからね」


 ───絶対に負けないという目をしているな、和也

 それなら安心だろう、俺たちにできるのはここまでであとはお前次第、頑張れよ。


 神主は眉尻を下に下げて何か考え事をしていた。


 ───その一方で巫女が前に出てきて、胸ポケットから出したものを和也に渡す。


「カズちゃん、これを持っておいき、絶対に役に立つ時が来るはずよ」


「これは⋯⋯御札?」

 お守りではなく、出てきたのは御札。

 異様な雰囲気に俺は呆気を取られてしまった。


「それはこの神宮に伝わる御札でね、どんな強力な霊でも妖でも封じ込めることが出来る御札なのよ、数少ないものだけれどあなたのためよ、もっていってちょうだい」


 俺は魂が抜けたように固まり、表情が動かない。


 そう、もらった御札は森の中の神社で剥がしたものと瓜二つのように似ていたのだった。

 異なるのは文字の色それだけであり、驚きを隠せない。


「⋯⋯どうかした?」


 驚いた顔をする俺に疑問を抱く巫女さん。

 その声で意識を取り戻し、何とか誤魔化そうとする。


「いえ、なんでもないです」

「そんなすごいものを貰っていいかなと困惑していただけです」


 あの神社の御札とまるで同じだ。色、形、大きさ、文字の書き方も全て瓜二つ。

 違うのは⋯⋯文字の色だけ。


「いいのよ気にしなくて、ただ注意して欲しいのはその御札は強力すぎるが故に大変なことになることもあるわ、使うのは本当に危険な時に、わかった?」


 そして巫女さんは俺に注意深く言い聞かせてきた、やはりアレが⋯⋯見えるのだろう。


 それほどのものなのか、じゃああの神社で剥がした黒文字の御札は⋯⋯

 いや、深く考えるのはやめておこう。もし姿を現したらこの御札を使う、それだけだ。


  「わかりました、本当にありがとうございます!俺はこれで⋯⋯」


  逃げるように急ぐ、頭の奥底にそれほどのような厄を解放してしまった可能性を考えてしまう自分がそこにはいた。

 

「達者でな。」

「ええ、気をつけるのよ」


  修行に行く息子を見届けるような目で俺の後ろ姿を見てくれていた神主と巫女。


 俺はその場を逃げるように後にして、神社へと全力疾走する。


「────しかし、あのようなモノがこの世にまだ封印されているとは⋯⋯」


「何はともあれあの御札さえあれば大丈夫よ、あとはカズちゃん次第⋯⋯祈るだけね」


 御札を渡して一安心する巫女、その裏腹に和也が失敗しないか心配もしていた⋯⋯。


 _______



 ────クソッ!あの森がない!


 俺はあれから死にものぐるいで走り、朝に通った道へと戻りついていた。


 朝に見た森を探すが⋯⋯そこにあるのは、朝にはなかった建物だけである。

 森があった痕跡も、建物がすぐに立った感じもない。


「どうしたものか、この御札を貼り直しに行けないんだが⋯⋯」


 でかい建物に困惑をする俺だったが、その一方で建物から出てくる20代後半の男性がいた。


 ────俺はそこで意を決して話しかける。


「すみません、あらぬことをお聞きしますが、ここらに森ってありませんでしたか?」


 質問された男は変人を見るかのような目で俺を見て、機嫌が悪そうな声で俺に返事をしてくる。


「ここは都会の真ん中だぞ?森どころか木がある場所もない、部活で疲れたんならとっとと家に帰りな」


 辛辣な言葉を向けてきた男、俺は困惑したような顔をしたが⋯⋯すぐに気持ちを切り替え返答する。


「⋯⋯やはりそうですよね、すみません、疲れているようです、答えていただきありがとうございます」


 感謝された男性は返答をすることも無く歩き出し、そのまま信号へと向かっていった──


 冷静に考えよう。


 確かにここは都会の真ん中だ、森なんてあるわけない。

じゃあ朝に見たのはなんだったんだ?幻覚ではないはずだ、あの御札は今、俺のポケットに入っている。


 クソッ、このままじゃどうしようもないじゃないか。


「⋯⋯日が暮れてきたし、僧稲荷神社に着く頃には夜で補導されかねない。とりあえず⋯⋯帰るか」


 恐怖と困惑を押しのけ、不本意ながらも帰ることにした。

 そして俺は帰り道に何度も森を探すが、見つかることは無かった。


 _________



「はぁ...どうしたものか、御札を貼り直そうにも神社を見つけられないんじゃ⋯⋯」


 あれから俺は考えることを放棄して、そのまま家へと帰ってきていた。

 そこで俺は頭を抱えて悩みに悩みまくってきたのだが⋯⋯。


 ───そして俺はポケットにあった神社の御札から異様な光を放っているのに気づく。


「───!?」

 俺は光を放つ御札をポケットから投げると同時に、神主達に貰った御札を準備する。


 これだから科学的に根拠の無いことは大嫌いなんだよ!

 俺はまだ死ねるほど歳は取ってないぞ!


 ────眩い光を放つ御札は時間が経つと共に宙に浮き出す。


 俺は御札を構えて、異様な光に構えるが⋯⋯突如として御札の光は消え、地面に落ちる。


 御札が⋯落ちた⋯⋯?

 俺はその御札に少しずつ近寄り、様子を伺う──


「⋯⋯⋯」


 そして俺が御札に触れられる距離に近づくと途端に、地面に落ちた御札が一目散に破れ、紫色の神秘的な魔法陣が展開され始めた──


「───魔法陣!?」


 万全な状態で御札を構え、闘う意思を見せるがあまりにも予想外な出来事のせいで俺は腰を抜かしてしまう。


 ───その次の瞬間、魔法陣は完成し、あるモノが出現する。


「復活じゃ〜!!」


 何かの実体が現れたと同時に魔法陣は消え去る。


 その実体には耳と尻尾があり、身長は俺の肩にも満たさない大きさだった。140cmをギリギリ超えるかどうか⋯⋯それほどまでに小柄な女の子が魔法陣から出現する。


「⋯⋯女の子?」

 俺はビックリして腰を抜かしたまま座りみ小さい女の子が出てきて困惑してしまう。


「ほう⋯⋯?お主が⋯」


 俺が腰を抜かして座り込んでいる所に、彼女は俺に対して嘲笑いながら歩み寄りながら声をかけてきたのだ──


第5話、お読みいただき誠にありがとうございます!!

ついにメインヒロインの登場ですね。


ここからが本番!ファンタジー世界と現実世界を股に掛ける冒険⋯⋯ではなく、前日譚の青春な生活の始まりです。

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