第4話◆厄祓いの御札
部活動を終え、神宮寺先生に会いに行く和也。
そしてとある場所へと移動し、神宮寺先生から話を聞く。
そこで思いがけない事態が和也を待ち受けていた。
───俺は急がないと行けないような不穏な気がしてならなくなり、いつもより早歩きをして職員室におもむいていた。
「2年B組、高橋和也です。神宮寺先生はいらっしゃいますか?」
奥の机に座っていた神宮寺先生は何か悩んだ顔をした後、俺が職員室前へいることに気がつく。
その顔はまるで何科に取り憑かれたかのように険しく、ごく一部の人は怖がりそうな⋯⋯そんな顔をしていた。
この御札に少しだけ恐怖を覚えてしまっている自分がいる、一体あの時の自分はなぜ御札を取ってしまったのだろう⋯⋯。
そんな自らの言動に対しての疑問が頭の中を駆け巡っていた。
「よく来てくれた、とりあえず場所を変えよう、ついてきてくれ」
そして先生はその場から立ち上がり、職員室の出口へと向かっていく────俺はそれを無意識に追いかけてしまう。
⋯⋯職員室で話す内容ではないからだろう。
もし職員室でこんな話をして他の教員の耳に入ったら⋯⋯只事にはならない。
不要物を持ってきた俺の内申点も危ういしな。
────肝心の神宮寺先生は職員室を出て、どこかへ向かっている。
そして俺たちが行き着いた場所、そこは────
───相談室だ。
「ここだ、入ってくれ。」
他人に聞かれてはいけない、または人が多いところを避けたというところだろう。
確かに職員室の真ん中でこんな不気味な御札の話をしていたら確かに面倒なことになりそうだ、神宮寺先生が場所を変える理由もわかる。
俺達は相談室の中へと足を踏み入れ、その静かな部屋の中で扉が閉まる音だけが響いた──
そして先生は次の瞬間、ため息をついて俺に衝撃の言葉をぶつけてきた。
「単刀直入に言うぞ。和也、お前は何かに憑かれている」
───疲れている?夜中まで起きているからか睡眠不足だろう、それが影響して疲労が顔に出てしまったのだろう。
⋯⋯実を言うと俺も気づいていた、それは疲れではなく幽霊などに憑かれたという事を。
あまりにも衝撃な発言で俺は現実逃避をしてしまう。
「疲れている⋯⋯確かに今日は寝不足で少し疲れていますね。それがどうかしましたか?」
『憑かれている』と言う発言を心の中ではしっかりと理解していた。
そう、俺はとぼけてしまっていた。
その発言を聞いて、本当に勘違いをしているのかと思ったのか、事の重大さに気づかない俺に呆れる神宮寺先生。
「そういうことではない、疲労などの疲れではない。幽霊、または妖怪などに乗り移られた方の『つかれ』だ」
神宮寺先生の言葉で再び自分が置かれた状況を再確認する、その衝動で俺は一気に顔を真っ青に変えてしまった。
────俺はかなりの慌て具合で神宮寺先生に問いかける。
「妖怪?幽霊?それって呪い殺されるなどの類ですよね!?俺死んじゃうんですか!?」
俺の慌て具合を見て、静かに宥めようとする神宮寺先生。
俺はこんな所で死にたくない、まだ余生は長いんだ。呪い殺されるなんて真っ平御免だ。
「まぁ落ちついて聞いてくれ、その者と言うのもわしには見えないんだ、しかし昔から霊感など気配を感じ取るのには敏感でな、お前の後ろに何かがいるのは確かなんだ」
「またそれは妖か霊かもわからん、ただお前を見る限りでは具合はいつも通りのように見える。悪霊ではない確率は高い、だから落ち着いてくれ。」
未だに状況が飲み込めない。
憑かれている?この御札は霊を封じ込める御札だったのか?
────クソッ、なんてことをしてしまったんだ。いち早くこの御札を貼り直さないと⋯⋯
「そう焦るな、悪霊ならとっくのとうにお前は具合が悪くなっているはずだ。少し落ち着け、話はそれからだ。」
俺はようやく神宮寺先生の言葉が耳に入り、少しだけ心が安堵することが出来た。
とりあえずは自分の身はまだ大丈夫という事を言われたがまだ安心は出来ない、御札を元に戻せれば⋯⋯。
「そうですか!それは良かったです⋯ところで、この御札に書いてある事は先生は読めるんでしょうか?」
そうだ、俺は御札の文字について聞きに来たんだ、もし内容が分かれば何かわかるかもしれない。
そこで俺は本来の目的を思い出し、慌てて御札の内容を問いただす。
⋯⋯だが。
「歴史上にはこんな文字はなかったはずだ、俺も色々な霊や妖などを封じ込める御札の本などを見てきたが、こんな文字は初めてだ。」
宛はハズレだ。
先生にも分からないということは、本当にこの世界には存在しない文字なのだろう。
神宮寺先生は日本の中でも屈指の歴史の教師だ。先生が言うのなら⋯⋯信憑性は高い。
「そう⋯ですか⋯⋯それは残念です」
何も分からない、呪い殺される。
そんな恐怖が俺を襲うが、俺はそのような恐怖よりも『御札を貼り直す』ということをいち早く済ませようと考える俺だった。
再び封じれば俺の身も確実に助かる、そう思っていた⋯⋯。
「とりあえず御札は元にあった場所で貼り直すべきだ。ただ手順を踏め、なにやら不吉な予感がする」
「まず神社や寺へ行け、どこでもいい。お祓いをしてもらうべきだ、憑かれたまま御札を貼り直そうとすると霊が何か行動する可能性だってある、それを踏まえて行動しなさい。」
憑き物が妨害をする可能性がある⋯か
それもそうだな、俺には気配を感じ取れないが⋯⋯いち早く神社へ行くべきなのはわかる。
早い段階で気がつけてよかった──
「わかりました、他は何かするべきことはありますか?」
念には念をだ、この歳で呪い殺されるなんて真っ平御免だからな。この憑き物には絶対に離れてもらうぞ。
「そうだな、家庭科室にある塩を持っていけ、許可は俺が出しておくが、こういう時はお守りが1番なのだろう、しかし不要物は持ち込み禁止となっている」
「本来ならばお前のその御札も不用品として指導するべき、だが一刻を争う事態だ、急いで御札を貼り直しにいけ。」
今回ばかりは神宮寺先生もかなり真面目な顔をしていた、生徒の命がかかってるんだ。
今は不要物など言っていられないのだろう。
────それを改めて確認し、俺は相談室から出ようとして神宮寺先生は俺に声をかけてきた。
「⋯⋯気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」
その気遣いの言葉を尻目に、俺は急いで家庭科室へと向かい塩を取りに向かった。
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───やがて俺は家庭科室から塩を持ち出し、そのまま玄関へと突っ走り、疲れ果てて座りこんでしまった。
なぜこの御札を取ってしまったのだろうか、普通に考えて森の奥の神社の御札を剥がすなんて、普通の人ではありえない。
しかも神社の内部全てに御札が貼られていた、傍から見れば、何かが封じられているというのは明らかだろう。
なぜあの時の俺は、何も考えずに御札を剥がしたんだ⋯⋯。
「⋯⋯考えても仕方ないな」
俺は朝の出来事は過ぎた事だと割り切り、御札を貼り戻すことを最優先にした。
さて、最初はお祓いだな⋯⋯。
自らの命を救う第1歩、俺は己の背中⋯⋯かはわからないが、俺に住まうこの憑き物には消えてもらうために⋯⋯神社へと足を運び出した────
第4話読んでいただき誠にありがとうございます!!
御札を躊躇なく剥がす和也⋯⋯異常ですね。
そもそも得体の分からない森に入っていくこと自体あれですが⋯⋯