第3話◆ー神宮寺 雅治ー
歴史の先生に御札の事を詳しく見てもらおうと職員室に急ぐ和也だったが、神宮寺先生は図書室にいると言われそこへと向かう。
しかし彼が思うほど生易しい出来事ではなかった。
売店から戻り教室に戻って来た俺と祐馬。
そして俺は急いで席へと戻り、財布をバッグの中へとしまう。
「さてと⋯⋯俺はちょっくら職員室に行ってくるわ。先に食べててくれ。」
俺は祐馬にそう伝え、時間を無駄にする訳にも行かないので教室を後にしようとした。
そう、今から御札の事を神宮寺先生に聞きに行く。
神宮寺先生は歴史のことなら負け知らずと言われている先生だ、少し不気味がられている先生だけど⋯⋯。
そんな先生なら御札のことを何かしら知っているかもしれない。
神宮寺先生に御札について聞こうと考えていると────後ろから急に大きな声が耳に入ってきた。
「おう!職員室で問題を起こすなよ!」
後ろを振り向くと、祐馬は買った食べ物をバクバクと食べ始めている。
流石というべきだろうか、コイツは食には目がないからな。
そしてコイツの発言⋯⋯問題は起こさない、いや起こしたくない。
この学校の先生の6割はかなりの強面の持ち主なんだ。
あんなに怒られたら俺のメンタルは破壊されるどころじゃ済まないと思う。
「うるせぇよ、じゃあな」
祐馬に辛辣な言葉を向けて教室を出る、早く行かないと昼休みが終わっちまう。
________
────さて、神宮寺先生はいるかな⋯⋯
俺は職員室前へと来ており、内部を覗き込んで神宮寺先生の姿を探していた。
そしてその不審な素振りを見せる俺の後ろから、気配を消して驚かすかのように誰かが俺の肩を触り、語りかけてくる。
「どうした?和也、私に何か用か?」
気配がないように近づいてきた!?
上原先生⋯やめてくださいよ⋯⋯
後ろから急に声をかけられたため俺はビクッとし、背筋に冷や汗が走る。
「プッ!すまないすまない、後ろからはダメだったか?」
ビクッとする和也を見て嘲笑う上原先生、少し申し訳なさそうな顔をして謝罪をしてはいるが⋯⋯。
⋯⋯こういう厳しいけどノリがいい先生が好かれるんだろうな。
「驚かさないでくださいよ!死ぬかと思いました」
少しオーバーな発言すぎたか?
いや、実際死ぬような気配は感じ取れたけど⋯⋯俺の気のせいだろうか?
だけど断じてオーバーではない、と思う。
「ハハハ!それはすまなかったな、ところで職員室前にいるってことは先生方に用事があるのだろう?」
上原先生は何事も無かったかのように話を続けている、相変わらず恐ろしい人だ。
あの気配⋯⋯。
「実は神宮寺先生を探しておりまして⋯⋯」
神宮寺先生は職員室を見た限りではいなかったな、探すのに時間を食ってられないのだが⋯⋯
「神宮寺先生か、それなら先程図書室へ入るのを見かけたな、歴史の分からない問題でも聞きに行くのか?」
⋯⋯御札のことを言うべきか?
いや、なぜだか分からないがあまり御札の事を口外するのは良くない気がする。
俺の心がそう感じている、何か⋯⋯良くない。
「まぁそんな所です、図書室ですね。教えていただきありがとうございます!」
頭を下げて礼をしたが、まぁ問題⋯⋯ではないが分からないことを聞きに行くのは本当だしな。
何となくだが⋯⋯上原先生には黙っておこう、実際この御札は不要物として没収されかねない、上原先生ということも相まってのことだが。
「そうか、廊下は走らずにな」
なにか濁った目をしていたがなんだろうか?
あのような上原先生を見るのは初めてだ。
まぁいいか、時間も残り少ない⋯⋯そんなことを気にしているより御札の事を優先だな。
「はい、では失礼します。」
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
「(───アイツ、なにか隠し事をしているな)」
________
残り時間が少ない中、俺は図書室へと無事到着することが出来た。
そして俺は今、図書室の端から迷路で迷わないような時に使う手法のように歩いている。
「神宮寺先生は〜どこだ〜⋯⋯」
俺は図書室を外周から回っていた。
この学校の図書室はかなり大きく、一般の学校とは比べ物にならない大きさなんだ。
この中から人を1人見つけるのはかなりの至難の業。
俺はできるだけ時間を浪費しまいと、外周から回って探している。
───五分ほどが経過して、遂に白髪の髪をして茶色い服を着ている先生を発見した。
間違いなく神宮寺先生だ。
「────神宮寺先生〜!」
ギリギリ届くような声量で神宮寺先生を呼ぶ、ここは図書室だから大声は出せない。
歳のせいだろうか、気がついてはくれない。
歳を取るとこんなことになってしまうと考えると⋯⋯少し虚しいな。
俺は少し早走りで神宮寺先生に近寄る、そこでようやく俺の声に気がついてくれたのか視線をこちらに移してくれた。
「おぅ、どうした?俺に用事か?わからん問題ならヒントぐらいなら出してやるぞ」
茶化すように会話を進める先生
この先生は『歴史の話になると変人になる』と言われているが、素でも結構な変人だとは思うぞ⋯⋯不気味かどうかはわからないが。
「実は先生に見てもらいたいものがありまして⋯⋯」
そう言い、俺は胸ポケットから異様な雰囲気を持つ御札を取り出す。
「なんだ御札だと?お前、これをどこで?」
神宮寺先生は急な出来事になのか、少し焦りと困惑の表情を見せている。
なんだ?この御札はそんなにやばいものなのか?そんな表情をしているが⋯⋯
もしかして俺は悪霊でも解放してしまったのか?
⋯⋯神社で取ったと言ったらまずいだろうな。
俺は先生の表情を見るにかなり恐ろしいことだと感じたため、誤魔化すように神社で取ったことを偽り隠す。
「実は屋根裏を掃除している時に、この御札を発見いたしまして⋯⋯」
ヘンテコな神社で取ってきたなんて言ったら、俺は多分説教を食らうと思う。
あの顔⋯⋯青ざめていて汗もかいていた。
相当なことなのだろうか⋯⋯
「詳しい話は放課後の部活が終わってから職員室に来て欲しい、それとこの御札は帰ったら直ぐに貼り直しなさい」
御札の事を見て険しい顔をしていた神宮寺先生⋯⋯不味いことをしてしまったか⋯⋯このような表情を俺は見たことがない、相当深刻なことなのだろう。
少し笑い事ではなくなってきたかもしれないな。
「放課後ですね、わかりました。では失礼します。」
帰ったら神社に貼り直しに行かなければ。
そんな気持ちが俺の中で次第に大きくなって行った。
_______
───あれから三時間後
俺は一旦御札のことをキッパリ忘れてサッカーの試合に集中している。
なんせ杏華への見せ場でもあるんだ、下手に負けてダサいとこは見せられない!
『和也〜!頑張って〜!』
────杏華の応援のおかげで少しだけだが、脚が軽くなった気がする。
杏華の応援は何故か俺にバフ効果を与えてくれる。
前も杏華の掛け声のおかげで勝てた。
───これは今回も行けるか!?
そして俺はゴールの遠くから豪快にシュートを決め、入る事を祈る。
⋯⋯
「入るか!?」
『行け〜!』
杏華の掛け声と共にボールは迅速に飛ぶ。
⋯⋯
転がったボールは、ゴールの奥深くまで入っていった。俺はその様子を見て安堵して、急激に力が抜けてその場に倒れそうになった。
「和也!お前すげぇよ!!」
「マジでやるじゃん!」
「今度サッカー教えてくれよ!!」
ゴールしたと共にチームメイトの歓声が聞こえてくる、目立つのはゴメンだが、こういうのは悪くない。
褒められることで俺は少しだけ部活へのモチベーションが上がった。
「あはは⋯」
また⋯⋯やりに来よう。
そして俺は急激に疲れたのか、無意識に休息を求めて近くのベンチへと向かっていた。
「───ふぅ...」
座ったと同時に水を飲む、そこで杏華は俺に話しかけてくれ、冷たいタオルを渡してくれた。
「はい!今日もお疲れ様!かっこよかったよ!」
『かっこいい⋯⋯』か⋯⋯けど、なんか複雑な気分だな。
杏華は⋯⋯いや、やめておこう。
「ありがとう、杏華の歓声のおかげだよ」
ありのままのことを伝えた、実際そうだ。
杏華の歓声がなければ負けていた可能性が高かい、本当にありがたい。
かっこつけたい⋯⋯という男の私欲でもあるのだが⋯⋯
「いやいや!和也の強さあってこそだよ!またサッカーやってね!絶対見に来るからさ!」
笑顔で俺をまたサッカーに誘う杏華、まぁ⋯⋯あの気持ちが再び味わえるなら悪くないかもしれない。
それに杏華が来るなら自分も積極的に試合に参加するとしよう、それが杏華にとっていい事なら⋯⋯
「───ありがとな、またやりに来るよ。約束だ。」
「楽しみに待ってるよ!」
本当に嬉しそうな顔で笑ってくれる、俺はその笑顔に何かを救われているような気がする。あくまで気がするだけだけどな。
それはそうと今日は一緒に帰れない事を伝えないと。
杏華と一緒に帰れないのは残念だけど、それよりもこの御札のことだ。
そう考え、俺は杏華にその趣旨を伝える。
「それはそうと今日は一緒には帰れないんだ。放課後、職員室に呼ばれてしまってな」
趣旨を伝えると、杏華は満開の笑顔から少し不機嫌そうな顔になっていた。
「和也〜、またなんかやらかしたの?」
そして次の瞬間、俺に疑いの眼差しを向けてくる。不機嫌にさせてしまったか?
別に何かをやらかした訳では無い。
いや、事実上はやらかしてしまったのか?
そう考えると頭に神宮寺先生の表情が過ぎった──
「まぁそんな所だ、ごめんな。今日は先に帰っていてくれ」
この御札⋯⋯なにか厄介事でも起きなければいいのだけど。
⋯⋯少し急いだ方がいいな、神宮寺先生を待たせるのも良くないしそうと決まれば重い腰を上げて職員室へと向かうとしよう。
「仕方ないな〜、今日は1人で帰るけどその代わり明日はちゃんと一緒にね!」
ほっぺをプク〜と膨らませていた、怒りを表現しようとしているのだろう。
怒っているところも可愛いが今はそれどころではないんだ。
「約束だ、じゃあ俺は行ってくるよ」
そう言うと俺はグラウンド前の玄関へと足を運び出す。
和也の後ろ姿に釘を指すように杏華は俺に罵声を飛ばしてきた。
「────このオタンコナス〜!」
恥ずかしいからやめてくれ⋯⋯
そう恥ずかしながら、顔を赤らめる俺は渋々と校内へと足を運んで行った──
こんにちは!第3話読んでいただき誠にありがとうございます!
今回は御札の正体がわかると言うより、御札のやばい事が少しずつ分かっていくような内容となっています。




