心強い仲間
スアビスの過去の断片を知り──過去を清算するために和也は共に旅へ行こうと誘うが⋯⋯。
────お前も俺たちと一緒に来るか?
俺がスアビスを旅についてくるかどうかを尋ねてみた。
そしてスアビス──ナコまでもが目を丸めて俺に視線を向け始めた。
「⋯⋯えっと、どういうことでしょうか?」
どうやら言葉の意味を上手く理解できないらしい、あまりにも急なことだから仕方ないっちゃ仕方ない。
「俺はナコの妖力を取り戻すために⋯⋯その8つの宝玉ってのを探さなければいけない────お前もこのままこの場所で過去を悔やんでいる訳にも行かないだろ?」
「それもそうですが⋯⋯何故私を?」
「俺はまだ魔法について未熟だ、そもそも宝玉を探すには当てがないし⋯⋯それなら旅のお供に、魔法や宝玉に詳しいお前が居てくれたら心強い────だから誘ったんだ。」
この世界の事はナコも知っているようだが魔法のことに関しては、ナコをも凌駕する知識の持ち主だろう。
スアビスも辛い境遇を経験してきた──少なくとも勇者に報いるためには、スアビスもこのままではいけないと思っているはず。
⋯⋯それならばコイツについてこない手はない。
「────本当に私でよろしいのでしょうか?私よりも素晴らしい僧侶の者はこの街に数千といるはずですよ。」
彼女は少しネガティブに捉えすぎだと俺は思う──少なくともこの場で1番強いのはスアビスで変わりは無いのだから。
「こんな雑魚男1人に優しくしてくれる手練の僧侶さんはお前ぐらいだよ、どうか頼むぜ⋯⋯」
そして彼女は鼻で笑い、俺たちに笑みと共に言葉を投げかけてくる。
────私を誘ってくれたのは勇者様を除いて貴方様だけですよ。
「そうなれば私は貴方様に最善を尽くさせていただきます────私が知る魔法の全てを貴方様にお教えしましょう。」
俺の要求を呑んでくれて俺自身は一安心した────だが隣の小さな女の子は困惑と怒りを露わにして俺に反発してくる──
「待つのじゃ!妾はその無粋なオナゴと旅を共にする事に賛成とは一言も言っておらぬぞ!」
ナコはスアビスを連れて行くことに猛反発してくるか────素性もあまり知れてない彼女を連れていくのは確かにリスクがある。
だが元より俺の命を救ってくれた恩人──その人のためにも俺はその反発を宥めようと奮闘する。
「まぁまぁそう言うなよ、このまま俺ら2人が旅をしても野垂れ死ぬのが関の山だ。なにより俺も今、魔法を扱えるわけじゃないしな」
確かに妖力を失ってまで俺を助けてくれたナコの方が恩義はある。
しかし、ナコと俺はお互い助け合ってきたからお互い様という所だ。
「────其方は本当に良いのか!?妾達を付け狙う輩から共に追われることになるのじゃぞ!?」
ナコはスアビスに、同行する危険性を説明した。
協力している以上、俺達同様に命を狙われることになるのは明白。
それは彼女もわかっている事のはずだ。
「⋯⋯私は──このまま腑抜けのまま────好きにしてやられたまま暮らす事は望みません。貴方達と共に旅をして⋯⋯ナコ様の言う"輩"という者に追われるのもまた運命。私は何事も受け入れる準備は出来ております。」
「⋯⋯⋯」
はらわたが煮えくり返っていたはずのナコは、スアビスの決意を見て黙りこくってしまう。
彼女がどれだけの気持ちで俺たちについてくる事を決めたのか────それは彼女も気づいていたようだ。
「仕方ないのぅ⋯⋯ならば妾に捧物を貢げば其方が共に来ることを許してやろう。」
コイツ⋯⋯都合がいいな。
ただではこさせまいと、スアビスに飯をたかる気だ。抜け目のない神様だよ、本当に。
しかしスアビスはその"捧物"という物を何にすればいいのか悩んでいる。
そしてまるでそれに返答するかのように音もしないシデラスの鍛冶場で、謎の音がひびき出す。
「────!!」
⋯⋯あまりにお腹が空きすぎて、ついにナコではなく腹が我慢の限界を超えたようだな。
それを聞いた俺とスアビスは少しだけニヤついてしまった。
それを見て彼女もまた、顔を赤らめてそっぽを向く。
「ふふっ、どのような物を捧げればいいか分かりましたね。」
「シデラス様との話を済ませてから、酒場にでも行きましょうか。────和也様もご一緒に。」
スアビスがこちらを向いて、俺に微笑んでそう言ってきた。
俺らがこの世界に来てから、ろくに何も食べてないことに気づいていたか。
もう驚きはしない────なんてったって元は《勇者パーティー》の一員なのだから。
「それはありがたい。」
それはそうとナコから黒騎士の事について詳しく聞いてないな。スアビスの言う"酒場"とやらに着いたら問いただすとしよう。
俺はナコの言葉をふと思い出す。
────なぜお主を選んだのかも、な。
そういえばこの言葉の真意を未だ教えて貰っていない。
前に『若いと妖力の消費を抑えられる』という理由を教えては貰ったが、ナコの発言からかんがみるにどうやらこの言葉は、"その場を切り抜ける"ための嘘だ。
となれば⋯⋯真意を聞き出す他ない。
酒場でナコにそのことを言及する事を決めていた一方で────奥の部屋から長らく姿を表さなかったシデラスが出てくる。
その手元には、刀身が眩い光で輝いている此の世の物とは思えないような────そんな綺麗な剣を持っていた。
「待たせたなぁ、これがあんちゃんの武器。大事に扱ってくれよな。」
────やがてシデラスは俺たちが座っていた椅子の元へと来て、座卓に燦爛たる"武器"を置く。
「これが⋯⋯俺の武器?」
その刀身から放たれる赫々は、不思議にも俺の目を魅了してくる。
────こんな綺麗な代物を⋯⋯俺が扱うのか?
俺は思わずスアビスの方を見るが、スアビスは驚く様子を見せない。
見た所、彼女はこの剣を何度か見た事があるのだろう。
まるで表情ひとつすら変えていない。
肝心のナコは⋯⋯そもそも興味を示していないな。武器より食べ物──こいつはそういう奴だ。
「この武器はな、俺が長い年月をかけて作り上げた物だ。────作るのにざっと2年、使い手を待つのに3年という所だな!」
累計で5年と言ったところか。やはりこのシデラスという者、熟練の鍛冶師のようだな。
現代ではもう鍛冶屋なんてものは存在しないも等しいが⋯⋯。
「しかし⋯⋯そのような代物を俺が使ってもいいのか?」
「あったりめぇよ!おめぇさん、自分では気づいてねーと思うが中々に素質があるぜ?」
素質ねぇ⋯⋯言っても俺はごく普通の高校生。
戦闘なんてからっきしやったこともないし、そもそも素質があると言われてもピンと来ない。
「そこの小さな狐の女の子も、どうやらただモンじゃねぇ見てえだしな!」
ナコの方を見て発言するが⋯⋯彼女は人に話しかけられるのは苦手なせいで、再び椅子から立ち上がり俺の後ろへと回る。
⋯⋯コイツ、こっちの世界でもこんな素振りを見せるのかよ。
旅をするにあたって、これを何とかしないといけないな────全く、先が思いやられる。
「ふっ、その可愛子ちゃん⋯⋯俺の剣を使って守ってやるんだぞ?」
一瞬鼻で笑い、シデラスは俺に真面目な眼をしてそう言ってきた。
元は俺が守られる側だったということ⋯⋯多分だが言っても信じてはくれないだろう。
「⋯⋯もちろん。」
妖力を失った今、ナコを守るのは俺しか出来ないことだ。
元はと言えば、俺が黒騎士から攻撃を貰ってしまったことが原因。
────その責任は最後まで果たす。
「それはそうと⋯⋯シデラス様。この方にこの武器の特性についてお話してはいかがでしょうか?」
長い年月をかけて作り上げたものだし、俺も普通の剣では無いことはわかっていた。
特性か⋯⋯どんな力があるのだろうな。
「おっとそうだったな、よし!じゃあこの武器のお披露目会と行くか。」
そしてシデラスは、スアビスの隣の椅子へと座り込む。
────そして彼はなんとも嬉しそうな顔で、その剣の特性を話し始めた。




