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第320話◆再び世界樹の根に

 

 ふとその場で振り返った時、エミリオの胸元が大きく光っている事に気がついた

 その光の有様は、俺達を黒い波から守ったそれと見分けがつかない物で、俺は直ぐにその胸元が光の発生源だと察する


 ⋯⋯ただ、その光についてエミリオは何も知らないようだ


「な、なによこれっ!」


 戸惑いさえ見せるエミリオの胸元、そこに居たのは⋯⋯確か⋯⋯


「むっ、この生命力を感じる()()⋯⋯」


 黄緑色の妖しい光、俺達の中の誰の魔力でもない⋯⋯この感覚


「────"転移"するっすよ、気張るっす!」


 エミリオの胸元から勢いよく出てきた1人の小さな妖精

 予想した通り、胸元の光を発していたのはシエラだった──


「シエラ!?」


 彼女は驚くエミリオの胸元から飛び出ては更なる強い力を放ち始める


 俺達を包み込むシエラの力が白い魔法陣として具現化し、俺達全員の足先が白い光に呑み込まれ始めた


「くっ、転移とはいえこのままでは間に合わぬな⋯⋯!」


 円状に囲い込む形で黒い波がまた押し寄せてきやがった⋯⋯

 この距離じゃ俺達がシエラの転移魔法が発動する前にはほぼ確実に追いつかれる


 シエラも魔法陣の展開に手一杯のようだし、どのみちやるしかないようだな⋯⋯!


「ホーリーシールド、展開っ!」


 魔力を注いだ剣を、シエラの魔法陣の中心に突き刺す

 俺の魔力はその魔法陣を伝って、俺達を包み込むシエラの魔力の元へと移動し、2つが融合


 融合が完了したと同時に、魔法陣を守るように《ホーリー・シールド》が展開され、黒い波はホーリーシールド展開直後に俺達のもとへと辿り着き、シールドへ飛びかかる


 そして、シエラの魔法陣が完成した



 〜



 聳え立つ大木の木陰、感じていた殺気の気配は無くなり、身体の緊張感が無くなった

 この温もり⋯⋯飛んだ先は世界樹の根か


 未だに世界樹の周りでは癒しの力が働いてるようだ⋯⋯失われた体力がみるみるうちに回復していくのを感じる


 力を使ったシエラは恐らく、加護の力が最も強い世界樹の根が安全だと踏んでここへ転移したのだろう


 身体の妙なダルさも消えた。

 重くなった身体も軽くなったし、今襲われてもある程度の戦いならそつなくこなせそうだ


「シエラ、貴方転移魔法なんて⋯⋯」


 そうだ、シエラ⋯⋯

 これまでに鳴りを潜めていたのに、俺達の危機を察知してか急に魔法陣を展開してくれた


 切羽詰まった状況だったからあまり気にしてはなかったが、急に沈黙しては飛び出して⋯⋯いずれにしても、そのおかげで助かった


 ナコとエミリオもさぞかし驚いたはず


「小生はこれでも妖精っす。戦闘は不向きっすけどサポートぐらいならお手の物っすよ」


「⋯⋯おかげで助かったわ」


 エミリオが安堵のため息をついては世界樹の根に腰掛ける


「でも突然どうしたのよ。ずっと何も音沙汰がないから心配はしていたけれど⋯⋯」


 その質問で、シエラの表情に雲がかかり、それは明らかに只事ではないと言うことを示す



「⋯⋯小生の()()()に、少し疑問を持ってただけっすよ」


 その表情は、悲しみと言うよりも⋯⋯何か悟りを開いたものに近い

 勇ましい表情と言えばいいか、これまでのシエラの言動からはあまり考えられないものだ


「その様子じゃあまり深掘りするのも良くなさそうね⋯⋯。とにかく助かったわ、本当にありがとう」


 エミリオは落ち着く時間が欲しいのか、目を瞑り始めた

 どうも実感が薄いが、もうシエラもパーティの一員⋯⋯なんだよな


 危険を背負わせたくないと言う考え方に間違いがあるとナコに言われた

 3人は助け合いを望んで、俺を探しに来てくれた⋯⋯俺もそれに応えなければ行けない


「すまなかったな」


「⋯⋯何がじゃ」


「3人を頼りにしなかった事だ。今度から何か悩むことがあれば、真っ先にお前らに相談したいと思ってる」


 ナコとの出会いも、エミリオとの出会いも、両方彼女らの命の危機に瀕した出来事が要因だった

 負担を背負わせたくないこの感覚も、もしかしたら2人は俺よりも前からずっと感じていたのかも


 そんな考えが過ぎって、俺は自分の行いが間違っていたと心から思う


「⋯⋯感覚が麻痺しておるやもしれぬが妾は神じゃ。頼られる事には慣れておる」


 ナコはエミリオと同じように世界樹の根に腰掛け、俺に対して優しく微笑んでくれた


「気づきを得られて何よりじゃ、その考えならば⋯⋯無理をしよる事も少なかろう」


 そして、俯きながら何かボソッとを呟く



 ⋯⋯ようやっと"家族"と思うてくれて嬉しいのじゃ



 それもかなり小さな声で。

 残念ながら俺の耳には届かなかったが、何か嬉しそうな⋯⋯そんな表情だったから文句では無さそうだ


「なんて言ったんだよ?」


「⋯⋯世迷言じゃ、気にせんでよい」


 よく分からない事に、俺が聞き返せば笑いながら頬を赤らめて目を逸らした

 とりあえずは許してくれたようで一安心だな⋯⋯


 気がつけばシエラも、羽ばたくのをやめてエミリオの胸元に戻っている⋯⋯

 精神的な疲れは癒されないし、ここは皆に合わせて俺も休憩を挟むとしよう


「ふぅ⋯⋯」


 ナコが腰を下ろしたその隣に座り、俺は一息つく


 こうしてじっくりと景色を眺めてみると、他の地域とは比じゃない地方色の豊かさ。


ルーメン王国では目にしなかった花の群生に加え、風で揺れる葉の音⋯⋯凄く、平和だ


凄く強大な()()()を背中から強く感じる⋯⋯

俺達の後ろで聳え立つ世界樹がこの風光明媚を維持していると考えずとも、神の創造物と謳われて何ら違和感を感じないのが凄い


 ルーメン王国の森も綺麗な一帯が広がっていたが、世界樹の加護を受けているこの森は有様がまるで違う


俺の世界が酷く発展し過ぎた物だと思えるぐらいには凄く居心地がいい、この平穏がずっと続けば⋯⋯と思っちまう


あの時、杏華の奴は一体何を考えてナコに攻撃を加えたのか⋯⋯気になって仕方がない

一緒に()()()()()()()()、か⋯⋯


「ナコ、お前はあっちの世界⋯⋯俺の世界に戻りたいと思うか?」


 景色の違いと、杏華の言葉を思い出す事で頭に浮かんだ俺の世界


 そして、今居るナコのこの世界


 文化に様々な共通点こそあれど、技術や生体系はかなり異なってる

 幸い、俺は魔物と対峙する事は少ないからこの世界の洗礼は受けてないも同然


 俺が永住するとしたら、迷いなく平和に暮らせる自分の世界を選ぶが⋯⋯


「憂う事なき平穏な生活が望めるならば、どちらとも構わぬと言えばお主はどう考える?」


「質問に質問か⋯⋯そうだな」


 根本的な理由は同じ、のんびりと危険に晒されない生活が約束されるってんなら⋯⋯


「両方が争いを必要としない世界なら、俺はこっちの世界を選ぶ」


「ほぅ、己の世界を無下に出来るとは余程の理由があるようじゃの?」


 ナコが俺の話に興味を持ったみたいで、顔のみならず身体までもこちらに向けてきた


「もしも剣も魔法も要らないである場合に限った話⋯⋯だがな?」


 人並みの力は得られてるし、3人を守る以上の力は望まない

 そもそも戦いは別に好き好んでやってる訳じゃないし⋯⋯


 ⋯⋯あらゆる問題を除いて考えてこちらの世界に居たいと考える理由


「これからも3人と行動を共にしたいってだけ⋯⋯なんて言ったら笑うか?」


 質問に質問で返されたささやかな仕返しとして、俺はその質問をまた違う質問で返してやった

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