表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/326

褐色の妖精・シエラ

 

 ひょんな事から妖精と巡り会い、何気ない神狐様の人助けの気持ちが、私達3人を繋いだ。



 これは運命なのかもしれない──妖精を見ると、何故かそう言った思い上がりをしてしまう。


 長年冒険者を続けて、珍獣や珍しい種族とも交流を持ってきたけど⋯⋯伝説とも言われる妖精とは、巡り会った事は一度もなかった。



 狐の神様、次に異世界の住人────そして、妖精。



 世にも不思議な存在が続々と私の前に姿を現す。それが何を意味するのかは⋯⋯まだ分からない。


 偶然とは思えぬ出会い、これを無下にしては行けないと心から感じた私は、私の全てを赤裸々に語ることにした。



「私、ハーフエル──(妾の名は狐神ナ──)」


「「⋯⋯⋯」」



 私が包み隠さず素性を明かそうとすれば、ついと神狐様の言葉が私の喋るタイミングと被る。


 そして、互いに譲り合う事はせず⋯⋯神狐様は私を睨み、私は視線を逸らす。


「抜け駆けしおってからに、ここは敬虔(けいけん)に、貴様は後に回れ?」

「そちらこそ、私の援護射撃がなかったら今頃、頭に大きなタンコブが出来ていたはずです⋯⋯ここは私に譲るのが筋だと思いますよ」


 キョトンとする褐色の妖精《()()()》。

 彼女は一触即発のその様子を、目を点にしながら傍観する。


 長い沈黙とギスギスとした空気。私の発言が気に障ったのか⋯⋯神狐様は、ため息混じりに言う。


「近接戦闘はからっきしの癖して、口だけは実に達者な奴じゃ⋯⋯」


「なんですって?!先程のお礼ぐらい言われてもバチは当たりませんよ神狐様っ!」


 援護射撃を後悔した訳じゃない、ただここまで言われて引き下がれるほど⋯⋯私は寛容(かんよう)じゃない。


 私の底に眠るしょうもないプライドが災いして、こちらも負けじと不平不満をぶちまけ、感謝の言葉を求める。

 ありがとう──そうよ、その言葉ひとつだけで、心が救われると確信したから。


「⋯⋯⋯」


 しかし、神狐様はその言葉に反応すること無く、プイっとそっぽを向くだけ。


「貴方と言う人は⋯⋯!!」


 前々から仲間を思いやる気持ちが足りていないと思ってはいた、けどここまでだとは⋯⋯私も思ってはいなかった。


 意地を張っているだけ、そうは分かっていても⋯⋯やはりどこか許せない部分があった私は、事もあろうに感情的になってしまう。


 が、私が怒りの言葉を吐く寸前に、私と神狐様の間は小さく脆そうな壁で隔てられる。



「────まぁまぁ!魔物が蔓延る街の外のど真ん中で喧嘩はよくないっすよ!」


「そうっすねぇ、じゃあまずはこちらの獣人様から知りたいっす!」

「こう見えても小生(しょうせい)、獣人を見るのは初めてなんすよっ!!」



 焦りながらも、喧嘩に幕を引く形でそれを(いさ)めてきた妖精シエラ。


 事が平穏に進むよう、彼女は自分から自己紹介を求めてきたわ。


 人の扱いが慣れていると言うか、空気が読める子と一見して分かる。

 "今のパーティーにはこういう子がいない"。

 場を明るくするムードメーカー的な存在が⋯⋯そろそろ欲しくなってきたわね。



 ────神狐様の尻尾、狐耳。


 それを見て目を光らせる妖精シエラは、私ではなく神狐様を選んだ。


 複雑な気持ちだけど、それに対してこれと言った文句は無い。私にとっては、順番なんて関係ない──単に神狐様に譲りたくなかっただけで⋯⋯。


 よくよく考えれば意地っ張りなのは、神狐様だけじゃなかったわね⋯⋯。


「おぉ妖精シエラっ!其方は実に見る目があるのぅ!」


 ⋯⋯見るに、神狐様のシエラに対する印象は、すこぶる良いようだ。

 ご機嫌斜めの神狐様を一瞬で元に戻すと言うのは、神狐様の主である和也さんの身でもかなりの難儀。


 気に入った妖精シエラに微笑みかけるその姿⋯⋯私にはまるで見せた事の無い、優しい笑顔。


「(ふふっ⋯⋯本当に性格の悪い神様)」


 単に意地を張っていただけだと言わんばかりの微笑みは、妖精シエラの胸襟(きょうきん)を開かせる第一歩となる。


「おっとそうじゃったな!」

「よいか、妾の名は狐神ナコじゃっ、ここは気さくに──ナコ"ちゃん"と呼んでも構わぬぞっシエラ!」


「(────ナコ、ちゃん⋯⋯?!)」


 仲に隔たりを感じない、親しき間柄の人達が使う敬称の提案に、私は強く驚いた。

 初対面とは思えないあまりの距離感の近さ、私は咄嗟に彼女の神経を疑ってしまった。


 ⋯⋯それに対して、どこかお調子者の雰囲気が漂う妖精シエラ⋯⋯彼女がどう言った反応を見せるか。


 彼女が遜って様をつける姿を想像するのは⋯⋯今の所、難しい。

 "()()"と言う第一印象が濃い今、彼女の態度を想像するのは容易ではないわ。


 ⋯⋯まぁ、結果はほぼ見え透いてはいるけれど。



「ちゃんは、ちょっと"お狐様"には合わないっすよぉ!そうっすねぇ、小生は〜⋯⋯」


「じゃあ──"ナコっち"と呼ばせてもらいやす!」



「(────ナ、ナコっち⋯⋯)」


 びっくり仰天。

 軽薄が過ぎる呼び方に、私はその様子に口出しが出来ず、目を丸めて驚愕するしか出来なかった。


 そして何よりも驚くべきなのは、その呼び方じゃない⋯⋯。

 それに対する⋯⋯神狐様の反応よ。


「────くふっ、よいのぅ!愛嬌のある愛い奴は好きじゃ!遠慮せずともその名で呼ぶがよいっ!」


 まさか⋯⋯誰よりも立場や上下関係を気にするあの神狐様が、それを笑顔で快く受け入れるなんて⋯⋯!


 妖精シエラの無礼を咎めることはせず、それだけでなく、シエラに対して笑みを零している。

 打ち解けるのはいい事だけど、これ程までに早いとは思いもよらなかった⋯⋯。


「じゃあナコっち!こっちの華奢(きゃしゃ)な女性さんはどなたっすか?」


 落ち着かせまいと言った感じで、間髪入れず今度は私がシエラの興味の対象となる。


 神狐様に聞く所を見るに、容姿が人間に近い私を少々警戒しているようにも見える⋯⋯。

 ⋯⋯初対面だし仕方がないけれども。


 華奢な女性と呼ばれた私。

 表情を元に戻してここはひとつ、彼女の信頼を得るために自己紹介と行こうと考え、深呼吸をする。


 そして。


「妖精シエラさん、私の名前は──」


「おぉ此奴か?くふっ!ただの木偶(でく)(ぼう)じゃよっ!」


 神狐様は、2度も私の言葉を遮る。


 冗談だとはわかるけど、木偶の坊⋯⋯と罵り、仲立ちをする所か、私の自己紹介を阻害してきた。


「ちょっと神狐様!自己紹介ぐらいさせてくださいっ!」


「かはは、すまぬすまぬっ!」


 これでは埒が明かないと、ほんの少しだけ声を大きくし、睨みを利かせた。

 すると彼女は、流石にこれ以上は良くないと分り、引き下がってくれた⋯⋯その間も、笑みは崩さずに。



 今すぐにでもここを離れて、女神の泉へと向かいたいけど⋯⋯この場に妖精1人を残しておく訳にも行かないし。


 人が寝静まった時、一部の魔物は活発になって凶暴化する。

 仮にこの人の気配を察知するのも困難な闇夜の中で妖精シエラを1人にしたら、また魔物に襲われる事は目に見えているわ。


 行動を共にさせるには、互いを少しでも信頼し合わないと。


「こほんっ⋯⋯私の名はエミリオ、耳が尖っていないハーフのエルフ、人間じゃないわ」


「こうして闇に包まれた夜に出歩くのも、とある人を助けるため⋯⋯神狐様も同様にね」


 その言葉の際に神狐様は、腕を組んで頷く。

 一方のシエラ⋯⋯真剣そうな表情で、耳を傾けている。


「ねぇ妖精シエラさん、分かってはいると思うけど、夜になった今⋯⋯ここら一帯はもう既に魔物だらけ。ここは私達と一緒に来ない?」


 妖精なら、その()()()()を使い、飛ぶ事で魔物の手から逃れられるはずだけど。


 こうして地に足をつけている所を見るに、やっぱりこの子も私達と同じ、訳ありの子なんだと思う。


 そもそも妖精は、人間の前には滅多に姿を現さないと言うし、目撃情報が一切ないのにも関わらず、この子は魔物に襲われていた。


 となれば、考えられることは1つ。

 ────私がハーフエルフであるが如く⋯⋯この子は特殊な妖精だと言う事ね。



 一緒に来るように、私はそう言った。


 しかし、彼女は表情ひとつ変えず⋯⋯その上、返事をしようとも、頷こうともしなかった。


 うんともすんとも言わない、と言うのかしら⋯⋯とにかく、言葉を発さず、彼女は固まっていた。


 "選択に迷い、葛藤している"。

 心の内で、私はそう"確信"した。


「ほほう、其方も妾達と共に来ようものならば、それは実に賑やかな物になるの」

「少なくとも妾はっ!其方を歓迎するぞ?」


 神狐様の言葉を折に、妖精シエラは形相を変える。


 先程の無表情とは違う。

 神狐様より歓迎の言葉を貰い、シエラは心做しか────ほくそ笑んでいるようにも⋯⋯。


 まぁ、それも気のせいかな。

 純粋無垢とも呼べそうに無邪気そうな笑顔、何も"()"はない、と──


 私は⋯⋯心からそう思ってしまい、彼女の"()()()"を探ろうとはしなかった。



褐色の妖精・シエラ。


これからの物語に深く関わってくる重要キャラクターです。

それは和也とナコ、そしてエミリオの敵となるか味方となるか⋯⋯。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ