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妖狐の力


 ⋯⋯気のせいか、ナコの雰囲気がかつての時────現実世界に居た頃に戻っているような感じがした。


 俺が単に考えすぎているだけなのかは分からないが、そんな違和感を感じつつも⋯⋯ナコはおもむろにエミリオに近づく。


 徐々に近づく狐の影──言い訳のしようがないエミリオには、赤く燃え盛る猛炎が迫る。


 猛炎の火影はエミリオに焦燥感を植え付ける、あろう事か、何事にも冷静沈着だったあのエミリオが⋯⋯焦り、動揺している。


 目上の者にはめっぽう弱いと言うべきか、彼女も何かと女性らしい一面が多い。


 時には喧嘩し、時にはナコと談笑する⋯⋯今だからこそ言える────エミリオは俺達にとって、かけがえのない仲間だ。


「そんな茶番劇やってる時間はないぞ、ほら2人とも、さっさと椅子に戻りやがれ」


 俺は心の中で和み、笑いながらも⋯⋯その場から動かず、2人の喧嘩に口で立ち入り、ナコを言葉で制止させた。


「むぅ⋯⋯主様の顔に免じて此度は目を瞑ろう」

「⋯⋯じゃが、この屈辱はいつかの日に晴らさせてもらうからのぅ」


 俺が二人の間に干渉すれば、ナコは手を引っ込めて椅子の方へと戻っていく。

 しっかりと釘を刺す所⋯⋯怒りは本物で、今なおも収まる様子は無い。なんか似た光景を前にも見たような気もするが。


「ふぅ⋯⋯」


 よかった、エミリオも安堵した様子だ。


 ⋯⋯ここは少しだけナコをフォローしてみよう。

 身長が彼女のコンプレックスなら、それが特別悪い点では無いということを教えてあげたい。


「そうは言ってるが、俺は小さい子もそれはそれで可愛いと思うけどな、色々と不便なのはわかるが⋯⋯」


 幼馴染の杏華情報だが、女性は"可愛い"という言葉に弱いと聞いた。

 綺麗という言葉も効果的だが、男性に守られたいと思う女性は多く、どちらかと言えば"可愛い"の方がいいらしい。


 絶世の美女とも言えるナコ、その妖艶(ようえん)たる美貌、それを目にしたものは誘惑され、魅了される。


 ⋯⋯と、言われていたらしい。

 今は大半の妖力を失い、その美貌は力と共に失われたとの事だが、それでも容姿端麗で、なおかつ珠の肌を持つ。


 綺麗とも可愛いとも言える()()の存在。

 まさにその容姿は神が持つに相応しいな。


「かわいい、とな⋯⋯」


 ⋯⋯どうやら杏華の情報は正しかったようだ、ナコはその言葉を言われた瞬間、照れ始め頬を赤らめていた。


 両手で頬を覆い、照れ隠しをしているようだが、下を向いて顔を合わせようとしない。


「まぁ、そんな事はどうでもいいか」

「とにかくだ、俺とナコは別行動でいい⋯⋯だがお互いの動きは把握しておこう、考えはあるんだな?エミリオ」


「どうでも⋯⋯よい⋯⋯じゃと?」


 そんな照れているナコを見ていると、自然と心が落ち着き、更に和んでいく。

 これ以上、聞き惚れさせる必要は無いと感じた俺は話を一転させた。


 ⋯⋯俺の横顔に強い視線を感じるが、今はあまり気にしないでおく。


「敵は周期的に港を巡回しています」

「兵士を気絶させ、防具を奪って(なり)を真似しても、巡回ルートから離れれば、即座に正体を見抜かれます」


 ────その言葉を聞き、俺は今一度、港の構造に目を通す。


 見れば立ち入りが禁じられる港の入口から目的までの道には、身を隠せる遮蔽物がかなり少ない。

 いくら闇に沈んだ夜と言えども、見張りの兵士も暗闇の中が見えるよう、それなりの対策は講じてあると思われる。


 ナコだけは単独行動、対して俺とエミリオは停泊している連絡船の奪取のために動く。


 単独のナコにだけが出来る役目──まさか⋯⋯!



「────そうです、人間を惑わす妖狐のみが成せる芸当⋯⋯神狐様には敵兵の注意を引いて欲しいのです」


「私達が帝国の騎士に見つかれば、かなり苦しい状況になります」

「私達が束になって勝てる相手かどうかも分かりません、ただ⋯⋯神狐様なら話は別」


(から)め手無しの正面対決を避けられる神狐様の妖術──その驚異的な(あや)しい力で、敵の()を奪ってください」



 なるほどな⋯⋯ナコの妖術は魔法とは異なり、極めて類稀(たぐいまれ)で異質な力⋯⋯。


 炎が放つ堪え難い強烈な熱気で敵を打ち破る戦いに向いた炎を生み出す術。

 妖狐は人を化かすと言う伝承になぞった変化の術。


 ⋯⋯そして。


 かつて狙った人間の俺を森の奥地へと招く際に使用した⋯⋯対象にナコが思うがままの幻覚を見せる"幻術"。


 帝国の騎士は、一人一人が一騎当千の強者だ。

 その異色かつ多彩の様々な術は、帝国の騎士を引きつける際に大いに役立つ。


 その極めつきに、ナコは単体での身体能力もずば抜けて高い⋯⋯万が一、敵に見つかったとしても彼女なら追跡を振り切ることが出来るはずだ。


 脅威に立ち向かうナコの勇姿を俺と同じ距離で見てきたエミリオだから。

 非凡な発想と優れた頭脳を持つ彼女だからこそ、この作戦を思いついたのだろう。


 ⋯⋯俺が考え至った所で、ナコだけを危険な目に合わせる気は起きない。

 物事を進めるための決断力もある。優秀な冒険者だった経験が、彼女をそうさせたのだろうな。


「⋯⋯ナコ、この役目はお前に任せてもいいか?」


 俺は一呼吸置いた後、非常に危険な役目を負わせられるか⋯⋯ナコに改めて確認を取ろうとする。


 ────彼女は俺が心配するほど弱くない、余計な心配だと言うことはしみじみ思うが⋯⋯やはり長いこと生活を共にしてきた間柄。


 失いたくないという思いが強く出るせいか⋯⋯俺は、そのほんの1歩が踏み出せずにいた。


 話の流れに合わせるように気を変えて、彼女は下を向き、少し考えた後⋯⋯俺達にその答えを出す。


「⋯⋯構わぬ、じゃがそう長くは持たぬぞ、先の酒呑童子(しゅてんどうじ)との戦いで妖力を酷く消費してしもうての」

「妾が主様達に持つと誓えるのは長くとも四半時(しはんとき)じゃ、若者言葉で言うならば"30分"」


「30分、それはなかなか際どい数字ですね⋯⋯」


 30分⋯⋯その許された短時間で、港の入口から連絡船が停泊する波止場までの道を進まなければならない⋯⋯。


 これは相当な難題だ、馬が居れば話は別となるが⋯⋯この港に馬を連れ込むことは出来ない。

 馬の走る姿も敵に目立つし、何より馬の調達に必要な時間は残されていない。


 どこまでバカなのか。



 ────なぜなら、作戦の決行日は⋯⋯"今日の丑三つ時"。

 そう、今より約三時間後だからだ。




ナコは今こそエミリオに神狐と呼び慕われる神様ですが、神になる前の時代。


つまり、昔のナコは、妖怪に分類される"妖狐"⋯⋯元々神は神通力と言う無限大な力を持っていましたが、彼女が今持つ力は妖力と霊力のみです。


ナコの霊力は玉藻前から由来するものであり、ナコと玉藻前の人格は統合されてません。

今もなお、玉藻前は和也が持つ紋章に宿り続けています。


※これまでの小説にて酒呑童子のふりがなをと書いていましたが、正しくは"しゅてんどうじ"です。

誤解を招く書き方をしてしまい、申し訳ありません。

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