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第20話◆絶えない食欲

後ろから近づく謎の人影、その声の正体に気づいて咄嗟に振り向く杏華だったが⋯⋯

 ────杏華達の後ろにじんわりと近づいてくる人影。

 彼女らの真後ろへと到った所で、その謎の人影は杏華達にボソッと声をかけた。


「おや、お前達も来てたのか」


 ────杏華達は咄嗟に聞き覚えのある声のした方向に振り返り、その人の顔を拝むために見上げる。


「⋯⋯あっ、上原先生!こんにちは!」


 声の正体に気づいた杏華は、元気そうに笑顔で返事をする。


 そう、彼女らの後ろに居たのは上原 優香。

 和也や祐馬⋯⋯杏華達の担任の先生だ。


「先生も夏祭りに来ていたんですね!」


「たまには職員皆で楽しもうっていう話になってな、私以外にも来ている先生方は沢山いるよ」


 上原先生は周りを見渡し、他に同じ学生が居ないかを探すが見当たらない。


「君は祐馬くんと2人だけなのか?」


「いえ、和也とあともう1人女の子が来てます!」


「ハハハッ、それはそれは傑物揃いでいいものだな!」


 上原先生は笑っていた、その笑いの裏腹に4人の関係性を少しだけ予想していた。

 誰が誰の交際相手か⋯⋯なんてことを考えているようだ。


「先生、それってどういう────」


「──戻ったぞ〜」


 杏華の声を遮るように和也が売り場から戻ってきていた。


 〜


 杏華の姿を確認した後に奥に見覚えのある人が立っていることに気がつく。

 気づいたと同時に俺は先生に頭を下げてお辞儀をしながら挨拶をした。


「上原先生、どうもこんにちは」


「和也じゃないか、こんばんわだな。」


『戻った』という言葉に反応して、先生は視線を杏華から俺へと移し、俺に挨拶を返す。

 その一方で、先生は俺の隣にいるナコの姿に違和感を覚えていた。


「────ところで、その小さな女の子は?」


 先生は見たことも無い女の子の事に関して、俺に問いかけてくる。


 先生にナコの存在を知られると色々と面倒くさいことになりそうだな⋯⋯


 ────先生が来るとは⋯⋯不覚だった。


 杏華達と同じように誤魔化すとするか。


「実はある人に頼まれて保護してるんです」


 先生は俺の返事に妙な感じがあることを気にしながらも、そこは事が複雑になる事を避けたのか下手に訊ねようとはしてこない。


「そうかそうか⋯⋯それは関心だ、先生は嬉しいぞ」


 何かを勘ぐられそうで少し怖いな、俺が小学生を保護していることが嘘だとバレる⋯⋯。


 いや、実際は小学生ではないけど、嘘がバレるのは不味い。


 その上、この子は人間じゃない。


 先生を含め、世間にバレると大変なことになりかねない。


 ────何としてもそれだけは避けなければ。


「ありがとうございます、ところで先生はお独りなんですか?」


「いや、職員の皆と一緒に来ている。困ったことがあれば頼ってくれても構わないからな」


「はい、お言葉に甘えさせてもらいますね」


 ────そんな事を話していると、櫓に人が登っており肝心のビンゴ大会が始まろうとしていた。


 ナコのを含め用紙は3枚、当たるといいが⋯⋯


「なぁ祐馬、このビンゴ大会には賞品とかってあるのか?」


 俺がその質問をしたのに対して、祐馬は俺の声に気づき、見ていたスマホを閉じてこちらを見る。


「当たり前だろ?わざわざサプライズにする程なんだからな。1等には打ち上げ花火の豪華セット、2等には5人に好きな電子器具を渡すらしい、3等は⋯⋯まぁ食べ物だな」


 おいおい⋯⋯3等は曖昧すぎて逆に気になるじゃねえか。


「食べ物?そう詳細がわからないように伝えられると気になって仕方がないんだが」


「俺も詳しくは知らん、小耳に挟んだ情報だと確か稲荷寿司と聞いた。この公園の名前に相応しいとは思うがな」


「────稲荷・・・寿司!?」


 ────"稲荷寿司"という言葉に反応するナコ⋯⋯彼女は目を光らせており心底食べたそうな顔をしていた。


 出会った時に最初に食わせたのは確か稲荷寿司だったな。


 ────相当気に入ったとなるとこれは3等を狙うとするか。

 さっき頑張ったご褒美にでも⋯⋯な。


 杏華はナコの呟きに反応したのか姿勢を低くし、ナコに声をかけた。


「ナコちゃん、稲荷寿司が好きなの?」


「⋯⋯うむ」


 ナコは少々戸惑いながらも、目を合わさずに小声で杏華に応答するが⋯⋯。


「そうなんだね!じゃあお姉ちゃんと⋯⋯この和也が当ててあげる!」

「このってなんだよ、このって」


 杏華は俺の言葉を無視して、両手でガッツポーズをしてビンゴ大会に張り切っていた。


 ────彼女にとって、今やナコは自分の妹のような可愛い存在なのだろう。


 ふぅ⋯⋯とりあえずは早めに仲良くなれそうでよかった。


 杏華と仲良くなるのは時間の問題になりそうだな。


「ふふっ⋯⋯頑張れよ、2人とも」


 上原先生は3人の掛け合いを見て、鼻で笑っていた。


「私は職員達が集まる場所へ戻るとするよ、噴水広場を右に行った所だ、私はそこにいるから何か困った事があったら来てくれ」


 先生は戻る際もその微笑ましい光景を見て笑い、俺達に自分たちがいる場所を伝えた。


 ────その場を振り返り、そして先生はその場を後にした。


 〜


「先生たちも来ているとはな、少し驚いたぜ」


 上原先生がいなくなった頃、祐馬は口を開いて正直自分が驚いていたことを告白した。


 ────素直に言うと俺も驚いた、いや、先生が夏祭りにいることにじゃなくてナコの存在がバレたことだ。


 このまま事が簡単に進めばいいんだが、ずっと隠し通せるかは不安だな。


「そうだね〜、でもこれで安心ではあるね!」


 ────時間になりましたので、ビンゴ大会を始めます!


 その会話を遮るように、公園の設置されたスピーカーから大きな声が響く。


 櫓の下の方を見ると、なにか大きいテレビのようなものが設置されていた。

 最近は技術も進歩して、ルーレットじゃなくてああいうのでやるようになったんだな。


「ついに始まるね!よ〜し、お姉ちゃん稲荷寿司当てちゃうからナコちゃん、期待しててね!」


 杏華は急にナコに詰め寄り、その様子に気づいて驚く。

 彼女の発言に対してナコは頭を縦に振り、微かに嬉しそうな顔をしていた。


 ────その一方で、先程櫓に昇っていったた男がマイクを通じて声を出す。


 マイクを通じたためにスピーカーから声が出て、一帯に声が渡り響いた。


 ⋯⋯おまたせしました、それでは今からビンゴ大会を始めたいと思います!


 そして4人はアナウンサーの声に反応して、手に持っていた用紙を取り出して中央の穴を開ける。


 俺とナコはずっと立ちっぱなしだったので、ナコを先に座らせその隣で俺も座り込んだ。


「俺は1等一筋で行くからな、当たっても恨みっこなしだぞ」


 祐馬も乗り気のようだな⋯⋯俺は3等さえ当てられれば他に望むものは無い。

 ナコが嬉しがってくれるなら何でもいい。


 そして俺たちは数字の発表に備える。


 ────次の瞬間、スピーカーから大きな声と共に数字の発表が施された。

 ___________

  "噴水前広場"


 ビンゴ大会から2時間ほどが経過していた。

 長い戦いの末、結果は⋯⋯祐馬が見事1等を当てた。


 その一方で杏華と俺は惨敗。


 3等すらも当てられないという事態に陥っていた、我ながら運の無さにはうんざりするよ。


 ────しかし2人が外れている中、ナコだけは違った。

 ナコは見事にも狙っていた3等をピンポイントで引き当てたのだ。


 正直⋯⋯何かイカサマをしたかと疑ったけどその様子もない。


 ナコにルールをある程度教えはしたが、終始緊張していたことからイカサマは考えられないだろう。


「うぅ〜、ごめんねナコちゃん、私⋯⋯当てられなかったよ〜」


 ナコにあそこまでのことを言っておきながら外してしまったのだ。

 杏華のメンタルもズタボロだろう。


 現にかなりしょげているし⋯⋯ここは少しフォローしてやるとするか。


「本人は当てられて心の底から喜悦な様子だけどな」


 ────ナコは上機嫌で微笑んでいた、理由はもちろん俺が抱き抱えているこの稲荷寿司が理由なのは言わずもがなのことだ。


「私は悔しいよ、あんなに期待させちゃったのに⋯⋯その上祐馬くんも1等当ててるし!」


 妬みと悲しみで祐馬の方にじっと視線を合わせる杏華。


「まぁコイツは昔から運がいいからな、仕方ないと割り切るしかない」


「俺の運も実力のうちだ、もっと鍛えることだな!」


 祐馬は自分が1等を当てられてかなりの優越感に浸っているようだな、コイツの顔を1発ぶん殴っても罪にはならない⋯⋯なんてことはないか。


「ぶ〜、こうなったらやけ食いだよ!ほら!3人とも屋台へレッツゴー!」


 ────杏華は急に1人で走り出す、俺らはそれを見て祐馬と見つめ合い、意思の疎通が出来たため頷く。


 そして俺ら3人は杏華を追いかけるために、重い足を使い走り出す。


 仕方ないから付き合ってやろうという意思表示のつもりだったんだが⋯⋯まぁ伝わってよかったな。


 ────その一方でナコが何やら悩んだ顔で小声で独り言を呟いていた。


「なんじゃ?肌がピリピリしおる⋯⋯何か不吉な予感がするのぅ⋯⋯」


 俺はその独り言には気づかず、そのままナコの手を取り、そのまま走り出す。


 ────幾ばくもなく俺らは杏華に追いつく。


 彼女は一足先に食べ物の屋台へ到着しておりあらゆるものを買い漁っていた。

 正直⋯⋯あの量を杏華が食べ切れるとは絶対に思わないし、思いたくない。



 多分だが食べきれなかったら俺や祐馬に押し付ける気なのだろう⋯⋯勘弁してくれ。


「よ〜し!これぐらいでいいかな!」


 ────俺たちの方に振り返り、大量の食べ物を手に抱えながらせっせとこちらへ向かってくる。

 これは⋯⋯予感が的中したようだな。


「はい!皆で食べるよ〜!」

「おいちょっと待て、それを全部か?」


「当たり前だよ!ナコちゃんも含めた全員で!⋯⋯それとも私が1人で食べると思ったの?もしそうなら⋯⋯」


 杏華が俺に疑いの眼差しを向けてきた、流石にこの量を1人で食べ切れるとは思わない。


 祐馬でさえも驚くレベルだし、現に祐馬は今目を見開いて驚いてるしな。


「⋯⋯妾もいただいてもよいかの?」


 杏華が俺に対していがみ、訝しく思っている一方で、ナコはその状況を止めようと横槍を入れてくれた。


「────!!もちろんだよ、沢山食べていいからね!今日は私の奢りだよ!」


「珍しいな、お前が奢るなんて」


 杏華が他人に対して奢るのは対して珍しいことではない、俺はその事を知りながらもチャチャを入れるためにからかうが⋯⋯


「⋯⋯なんだと〜?」


 ────杏華は再び不敵な笑みを浮かべながら俺に歩みよる。


 一体俺は何をされるのだろうか不安で仕方がない。


 ⋯⋯何やかんやで元の関係に戻れてよかった、あのまま話さず時が流れるのだけは御免だからな。


「ねぇねぇナコちゃん、ご飯食べ終わった後にこのお兄ちゃんを借りてもいーい?」


「⋯⋯ならぬ」


「ほんの少しだけだからさ!」


「なんと言おうと此奴は貸さぬ、諦めるが良い」


 ナコは断固として首を縦に振らなかった、理由はわからない。


 まだ外が怖いとかそれらの理由だとは思うけど⋯⋯はぁ、時期に克服させないとな。


「ナコに言わなくてもお前が来いって言うなら俺は構わないが⋯⋯」


「────!」


 そう言うと、ナコは一瞬だけ体をびくりとさせてる。


 杏華もまた、その反応を見て何かを察した顔をしていた。

 そして杏華は憂い顔になりながら、俺達に聞こえないように小声で何かを呟く。


「⋯⋯ライバルってことかな」


 祐馬はそのなんとも言えない雰囲気を断ち切るために、俺の肩に手を回して俺に声をかけてくる。


「とりあえず食おうぜ!俺とお前、どっちが多く食えるかの勝負⋯⋯忘れてないよな?」


「当たり前だ、お前には絶対に負けないからな」


 コイツには負けない、てか⋯⋯負けたらプライドがやばい。


「そう来なくちゃな、杏華ちゃん!そんな顔してないで早く食べようぜ!」


 その声に杏華はハッと意識を取り戻したかのように反応する。


 ────一体何を悩んでいるのかは俺には一切分からないけどとりあえずは乗り切れたようだな。


「う、うん!負けないぞ〜」


 ⋯⋯?


 作り笑いなんか杏華らしくない。

 今度二人になった時に⋯⋯色々と聞いてやるとするか。


 ────たまには幼馴染らしく、な。


 そして4人は仲良くベンチに座り込み、買った食べ物を開ける。

 その一方で、俺と祐馬はある意味の第2回戦を開始した。


 ────長い時間をかけ食べていた祐馬と杏華、そして俺は腹の限界がそこまで来ていた。


 しかし⋯⋯それを知らずと言わんばかりに、未だ食べ続けている少女がそこにはいる。


「ナコちゃん凄い食欲だね!もしかしてだけど私達より食べてるんじゃない?」


 流石としか言いようがない。


 この様子だとナコの世界での食べ物ってのは美味しくないのかもしれない。


 いや、ただ単にこっちの世界の食べ物が美味しいだけなのか?


 そんな根も葉もない疑問に悩んでいる俺なのだが、隣にいるナコの食べっぷりを見ているとそんなことも忘れられるような気がする。


「⋯⋯何をジロジロと見ておる?」


 俺の視線に気がつきふとこちらに目線を向ける、その食べっぷりが可愛らしくてついつい夢中になってしまった。


「まだまだ食べれるのか?」


「⋯⋯聞くまでもなかろう?」


 頬を緩ませて笑ってくる。


 ⋯⋯どうやら愚問だったようだな。


 薄々勘づいてはいたが、やはり人間とは体の構造が違うのかもしれない。

 単なる食欲が凄いだけかもしれないけど⋯⋯


「ふっ、その通りだな」


 そして俺ら2人がしょうもない会話を繰り広げている一方で、隣でこちらを見て笑っている2人組の姿があった。


「⋯⋯本当に仲良しだね」

「和也が羨ましくてしょうがねぇよ」


「何が羨ましいのか俺には全く分からないがな」


 その言葉に杏華達は再び笑うが、俺にその理由を教えてくれるわけもなかった。


 ────俺達の会話は長く続き、そして俺達は食事を終えてその場を後にする。


 ⋯⋯そしてまた屋台へと足を運び、夏祭りを満喫し始めた。

第20話、お読み頂き誠にありがとうございます!

夏祭りも中盤になりましたね、第1章は全体的にほのぼの会となりますのでハラハラドキドキは第2章以降になります!


第1章が完結した場合は1度小説を見返すので投稿がやや遅めになりますので悪しからず。

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