集った2つの復讐心
「ナコ様に手駒として使われるのは、貴方様にも好ましくない物とお見受けします。悪い話ではないと思いますが⋯⋯。」
「どういう風の吹き回しだ?お前と俺は敵対関係にある。わざわざ刺客まで送り込んできたのに⋯⋯今度は勧誘に作戦変更か?」
悠然と俺の前に立てるその面⋯⋯かち割ってやりたい所だが、彼女の真意をまだ知れていない。
ナコを裏切る事を抜いて考えても、スアビスと再び仲間同士になる事は俺の大望のひとつ⋯⋯飲んでもいいのだが、条件があまりにも酷い。
魔物をけしかけてきたスアビスだが⋯⋯やはりあの時の"涙"は本物だったのか、微塵の殺意も感じ取れなかった⋯⋯。
「無駄口は結構です。何も私は貴方様に強要はしておりません、あくまでこれは"交渉"に過ぎないのですから。」
スアビスの目的は俺だ。
どういう経緯で命を奪うのではなく、自分のグループに勧誘する意向に変わったのか、よくわからんが⋯⋯。
それに洞窟の外にも人の気配を感じる、どうやらスアビスは俺達をずっと遠くから監視していたらしい。
見事に敵の術中にハマってしまった、ここまでの事を想定して事を進めていたとなるならば、方法はひとつ⋯⋯。
「────すまねぇがお断りだ、手駒に過ぎないとしても、俺達は互いに命を救い合ってる間柄。そう簡単に関係は断ち切れん。」
相手の想定外な行動を取る他ないだろう。
ゴブリン戦で負傷し、満足に身を守る事も出来ないこの絶望的な状況⋯⋯そこで助かる道を自ら断つなんてこと、普通は考えられない。
⋯⋯現にスアビスは予想外の答えに目を見開き、驚きを露わにしている。
命の危険性はあるが、ナコと手を切るなんてこと⋯⋯俺には出来ねぇ、アイツは俺がいないと⋯⋯生きていけないのだから。
「本当に愚かなお人。この状況に陥ってもなお、ナコ様に忠誠心が絶えないとは⋯⋯涙ぐましい絆です。」
勧誘の交渉は決裂、俺とスアビスは仲間に戻ることはなく⋯⋯関係は更に悪化するだけだった。
そして彼女は台詞の終わりに、あの頃よりも一際鋭いナイフを構え、俺の命を狙う殺人鬼と化す⋯⋯。
「忠誠心⋯⋯ちげぇな。俺はただ単に⋯⋯少しばかりアイツの隣が気に入ってるだけだ!」
脚と脇腹の傷から来る強烈な痛みを堪えて、俺は力を振り絞り⋯⋯《光煌なる聖剣》をスアビスに向けた。
白光の衝撃波も出せる魔力も残っちゃいない。
勝てる見込みは無いに等しいが、抵抗せずやられるよりマシだ⋯⋯。
それに俺は──ここで野垂れ死ぬつもりは毛頭ない!
「貴方様をそこまで支える物が何なのかはわかりかねますが⋯⋯。貴方には死んででも私とついてきてもらいますっ!」
向かい合い、やがて俺とスアビスは同時に攻撃を仕掛けた。
────かつての敵との再戦、互いが見違えるほどの力をつけたことで、あの頃よりも凄まじい決死の攻防が、小刀と片手剣の剣戟を広げる⋯⋯。
〜
主の救援に急ぎ、遂に洞窟の入口前へ到着したナコとエミリオ。
地震の発震原と魔力の反応を辿ることで、主の居所を掴めたナコは、死にものぐるいで洞窟へ向かってきた。
エミリオもそれに連れ立って走り、ピッタリと彼女の背中にくっついて行くことで、思いがけない再会を果たすことに。
「おっとぉ、ここを通す訳には行かねぇよ?あの頃の借りを返させてもらうぜぇ?」
「べルーク⋯⋯!?貴方がどうしてここにいるのよ!」
エミリオが元々所属していたパーティーのリーダー、べルークが2人に立ちはだかる。
彼は巧みな戦闘技術をスアビスに買われ、高額な報酬を出す代わりに、2人の足止めを頼まれた⋯⋯雇われの冒険者。
「人の子よ、直ちにそこを立ち退け!妾は急いでおるのじゃ!」
べルークの元に所属していたパーティーメンバーが、今やスアビス率いるグループの下っ端として働いている⋯⋯。
彼らは雇われ冒険者のべルークを指揮官に、ナコ達を始末しようと、続々と洞窟の暗闇から姿を現した。
人数の差は歴然、力も対して残されていないナコと疲労で身体が重いエミリオには⋯⋯多すぎる相手。
薄暗く明かりのない闇夜の下で、彼らはスアビスの部下と一戦交えることになった⋯⋯。
「エミリオ!お前に味わわされたこの拭い切れない屈辱!今、ここで晴らしてやる!覚悟しやがれ!!」
ナコを目にも留めず、べルークが付け狙うのはエミリオのみ⋯⋯。
ナコは下っ端達に任せ、自分はエミリオに報復しようと、彼女に勢いよく切りかかる。
「うるさい!元はと言えば貴方が悪いんでしょ!馬鹿な事言ってないで、もっと強くなる方法を考えたらどう!?」
べルークの斬撃も、いとも軽く躱され⋯⋯苦言を呈される。
巧みな戦闘技術を持つ冒険者のべルークではあるが⋯⋯過信、軽率。
その2つの欠点が邪魔をして、べルークは秘められた才能を引き出すことはできない。
その苦言の言葉は彼の怒りの火に油を注ぐようなもの⋯⋯煮えたぎったべルークの心は、屈辱によって遂に爆発した。
「黙りやがれ!!俺を裏切った奴は死を持って償わせてやる!」
エミリオは僅かに生じた隙に空高く飛び上がり、燎弓に矢をつがえる瞬間⋯⋯。
────大地よ、敵を突き上げろ!
べルークが使用する魔法、それは大地の魔法。
数少ない使用者の中でも、べルークは上級の魔法を使える人物────敵の足場を崩し、その隙を突くのが彼の戦法。
エミリオは空高く舞い上がり、上から一方的に射撃するのが主な攻撃方法だが、大地の魔法は空の敵をも巻き込むことが出来るのだ。
魔力によって迫り出した地面は、彼女のお得意の弓矢による攻撃を妨害し、べルークの報復の道を築く⋯⋯。
「⋯⋯きゃっ!」
射線に立ち塞がる大地が自分の腕にかすり、弓を落としてしまったエミリオ⋯⋯。
────べルークは、その勝利への糸口を見逃さなかった。
「油断しやがったな!今日がお前の命日!俺に恥をかかせた事を地獄で後悔してろ!!」
大地魔法が発する衝撃の影響で武器を地面に落とし、無防備になったエミリオは咄嗟に護身術に切り替えるも⋯⋯。
相手はこれでも冒険者⋯⋯エミリオの武術の構えが整う前に、攻撃は成される。
⋯⋯はずだった。
「────俺の魔法が封じられただと!?」
エミリオを間一髪の所で守ったのは、ナコが召喚した狐──炎に燃えた尻尾は、エミリオの勝利に対する情熱を触発させる。




