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素っ気ない僧侶?

 

「お主は本に愚図な奴じゃのぅ〜。ほれっ、男子ならば、ちっとははよぅ動かんかいっ。」


 それ見た事か、せっかく忠告してやったのに無視して酒なんて飲むから⋯⋯。


 久々の酒で張り切りすぎたのか、ナコは当然の如く泥酔状態に変貌しちまった⋯⋯。


 今は俺の背中の上で偉そうに指示を下すナコがいるが、俺はそんな言葉を無視し、ゆっくりと招集場所へと向かっていた。


「(────おっ、騎士達が集まってる。)」


 昼酒をかました泥酔のナコを背に乗せ、街を歩いていると⋯⋯やがて、騎士団構成員が集合時間まで待機する馬宿へと到着した。


 ここはディーンとやり取りした場所だな、今は騎士団の貸切状態のようだが。


 夜間は街路が照らされ、幻想的な景観だったのに対し、朝となると馬達の姿がくっきりと見える、のどかな景色。


 馬の世話をしたり、馬宿に訪れた客を迷わないよう案内する馬丁という職を持つ案内人が、馬の麦を整理している姿はあまりお目にかかれない。


 その珍しい光景に綺麗な街並みも合わさり、心が深くまで癒される最高の馬宿がそこには出来上がっていた。


「俺達の隊の馬車は⋯⋯あれだな。」


 数々の馬車の中から、少しだけ装飾が違う馬車を見つけ出す。


 どうやらウィリアム卿やエミリオもまだ来ていないみたいだ、時間を厳守する2人なのにこんな事もあるもんなんだな⋯⋯。


 2人がまだ集合場所に集まっていないと、少し心の中で不思議に思うが⋯⋯俺はなんとも思わず、ナコを馬車の荷台へ寝かせようとするも⋯⋯。


「む〜っ。」


 ⋯⋯泥酔のナコが俺の背中にベッタリと張り付いてしまったら最後。


 彼女の酔いが覚めるまで、俺はずっと彼女に背中を預けなければならない。


 ナコが酔っ払ってしまった時は態度が大きくなり、人を自分の下に見てしまう⋯⋯あながち、それは間違ってはいないが。


 しかしその分、未曾有(みぞう)の甘えん坊ぶりを人前に表すことになる。


 ⋯⋯背中がほんのりとした体温に包まれ、荷台でゆったりとしていると⋯⋯なにやら軽々しい足音が俺達の馬車の前で止まる。


「────こんにちは。冒険者様、久しいですね。」


 到着時間まで体力を温存しようと目を瞑り、先程の2人組の目的などなどの憶測を立てていた頃。


 目を瞑る俺の前で、透き通った声を発して俺の名を呼ぶ女性が約1名。


「お前は⋯⋯騎士団僧侶のマミュネスと言ったか。久しぶり、お前も騎士団遠征に参加していたとは知らなかったよ。」


「⋯⋯今は騎士達のお身体を手当して回っている途中です。傷などはありますか?」


 あの時、ナコから媚薬を取り除き、俺の傷を癒してくれたマミュネス。


 ⋯⋯打って変わらず、任務を着々とこなすそうとする無愛想な態度は、他人を寄せつけない大層な雰囲気を放っている。


 正直、俺もこの僧侶とは関わりを持ちたいとは思わない。


 何を考えているのかわからない、それに加えてちょっとした会話ですらも拒んでくるし⋯⋯。


 この子と会話を試みたところで、嫌われているのかなと⋯⋯俺のメンタルがボロボロにやられるのがオチだ。


「ナコが酔い気味だけど、俺含め特に傷なんて物はない。心配ありがとな。」


「どういたしまして。ですが、これも任務の内ですから⋯⋯。」


 ⋯⋯?


 俺が感謝と一緒に笑いかけると、マミュネスが俺の予想とは少し違った反応を示してくれた。


 前に会話した時なら確実に、彼女は無駄口は叩かないでと釘を刺してきていたはずだ。


「あまり無理すんなよ〜。」


 俺達の無事が目に入ると、マミュネスは次の騎士達の様子を確認しに、別の馬車へと向かい始めた。

 

「⋯⋯⋯。」


 任務に熱心な彼女の後ろ姿に、労いの言葉をかけてあげたのは、俺の昔からの好奇心から来る物。


 肝心の表情は見れず、返事も帰ってこずじまいだが⋯⋯不思議にもこの感じは、彼女と仲良くなれそうな気もする。


「妾と言う夫婦がおろうというに、あのような醜き雌に目移りしおって⋯⋯。」


 なにやら俺の背中には不穏な空気が漂っているようだ⋯⋯今振り向けば、何か危害が及びそうな気がして仕方がない。


 一際強い力で俺の背中に抱きつくナコ。

 酔いと言うのはあらゆる感情を促進させる効果を持つという話⋯⋯本当だったようだな。


 しかしだ⋯⋯。


「(⋯⋯こいつ、俺の事を尻尾に巻き付けて殺す気か?)」



 〜



 時は経ち、特にこれと言った問題事などは起こらず⋯⋯ウィリアム卿と合流し、エミリオが只今馬車へ到着した。


「和也さん、神狐様。おはようございます〜」


「むぅ、やはり来てしもうたか。」

「おぅ、おはよう。」


 エミリオの視界の中に真っ先に入るのは、俺の背中に縋り付く、ナコの赤面し酔っ払った姿⋯⋯。


「⋯⋯もしかして、お酒でも飲んじゃったんですか?」


「その通りなんだよ。本当に参っちゃうんだよなぁ⋯⋯。」


 エミリオは馬車に乗り込む際、ナコには聞こえない程度の声で俺の耳元へ囁いてくる。


 ナコの暴飲暴食は止めようがない物⋯⋯何か抑止力を作り出せる方法を導き出せればいいのだが、う〜ん⋯⋯。


 ⋯⋯思いつかねぇ。


「かの神狐様の貢ぎ物の中に高級なお酒でもあったのかも知れませんね。普通じゃ、朝に酒なんて飲みませんよ。」


 エミリオの発言⋯⋯中々に説得力があるな。


 そうか、確かにナコには⋯⋯昔は人間から貢ぎ物として食料品などを貰っていた過去があったな。


 なるほどな、その時、人間に貢がれた酒を飲み⋯⋯まんまと酒に魅了されちまったと⋯⋯。


 憎い人間に貢がれた物を口にするなんて、あまりコイツらしくないが⋯⋯まぁ、それを口にしなければ生きてはいけないか。


「何はともあれ、早く酔いが覚めてくれることを願うばかりですね。先程から私に向けられる目線が痛いんですよ。」


「目線⋯⋯?」


 エミリオの発言に込められた意味を読み取ることが出来ず、ふと彼女が見る方向に目を向けてみると⋯⋯。


「────貴様ぁ⋯⋯。」


 そこには⋯⋯エミリオに牙を剥き、武器ではなく鋭い鉤爪を立てている恐ろしい形相を浮かべるナコがいた。


「⋯⋯早く離れた方がよさげですね。今は接近を許してくれなさそうです。」


 その形相は身を震わせ、恐怖心を煽ってくるのは無論⋯⋯なんなら、形相であらゆる生物を退ける。


 エミリオもその迫力に押し負け、手を出される前に⋯⋯急いで馬車の奥へと避難した。


「それでよい。妾のみぞ感じられるこの温もり⋯⋯人間風情の貴様に感じさせてなるものか。」


 いつしかナコが人間を手にかける日が来るかもしれん。

 同性に向ける殺意や嫉妬は強烈すぎて、俺ですら抑える事が出来ない。


 ナコが殺意の念を捨て切れる方法を知れていないのは、主たる者として如何な物かとつくづく思ってしまう。


「まるでお前は猫だな。可愛らしくはあるが⋯⋯少し腹が苦しいかな。」


 とりあえず、行動中の今でも色々な方法で試行錯誤してみる事にしよう。


 まず最初は素直に褒め、優しく自分が嫌な事を伝えることだ。


「美貌を持つ狐の神に可愛いと賞するだけでは事足りぬぞ。お主は凛々しく男前じゃが、センスがないのぅ。」


 ⋯⋯効果なし、か。


 いつものように照れると思いきや、今回ばかりは自分の容姿を誇っている彼女は、それは当然と苦言を呈してくる。


 彼女の欲を満たす新しい方法を探しつつ、芒柊樹の森林出発に備えて、荷物を整理することにしよう。


 ずっと構ってちゃ、彼女のためにもならないしな。



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