第11話◆異世界からの刺客
和也は家を出て、いつもの登校道を通っていた。
そこに不審な二人組が話していることに気がつき、小耳を立てて会話を盗み聞きするが⋯⋯
家から外出し、杏華に謝罪と予定があることを伝えるメールを送りいつも通り登校をしていた。
「今日は杏華から色々と聞かれるんだろうなぁ⋯⋯」
あそこまで念押しされた約束を忘れてしまったんだ、今日はたくさんのお説教が待っているに違いない。
ナコに稲荷寿司を渡してから杏華に連絡するつもりだったんだが⋯⋯まさかあんなことをしてくるとは思わないだろ。
遅く帰ってきたおかげでナコの可愛い所が見れたからまぁ⋯⋯いいのか?
「───杏華を悲しませず杏華と祐馬を二人きりにする方法か⋯⋯」
杏華は俺の事を何と思っているのかはわからないが、アイツの反応的に⋯⋯大切な人と思ってくれているのかもしれない。
俺はため息をついた。
杏華の事を応援したいのは山々なんだが、心ではまだ俺の事を好きじゃないかっていう考えもある⋯⋯
そんな妄想していても何も進まないんだが、俺が女の気持ちがわかればいいんだけど────そんな察しがいい男じゃないからな。
あまり気が進まないけど、今度⋯⋯ナコにでも相談してみるか、人間じゃないとはいえ女性だし、何か教えてくれるかも。
────そう考え、歩いていると、俺は不審な二人組が道で何かの会話をしているのを発見する。
「⋯⋯?」
少しだけその会話の内容が気になり、俺は物陰に隠れて小耳を立てた。
なんだ?あの服装⋯⋯あんなの着ている人なんているんだな。
厨二病みたいなやつか?何はともあれ、ここら辺では見ない服だな。
不審な2人組の身長が高い方は、黒騎士のような服装をし、不気味なシンボルが描かれているマントを身につけていた。
「どうだ、奴の行方は掴めたか?」
黒騎士の服装をした不審な人物は、隣の忍者のような服装をした物に問いた。
「行方はまだ掴めてませんが、奴を見つけることが出来る術がそろそろ完成しそうです」
「ほう?その術とやらはどんな能力を持っている?」
「魔力の痕跡を探る、または力の出処などを見ることが出来る術です、これがあれば奴の行方も掴めるかと」
術⋯⋯ということはナコの世界の連中か?
⋯⋯この世界にはアイツの世界の人物達が迷い込んでいる事があるってナコは言ってたな、ならばこいつらはその類か?
「それは便利な術だな────ではその術が完成するまで俺たちはあちらの世界に戻っておくとしよう」
忍者のような服装をした人物の術に感心していたが────黒騎士は俺の気配に気づいており、俺がいる方に向かって声をかけてきた。
「おい⋯⋯そこの人間────俺らの会話を盗み聞きするとはいい度胸をしているな」
────!!!
俺は気づかれている事に対して冷や汗をかき、心臓の鼓動が早くなる。
「まぁいい⋯⋯俺らの話を聞いてもお前のような人間がどういう意味かはわからないだろう。───見逃してやる、早く去るんだな」
その言葉を聞いた瞬間、物陰から出て全速力で逃げる。
逃げていく俺の姿を見て、忍者のような者は黒騎士に対して問いかける。
「いいんですか?彼を逃がしてしまって」
「────時期にこの場所も火の海になる、今は残った余生を楽しませてやれ」
黒騎士は不気味な笑みを浮かべながら忍者の問いに答えていた。
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"和也の家"
和也が学校につき、席へ座っている頃⋯⋯
ナコはポスターを畳んで、自分の服のポケットに入れてそのままリビングへ戻っていた。
────しかしそんなナコに異変が突如として起こる。
「むっ、肌がピリピリしておるな⋯⋯何か胸騒ぎがするのぅ⋯」
なにか悪いことが起きたのか、和也の身に何かあったのか、そんな心配をするナコ、居てもたってもいられなくなったのか、いきなりその場を立ち上がる。
彼奴は大丈夫じゃろうか⋯⋯心配じゃのう、妾の妖力が満足に回復しておれば彼奴の姿を目視出来るというのに⋯⋯
「彼奴は⋯⋯学校と言っておったな」
仕方ない、この夏祭りとやらを聞きに行くついでに彼奴の安否でも確認してやろうかの。
そうじゃ────妾は彼奴の心配をしている訳では無い、あくまで夏祭りの事を聞きに行くだけじゃ。
「そうと決まれば準備を済ませなきゃならんのぅ」
ナコは、鏡を使い上機嫌で髪のセットをし始めた。
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"朝の登校道"
あれから全速力で逃げてきた和也はヘトヘトになりながら学校に到着した。
「まさかバレているとは⋯⋯」
俺は息を切らして玄関前で扉が開くのを待ちながら休憩する、比較的早い登校なため、先生が職員玄関に入っていく姿がそこにはあった。
「本当にあいつらはなんだったんだ⋯⋯?」
俺はふとおもう、頭の中では多数の疑問がかけ走っていた。
あの服装⋯⋯会話的にはナコの世界の人物だろう、ただ不審なのは会話の内容だ。
話し方的に誰かを探している様子だったな⋯⋯
その人物がナコじゃない事を祈るまでだが⋯⋯彼奴が身を追われているかもしれないとは。
そういえば言ってたな、とある奴等に封印されたって⋯⋯
詳しいことは教えてくれなかったが昔のナコと互角に渡り合える奴。
⋯⋯あくまで憶測に過ぎないんだが、もしだ、もしアイツがナコを追っているのだったら、俺の命も危ない、匿っているからそれも当然か。
あの黒騎士から異様な力を感じた、普通の人間の俺でも力を感じとれるほど⋯⋯
帰ったら、ナコに色々とそいつの特徴を聞いてみるとするか⋯⋯
────俺は黒騎士の言葉を思い出して考えた。
「あちらの世界に戻っておく⋯⋯そんなことを言っていたな。もしかすれば何か行く方法があるのかもしれん。」
ただ黒騎士の発言的に今この世界にはいない⋯⋯先程の異様な力も感じとれないしそんな感じがする。
────もしアイツがナコを追っているのだとしたら⋯⋯俺はどうする?逃げるのか?
俺はあの子を見捨てるのか?
「────おや、和也じゃないか、一体どうしたんだ?こんな早くに登校してくるとはお前らしくないな」
そんな悩みを考えていたら、いつのまにか上原先生が俺の目の前に立っていた。
「あっ、上原先生おはようございます」
俺は多少はびっくりしたが、すぐに気を取り直してあらたまり挨拶をした。
「君がここまで早く登校してくるとは珍しいな、今日は雨でも降るのか?」
上原先生は俺をからかうように笑っていた。
「からかわないでください、今日は少し早起きしたので気分転換に早く来ただけですよ」
「すまんすまん────じゃあ私は先に行くからな、教室でまた会おう」
「はい、また後ほど」
上原先生は俺に別れを伝えて職員玄関の中に入っていった。
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"教室内、自分の席"
あれから時間がたち、自分の席についていた。
人もかなり多くなり、祐馬の姿もあったが和也の目には止まらなかった。
教室がガヤガヤと声がいっぱいになっている頃に、和也は周りを見渡して杏華がいるかどうかを確認したが、杏華の姿はなかった。
「杏華は⋯⋯まだ来ていないのか」
早く杏華に忘れていたことを謝りたい、そんなことを考えて杏華が早く来る事を祈っていた。
────5分立ったある時に教室の扉が開く音がする。
⋯⋯杏華だ、彼女は目を微かに赤くしており少々早歩きで席に着いた。
「なぁ⋯⋯」
そこで俺は杏華に話しかけるが杏華は俺に対してに辛辣な言葉を向けてきた。
「ごめん、今日は話しかけないで?」
「わかった⋯⋯ただ謝らせてくれ、昨日のことを忘れて本当にすまなかった」
俺は謝り終えたあと、正面を向いて下を見た。
その言葉を言われて心に穴が空いたような気分になり、目から涙がポタッと落ちて机にかかる。
────なんてことをしちまったんだ。
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"昼休み"
学校のチャイムがなり、昼休みに入った。
それと同時に祐馬が立ち上がり、俺の方に近寄ってくる。
「和也〜、いつも通り売店行こうぜ!」
祐馬はお得意の大声で俺に話しかけてくるが、俺はそんな気分じゃないんだ。
祐馬には申し訳ないけど今日は断ろう。
「すまん祐馬、今は少し体調が悪いからパスで頼む」
祐馬に体調が悪いと伝えたせいで、祐馬は俺の事を人一倍心配する。
相変わらずお節介な野郎だ。
「お前が体調を崩すなんて珍しいな、安静にしとけよ───行けないなら俺が売店でなんか買ってきてやろうか?」
「じゃあおにぎりふたつだけ頼むよ」
そう言い、俺はカバンの中から財布を出してお金を出そうとしたが、祐馬がそれを止めてきた。
「お金なら大丈夫だ───お前には普段世話になってるからおにぎりぐらい奢ってやるよ」
祐馬は俺にそう伝えて、逃げるように教室から出ていこうとしたが────祐馬に話しかけるためか杏華が祐馬に向かっていった。
「祐馬くん!一緒に行ってもいい?」
「ん、あぁ問題ないぜ」
祐馬は杏華のお願いをすんなりと受け入れていた。
俺はその状況を見て、更に心に傷が入り泣いていた。
────まぁ俺が悪いんだもんな⋯⋯ごめんな杏華。
こんな約束を忘れるような幼馴染で。
⋯⋯俺はもう杏華の事は諦めるよ、新たに好きな人を作ることにするからさ。
一人で何言ってんだろ⋯⋯聞こえるわけじゃないのにな。
俺は祐馬と杏華を全力で応援することに決意し、杏華との関係を諦めることにした。
────それは彼女のため、そう思っていたが⋯⋯。
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"今日の朝"
和也がナコを起こし終え、家の外へ出ていた頃。
和也ったら⋯⋯また約束のこと忘れてるよ!もう!
昨日はあんなに遅くまで待ってたのに、裏切られた気分だよ!
────そんなことを考えていると、杏華の携帯に1本のメールが届いた。
『約束の事⋯⋯忘れて本当にごめん。夏祭りの日は予定が入ってて行けないんだ、本当にごめんな』
杏華はそのメールを見た途端───涙がポロッと落ちてきたが、杏華は怒りはするもののしょうがないなという顔で許していた。
私はあんなに頑張ったのに、和也だけは何も無いなんてずるいよ!
確かに私が目前になって言うのも悪いけど、それよりも約束を忘れるなんて!
『仕返ししてやる!』
杏華は和也に仕返しすることに決めて色々な方法で悩んでいた。
────和也を本当に悲しませる方法⋯⋯
私が急に和也に対して塩対応になったらどうなるのかな?
もしかして泣いちゃったりして!
⋯⋯うん!これで決定!
先程の怒りはどこへ行ったのか、和也に仕返しすることが楽しみで仕方がない杏華。
杏華は和也の悲しくなった顔を想像して、笑って企んでいた。
夏祭りは和也と一緒に行けなくなっちゃったけど、仕返しというのもなかなかにたのしそう!
ふふっ、名付けて、杏華ちゃん仕返し作戦!
⋯⋯完璧だ!
「って!もうこんな時間!急がなきゃ!」
杏華は考えるのに時間をかけすぎたのか、遅刻寸前の時刻まで家にいたのだ。
杏華は急いで家を出て、全力で走っていった。
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"和也の登校道"
────ナコはあれから準備をして、家の外に出ていた。
もちろん、耳と尻尾は妖力で見えなくなっている。
ナコは鍵を無くさぬよう巫女服のポケットに入れていた。
和也はナコに、万が一外に出る場合は鍵をかけろと教えていて、今に至る。
ナコは妖力を使い、和也が通った道を辿っていた。
「彼奴の足跡は⋯⋯これじゃな」
────それから5分後に和也が、朝に出会った黒騎士たちがいた場所に着いたナコ。
異様な雰囲気を感じたナコは警戒をするが、何もいない。
「むっ⋯⋯ここだけ力の痕跡が見えるな⋯⋯一体ここには何が居たのじゃ?」
ナコは黒騎士達の力の痕跡を見つけて、不審に思うが、あるのは痕跡のみ。
「この力の痕跡⋯⋯どこかで見たことがあるのぅ⋯⋯」
ナコはその見覚えのある痕跡に探りを入れるが、分かるはずもなく本来の目的を思い出し、その場を離れる。
「忘れておった!まずは彼奴の安否の確認をしなきゃじゃな」
本当の目的を思い出して急いで元の道に戻った。
そこで足跡を見るが、ナコはその足跡の異変に気づく。
「まるで走ったかのような痕跡じゃな⋯⋯」
ナコは違和感を感じ取るが、そんなことはどうでもいいと足跡を辿っていき学校へ順調に近づいていった。
────
「────ここが学校...と言うやつか、偉くでかいのぅ」
無事、和也の足跡を辿り学校の校門前に到着した。
「さて、どう入ればよいか⋯⋯」
第11話、お読みいただき誠にありがとうございます!
杏華の仕返し。かわいらしいですね。
杏華は約束を守ってくれなかったことを怒るよりも、仕返しに動こうというかなり前向きな子という設定になってます!
黒騎士が本格的に動き始め、平和な日常ももうすぐで無くなろうとしてます。
このまま無事に夏祭りが出来るのか⋯⋯そこが今後、絵描かれます!




