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男子らしく背を貸さんか。

 

 成すべき使命を()()した俺とナコ。


 それに加え強力な助っ人をパーティーに引き入れるに至り、試験戦闘は思わぬ形の大成功を収めることとなった。


 現在はウィリアム卿の元に到着し、ナコとエミリオが彼に深い事情と霧中での出来事を報告している。


 ⋯⋯厳密に言えばなのだが、まだ俺らは冒険者パーティーとしての資格を貰っていない。


 俺、ナコ、スアビスの3名が初期のパーティーメンバーとなる予定だったが⋯⋯スアビスは欠け、変わるように魔弓士エミリオがついてくれた。


 要するに、俺らが冒険者パーティーとして成り立つに必要な事は、ギルド施設で加入手続きをしなければならない。


 どうしたものか、未だ街には危険が潜んでいるし⋯⋯うーむ。


 ギルド施設にてパーティーを確立させる手続きをするには、冒険者の手から逃れるか、はたまたスアビスと和解するかのどちらかしかない。


 ギルドでの待遇も良くなるパーティー特有の権利を得るにはどうすればいいか⋯⋯。


 ⋯⋯そんなことを考えていると、横からナコとエミリオから事態を聞き付けたウィリアム卿が静かに歩み寄り、俺の肩を優しく掴んできた。


「よく勝ち残ってくれたね。君の果敢(かかん)な行動を拝めなくて残念だったが、その精神は⋯⋯我が騎士団に相応しいよ。」


「⋯⋯少々異例ではあるが、エミリオ殿の件は私が何とかしておく。これからよろしく頼むよ、和也殿。」


 マーガレットの逃亡、彼女が発動した霧中が人の命を奪う物など⋯⋯ナコとエミリオから全体を告げられたと思われるウィリアム卿。


 彼は俺の行動を賞賛してくれたその上──今この場で3人の正式な入隊が決まった。


 元は別々のパーティーのメンバーが入隊するのは騎士団にとっても、1度とない異例ということで少し困惑気味だったが、彼は何気なく了承してくれた。


「ありがとうございます⋯⋯。」


 ────試験が終わりを告げたと同時に、張り詰めた緊張感を含めた気が、ス〜ッと一気に抜けてしまう。


 その場で膝をついて、重量が増したかのように重くなった《光煌なる聖剣(グラディウス)》を地面に置いた。


 1週間にも渡る訓練の末、なんとか試験で大勝利を得られたこと⋯⋯それの達成感は計り知れないものであり、俺は終わった事を心の中で安堵した。


 言っても遠征が本番なのだが⋯⋯やはり訓練の時間を含めると、試験で全ての力を使い果たしたと言っても過言ではない。


 訓練や試験で得た力と教訓で、俺は遠征先でも目覚しい活躍出来ればなと考えた。


「ふぅ。一先ず休憩にありつけるようじゃな。妾の体力も限界じゃ⋯⋯おい、はよぅ部屋に戻せ。」


 一方のナコも妖術を酷使しすぎたためか、やはり疲弊し切った様子を見せており、直ぐに寝床につきたそうな目をしている。


 エミリオに関しては⋯⋯特に目立った行動はない。

 ただ俺達の様子を見てボ〜っと立ってるだけ。


「この後は入隊式を執り行う予定だったが、どうやらお疲れのようだし⋯⋯そうだね、後日にまわそう。」


 俺とナコの疲弊(ひへい)具合を見て、入隊式を執り行える程の体力は残されていないと判断してくれた。


 ウィリアム卿は優しい事に、俺達に都合のいいように入隊式の日程を変更してくれると言い出してくれた。


 ⋯⋯そのまま入隊式へ行きたいが、なにせ寝る以外の休息を入れてなかった俺とナコ⋯⋯流石にこれ以上の体力は残されていない。


 ────その様子を見た人達、ウィリアム卿含め、騎士達は勝利を掴んだ俺達に盛大な拍手を送ってくれる──


『さすが神様を手懐けただけのことはある!』

『これからよろしく頼むぜ!冒険者様!』

『神と行動を共にできること⋯⋯わたくしは光栄に思います!』


 陰口を言っていたと思われる騎士達も、俺とナコの抜群なチームプレイを見て感銘を受けたのか、心から拍手を送ってくれているようだ。


 一時はどうなることかと思ったが⋯⋯これなら遠征先でも上手くやって行けることだろう。


 俺は騎士達の拍手を見ることで心配は不要と考え、隊に入っても色々と言われる可能性はなくなったと踏んだ。


「賛美はもうよい⋯⋯。ウィリアムよ、主様と妾はとうに限界に達しておる。はよぅ妾達を部屋へ案内せいんか。」


 ナコが珍しく疲労した姿を俺にみせながらも、早く部屋に戻すようにウィリアム卿へ催促。


 あのナコが讃えられる事を拒絶するなんて⋯⋯彼女も相当に疲れ切っているのだろう。


 彼女も俺に釣られる形で3日間ずっと訓練に励んでいた。

 俊敏な動きをする分、俺よりも過酷な運動を強いられる⋯⋯故に俺よりも彼女の方が体力の消費も激しい。


 ⋯⋯今日はよく寝れそうだ。


「ナコ殿⋯⋯和也殿同様、相当お疲れのようだね。よし、了解した────ラディン!カルドウェル!」


 俺達を部屋へ案内するよう、ウィリアム卿はラディン卿達を俺達につけてくれた。


 これから色々な手続きがあるのか、詳しいことは不明だが⋯⋯少なくとも、エミリオの件は彼に任せるべきだ。


 つまりはそれを含め、ウィリアム卿はこれから色々な責務をこなさなければ行けないこととなる。


 次に疲れを知るのはウィリアム卿⋯⋯まぁ、騎士団長ってのはどれだけ大変かは知らないが、俺たちみたいに無理はしないで欲しいものだ。


「────いやはやお見事であった!流石は慕い合う関係と言ったところか。拙者は痛く感激しましたぞ!」


 ウィリアム卿の横には、早くもラディン卿とカルドウェル卿が到着しており、カルドウェル卿は拍手をしながら俺とナコを称えてくれた。


 (した)い合う⋯⋯という言葉はちょっと引っかかるが、恋心とは別に思いを寄せ合っているのは事実なので、特に否定はしない。


 ナコに関しては疲れが勝るのか、カルドウェル卿の言葉を真面目に聞こうとはしていない。


「ご期待に応えられたようで何よりです。カルドウェル様、そしてラディン様もこれからよろしくお願いします。」


 カルドウェル卿に粗相のないように俺はその言葉を聞いた瞬間、直ぐに体勢を建て直して彼に頭を下げた。


 冒険者で腕を磨く中⋯⋯俺もハッキリとした指標が欲しい。

 目指すはカルドウェル卿に次ぐ実力者となること──俺はそれを心に決めた。


 修羅の道を歩むことになる上に、必要とする訓練と経験の数も相応に必要になる。


 ⋯⋯気長にだが、ナコと一緒に腕を上げていこう。


「こちらこそよろしく頼もう!よし。拙者とラディンが近くの部屋へ案内する、ついてきてくれたまえ。」


 ウィリアム卿は訓練所へ滞在し、何かことを進めるようで俺たちについてこようとはしていなかった。


 彼と騎士達は依然も拍手を送ってくれていて、訓練所の中は拍手の音が絶えない。


 カルドウェル卿とラディン卿が先導してくれているのに対して、俺とナコは会話を交わさず素直についていく⋯⋯。


 一方のエミリオは俺達についてくるそんな中でも、自分の燎弓に不備がないか、入念にチェックをしていた。


 ⋯⋯各々が別々の事をしている最中、ナコは俺の腕に抱きつき、おんぶをせがんできた。


「ほれっ、妾はこの通り疲弊してしもうたぞ。お主は男子(おのこ)らしく、然うして(そうして)従順に⋯⋯妾に背を貸さんか。」


「⋯⋯はいはい。」


 そんなナコの言葉に対し、これと言った文句を垂れずに彼女に背中を貸してあげることにした俺。


 理由は⋯⋯またもや窮地(きゅうち)を救ってくれた恩人様の言うことを聞かないわけも行かないわけで。


 俺はナコが乗れるようしゃがみこみ、彼女が乗った瞬間、いつもの温もりと体重が俺の体にどっしりと伝わってくる──


 既に慣れたし、特に重くはないが⋯⋯心音が背中に感じたりと色々と思う所はある。


 ⋯⋯色々とまずい状況である現状、俺はそれを甘んじて受け入れることにし、再びカルドウェル卿たちが案内する部屋へ赴き始めた。


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