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第10話◆無意識にも⋯⋯

帰り道を歩きながら話す和也と杏華だったが、杏華の質問に対して和也は悲しそうな目をして答える。

だが杏華は和也の言葉の真意には気づかなくて⋯⋯

 

 俺は空を眺め、少し悲しそうな目で杏華の質問に対して答えた。


「大切で失いたくない⋯⋯幼馴染だからかな」


 俺にとって杏華は小さい頃から人生を一緒に過ごしてきたかけがいのない存在⋯⋯


 でも杏華は俺ではなく⋯⋯。


 ────いや、そこは応援してやるのが幼馴染ってというもの⋯⋯ここはキッパリ諦めることにしよう。


「そっかぁ──和也は⋯⋯本当に優しいね、私はそんな和也が幼馴染で本当に良かったって想ってるよ!」


 杏華は笑いながら俺に言葉を返すが、その表情には何か裏があるような⋯⋯そんな複雑な表情をしていた。


 杏華の違和感に勘づき、俺は気遣いの言葉を送った。


 下手に俺に気を遣って無理をしてもらうのは勘弁して欲しい、付き合いは長いんだし気遣いなんて無用だ。


「⋯⋯嬉しいけど、無理すんなよ?」


 杏華はその言葉の意味を理解できないのか、頭を傾けて『なんの事?』と言うような顔をしていたが⋯⋯。


「よくわからないけど、私の事を想ってくれてるって事でしょ?杏華ちゃんは嬉しいぞ!」


 意味を理解できていないのか、俺の言葉をポジティブ思考と捉えるが、俺の言葉の意味は前向きなものでは無い。


「⋯⋯想っているのは合っているんだけどな。」


 俺は杏華に聞こえない程度の小声で呟きながらため息をついていた中も、杏華はご機嫌の笑顔で俺の横を歩いていた。


 _____________

  "夜の帰り道"


 あれから五分ほど歩き、交差点が見えてきた。

 こは杏華と俺の道が別れる場所である。


 杏華と俺の帰る道が別れる所が目前になっている所で────急に杏華は足を止めた。


 杏華は何かを思い切り、先程までの笑顔はすぐに消えて少し赤らめている顔をしていたのだ。


 ⋯⋯なんだ?


 10秒ほど無言が続いて、杏華は覚悟を決めたのか口を動かし、俺に話しかけてきた。


「ねぇ和也⋯⋯」


 俺がその言葉に反応して返答をしようとすると、目があわないように杏華は顔を赤らめながら地面を見ていた。


「ん、どうした?そんな地面なんか見て⋯⋯」


 杏華は言葉をつまらせながら何かを言おうとしている、こんな顔は滅多に見ないが⋯一体なんなんだ?


「今度のね?なつまつり⋯私と⋯い、一緒に行かない?!」


 杏華は恥ずかしがりながらも、目を瞑りながら俺に頭を下げて、俺の耳にも入っている夏祭りの事を告げてきた。


 俺は『夏祭り』という単語が再び耳に入り、ふと頭の中で予定があるかを確認した。


「夏祭りかぁ、そういえばそんなのポスターが学校に貼ってあったなぁ。」


 ────夏祭り⋯⋯、そういえば毎年この時期になると開催するんだっけか。


 詳しい日時はわからないし、その日が暇かどうかも危うい⋯⋯ここは一旦、杏華に日時と場所を聞くとするか。


「何曜日だ?日によっては行けないかもしれないが、一応帰ったら予定を確認してみるよ」


「今週の土曜日だね!場所は僧稲荷公園だよ!実はもう祐馬くんを誘ってあるんだよね〜!3人で行きたいな〜って!」


 ────祐馬も誘った⋯⋯


 ⋯⋯正直言って、なぜ俺を誘ったのかがわからん。

 夏祭りは恋人や好きな人と2人きりで行くものだと思うのだが。


 2人きりだと恥ずかしいから⋯⋯とかか?


 杏華の考えることはよくわからないが、幼馴染として、杏華の恋を邪魔する訳にも行かないし────俺はこいつの恋を応援したい。


 ⋯⋯ただ、ここで杏華の誘いをそのまま断ると悲しませちゃうかもな⋯⋯でもそれだけは絶対に避けておきたい────女の子を泣かせるなんて男としてありえないからな。


 俺は家に帰り予定を確認すると言うことを口実にして、この場を切り抜けようと考えた。


「土曜日の僧稲荷公園だな、俺も行きたいし空いてるか確認次第、お前に電話するから待っててくれ。」


 杏華は俺の返答を聞き、顔の赤らみが一瞬にして消え去り、変わるように笑顔になった。


「うん!帰ったらすぐ確認して直ぐに電話してね!約束だよ!」


「はいはい──じゃあ俺はこっちの道だからもう行くぞ?」


 見ればもう俺たちが別れる道へと到着していた。


 もう夜も遅い、まだ話していたい気持ちはあるが、もし補導されて内申点に響いたりすることは裂けたい。


 そのため、俺は左の道へ寄り杏華に帰ることを伝えた。


「本当ならまだ話していたかったけど──仕方ないよね⋯⋯その代わり約束は忘れるんじゃないぞ!杏華ちゃんとの約束!」


 杏華は俺に念入りの押しを入れてきた。


 ───こいつを裏切りたくはないが⋯⋯。


「しつこい奴だなぁ、忘れないからそんなに念押ししなくても大丈夫だぞ?」


「和也は忘れっぽいから沢山言っておくの!じゃあ私も和也の言葉を信じて私も行くね!ばいばい!」


「あぁ、気をつけて帰れよ」


 杏華が俺との対話を終えると、逃げるようにその場から走り去り、やがて道を曲がり彼女の姿が見えなくなった。


 〜


 ────俺は杏華と話し終えたあと、自分の帰り道を進みながらとある考え事をしていた。


 夏祭りか⋯⋯そういえばナコのやつ、外に出てみたいとか言ってたな。


 約束を断るのは癪だが、杏華と祐馬は2人きりにさせたいし⋯⋯俺もあいつらと一緒にいると罪悪感でメンタルが持たない。


 俺はあいつと2人で行くとするか。耳と尻尾は隠せると言っていたし問題は洋服だな。


 ────明日辺りにでも一緒に服でも買いに行くとするか。


 だが、その前に仲直りをしなきゃならないんだよなぁ⋯⋯あいつ、この高い稲荷寿司で許してくれるかな⋯⋯


 まぁ稲荷寿司を食わせなきゃ許さないとか言っていたし大丈夫だとは思うが、少し心配だな。


 そして和也がナコとの喧嘩で悩んでいる一方、杏華は帰り道で1人でハイテンションになっていた。


 ____________

  "和也の家"

 

 俺は杏華と別れ、約束を破る最低な男になってしまうが⋯⋯杏華のためにも、ナコと夏祭りへ行くことを決めた後に家へ帰ってきた。


 ────さて、お姫様とご対面だ。


「お〜い、ナコ、稲荷寿司買ってきたぞ〜?」


 リビングへ行き、ナコがいつも座っている場所に目をやるが、ナコの姿はない。


 そして、ナコが居そうなお風呂場やお手洗い場の電気はついている様子もない⋯⋯。


 ということは考えられるのは俺の部屋にいることか、前々からベッドの方が寝心地がいいとか言ってたし、可能性は高い。


 俺は自分の部屋へと向かい、ドアを開け電気をつけ、部屋に入る。


「───あ〜やっぱりここで寝てたか」


 思った通りか、彼女は俺の部屋にいた。


 ナコは俺の枕を抱きながら寝ており、心底幸せそうに眠っており、尻尾や耳さえなければごく普通な小学生。


「⋯⋯仕方の無いやつだな」


 眠っているナコは布団がはだけており、風邪を引いては行けないと思った俺は、ナコに仕方なく布団をかけなおしてあげた。


「⋯⋯寝てれば普通の可愛い女の子なんだけどなぁ」


 布団をかけ、起こさないよう部屋から出ていこうと扉へ向かうが、眠っているナコは寝言を言いながら無意識に俺の手を掴んでくる。


「⋯⋯ぬしさま⋯⋯」


 ────おいおい、この状況は⋯⋯やばくないか?


 傍から見れば俺はロリコン、もしこの場にクラスメイトが入れば、確実に白い目を向けられる。


 ⋯⋯少し困ったが、仕方なくその場に座り込んで手を離すまで待とうとしていたが、彼女は手を一行に離す気配がない。


 こりゃダメだなと考え、どうこの手から抜け出そうかと思考を巡らせていた⋯⋯しかし、俺は時期にナコの隣で寝てしまった。


 ___________


 俺の帰りから10時間程が経ち、朝になり眠ってしまった俺はナコより先に目覚めてしまう。


 今⋯⋯何時だ?


 ───6時半か⋯疲れが溜まっていたとはいえ、さすがに睡眠時間が長すぎだ。


 そろそろ眠っているナコのことを起こさないと俺も準備が始められない。


 それはそうと⋯⋯こいつはなぜいつまでも俺の手を握っているんだ?


 ナコは俺が寝ている間も手を離さず、ずっと眠り続けていたようだ。


 こいつも長年、人と話してきていないし寂しいさと言うものがあるのだろう──こういう所だけ可愛げがあるのは嬉しいけど、もっと心優しいやつだったらなぁ⋯⋯。


 そんな叶いもしない願望をたれながらも、時間を気にしていたため、俺はナコのことを起こそうと肩を揺らす。


「おい、朝だぞ〜起きて手を離してくれないと俺が遅刻しちまう」


 どうやら声に気がついたナコが、ゆっくりと目を開けて俺の存在を視認したようで、朝の挨拶をしてくる。


「むっ⋯⋯お主か、おはようなのじゃ⋯」


 寝ぼけているのか握った手を離さず、喧嘩していたことを忘れているのかと言わんばかりに笑顔で接してきてくれた。


 寝起きは冷静な思考が回らないと聞くが、神にもそういう面があるみたいだ。


「おはよう───ところで早く俺の手を離してはくれないか?」


 彼女はオレの発言を聞いて自分の手元を見る。


 その先には俺の手をナコの手が握っている場面が──そこにはあった。


 その事に気がつき、さっきの寝ぼけた様子はどこに行ったのか───急に顔を赤くして手を振りほどく。


「お主!?この妾になんということをしておる!いくら妾が美しきオナゴとはいえ、お主にも自制心というものはないのか!」


「握ってきたのはお前だよ⋯⋯。俺が帰ってきたらお前は俺のベットで寝ているし色々大変だったんだぞ?」


 彼女は赤面して、俺がナコの手を握ったと勘違いしている。


 俺の手を握ってきた心がどういう意味かは分からない、もしかしたら夢でなにかあったのかもな。


「ええい!つまらん虚言を抜かすでない!妾がお主の手を握るなど、絶対にありえぬわ!」


 俺の発言を虚言と称し、俺の言うことにひとつとして聞く耳を持とうとはしてくれないナコ。


 人間を見下す性格からは、頑固という面倒くさい性格も築き上げられているみたいだ。


「まぁお前がそう言うなら信じてくれなくても結構だ。それはそうと昨日買ってきた最高級の稲荷寿司、冷蔵庫に入ってるから食べたくなったら食えよ」


「なっ、最高級じゃと?!やはりお主はそんなに妾に許してほしかったのかのぅ。まぁ案ずるな、妾とて鬼畜ではない、これまでの件は全部水に流してやろう!」


 情緒不安定なのか、先程の赤面と怒りはどこへ行ったのか、食べ物のことになると目を光らせ、前の出来事をすんなり許してくれた。


 これが本当に神様なのか⋯⋯本当に気分屋なやつだな。まぁそんな気分屋のおかげで俺は許して貰えたんだが⋯⋯。


「ありがとな、じゃあ俺はこれから学校の準備をする。昼飯は冷蔵庫に色々とあるからそれを食べてくれ」


「またもや学校とな⋯⋯まぁよい、心得ておこう。」


 ナコはベットから降り、稲荷寿司に早く食らいつきたい一心の中、顔を洗うため早々と台所に向かっていった。


 ___________

 

 俺は今、学校の制服に着替え終え、リビングのテーブルに座って朝食のパンを食べている。


 しかし⋯⋯そこでナコは俺が夜遅くまで外にいたことを問い詰めてきた。


「してお主よ、昨夜はどこをほっつき歩いておったのじゃ?」


「ん?あぁ、昨日は商店街で今お前が食べている稲荷寿司を探していたんだが⋯⋯訳あって色々遅れてしまってな。」


 半分嘘で半分本当⋯⋯杏華の事について話しても、彼女は首を傾げるだけと踏んだ俺は、稲荷寿司を遅れた理由にした。


 商店街に行くに至った理由はナコのことが原因だから、厳密に言えば嘘にはならないがな。


「なるほどのぅ、妾に時間を割いてくれるのは誠に嬉しいのじゃが⋯⋯もう少しはよぅ帰ってきて欲しいものじゃな。」


「今度からはもう少し早く帰ってくるよ。心配させてすまなかったな」


 ナコは朝のことを意識しているのか、それとも心配なんてしていないというのか⋯⋯はたまたツンデレなのかは不明だが、依然として顔が火照っており、少し声を上げていた。


「お主の心配などしておらぬわ!お主が居なくなると分からぬことも多い。妾はそれが心配で仕方がなかったのじゃ!」


 この反応から来る声の荒らげ具合は、多分ナコは照れ隠しするために嘘をついている。


 なんとも嬉しいことに彼女は、多少は俺の身を案じてくれていたみたいだ。


「それは悲しいな⋯⋯ふっ、お前に好かれるようもっと努力しなきゃな。」


 そんな微笑ましい会話を続けている間に、俺はいつの間にか話しながらパンを食べ終えていた。


「───じゃあ俺はこれから学校だから行ってくるよ、それと今日は少し早く帰ってくるからな。」


「うむ!お主の言葉は、普段は信用ならぬが⋯⋯そうじゃな、今回ばかりは信じてやるとするかの」


 相変わらず上から目線なやつだな⋯⋯まぁもうこれが日常になりつつあるし腹立つとかそんなことは無いんだが⋯⋯なんかなぁ。


「ありがと、じゃあ行ってくるからな」


「気をつけてゆくのじゃぞ〜」


 ナコはわざわざ大好物の一環の稲荷寿司を置いてまでお見送りをしてくれた。


 俺に手を振り、彼女は扉がしまったと同時にリビングへ戻っていった。


 ────やっぱり心配してくれてんじゃん。


 そんなナコの一面を見て微笑んでいたが、俺はそこで杏華との約束をその場で思い出す。


「やっべ!昨日の返事を返せてない!」


「メールで、予定があったから行けなくなったと伝えておかないとな⋯⋯」


 俺はそんな独り言を呟きながら、道路に出ていた俺⋯⋯憂鬱な学校へと向かうために。


「さてと⋯⋯今日も憂鬱な一日の始まりだ。」


 また独り言を喋り、俺は杏華にメールを送りながら、いつもの道を通り登校を開始した。


 ___________


 和也が家を出たあと、暇つぶしに慣れないテレビを見てくつろいでいたナコ。


「退屈じゃのう⋯⋯このテレビとやらにも少し飽きてきたわい。」


 う〜む⋯⋯こちの世界で妾を楽しませてくれる物は無いものかのぅ。


 そんなことをいい、ナコは頭の中でこの世界についての疑問が幾つかあるのを思い出す。

 そして彼女は立ち上がり、和也の部屋へ向かった。


 〜


「こちの世界について色々と調べるとしよう。」


 和也の部屋の本を漁ろうとするナコだったが、そこで足元にとあるポスターが落ちているのを見つける。


「───む?これはまだ見た事がないものじゃな。」


 そう、それは和也の学校で配っていた夏祭りのポスターだった。


 ナコは遠い昔、1度だけだが自分を崇める人間が開催している祭りに参加したことがあり、何をするかは大体把握していた。


「なつまつりとな?久々の祭り事とやら⋯⋯妾も行ってみたいものじゃな」


 ナコにとってお祭りは500年ほど久しいものである、彼女はそんなポスターに気を止めてあることを思いついた。


「彼奴に夏祭りとやらに行けないか聞いて見るとするかのぅ!⋯⋯特にこのいかやきとやらは美味そうじゃ!食欲がそそってきおる⋯⋯」


 和也はナコと夏祭りを行くことを既に予定しているが、ナコはそれを知らないため、夏祭りについてお願いする気でいた。


 ⋯⋯そんなナコは和也の帰りが早く来るように祈る。


「───彼奴の帰りが待ち遠しいのじゃ!」


 そんなことを考えながらも、じゅるりとヨダレを垂らし、ポスターを見つめるナコだった。


第10話、お読みいただき誠にありがとうございます!

早くも第10話ですね!順調に更新できてモチベーションも維持できていてかなり調子がいい滑り出しです!


和也は杏華が好きだけど、祐馬のことが好きだと勘違いしている超鈍感な男の子なんですが、そんな態度を見せてもまるで気づかない杏華ちゃんもまた鈍感な子なんです。


次回は学校にナコが乗り込んでくるちょっとしたハプニングエピソードになる予定です!

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