転生先でいきおくれ変態厄介おば……お姉さんがかわいそすぎてうっかり優しくしたところ溺愛されてなぜか勇者にされてしまったようです。
ダメなおば……お姉さんっていいよね。
「……やっぱりファリファさんだったんですね」
「ち、違うのよ! これはね、お願い聞いて!」
「いいですよ。ちゃんと聞きます。だからまずはついてきてください」
「ひっ、嫌よ! 警邏に突き出す気でしょう!?」
今僕の体にしがみついて涙と鼻水ぐちゃぐちゃ顔面蒼白のおば……お姉さんはファリファさんといって、最近引っ越してきたお隣さんだ。
とても親切な女性で、よく作りすぎた夕食などを持ってきてくれたりする。
幼い頃に両親を亡くした僕にとってはありがたくも温かい気持ちになれるいい人……だったのだが。
暑い時期なのに厚手のロングコートを羽織っていて、その中身は……一応局部は隠れているがほぼ紐みたいな服しか着ていない。
局部を紐で隠した巨乳女性がコート一枚で徘徊している。
つまり変態だ。
ここ数日近辺に変態が出ると噂になっていたのだが、僕は先日見てしまった。
夜中に窓の外を眺めていた時、コートを身に纏った金髪の女性を。
まさかなと思いこうして張り込みをしていたのだが……本当にファリファさんが変態痴女だったなんて。
「突き出したりしませんよ。ゆっくり話を聞かせてください」
「ど、どこに行くの?」
「僕の家です」
ファリファさんはやたらとあたりをキョロキョロしながら僕の後をついてきた。
玄関ドアを空けて家に入るなり、彼女のヤバさが加速する。
「ハァハァ……い、いきなり自宅に連れ込むなんて……アーリル君ったら私に乱暴する気ね!? 薄い本みたいにっ!」
「違いますよ。まぁコーヒーでも飲んで落ち着いて下さい」
僕は一人で身悶えているファリファさんを無視して居間へと進み、コーヒーを用意して彼女に座るよう促す。
「さ、それでも飲んで落ち着いたらなんでこんな事したのか話してくださいね」
なぜかしょんぼりしている彼女はコーヒーをずびずびと飲みながら、号泣。
「だっでぇぇぇ……こうでもしないと誰もあだじのごどなんでぇぇ……」
「そんな事ないと思いますけど。ファリファさん綺麗だし」
「でもアーリルぐんだっであだじのこと興味無いじゃんかぁぁ…ぐすっ」
うわぁ面倒くさいおば……お姉さんだなぁ。
「普通ね、こういう状況だったら、秘密にしてほしければ言う事を聞くんだなひっひっひっ! みたいな展開になるもんじゃないの!?」
「なりませんよなんですかそのひっひっひっ! って。ファリファさんって僕の事そういう風に思ってたんですか?」
「ご、ごべんなざい……そういう風には思ってないけれどそういう目では見てまじだぁぁ……」
「まぁなんでもいいですけど、見つけたのが僕で良かったですね。僕が居ないからってもうこんな事しちゃ駄目ですよ?」
「居ないってなに……?」
ああ、その説明をしてなかった。
「僕冒険者になるのが夢だったんですよ。昔から16歳になったら冒険に出ようって決めてたんですよね」
「た、誕生日はいつ?」
「今日ですけど」
ファリファさんは顔を真っ青にして机に頭を打ち付けた。
「どうしたんです?」
「やだ……やだやだやだーっ!」
途端に泣きわめくおば……お姉さんに僕は面食らってしまった。
「落ち着いて下さい。何が嫌なんです?」
「だってアーリル君が居なくなっちゃったら誰があたしの事見てくれるの……?」
いや、僕が居たって見るとは言ってないけれど。
「出発はいつなの……?」
「明日の朝には出ようかと」
「分かった! あたしついてく!」
「……え? 冒険者ですよ? ファリファさん魔物退治とか出来るんですか?」
「任せてっ! あたし元冒険者だしめっちゃつおいから!!」
……ほんとかなぁ。
もし元冒険者ってのが本当なら確かに助かる事も多いだろうけど。
「あたしその筋ではかなーり有名だから安心して! 絶対にアーリル君を守ってみせるから!」
別に守ってもらわなくても大丈夫だけど、この世界に詳しい人がいた方が何かと都合はいい。
「……そういう事ならお願いします。でも一つ約束してください」
「なになに? するするなんでもするっ!」
「もう人前でそういう事しないでくださいね」
僕はファリファさんの服装を指差した。
万が一、これから訪れる街で変態出没騒ぎがおきて彼女が捕まったりしたら僕まで巻き込まれてしまう。
「人前で……? う、うん、分かった……アーリル君って……結構独占欲……」
「? なんです?」
後半がよく聞き取れなかった。
「ううん、何でもない、なんでもないのよ? アーリル君もはっきり言われたら恥ずかしいものね」
「そうですね。だから早くそれ着替えてください。目のやり場に困るので」
「うんっ♪」
その後突然目の前でコートを脱ぎだした彼女を無理矢理自分の家に帰らせ、僕も支度をしてから眠りについた。
……で。
「剣の舞っ! 大蛇切りっ! 聖光爆裂衝!!」
……強いとは言ってたがここまでとは聞いてない。
魔物に遭遇するなりファリファさんはそれらを一瞬にして切り刻む。
しかもとんでもない過剰火力で。
彼女はマジックストレージと呼ばれる収納空間から刀身が炎のように燃え盛る剣と、冷気を纏った剣を取り出し二刀流でばっさばっさと魔物を駆逐していく。
満面の笑みを浮かべながら。
「ねぇあーくん! あたし凄いでしょう!?」
「えっ、あ……はい。強いですね……」
僕が何かする間も無いほど彼女の力は圧倒的だった。
僕は人選を間違えたかもしれない。
その後も行く先々で彼女は無双し、「褒めて褒めてあーくん!」と僕に抱きついてくるのだ。
いつの間にか僕の事はあーくんになったし、「あたしの事はファラって呼んでね♪」だそうである。
「親しい人にしか呼ばせないんだからね?」
そんな事を言われても困るのだが、あまりの押しの強さにどうでもよくなってしまった。
そんな鬼強のファラさんに過保護すぎる扱いを受けながら冒険の旅は進む。
各地で魔物討伐の依頼を受けてはファラさんが無双して終わる。
そんな日々を繰り返す中、とある街で魔物討伐の依頼を受けたのだが……どうやら今までの雑魚魔物とは訳が違う大物が絡んでいたらしい。
今や誰も住む人の居ない古城に魔物が住み着いたというので討伐にきた僕らを待っていたのは、漆黒の鎧を身に纏ったプラコという魔王軍幹部だった。
魔王は勇者に倒されたと聞いていたが、残党だろうか?
どちらにせよファラさんの敵では無いだろう。
僕はそう認識していた。
それほどまでにファラさんの強さは規格外だったから。
実際、プラコのどんな攻撃もファラさんにはかすりもしない。僕を守りながらでそれだ。
負ける要素がなかった。
……はずだった。
確かにこのままなら負けはしない。
でも、勝てない。
ファラさんとは絶望的に相性が悪いのだ。
「クカカカカ! そのままではいつまで経っても俺には勝てんぞ!」
プラコの言葉にファラさんも初めて焦りの表情を浮かべる。
「あんたあの時死んだんじゃなかったの?」
……あの時?
「なんだお前あの時の戦士か。道理で動きに見覚えがあると思った」
どうやらファラさんは以前にもプラコと対峙した事があるらしい。
「今は一人か? いや、お荷物付きか。どちらにせよ貴様に勝ち目は無いなァ?」
「くっ、ごめんなさいあーくん……こいつ物理無効なのよ。一旦退避しましょう!」
ファラさんは本当に泣きそうな顔で僕に謝った。
ファラさんはゴリゴリの物理系だし、剣から発せられる炎と冷気程度ではプラコに傷一つ付けることはできない。
確かにこのままではファラさんの体力が尽きてしまうだろう。
「久しぶりの大物だ、逃がすかよ!」
僕は気付いていた。この古城に入った時から退路を塞がれていた事に。
強い魔力で封鎖されている。
プラコも魔法タイプでは無いので、この城の何処かに障壁を発生させる装置みたいなのがあるんだろう。
本来ならプラコと対峙する前にそれを破壊しなければいけなかったのだが、僕はそれを見逃した。
なぜなら……。
「あーくん……本当にごめんなさい。あたし、なんとか君だけはここから脱出させてみせるから」
ファラさんの様子を見る限り命がけの何かをするつもりのようだ。
「その必要はありませんよ」
「……えっ?」
「既にこの城にかけられている障壁は解除しました」
僕ならこのくらい簡単に打ち消す事ができる。
「ファラさん、下がってて下さい」
「だ、駄目よ! あーくんは私が……」
前に出る僕をファラさんが止めようとするが、僕は背伸びをしてその頭をぽんぽんと優しく叩く。
「たまには僕に守らせて下さいよ」
「あ、あー、くん?」
「なんだァ? 小僧、今度はお前が俺の相手をするってのか? いいぜ、メインディッシュは前菜食ってからにするか!」
僕はプラコにとって前菜らしい。
「前菜に毒が入ってるかもしれませんよ? メインディッシュまで辿り着けないかも」
プラコは城が震えるほど笑った。
失礼な奴である。
「こっちはいつでもいいですよ? かかってきて下さい」
「あぁそうか……よ!」
プラコがその豪腕で巨大な斧を僕に振り下ろす。
「……反射」
それに合わせるように手をかざすとプラコは勢いよく弾き飛ばされ背後の壁まで吹き飛んだ。
「……えっ? あーくん!?」
「いつも僕が何かする前にファラさんが魔物を片付けてしまうので言いそびれてましたが……僕、強いですよ?」
「グオォォォ! いいぜ、いいぜお前……本気で相手をしてやる!」
プラコが瓦礫を跳ね除けながら起き上がる。
「そうして下さい。舐めてると死にますよ?」
「言ってくれるじゃねェか……お望み通りブッ殺してやるよォ!!」
プラコの体が真っ赤に染まり、ボコボコと体が変質していく。
「あーくん気をつけて! ああなったら奴は敵味方関係無く暴れる殺戮者に……」
「関係ありませんよ」
僕は一度魔法という魔法を極めた大賢者なのである。
「実は僕人生二回目でして。前世はここではない世界で大賢者やってました」
絶句するファラさんと、僕の声など既に聞こえていないプラコ。
僕は前世で神の領域まで到達し、神域で神の元で修行した後、平和すぎる神域に飽きて新たに生まれ直す事にした。
ちゃんと記憶を消してくれと神に頼んでいたのに、十五歳の誕生日に部屋でぼっちパーティー中、転んで頭を打ったらうっかり全部思い出してしまったのだ。
「神に等しき力をその身に刻め。……あー、えーっと……」
「あーくん! 来るわよ!?」
プラコは目にも止まらぬ速さで突進、大きく回転しながらまるで独楽のように巨大な斧を振り回した。
「ちょっと、何使うか悩んでるんだから待っててよ」
パチンと指を鳴らすとプラコが不自然な体勢のまま固まる。
「グ、グゴァ??」
「えっと……あーもう魔法多すぎて何が効きそうとか考えるの面倒だなぁ……もうファイアーボールでいいや」
指先に炎を灯しそれをピンっと弾く。
へろへろと飛んでいった炎がプラコに触れた瞬間、目の前が真っ赤になる。
「おっと危ない危ない」
慌ててファラさんに障壁を張る。
爆炎はすぐに四散して消える。あとに残ったのは城だったものの残骸だけだった。
思ったより威力がでた……。神様のやつ新しい体を魔力マシマシにしやがったな?
下手に強力な魔法使わなくて良かったかもしれない。
僕とファラさんが立っている場所を残して城が崩れてしまった。
「どうです? 僕強いでしょ?」
ファラさんに笑いかける。
「あ、あ……あっきゅぅぅぅん!!」
「ぐえっ! く、苦しいですよファラさん!」
正面から思い切り抱きつかれて僕は彼女の胸に顔が埋まって窒息しかけた。
「すごい! すごいすごいすごいよぉぉぉっ! 物理のあたしと魔法のあっきゅん最強の夫婦じゃない!?」
夫婦ってなんだ。いつからそうなった!?
反論したくても柔らかい物に埋もれて窒息しそうな僕には彼女の体をタップする事くらいしか出来なかった。
「あぁ……あっきゅんは勇者のバカとは比べ物にならないくらい最高よ! いえ、もはやあっきゅんが勇者なのでは!?」
「む、むぐーっ!」
僕は情けない事に、そのまま意識を失ってしまった。
だってしょうがないじゃないか。素で抵抗したってファラさんに敵うわけないし、魔法使ったらやり過ぎちゃうんだからさ。
……で、目が覚めたら妙な事になっていた。
「おお、目が覚めたか勇者アーリル殿!」
「……へっ?」
事態が飲み込めない。辺りを見渡すと、どうやらどこかの城にいるらしい。
目の前にはファラさんと、頭にわかりやすい王冠を載せた老人。
「あーきゅん、おはよう♪」
「事情はファリファ殿から聞いた。何でも君は前勇者をも凌ぐ実力の持ち主だとか」
待て、なんだこれは。
「バカ勇者と一緒に戦ってきたあたしが言うんだから間違いないわ!
あーきゅんの方がずっと強いし優しいし完璧な勇者よ!」
「うむ、行方不明の勇者に変わりアーリル殿、君を新たな勇者に任命する。どうか、新たな魔王を討ち滅ぼす為に力を貸してほしい」
……なんでこうなったんだろ。
まぁいいや考えるのも面倒くさい。
ただ、新しい人生は思ったよりも楽しくなりそうだ。
僕にとってはそれだけで生まれ変わった意味がある。
「あーきゅん! あーきゅん! それでね、あたし達の結婚式はいつにしようか!?」
……これだけはちょっと想定外だったなぁ。
お読み下さりありがとうございます!
短編故に冒険に出てからの展開がかなり急ぎ足で申し訳無い。
本当はもっとおば……お姉さんの活躍を書きたかったのですが今回はこのくらいにしておきます。
少しでも気に入ってもらえたら幸いです☆彡
ぜひぜひ下の方にある☆を黒くしていってね!
作者の他作品もぜひよろしくお願いします♪
ネット小説大賞で準グランプリになった短編とか250万PVの完結済み大長編とか100万PV到達したばかりの毎日更新中作品とかいろいろあるよ!
コンゴトモヨロシク( ◜◡◝ )