『バディ』だなんて呼びたくない!【おまけ】ルブの苦労は終わらない!
この作品は、「『バディ』だなんて呼びたくない!」
https://ncode.syosetu.com/n2915hd/
のアフターストーリーとなります。
よろしければそちらを先にお読みください。
書けなかった伏線の回収と、ついでに副隊長ルブにも何か報われる話を、と書いてみました。
結果は……。
よろしければお楽しみください。
「ルラさん。財務から言われてた来季の予算の資料、できあがったから持っていってもらえる?」
「……ルブ将軍、もう完了されたのですか? 確か期限はまだ十日はあったかと」
将軍の執務室。
束ねられた書類を見て、補佐官のルラ・トー・ユニはメガネを押し上げながら、控えめに驚きの声を上げる。
いつも冷静沈着な彼女の反応を、高評価と捉えたルブ・シキレフは、照れたように頬をかく。
「やんなきゃなんない事が色々あるからさ、何でも早いに越した事ないからね」
そう答えると新たな書類へとペンを走らせ始める。
ルラの鋭い視線に気付きもせずに。
「……差し出がましいようですが」
「うん?」
「ルブ将軍は色々引き受けすぎなのではないでしょうか」
「え、そうかな?」
「魔獣消滅後の余剰人員の削減はともかく、その後の仕事の斡旋や、魔獣によって逃散した村々の復興の手配など、他の部署で行うべき仕事だと思いますが」
「ま、まぁそうかもしれないけど」
「お休みを取られたかと思ったら、市街や復興地の視察。何故そこまで無理をなさるのですか」
静かな、しかし怒りのこもったルラの言葉に、ルブは困ったような笑みを浮かべる。
「いや、俺はお情けで将軍になったようなもんだからさ。恩返しがしたいんだよ」
「恩返し、ですか?」
「そう。この国は魔獣の脅威にさらされていたけど、俺のいた部隊がその原因を突き止めて、全ての脅威を破壊した」
「はい」
「本来ここに座るのはその時の隊長か、バディの魔術師なんだけど、どっちも退役しちゃって、他の隊長クラスもほとんど抜けちゃったから、お情けで俺にお鉢が回ってきたのさ」
「そんな事は……」
貴族ではあるが魔術に長けておらず、ずっと王都で兵站管理などをしていたルラには、前線での地位など聞いた話でしかない。
しかし凄まじい量の事務仕事をこなしながら、軍の全体を見据えた改革を行なっているルブ以上に、将軍職が相応しい人間がいるとも思えない。
「そんな身にそぐわない地位でも、もらったからにはしっかりやりたいんだ。離れていった仲間の想いも背負ってる事だしさ」
「……それは」
「それに、俺と一緒に戦った仲間が新しい道を見つけたり、故郷を追われた人がまた平和に過ごせるようにする仕事は、やりがいを感じるんだ」
「……っ」
その疲れた表情の中に光る安らぎに、ルラは胸が詰まる。
「……でしたらご自分の身体も大事になさってください。それで身体を壊されては元も子もないではないですか」
「俺みたいな凡人は人並みじゃダメだから、もうちょっと頑張らせてよ」
「将軍は十分頑張られています」
ルラの勢いに、ルブはたじろいだ。
「え、ど、どうしたのルラさん」
「前線での活躍は存じませんが、将軍としての適正は別だと思います。南の魔女なんて、将軍になったのにトレーニングばかりですよ」
「あー、まぁあの人はそれに特化しすぎたから……。それにしてもジンさん、あんな言い方をするからてっきり……。罪な言い方だよなぁ……」
「え? 罪な、なんですか?」
遠い目をしていたルブは、ルラの疑問を曖昧にごまかす。
「いや、とにかく功績は一番、戦力としてもずば抜けてるからね。将軍の地位だけ与えて、軍に留め置きたいんだろうよ」
「それにしても、軍の強い人を集めて一番強い人を決める大会を催したいとか、正気じゃないですよ」
「あぁ、あれは、まぁ……。隊長をあぁしたくなかったから、守る事にこだわったんだなジンさん……。あぁなってしまうと思ったら俺だって……」
「あの、将軍……?」
「あぁ、ごめん。気にしないで。……彼女の事は、俺が何とかするからさ」
「……!」
南の魔女と呼ばれるマッチョな女魔術師クイーレ・ブ・トウアーを退役させて家に帰せば、仲睦まじく暮らしている元隊長トイと、その夫でありトウアー家の長男ジンに無茶なトレーニングを施しかねない。
二人の幸せを願うルブはクイーレを軍に留め、無茶な要求も含めて飲み込む覚悟をしていた。
その慈しむような目をするルブに、ルラは何かに気付いたように目を見開く。
「……ルブ将軍は間違ってます」
「え、あ、いや、抱え込んでるのは自覚してるけど……」
「私、鍛えますから」
「あ、いやでも俺のこだわりにルラさんを付き合わせる訳には……」
「将軍よりもっとすごくなりますから」
「も、勿論ルラさんならもっとすごくなれると思うよ」
「その時は、私を見てくださいね」
「え、あ、う、うん」
「では私は書類を財務へと届けて来ますので」
「う、うん、よろしく」
ルブが作成した書類は、一年分の軍部の予算案に加えて、就業支援や復興支援の書類と合わさって、かなりの重さになっている。
書類用の台車に載せられたそれを、ルラは持ち上げる。
「え、ちょっと、台車使っていいんだよ!?」
「いいえ、これも、勝つため、ですから……!」
「えぇ……。台車使うくらい……」
よろよろしながら部屋を出るルラを見送って、首を傾げながらも微笑むルブ。
「ルラさんが立派になってくれれば、俺もちょっとは楽ができるかな……? それまではもうちょっと頑張るか!」
ルブは果たして手遅れになる前に勘違いに気付けるのだろうか……?
読了ありがとうございます。
すみません、自己満足でした。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
ルブにも良き縁を、と思って補佐官の女の子をつけてみましたが、ジンの母生存ネタを入れたら変な事になりました。
筋トレを始めたルラに気付いて早めに止めないと、ハグで落とされる目に遭いますね。物理的に。
だが私は謝らない。
ちなみに補佐官ルラ・トー・ユニは逆読みで『ニュートラル』です。
付かず離れずで検索したら出てきました。
思い付きのアフターストーリー、楽しんでもらえましたら幸いです。