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見えない落とし穴

作者: 元気温

 最近工場のあたりが騒がしい。少し離れた工場に向かって何台もの車両が入っていく。そしてそれを阻むように汗を流しながら罵声を浴びせている日焼けした男たち。元から関わりのない人種だとばかり思っていたが、こうも目に入る頻度が高まるとうっとおしい。せっかくの昼休憩中だというのに気分が悪い。

「なんなんですかね、あれ」

 嫌悪感を隠さず、一緒にいた上司に向かって愚痴を履いてしまった。いけない。そう思って否定の言葉を発しようと思ったが、上司の反応は素早かった。

「しらないのか。先日産業用ロボットがあの工場に導入されてな、大方の社員は解雇されたそうだ。納得できない連中がああして騒いでいる」

 上司から聞くところによると、工場はコスト削減と効率化ののために労働者を減らして機械の導入を行ったらしい。

 工場の持ち主がこのような手段に打って出たのには、昔からいる労働者の声が大きくなり、まっとうな意見が押しつぶされていることだった。改善案を提案しても無視したり、指示を曲解したりとやりたい放題だったらしい。そのくせプライドだけは一人前にあるものだから手に負えない。どうせいう事聞かないのなら、機械の方がよい。

「なんだか、自業自得って感じがしますね」

「決められた仕事をやらないで、自分勝手に決めてたらそりゃあ怒られるよな」

 専門性もなく機械で代替できるような作業のどこに誇りがあるのだろうか。世の中には自分の知らないことは多々あり、そのことを知っている人間はごまんといる。自分たちだけが特別だなんて考えがまかり通るわけがない。 

 そう考えていると、脳裏に一抹の不安が過ぎった。

「ぼくらの会社って大丈夫ですよね。」

「不安になりすぎだろう、うちは業界でトップ、世界を牽引するようなとこだぞ」

 呆れたような上司の顔を見ると、ますます自分に危険が迫ってきているように思えた。冗談ではなく、本気で今後も変わらずこの立場を維持し続けられるという自信の表れであったが、慢心のようにも見えた。

「何か変なこと考えているのか?辞めて企業をしようとか」

「そんなわけありませんよ、第一そんなのうまくいくわけないじゃないですか」

「安心したよ。そんなことされたら俺の評価にも関わってくるからな」

 満足げな笑みを浮かべている上司の愛社精神には驚くことも多い。不況だと騒がれていた時期に拾ってもらい、遮二無二働いてきたのだといつも聞かされている。その頃でもこの会社は世界でもトップクラスであったことから、決してこの地位を失うことはないと信じているのだろう。

 どんな困難があったとしても必ず変わらない。この世界に存在しない完全な会社のイデア。   

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