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MonsterHunter  作者: 大河童
3/4

二狩目〜碧の女・繋〜

アーッ!!

や る な い か ! !


取り乱しました。

最近いい感じに冷えて来ましたね。

私は早くも長袖です。

新型も蔓延し始めたので皆様もお体に御気を付け下さいな。

「ちっ!やっぱり見付かったか。おいティル、逃げるぞ」


 月夜の光、視界の効かない樹海、外敵を威嚇する咆哮。

 つい先程の邂逅から息を整える時間すら補給できずに再度発見される二人。このまま此処に留まれば若い男女の命が散るのも目と鼻の先である。


「冗談やめてファスター。自慢じゃないけど私碧プレートよ!それにね、情けない。本当

に情けないど腰が抜けて立てないのよ!」

「おいおい、冗談やめてとはご挨拶だな。そりゃこっちの台詞だっての。話しが違うぜあ

のメイド。あれの何処がイャンクックだ。色しかあって無ぇじゃねぇか」


 既にこちらへ標準を定め、臨戦態勢に入っているリオレイア。

 ファスターの言い分だって誰が聞いても首を縦に振るしかない。歴も年もまだまだ熟練者のそれとは遠く及ばない二人からしたら、この状況は酷以外の何物でも無いだろう。

 しかし桜色の飛竜は二人の、いや、人語等そもそも理解出来る訳も無しに、悠長に話し

ている暇など与えてくれずこちらへ突進してきた。


「だああぁぁ!!くそっ!!」


 間一髪。「きゃぁ!!」の悲鳴と共にティルの姿は飛竜の突進ルートから大きく外れ、勢いよく脇の地面を体いっぱいで擦っていた。

 当のリオレイアはと言うと手応えを感じられなかったのか、その大きな身体を急停止させその場で天へ咆えていた。

そして仕留め切れなかった得物の行方を捜すように首と頭を四方八方へ動かしている。

 ティルの体は泥塗れとなっていたが魂そのものは未だに現世へと留まっていた。それもこれも、彼女のすぐ近くで同じように泥に塗れながらゆっくりと体を奮い立たせている男のお陰である。


「いちち……。ありがとう、でも助かったわファス……?」


 ファスターはティルの声に反応し、彼女へ向けて静かにしろとボディランゲージを示していた。ティルは直ぐに彼の意図する事を理解し、両手で口を多い無言で大袈裟に大きく頭を縦振りしていた。


 数分後。未だに彼等の姿はさっき地面を擦ったそこに在った。

 とりあえず息を整え終えていた二人は終止無言で周辺をぐるぐると徘徊するリオレイアの姿に注視していた。

 どうしたものかとファスターは、ぼそぼそと消え入りそうな声で口を開く。


「まぁなっちゃった事はしょうがないとしてもさ、この状況をどう切り抜けるか」


 突然横から声がしたものでティルの体はビクンと波打った。しかし幸いなのか、流石に声までは出なかった様でファスターの言葉の続きを待つ事に。


「時間がそんなに無いんだ。俺が考えに考え抜いた二つの状況打開策を言うからどっちがいいか、せめてあんたに選ばせてあげるよ」


 ファスターは飛竜から一時目を離し彼女の方へ顔を向けた。恐らく了承の合図を待っているのだろう。

 ティルはと言うと飛竜の動向に集中し過ぎてその事にすら気付かず、ひたすら目視を続けていた。少しの間そうして待っていたファスターも大して時間が残されて居ない様で、先程の彼女が取った反応から察して優しく肩を叩きこちらを振り向かせた。そうしてようやく得られた了承を機にファスターは再度口を開く。


「一つ、戦う。二つ、奴の胃袋に二人仲良く納まる。まぁ俺としてはってうおっ!?」


 瞬間、激しく肩を揺さぶられ思わず声を上げてしまったファスター。その揺さぶりが終わり何があったのかと彼女の顔を覗えば鬼の様な形相で彼を睨んでいた。


「ちょっと!!この際だから私が一番望んでいる《今すぐ家に帰ってお布団で寝たい》の選択肢が無い事は諦めるわ。でもねファスター、どうしてかしら。私の聞き間違いである事を願わずにはいられない二つの選択肢が聞こえたのは気のせいかな?」


 怒涛の如く声を荒げ、いや、実際は大量に息を吐きながらかすれ声で吠えていたので周囲に漏れる事は無かった。

 そして成る程とファスター。彼はひどく落ち着き払って両肩を未だ掴んでいた細い腕を解き答えた。


「俺だってこんな事言いたくないけどね、君の耳は間違い無く正常だよ。あっ、勿論あんたの耳が本当の意味で悪い事のを望んでるって意味じゃ無くてね」


 彼の返答にもうどうしようも無いのかと大きく溜息をこぼすティル。


「私、小さい頃から狩人になるのが夢だったの。そしてやっとこれからって時にその夢がこんな所で潰える事になるなんて、微塵も思って無かったわ。はぁ、後悔だらけで吐きそう……」

「だったら尚更だよ。この際だし、ついでにリオレイアを狩って帰れば確実にあんたは晴れて二本線へ昇格、いや、もしかしたら飛んで三本線なんて事もありえるかもよ?」


 ファスターの激励も今の彼女には何の効果も無い様で、むしろ先程からどんどん意気が消沈しているのは明らかだった。


「そりゃ《狩れる》ならね。でもねファスター、単身ソロでなんとかヒプノックが狩れる紅プレートと、いつまで経っても落ちこぼれの緑プレート二人、そんな私達であの化け物に何が出来るのかしら?」


 ティルは言い終えるや飽きずにノシノシと足音をたてながら徘徊するリオレイアへ視線を移した。しかしファスターは彼女の苦言も何のそので、揚々と返事をした。


「実際俺もさ、そろそろもう一ランク上に行きたいなとか思ってる訳なのさ。手違いとは言えそんな折に絶好の得物が現れたんだ。こりゃ狩人冥利に尽きるって思わない?」


 そう口にしているファスターの右手は、既に彼自身の相棒である大剣の柄をしっかりと握っていた。

 いよいよティルもどうにでもなれと、今の今まで苦楽を供にしてきた片手剣の剣を片手に、そしてもう一つの腕には円形の小さな鉄の盾を装着した。


「必ず生きて帰ってやるんだから。そしてあの勘違いクソメイドのルータとファスター、あんたにたっぷりと奢って貰うんだからね」


 既にティルの目はリオレイアを定めている。その飛竜と出くわした時に偉いてんやわんやで取り乱していたあの時とは比ぶるも無いほどに、その目は覚悟で満ち溢れていた。

 そんな彼女を中傷するでも無く、ファスターも一度ほくそ笑んでから真剣な表情へ切り替えて桜色の飛竜を睨む。



 しかしあれだ。どうして酒場に居た筈の彼等がこの様な破天荒極まりない場所へ赴いたのか、それをそろそろ説明しておくのも今後の展開に多大な影響を与える事請け合いだろう。

 そんな訳でここまでの経緯いきさつを振り返ってみようか。



  ◆     ◆     ◆     ◆



 結局の所だ。小動物状態だったファスターがその場に居続ける事を強要された次第に運ばれても、彼の性格を考慮すれば賑わいを見せる酒場そのものの雰囲気を楽しめる状況である筈も無く、気を遣いながら適当に相槌を打って得た情報といえば、彼女と自分の年齢は同じであり、その同年代の大酒飲み(おおさかのみ)の愛称が《ティル》という事ぐらいだった。

 そして宴もたけなわと。酒場で騒いでいた連中は時刻が草木も眠る丑三つ刻となる頃には次第にその姿も消えていき、現在此処に居るのは酔いつぶれた客と、それを介抱するウェイトレス兼メイド。

更に、何やら先程の一件からやけに高圧的な態度となったティル。それに、その酔っ払いの相手を大変不服そうな表情で相手にするファスターといった所だろうか。

 そんな彼女も時間が経つに連れて何やらふて腐れてしまい、テーブルでうな垂れつつ時折何かをぶつぶつ呟きながら、しっかりと片手で握り締めているジョッキの取っ手を中身が零れない程度に左右へ振っていた。

 いよいよ収集が着かなくなる前にティルを自宅へ送った方がいいだろうとファスター。正直に彼の心情を明かすと、もう面倒臭いから帰りたいの一言に尽きるのだがそこは哀れファスター。彼自身の気苦労が絶えないのはこういった人を目の前に立ち去る事が出来ない訳であろう。


「ねぇティル。ここの払いは俺が持つからさ、今日は帰ってゆっくり休みなよ。ほら肩貸して。送ってくよ」

「煩いわね〜。私はまだまだ飲めるっての」


 もう駄目だろう。ファスターはそう判断して、ぶつぶつ言いながらも目をシパシパさせ、もう少しすれば確実に堕ちるであろうティルの肩を担いだ。ファスターとしては予想外ながらも、彼女は全くの抵抗を見せずにすんなりファスターへ身を預けてきた。そこでファスターは気付く。酒場の雰囲気や彼女の装いから全くそれを覗う事が出来なかったのだが。


 そう、彼女は巨乳であった。


 彼女自身のラフな軽装の防具も手伝ってか、その感触は彼の脇腹へ事細かにその質量を教えてくれている。ついでに言えば彼女はそこそこ、いや、結構美人だ。首を振ればセミロングのサラサラブロンドヘアーがこれでもかというぐらいになびき、あまつさえ出る所が出て、ボン!キュッ!ボン!な感じか。

 まぁだからどうした訳で、彼自身はその事に始めこそ驚いていた。のかどうかも判り得ないが、それによってファスターが彼女をどうこうする訳も無しに、彼は「お勘定いいかい?」と近くのウェイトレスへ声を掛ける。


 そうして近付いてきたウェイトレスに支払いを済ませ、やっとこさ此処から立ち去ろうと彼女の家を本人から聞き出そうかという時に、傍でテーブルの片付けをしていたウェイトレスが気になる事を口にした。


「あらら。結局お嬢様今日も酔い潰れてたんですね」


 苦笑を浮かべつつもそのまま片付け続けるウェイトレス。しかしファスターはそのテーブル片付け人の口にした内容に引っ掛かりを覚えた。無論酔い潰れたとかいう方では無く。


「お嬢様?この人どっかのボンボンなの?」


 このファスターの言葉を聞いた途端にしまったという表情を浮かべる片付け人。この時のウェイトレスとしては、恐らくファスターの事をダイエンに住む者の誰かだろうと勝手に思い込んでいたに違い無い。

 ファスターはそんな彼女の変化に気付きつつも、その問いを適当にあしらわれたもんで、どうにもこうにも心にわだかまりが出来つつ渋々とその場を後にした。


 外に出たはいいが、さてと。

ティルは俯いたままファスターに身を委ねたまま無言で呼吸している。その穏やかな事といったら無いだろう。これは本当にどうしたものかと、すっかり到着した頃の喧騒が消えうせた夜の街中にポツン取り残されたファスターは、いつの間にかすっかり機嫌を直していた夜空を見て途方にくれていた。

 そんな時脇腹に違和感を感じた彼はその部分に目をやる。そうすれば肩を貸している女が街の一角を指差しているものだから、これはよかったとファスターは移動を開始。しようとしたのだが、彼女が「おんぶしてくれ」と全く持って不可解な事を述べてきた。

 まぁこんな状況のティルを見てこのまま倒れられてもまた面倒事が増えるのもあれなので、彼は体を屈めて彼女を負ぶってから改めて指差された方向へ歩みを進めた。

 そんな感じで歩き出してから数十秒後。いつ寝息を立て始めてもおかしく無かった背中の巨乳の声が聞こえた。


「家に着くまで暫く歩いて貰うだろうから、せっかくだし暇つぶし程度に世間話しでもし

たげる」


 ファスターは無言の了解を背中の温もりに送る。


「これはね、この街に住む人なら誰でも知ってるただの世間話し」



  ◆     ◆     ◆     ◆



 その昔人と竜の戦いが拮抗し始め、この街がまだ名も無い時でした。そこにとある商人の一家が暮らしていました。

商人の性を《ダイエン》と言ったそうです。その家族達は西方で商人として活躍し、未だ生活苦に陥っていたここの噂を聞きつけ遠い異国から海を渡って、人の手助けになりたくこの地へ辿りついたのです。

 商人の家族は皆がとても優しく、とても気さくだった為街の人とも直ぐに打ち解け、見る見る内に街そのものも活気に満ち溢れ、その存在を周りの町々に知らしめました。元から街に住んでいた町人は彼等のしてくれた功績を讃えてその性を街の名前として頂き、あまつさえ彼等一家に街の長になってくれるよう頼みました。

 かくしてダイエンは近郊でも有数の賑わいを見せる街として成長します。

 そんな感じで時は数百年流れ、舞台は今この時から数十年前になります。ダイエン全体、最大の不幸と言ってもいいこと起こりました。

 村の長たるダイエンの一家、もといこの街ダイエンは一度死滅したのです。


 途中まで聞いたファスターだが、これには嫌な予感を覚えずにはいられなかった。事実私もそう思う。これはもしやと話しを止めようとする。しかしそんな彼の反応は見飽きたといわんばかりに彼女は言うのだ。

「あぁ勘違いしないで。どこでどう間違っても私はこの商人ダイエン一家の一人娘みたいな展開には為らないから。因みに悲劇のヒロインでも無いわ」

 彼女の言葉でファスターの懸念していた事を速攻で否定され安堵が胸を包む。彼はそのまま口を閉じ歩を進め直す。


 そのダイエン死滅事件の全貌はこうである。

当時ダイエンには丁度一家が亡くなる直前に、とある《dead Nobility》(廃れ貴族)の一派が此処へ流れ着いていた。廃れ貴族の詳しい情報は後述するとして、前提としてこの廃れ貴族は、ほぼ間違いなく世界中で毛嫌いされる人の集まりである事を覚えておいて貰いたい。

 そして誰が仕向けたか、全くといって良いほど上手い具合に平穏だった街へ十数匹の飛竜達が突如襲来。無論常駐していたギルドの衛兵や街の狩人達も応戦に当たったが、残念ながら敵の数が数だけにドンドルマからの増援間に合わず、街そのものの存続を危ぶめる程にこのダイエンは大打撃を被った。

 幸いに生き残った人々は焼け野原と化した自分等の故郷、並びに失った多くの命を思い深い悲しみを患った。やがてその悲しみは怒りに変わり、誰が言うでも無くその矛先は廃れ貴族へと向かったのだった。

 「廃れを殺せ」、「廃れた血は皆殺しだ」と、町人の怒り一身に受けた廃れ貴族は何の抵抗をするでも無く、自ら達が進んで処刑台に立ち、街の中心でその廃れ貴族達は町人達を目の前に己ずとその命を絶った。

 処刑台で絶たれた命の数はおよそ二十余名。彼等の死装束を覗えど、貴族の名を冠する者とは到底思え無いほどに、書いて字の如し。乞食同然の廃れた衣に身を包みよこたわっていた。

 そして未だその傍らで泣きじゃくる一糸纏わぬ赤子と、その赤ん坊を抱えて横たわった人々を見詰めながら必死に涙を堪えている幼い男の子の姿。

 そんな彼等を見付けた町人。その中の一人が声を荒げこう言ったのだ。


「その穢れた子供も殺してしまえ」


 その声を皮切りに街中から一斉に同じような怒声が聞こえる。この時、男の子はどれ程怖い思いをしただろう。これならばいっそ飛竜に噛み殺された方がまだましだろうと。

 大勢の大の大人に殺してやると言われ、処刑台に立たされる彼等の心情等察するだけでおぞましい。しかし男の子は壇上に立ってからも一切涙を溢さずに凛と、その両足で板を踏みしめている。男の子は言った。


「この場で絶たれる最後の命は僕一人にして下さい!!どうか妹の命だけは奪わないであげて下さい!!」


 そして男の子はそっと傍らに赤ん坊を置き、近くの床に転がっていた血に染まる剣を拾い上げその刀身を思い切り喉に突き立てた。ゆっくりとその場へ崩れ落ちる男の子。床一面が真紅に染まる。

 しかしどうしたものだろう。町人の魂は悪魔にでも売られたのか、遂に幼きその赤子にゆっくりと近づき、そしてそれを汚物でも触れたような表情、持ち方で拾い上げ片方の手に携えた赤い刀身をその小さな体躯へ振り下ろした。その時である。


「バカモノオオォォォォォ!!」


 天にも木霊するかの如く、その場一体に怒号が響き渡った。と同時に、赤ん坊に手を掛けようとしていた町人の体は大きく横へ吹き飛び数メートルは吹き飛んだろうか、壇上から少し離れた瓦礫の中へ突っ込んでいった。

 町人達は突然の事に混乱しつつ、灰が舞う瓦礫から突然の来訪者へ目を向けた。

「間に合わんかったか……。すまんかったのぉ、坊よ」

 そこに居たのは恐らく世界の誰に聞いても答えられるであろう程の、とてつもないビッグネームが涙を浮かべ赤ん坊を抱いていた。


――生ける伝説、大長老その人である。


 突然目の前に現れたその人物に町人達はただただその姿を見守る事しか出来なかった。 そもそも大長老と言えば人と竜の戦いに最初から参加し、獅子奮迅の活躍でこの拮抗をもたらした現在に生ける英雄である。まぁ数百年生きている点については、大長老自身が竜人族のそれであり、彼等は元来普通の人と違い非常に長命なのであった。人の十倍は生きるとされているそんな竜人族だ、今こうしてこの場所にいる事自体は何ら不思議は無いのだが、狩人の教科書とされる狩人指南書ハンターマニュアルの表紙を飾っているのは勿論、世界中のいたる場所で彼を模したオブジェが見受けられる事等から、彼の遺してきた功績の数々を窺い知る事が出来よう。実際世界に点在する竜人族自体は百にも満たないが、その中でも随一の長命かつ、中型の飛龍と何ら引けをとらないその体躯もまた世界一たる由縁なのかも知れない。

 そしてついでに先述した《dead Nobility》(廃れ貴族)についても説明をしておきたい。因みにこちらも大長老ばりに世界中の認知される事柄である事を先ず述べておこう。


 廃れ貴族。彼等もまた人と竜の戦いを当初から見守ってきた人達の流れを汲む(竜人族では無い)訳なのだが、この大きな戦闘が一応の終結を迎えた後、彼等は《竜貴族》とされ人々からの差別化を図られた。無論この時は戦いの際大いに奮ったその功績を買われ、人々から憧れや崇拝の対象といった意味の貴族である。しかし何をとち狂ったか、事もあろうに彼等は飛竜を捕獲し飼い慣らそうと試みたのである。この考えは結果的に当時の主流であった飛竜を討伐する概念から、今日に至るまで《捕獲》するという全く新しいスタイルを編み出した原点と言えるだろう。

 最終的に現代では依頼主やギルドの方針から、飛竜を討伐したり捕獲したりとこの二通りの方法で狩人達は動いている。まぁ捕獲した飛竜は通常の討伐よりも割高で素材を剥ぎ取れるのでこのような方法もあるという訳で、決して飛竜を使ってどうこうしようという事では無いのだが。では何故彼等が廃れてしまったのか。

 それは彼等が世界を再び混迷に導きかけたからである。


 この飛竜捕獲の話し、出た当初はいくら竜貴族の意見でもそれは無理だと方々から非難を浴びていた。

当たり前だろう。そんな事は当の始めに試して失敗している。散々泥水啜らされて来た敵を相手に、今更どうしてそんな事が出来る筈も無いと。

しかしこの時竜貴族はそんな彼等を納得せしめる物的証拠を見せ付けた。

 そう、現在でも捕獲する際に必須とされる《麻酔玉》のそれであった。

 何を隠そう竜貴族は創造の才に長けていたとされ、このように現在でも日常的に狩人が使用する必需品をいくつも編み出していたのである。

 始めこそ嫌疑の念でそれらを眺めていた周りの人々も、実際それを目の当たりにし、その驚くべき威力に皆が首を縦に振ったのだった。

 人々は思った、飛竜との共存が可能になるかもしれないと。

 そんな夢見事、そもそも考えたのが間違えだったのだろうか、おとなしく現在に流れ着くスタイルに導いていれば彼等は廃れずに済んだ筈だろう。


 かくして事は起こった。世界は二度目の混乱を迎えたのだった。

竜貴族の全体がそうであった訳では決して無い、これは後々判る事なのだが。

この時一部の貴族、そう、世界の悪とされている世にいうバイハムス家がよこしまな邪心から、捕獲した大量の飛竜を野に放ったのだ。伝承によればこの時大地にはほぼ千に近い大小の飛竜が解き放たれたと記されている。

 竜貴族の欺瞞は世界制服実行に変化したのだ。これにより各地のギルド瞬く間に壊滅、その時には既に大都市として変貌を遂げていたドンドルマも陥落が時間の問題と迫ってい

た。


――最早我等に抗える者無し。

 竜貴族による世界征服は事を為しえる一歩手前となっていた。そんな時である。彼等自身にとってもとんでもない誤算が起こったのだ。

なんと飛竜の攻撃目標に自分達も含まれ始めたのである。

 そもそも飼い慣らすといっても彼等がその為に編み出したのは匂いの薬であり、これを人間が服用する事で飛竜に同属と思わせる様な匂いを体から放っする事が出来るようだ。そうする事で敷地内に運ばせた飛竜が麻酔玉による眠りから覚める頃には、彼等は貴族等に危害を加える事は無く、そこへ適度に肉等の飛竜が喜びそうな餌を与えその場に留めていた。結果論。飼い慣らしていたとは到底言い難い事態である。

 しかし彼等は見境無く人に襲い来る飛竜への対抗策等持ち得ておらず、いよいよ世界は崩壊の形を取ることとなった。


 その様な時だ、これも伝承によるものだが(当時生きていた竜人族はその場を抑えていなかったのでこの伝承の真偽は不明)。

 日中の出来事で、突如天が暗転したそうな。と、同時に方々で好き勝手していた飛竜達は一斉に動きを止め、そしてそのまま天へ咆えたのである。死を覚悟していた人々は何が起こったのかと飛竜同様に天を仰いだ。

 そのまま雲が天を覆い、やがて大雨が降り激しい雷が空に閃いた。その間を縫うように

一体のそれは現れた。


――白い龍。

 体躯のそれはまるで神々しさを放ち、見るもの全てを魅了するかのような白銀の毛並み。魅入ったもの焼き尽くすような妖艶な紅色の眼。

 もうそれは天の使いとでも言うべき様なそれであったと。

そしてそれは地上を舐め回すように一瞥した後、くつわを返して高い山々へ向かい飛び立った。


 そこからだ。飛竜達はその白い龍の後追うかのように翼を拡げ空へ還って行ったのである。それは見事に地上には一体の竜も消えうせたそうで。


 数週間後。

 ドンドルマで世界中の人々は血の誓いをした。

大長老はこの一件の首謀者であった貴族の一族を処刑し竜貴族そのもの廃した。また、竜貴族と呼ばれ残った彼等の大部分は遠い山岳地帯に幽閉(とは言っても生活居住区はこっそり確保していたらしいが

)。その時幼子であった者達は大長老の裁量で無罪放免とし、普通の人としての暮らしを約束した。


 とりあえずこんな感じで大筋はご理解頂けるだろうか。

 で、話を少し前に繋げよう。そう、大長老が廃れ貴族の処刑台に現れ、赤子を抱き上げ何やら感極まっている所付近だ。


 大長老に続いて港の方から多数の野太い声が聞こえた。

彼はその体躯相応の声量で声をあげる。


「飛竜は未だ付近を徘徊しているかもしれん。ギルドの名に賭けて狩人の生業を全うするのじゃ!!」


 大長老が言い終えるや、港から駆けつけた数十人の衛兵と狩人が刻の声をあげ一斉に四方へ散った。そして竜人族を含めた残っている数人のギルドナイト達は壇上にあがりぴったり大長老の傍へ侍った。


「誰が悪いのでも無い。ましてやこの者達にも当然罪等ある訳も無い」


 大長老は傍の地に横たわる亡骸を一見し言い放った。


「大昔に起こった禍根が未だ主等の心に点在するのも無理は無い。この者達の亡骸を率先して作ってしまったここの町人にすらその罪は存在しない。全ては一握りの者達が築いてしまった過去の過ちに尽きる。しかし!!どのような理由であろうと人が人を蔑むはよしと出来ん!!どうか永久とこしえに安寧が続く事をわしは切に願わずにはいられんのじゃ!!」


 気付けば町人の誰もが涙を溢していた。大長老の言葉通りである。

そして彼は横に侍る一人の竜人族の青年に赤子を預けて、その肩を叩きその場を去った。

 去り際に大長老も小声で確かに言ったのである。


「その娘っ子の命は誰のものでも無い。独り立ち出来るまで主が責任を持って育てよ」


 それからダイエンはその青年を中心に瞬く間に復興を遂げた。それから数年経った現在、当時の赤ん坊は今もなおこの街で暮らしている。



  ◆     ◆     ◆     ◆



「はい。世間話しはこれでお終い。んで、あそこが私の家って訳」


 三十分近くは歩いただろうか。ティルを負ぶったファスターは彼女の指差すままに黙って歩いていた。そうして辿り着いた先はダイエンの中心から遠く離れた所にポツンと一件だけ佇んでいた、木造の小さな家である。表札を見れば村長宅と書かれている。


「送ってくれてありがとうね。あははー、すっかり酔いも覚めちゃった。じゃぁ私はこれで」


 彼の胸辺りで交差していた腕を解き、勢いよく後ろへ着地したティル。そして足早にファスターの横を通り過ぎると適当な所で振り返って大手を振っていた。


「クリティーナ=シャルロッテ=ゲルセン」


 少し距離があるが、如何せん今は更けに更けった深夜である。ファスターの呟いた声も脳の冴え渡っている正常な人間の耳には届いたようだ。

 何故と顔一杯で驚きを表しているティル。どうしたのだろうか。

そんな彼女を他所にファスターは言葉を連ねた。


「ゲルセン家。そりゃ狩人指南書ハンターマニュアルにも乗ってる超大物だぜ?あの大災厄を起した張本人の片棒を担いでいた家系だ」


 彼女は何がなんだか判らないといった様子でその場に立ち尽くしている。


「俺はあんたがどうして呆けてるか判んないけどね。ティル、俺があんたの本名を知ってて当然だと思うぜ?今この世で生きてる竜貴族は多分俺とあんただけだもの」


 ティルは混乱する頭で必死に考えた。

 この世に生まれて二十一年。こんな所に出くわす事になるなど微塵も思っていなかった。自身の身内はあの処刑で全て潰えたものとばかり思っていた。もしかしてあの時兄は……。有り得もしない妄想に期待は募るばかりだ。

彼女は口パクパクとさせ、焦点が合わずにいる目を必死に定めて、そしてファスターへ向けて言葉を搾り出した。


「お、お兄ちゃん……「じゃねぇんだな悪いけど」


 あれ?拍子抜けしたのかティルはその場にへたり込む。


「あんたの兄貴は間違いなくあの場で亡くなってるよ。名前はキャメル=ベルベット=ゲ

ルセンだ」


 途端判りやすい程に肩を落とすティルだが、如何せんこの後ファスターから告げられた驚くべき事実に体は大きく波打つ事になる。


「因みにおまけついでに教えてあげるよ。俺の本当の名前はホークアイ。ホークアイ=ディケルケット=バイハイムスってんだ。あっ、でも普段は色々面倒だから母親が付けてくれたファスターで通してるけどね」

「え、ちょちょちょ。あのね、バイハムスってあのバイハムス?」

「あぁ、あんたのいうバイハムスがどのバイハムスか判んないけどあれだな、世界の大災厄を引き起こしたバイハムスだぜ」

「という事は、ファスター……じゃなかった。ホークアイさん?……でいいのかな。は、私の先祖が片棒を担いでたあのバイハムスさんなのよね?」

「バイハムスだかボンレスハムだか言い過ぎて何がなんだか判んないけどさ、とりあえずあんたが思ってるバイハムスで間違い無いのは確かだよ。後俺の事はファスターでいいから」

「そっか……そうなんだ……えへへ、成る程成る程。って何それええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 事前に述べた様にティルは余りの驚きに思わず声をあげた。それは雨雲のさった静過ぎる夜には眠りにつく人を起こすに充分の声量である。

 近くに居たファスター自身も両手で耳を抑える事を余技されなくなる程だ。耳を貫いた声の果てには興奮して肩で息をしているティルと、彼女の咆哮、その余韻を不本意ながら味わわせられているファスターの姿。そして、いつ間にか明かりの点いた村長宅から歩いてここに来た青年の姿が在った。


「ティル、酒場のメイドから聞いたぞ。ここ最近またあそこに繰り出しているそうだな。全く、そんな暇があったらモンスターでも狩って腕を磨け」


 ほとほとに困り果てたようにティルへ投げかけられた言葉。それは家族に向けるような暖かさを含む物言いである。しかしこの青年、容姿を見ればファスター達より少し若く見える。とは言っても常人より一回り大きくとがった鼻と耳を確認出来れば、彼が竜人族である事は明らかだろう。結果、ファスター達より年上な事が濃厚だ。


「うわっ、なんでロゼリオが起きてんの!?」 


 彼女にとっては招かれざる来訪者なのか、しまったと言わんばかりに背後に立っていた人物を見据えている。

 竜人族の青年はこの反応に呆れたと肩を竦めた。

 そしてそのまま彼女の肩をポンと軽く叩き、そのままゆっくりと照らし出すのは月夜の明かりのみ、暗がりの道をファスターの方へ向かって歩いてきた。


「して、そこに居るのはホークアイか。ティルを送って貰った例だ、大したもてなしは出来ないが、茶くらいご馳走してやる」


 その言葉は、彼は本当にご馳走する気があるのか。そんな風に言われた側が受け取りかねない程に無愛想な口調である。ティルの時とは大違いだ。

ロゼリオの出て来た村長宅を指差す指針も曖昧で、正直家なのか、はたまた遠くに見える山々の事なのか、全く何処を示しているか判らない。


「大長老といいあんたといい、俺にはファスターって立派な名があるんだ。その名で呼ぶんじゃねぇよ。後、時間が時間だ。お茶会は謹んで辞退させて頂く」


 こっちもこっちで愛想が無い。

 いや、どうかと思えばしっかりとファスターを見据える竜人族の目線から逃れるかの如く、彼の視線は下降線になっている。何かやましい事があるのか、はたまた苦手意識をもっているのかは定かでないが。


 そんな場の空気を察してかどうか、恐らく察する察していない以前に気付いてないだろうが。ティルが二人の許へ歩みを進め口を開き、何か発しようかという時だ、二人の耳に届いたのはティルの元気印な声で無く、青年にとっては聞き知った、ファスターにとっては曖昧な記憶の中にあるが、何処か安らぎを感じる、そして大地の母を連想させるような声が代わりに届いた。


「――ですー!!むーらーおーさー!!大変なんですよー!!」


 誰が大地の母か、無念。酒場のウェイトレスである。

 そして直前に記述した内容にに御幣があった事をお詫びしたい。

 そんな事はさておき、激しく肩を上下に揺らす彼女だが、三人の許へ到着する迄に何か必死に叫んでいる。


「ひ、るううぅぅ……っとっとっとっ。……きゃぁっ!!」


 後数メートルであっただけに惜しかった。

かくして三人は慌ててウェイトレスの許へ駆け寄る。

そして地面に両手両足を使い大の字でうつ伏せになっている彼女の上体をそっと抱き上げた。


「うぅ、ててて……。何方か存じませんがご丁寧にってこんな事してる場合じゃないんですよーー!!むらおさーー!!私を村長の所へーー!!」


 まことせわしないウェイトレス。

 そして炸裂したのである。無論村長自らの手による唐竹割がウェイトレスの脳天にだ。

 全くもって慌しくなってしまった静寂の夜だが、ロゼリオがパニックに陥っている彼女を宥め少し落ち着けと時間をおいた。彼女が息を整えゆっくりとその口から出て来た内容を理解した時には、ロゼリオもこの天然ウェイトレスの器用不器用さ加減に苛立っただろう。


「ルータか。夜中にギャーギャーと煩いだろ。こんな夜更けに全く、今日程不快な久しく無かったな」


 晴れて、村長=ロゼリオだという事がウェイトレスの証言から相判った竜人族の青年。彼はそう言いながら横目でファスターを一瞥し、案の定視線が一秒と交差しなかった事を確認してから再び言葉を発した。


「で、酒場のメイド、ルータは俺に一体何のようだ?飲んだくれの同居人ならもう帰路に着いてるぞ。先程そこにいる不快な知人が運んでくれたようだからな」


 ウェイトレスはこの場にいる三人の顔を改めて確認し納得。したのもつかの間、彼女自身が話すべきは他にあったと思い出す。


「違うんです村長!あのですね!落ち着いてくださいよ!あっ、落ち着いてられもしないんです!とにかく私見ちゃったんです!」

「あぁもう煩わしい。次口を開いた時に主用を述べなかったらお前は酒場を首にするぞ!」


 その言葉を聞いたルータは目を丸くさせ、同時にロゼリオの襟を掴み、手前、奥、手前、奥と激しいローテーションを始めた。


「そ、それだけは困りますー!雑貨屋さん、花屋さん、工房、宿屋さん、物持ちさん達からの一方的な解雇を経て、やっと掴んだ天職だと思ってるんですよー!そんちょー!酒場まで首になったら私はどうやって生きていくんですかー!うぅ、この人でなしー!何とか言ったらどうなんですかー!」


 いつの間にか泣きじゃくっているルータ。そしてその両手付近からは、ユッサユッサ。間違いなくその擬音は聞こえている。

 見るに耐え兼ね思わず割って入った残された二人の額にも正直うっすらと青筋が浮かんでいる。話しが全く進まない。と、彼等は思うのだ。


「ぐっ……。もう判った。お前はこれからも酒場に居ていい。だからさっさと要件を伝えてくれないか」


 この言葉を受けたウェイトレスの反応。よもや語らずともいいだろう。

 して、彼女の登場時から実に二十分近い時間を経て《それ》は告げられた。


「飛竜が街の真上に!!」


 張り詰めた空気が即座に拡がった。場所が場所だ。嫌が応にも飛竜という言葉に並々ならぬ焦りが滲み出る。それはこの場に居る誰もが。引いてはこの街全てが同じ事。

 村の長たる者、ロゼリオは並々ならぬ緊張と共にウェイトレスから詳しい事情を問い質した。


 まるで賊徒の類に襲撃を受けたんでは無いかという酒場内を、ルータが同職場内のウェイトレス達と後片付けをしていた時だった。無論前述した言い回しは比喩であり、如何様いかようの誤解も受け付ける気は無い。酒場としては毎日、皆が帰った後はこうであるべきなのだろう。

 しかし人の喰い散らかした者をどうにかするのはやはりいい気分な筈も無く、最近この職に就いたルータは先輩達にトイレに行く等と適当な理由を付けて、厨房の裏口から外に出たそうだ。暫く夜風にあたり、そろそろ先輩達に怪しまれると店内へ引き返そうと思った時、彼女は見たそうだ。

 漆黒の空、では無いんだ。厳密には星もちらほら出ていたので。まぁそういう言い方をしておいた方が映える気がして。申し訳無かった。では改めて。

 満天の星空。そこに両翼を携えルータの頭上を過ぎ去る巨影が映ったそうだ。彼女は、その飛竜と思わしき飛行生命体は丁度、村長宅とは真逆に位置する《イナ樹海》に消えて行くまで、ただただ呆然とそれを目で追っていたそうだ。

 これは不味いと思った彼女は酒場の片付け等なんのそので、その直後に一心不乱、ここまで駆けて来たらしい。

 とりあえず概要終了。


 村長。書いて字の如しでロゼリオにはダイエンを守る義務がある。何故ダイエンが街と認知されているのにも関わらず彼が町長では無く村長と呼ばれているのかは、今の状況では瑣末な問題の一欠けらでしか無い訳で、結局の所町のトップがやるべき事等考える必要も無し。ロゼリオはその場で凛と言い放った。


「ダイエンの村長として正式な依頼だ。ホークアイとティルの両名に飛竜の狩猟を依頼する」


 ポカーンと呆ける二人。無論ファスターとティルの両名である。しかしだ、この直後の反応は両者それぞれで、ファスターは何か一人で納得したかの様に満足気な表情で、懐に潜めた小さな皮袋を取り出し中を確認、ひぃふぅみぃと早くも契約金を準備し始めた。

 因みにルータから補足として聞いた飛竜の情報として以下のような事が聞けた。その体躯は小型であり、暗がりでよく見えはしなかったが皮膚の色は桃色の様な。

 そこから推測するにロゼリオとファスター両名はルータが目撃した飛竜は、狩人達が脱初心者と自身を高める際に己を試す飛竜、イャンクックと断定した。まぁこのイャンクック、飛竜な事は確かなのだが、種族分けから引用すると厳密には鳥竜種のそれであり、前述した通り基礎を学び終えた狩人の誰もが通る登竜門的な扱いを受けている。しかし残念ながらティルはピンと来なかったようだが。決して私はティルのプレートを軽視している訳では無い。

 そうそう。ではティルはどうしたかと言うと。彼女はそんなファスターの行動で拍車が掛かり、呆けつつ慌てるというまことに器用、どうだろうか。この場合は珍妙とでも言っておくとして、まぁそんな感じに陥っている。


「えーと、イャンクックの狩猟の契約金レートは確か五百zゼニーだったよな?」


 淡々とファスター確かに宣言した金額を受け取ったロゼリオは、確認の意味でこんな事を言う。


「あぁ。先程の通告通り今回のスタイルは狩猟、飛竜の生死は問わない。因みに今回お前達には今から現地に向かって貰う為、見届け人を着ける事が出来ない。依頼達成後はこれを使ってくれ知らせろ」


 そんな言葉と共にファスターは依頼主から自身の手に渡された物を確認する。そして物珍しそうにそれを空にかざし眺める。


「へぇー、竜人族のとっておきの竜笛か。でもさ、こんな大層な物を俺に預けていいのかい?」

「構わん。音が聞こえたら街輸送隊の奴等へ声を掛けそちらへ向かわせる。そう時間は掛かるまいよ。第一そんな物、竜人族以外の人間が使ったところでただの規模が大きい角笛だ。悪用なんて出来はしない」


 聞き終える前に踵を返し、早速愛刀が置かれている宿屋の方角へと歩き出したファスター。ここまで一切会話に入る事無く、既に本人が望んでもいないのに渦中の人間として巻き込まれていたティル。


依然どうしたらいいのかしどろもどろとしていた彼女に男性の声が掛かる。


「体裁を主にする立場として言えば、俺はホークアイが殺してやりたい程に嫌いだ。しかし一個人、ロゼリオ・スティングスは割とファスターは見所のある男だと好感を持っている。だが俺の可愛い妹がその両者、どちらにせよあいつと恋仲に発展するのは望ましくないな」


 最後に「三つ目の意見は保護者としてだ」と付け加えると、ティルの肩を掴みグイッ、と彼女の体の向きを変えさせた。そうしてロゼリオの可愛い妹の目に入ってきたのは、少し離れた位置からこちらへと大手を振って呼び掛ける男の姿。その男から「早く行くぞ」。そんな声が聞こえたティルはそのまま駆け出した。二、三歩進んだ辺りだろうか、一度その場で止まり振り返ったティル。彼女は満面の笑みで言うのだ。


「行って来ます」、と。



  ◆     ◆     ◆     ◆



 さて、正直後一息で冒頭に話が繋がるのだが、語り手をさせて頂いている私の立場としては如何せん未だ皆様方がこの世界を理解していないだろうと勝手に推測させて貰ってるのだ。したがって途中でちらほらと出ていたが結局説明出来ず終いになっているものや、言葉足らずだと思わしき部分等を主として、拙いながらも紳士淑女の諸氏に今一度こうして伝える場を設けさせて貰った次第と相成った。申し訳ないがまた少しの間、世界の仕組みをお聞き願いたい。

 因みに私はそうだな。《なにやらそこに居る存在》。そんな認知でもしてくれたらありがたい。別段私自身には身の上話等存在しない上に、そもそもそんな事を、行き当たりばったりで語った所でこの世の誰一人として得をする筈も無いのでさっさと本題に入ろうか。


 少し前に話したと思うがこの世界は人と竜、この二つの勢力がせめぎ合って存在している。とは言っても竜の方から集落を襲うといった行動はあまり起こらず、人には一応の保安が維持されている。かと言って竜が人畜無害である事など全くある筈もなく、彼等は各々の生態系等から時としてこちら(人)に牙を剥く場合も当然ある。縄張りの拡大、己の欲求、突然変異、理由は様々だが確かな事例として存在している。

 そこで登場するのがハンターズギルド。大長老を筆頭として、ギルドナイトや長老の側近達、衛兵、そして多くの狩人達で構成される。

一般人、広くはギルドに属さない依頼人。その全てを守護するのを生業とする世界一大きい組織だ。世界中の人間、その十分の一は狩人であるといっても過言では無いほどに狩人の需要は高い。

 ハンターズギルド、その本拠はドンドルマに在り、当然そこには大長老が佇まう大老殿の存在も然りである。そしてギルドの営業所は各地に存在し、その施設として機能しているのが各々の村に置かれている酒場を指している。酒場自体は昼間は方々から寄せられた依頼を狩人に紹介し、夜は地域の憩いの場として場所を提供している。無論、夜にこなして欲しいと頼まれる依頼も中にはあるので、実際にはほぼ一日の全ては狩人の窓口としてそれを果たしている。

 で、酒場でのやり取り語っていたときだろうか、私がウェイトレスだのメイドだの話していたのを覚えているだろうか?

正直この二つは同じ者として定義してもらっても構わない。これは周知の事実といってもいいほどの事だが。全身緑色を基調としたふわふわした服装にその身を包む彼女等は、ギルドの営業所、そこでの受付業務等に徹している時に狩人達からメイドと呼ばれている。別に給仕として働いているわけでは無いので勘違いしないように。

 そして夜の酒場。もうお解かりだろうか。そう。その時はウェイトレスとして呼ばれている。誰が呼び始めたのかは定かでは無いが呼び名の歴史を辿れば随分と昔からそう呼ばれていたようで、もうそれはそうなんだという認識の元、現在に至っている。そしてその呼び名はいつしか混合してしまい明確な境界線が引かれず、昨今に至ってはメイド、ウェイトレス、その両方を持ってして彼女たちの事を指すに落ち着いている。

 ついでにいえばこの酒場で働く者、その全ては女性で構成されている。大長老の趣味なのか、はたまた偶然が生んだ産物か、何にせよ世界中何処を見ても酒場で働く人間は全て女性である。こればっかりは、もうそういうもんなんだ。といった解釈をして貰わざるを得ないのだ。


 話しが長いといった苦情は残念ながら受け付けられない。聞いて貰わないと私だって、今後何か大切な事を思い出した時を除いては、逐一説明するのも大変なのだ。ご容赦願いたい。


 次は飛竜について少し注釈を加えようか。

 彼等は一応動物であるとされる。まぁ食事もすれば用だって足すだろう。当然交尾だってする。飛竜は突然その場にポンっと現れるような非現実的な存在ではない。確実に生き物の類である。

 しかしその飛竜、その内情は書いて字の如しとはいかないようで、如何せん数も種類も多い。とりあえず飛竜の細かなラインナップを紹介していきたい。

 まずは鳥竜種と呼ばれる飛竜について。

 彼等の大きな特徴としては二足歩行である事が挙げられる。とは言っても人のような生ものを想像されては困る。ふむ、今貴女がたと私が語るこの世界で共通し、かつもっとも近い容姿を持つ者と言えば、そうだな。恐竜なんてどうだろうか?厳密に言えば飛竜そのものはそちらの恐竜とは祖先も違えば、生物学的な名目だって全く違えている。オブラートに包んだ際、一番近い存在とは何だろうと私の独断と偏見を持ってして至った答えが恐竜なだけである。

話を戻そう。

 この鳥竜種に分類されるモンスター達は人の大きさと差ほど変わらずな体躯を持ち、また、広い地域でその生態系を維持しているグループの一つである。先程名前が挙がったイャンクックもここに分類されるのだが、如何せん彼は人の五、六倍はあろうかという身体を持っている為に体躯のそれは一概にはそうとは言い切れない。

 現物を示せれば幸いなのだがどうやら私にはそのような手立ては無い様なので、その容姿は私の不備極まる説明を許に貴方がたの脳内でイメージして貰うほか無い。二度目だがご容赦願う。

 唐突だが次だ。

 魚竜種。

 字体から推察されるに水の中の生き物かと考える人もいるのでは無いだろうか。正しくその通りである。ただこの魚竜種に含まれる生物には、砂漠等といった砂地の地中に生活圏をもつ存在もある。こちらの共通事項は泳ぐという移動手段を持ち、二足歩行である。更に飛竜の翼に当たる部分がヒレとなっている事くらいだろうか。ただ、近年発見された飛竜の中には海に生息する者も明らかとなり、海に住む飛竜の類に限っては海竜種とされ、これの枠内からは逸脱する。

 草食種。

 一般的にこちらが手を出さない限りは人に害を為すことは無いとされている。更に人々からは食用とされる生き物が多く含まれ、それらを依頼する人達も少なくは無い。狩人等にあってもこの草食種を敵視する事はほぼ無いと言える。

 甲虫種。

 字面から覗うに諸兄等はなんのそのとお考えだろうが、実は少し違う。

名前こそ甲虫とあるが、その大きさは人の大きさをやや上回る存在となり、彼等の中には毒、麻痺といった直接的被害をもたらす存在も確認されている。しかしその存在自体を駆逐する依頼は余り無く、さし当たって狩人からすると中型以上の飛竜を狩猟する際のお邪魔虫といった所か。

 牙獣種。

 どうだろう。大きな猿のような生き物とでも言えば通じるのだろうか。いやいや、勿論それは基調となる風体なだけであって決してそれでは無いのだが、ニュアンスという言葉の元で言えばあながち遠くは無いだろう。

 彼等の中には鋭く尖った大きな牙を持つ者、群れを為して行動する者。後者から覗えるに割と知能が高い生命体であるとされている。

 甲殻種。

 猿とくればそちらの世界は蟹なのだろうか。いや失礼。

彼等の共通する特徴はその両手に携えたまこと大きな鋏だろう。叩き潰したり、ねじり切ったりとその用途は多種多様である。現存する甲殻種には大きく分けて三体の生物がいて、名をそれぞれダイミョウザザミ、ショウグンギザミ、アクラ・ヴァシムとされる。この三者のうち前二つの生き物には小型のものが存在し、それぞれの冠名をとってザザミ、ギザミ等と呼ばれる。

 そして満を持しての紹介となる。別に待っていない等の言葉は私を深く傷つけるため控えて貰いたい。

 飛竜種。

 飛竜の中でもその生態系は上位に位置づけられており、主に捕食をする側とされる。

飛竜種の固体は数内ある種族の中でも特に多種多様の進化を辿っており、一概にこれと言える特長が少ない。例を挙げるならば俗に火竜と呼ばれるリオレウス。そしてその雌にあたるリオレイアで話しをしよう。彼等は主に夫婦の体裁をとり、雌火竜が外敵から巣を守っている間、雄は子に与える餌を得るために外で得物を狩る。その両者ともにおおきな体躯に引けをとらない巨大な両翼をもち、空を雄大に飛び回っている。あまつさえ口からは火球を放ったりと並みの狩人では到底太刀打ちできない戦闘力を兼ね揃えている。

 

 どうだったろうか?実にだらだらと飛竜について話して来たが驚く事なかれ、私が諸兄等の気持ちを汲みここらで一先ず打ち切った種族の紹介、実はまだまだあるのだ。名前だけを淡々と述べるなら獣人種、獣竜種、そして未だ考古学者達によって論議が交わされている古龍種等、現在でも彼等の種類は毎日着実に増えているのでは無いだろうか。じゃぁ結局飛竜との戦いは彼等の勝利で決着してしまうのでは?

 そうさせない為のハンターズギルドである。

狩人の人口が高いのもこれで頷ける筈だろう。


 して、そのギルドがいか様なシステムで動いているのかを少し詳しく話してみよう。

先ずギルドの序列として上から、頂点に大長老、ギルドナイト、それと同列に位置する大長老の側近、その下に各所を守る衛兵、狩人となる。

 彼の存在は最早語らずともいいのでは無いだろうか。重大な変化が世界に見られない限りは大老殿にてその身を潜め、まず一般の界隈で生活する者にはお目に掛かる事は無い。

 その大長老の手足となって動いているのが総勢11名のギルドナイト達である。実質彼等が大長老の考えを実行に移す為、人々からの認知度は計り知れず、また、その実力は個々で大型の飛竜を狩れる程の力を備え、まさに智勇兼備。して、流麗な仕事振りから尊敬や憧れの眼差しを一身に受けているのは間違い無いだろう。そうそう、因みにロゼリオも《元》ギルドナイトである。

 そして側近なる存在がギルドの頭脳担当とでも言っておこうか。各地から寄せられる依頼の統括を一手に担う彼等であるが、いかんせんギルドナイトと違い、技の才に恵まれておらず、実際ギルドナイトになれなかった存在と言ってもおかしくはない人も中には多い。かといってその思考能力が突筆すべき事は明らかで、つまる所ギルドに無くてはならない人材なのだ。

 そういった人たちからの庶務を請け負うのが狩人である。

 とは言うものの、狩人達がギルドの認可でその仕事を行うのは当然であるのだが、彼等は先述した者と違い各々が様々な目的の元でそれらを生業としている者が非常に多い。

理由を覗うに、数多の飛竜を狩り一流の狩人を目指す者。力無き者を守るべく狩りを行う者。自分をひたすらに高めるべく狩人になっている者。大長老に忠誠を誓いいずれはギルドナイトにと思う者。危険に身を置くことで自身が興奮する者。聞けば狩人の数だけ理由はあり、お判りの頂けたかと思うが誰しも大長老と志同じくしている訳ではない。

 まぁそこら辺の事情は大長老を含めた周囲の人も折り込み済みらしく、利害の一致からさして何かを強要するつもりも無いらしいが。まぁギルドの傭兵みたいなものだろう。

 因みに衛兵は、町の警戒や警備、有事の際には大長老の命に従いそれの沈静化にあたる存在で、狩人の概念とは大きく逸れるだろう。

 

 はてさて、皆様方の脳髄に刻み込まれる事までは望んでおりませんが、多少なりとも雑聴のしまりは良い方向へ運ばれたでしょうか?恐らく皆様が疑問に思う事柄が発見される度に私のこういった説明が逐一挟まれるかと。

 どうかその時までは今しばらくこれらの情報のみで我慢下されば幸いと存じます。

 ではでは物語を再開させましょうか。

どうにもこうにも考えていたプロットの内容にいくつか書き足していたら結局三話構成になっちまいました。

文面だけ見ると淡々としていますが、心底申し訳ない気持ちになっているので勘弁して下さい!!


そんな訳でいよいよ狩りです。

桜飛竜との戦いです!

MHFではリオハートR作る為に天地担いで半日費やしてマラソンしたのも今ではいい思い出です。

補足までに、こないだMHFを引退しました。

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