転生悪役令嬢が婚約破棄された結果、(転生)ヒロインエンドになりました。
短編を書いてみようと思いましたが思ったより長くなってしまいました…!
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
3/16少し修正。
男爵以上の位を持つ貴族、または成績優秀者の庶民が通うエスカレーター式の学園。
年に1回のダンスパーティ。
王族主催とあって、クライマックスには国王自らが労いの言葉がかけられ、全校生徒が身分や家柄を気にすることなく楽しめるという無礼講の場だ。
そんな場には相応しくない緊張した、ピリピリした空気感がある。
全校生徒は左右に分かれ、その中心部にいるのが第一王子。
そんな第一王子は見下すかのように睨みつけている。その彼が肩を抱いているのは庶民の少女。
そして、第一王子に睨みつけられている、私。
何回も見たこの光景。知ってる光景。
ラノベ好きなら、異世界転生ものが好きなら、誰でも察するこの状況。
「――ユリアリィーゼ・ローゼマリー・エッケハルディン!!
俺はお前との婚約を破棄することを、今ここに宣言するっ!!!」
婚約破棄イベントですね、分かります。
どうしてそんなことが分かるかというと。どうしてこんなことを思うかというとですね。
何を隠そう前世の記憶があるからだ。
私、市川沙耶はごく普通の高校生で、ゲームやラノベが好きな16歳だった。
信号が青になって渡ろうとした直後に居眠り運転のトラックに衝突して死に、ラノベでよくある、乙女ゲームの悪役令嬢に転生したというわけだ。
「夢の王国と瑠璃色の聖女」という乙女ゲーム。
プレイヤーは瑠璃色の瞳を持つヒロイン:カノンとなって、ハイスペックなイケメンと恋をしつつ聖女として世界を救うという王道ストーリーだ。
そんなヒロインの邪魔をするのが、悪役令嬢。
絶世の美女で金髪ドリルのザ・テンプレ悪役令嬢が、私―――
ユリアリィーゼ・ローゼマリー・エッケハルディン。
国王の妹の娘であり、大貴族で王家に縁がある一族、エッケハルディン家公爵の一人娘にして、第一王子の婚約者。色んな意味でのスーパーハイスペックを極めていて、将来は王妃を約束されている。
でも、悪役令嬢の末路は乙女ゲームあるあるの破滅フラグまっしぐら。
悪役令嬢らしく性格は天地をひっくり返ってもあり得ないぐらいの最悪な故に、王族や攻略対象キャラクターの怒りを買うことはしょっちゅう。
そしてラストはある時は断罪されある時は処刑されある時は牢屋で衰弱死ある時は…とまあこんな感じの末路になるのだ。
それを5歳の頃に高熱を出して寝込んだ時に、思い出した。
そんなの嫌じゃん!!いくら悪役令嬢つったってそんな末路受け入れられるわけないでしょうが!!
というわけで、私は破滅フラグ回避のために奮闘していた。
まず邪魔な金髪ドリルヘアーをバッサリ切ってセミロングにして(使用人たちにめちゃくちゃ驚かれて両親は白目向いてた)前世の記憶を思い出す前は我儘放題極悪非道を絵に描いた魔女のような性格であったため、好感度マイナスな使用人と身内の信頼信用を回復させて(地味にここが一番大変だった)
学園でも浅く広く人間関係を築く。
入学時に見つけた瑠璃色の瞳を持つヒロインに関しては良い友人の付き合い。
破滅フラグ回避のためにはまずヒロインとの交流がめちゃくちゃ大事だからね!!
婚約破棄がスムーズにいくように国王様や王妃様とも交流をする。
王の信頼を得ていないと婚約破棄どころじゃないからね!これも大事なことだしね!!
第一王子を始めとした攻略対象キャラクターは必要最低限以外は放置。私が関わらなければ良いだけの話なのでね。
多くの生徒が学園寮に入る中、私だけは実家から通う。学園から帰ると好きなことをして理想の引きこもりニート生活。
攻略対象キャラクターとは関りを持っていないのでイベントも起こらない(ヒロインの方は分からないけど)
さて、身内や使用人との仲良しで、ヒロインや学園のみんなとも交流をし、勉学に励み、公爵家として恥ずかしくないような振る舞いや作法、マナーも完璧。
周りは完璧に整えたので(私の今後の平穏な生活のために)
……もうそろそろ婚約破棄するために動きましょうか、という所に。
「俺はカノン・エーデルハイムと婚約することを皆のまえで宣言しよう!!!」
そのみんなの目が点になってますけど。
突然何がどうしてそうなったのですか教えてください誰か。
私、必要最低限以外はアナタと会ってないはずなんだけどなー。なんでかなー。
悪役令嬢としての強制力か?悪役令嬢=婚約破棄で始まるのかー?いまいちわからん。
まあでも、婚約破棄したい私にとっては王子自らしてくれたんだし、好都合だ。
「さらに貴様は我が愛するカノンを陥れた罪がある!!よって貴様は死刑だ!!」
肩を抱いた庶民の少女、もとい、ヒロインのカノンが顔をしかめる。
―――ん???
どゆことなんですかね…?言ってる意味がワカラナインデスガ???
どうしてそうなったんですか教えてほしいわ!!
「死刑ってどういうことなんですか!!ユリアリィーゼ様がそんなことをするはずがありません!!」
私の頼もしいお付きメイド、ソフィが声を荒げた。
ソフィの顔を見て鼻で笑う王子。
「ふん、あの女狐の下僕か。まあいい、今の俺は気分がいいからな。教えてやる。
この女はな!俺とカノンがぞっこんラブなのを嫉妬して様々な嫌がらせをしてきた!!目撃情報ならあるぞっ!!」
そう言って眼鏡をかけたインテリモブが出てきて、スラスラと読み上げた。
いや、まっったく覚えがないんですが。
よくもまあ、適当なでっち上げをしたものだ。
「エッケハルディン嬢は昨日、カノンさんを池から突き落としました」
「昨日はカノンさんと一切会ってないんですが」
「この間は教科書をズタズタに破って捨てておりました」
「この間は私、学園をお休みをしていていませんでしたわよ。ちょっと風邪を引いてて」
「先週の夜、我らが王子の部屋に泊まるカノンさんを呼び出して恐喝する始末!!」
「先週の夜は家でのんびりと寛いていましたわねぇ」
…………。
我が家の使用人たちはうんうんと力強く頷く。
さらに
「エッケハルディン様は私たち庶民にも気さくに話しかけてくださる方です!」
「エッケハルディン様は私たちに勉強を教えてくださる良い方なんですよ!!」
「そうだそうだ!!口先だけのポンコツアホ王子とは違うんだ!!」
「文句を言うなら1教科だけでもエッケハルディン様に勝ってみてからいうんだな!!ポンコツめ!!」
クラスメイトが口々に私を援護していた。
嬉しいけれど、ポンコツアホ王子ってちょ…!いかんいかん、心の中で常々思っていたことなんだけども、実際言う所を聞くと笑えて来るのはなぜ…w
にしても私とは比較にならないほど、第一王子はとんでもなく好かれていなかった。
そうだろうな…誠実で真面目な第二王子と違ってこの王子はヒロインにラブコールを送り、庶民はもちろん貴族も見下し、第一継承者であることを振りかざし、次期国王は俺だと叫び、金でなんでも解決するというとんでもなく最悪で下郎なアホだからだ。
そういえば何かと私を目の敵というかしていたような…そして、5歳で前世の記憶を思い出して勉強に精を出し始めてから何かと敵視がむき出しだった。
前世の記憶を思い出す前に何かしたのだろうか。…いや、ないな…?
それにこっちは知ったこっちゃないから完全スルーしてたし…気にもしなかったけど。
いつも子分を連れて歩いて教師陣に金や権力をかざしてやりたい放題だし、最下位なのに進級できるのも金で積まれた教師たちが根回ししたとかあまり良い噂を聞かないし。
「な…貴様ら…言わせておけば……っ!!」
「落ち着いてください王子。彼らは偉大なる存在である王子を分かってない愚民ども。王子が相手をする必要はないのです。彼らが何言っても無駄なのです。エッケハルディン嬢の死刑は決定事項なのですから」
「おおう、そうだった。俺としたことがつい…では、次のシナリオは…」
「このページですね。お読みください」
ちょっとまでインテリモブ。
ポンコツ王子と何こそこそしてると思ったら台本かよ。台本がないとポンコツ王子はだめなの!?うそだろ!?
ああ、なるほど。身に覚えのない数々の嫌がらせってあの台本に書いてあったことか。
王子も王子でなに言いなりになってんの。そもそもアンタの立場で死刑とかできるわけないじゃない。
いくら王族で第一王子と言ってもアホなのかバカなのか。
ああ、ポンコツなんだったね(遠い目)
「えーとここか、よし…。
貴様の死刑は元老院らがすでに決定したこと!元老院の決定はすなわち我が父、国王の決定でもある!」
何 言 っ て ん の ア ホ な の バ カ な の
元老院の皆様は、ぽかーんとしていた。
いくら国王お膝元の元老院でもそんな権限はないと思うんだが…。
「こっちに火種に飛んできた!?」
「はあ!?」
「何言ってんのあのアホは!?」
元老院の皆様は王子に対してブーイングしてるよ…。
王子はそんなもの右から左へと受け流し、平然と都合のいい解釈で台本に書いてある妄想を言い放つ。
「ほらみろ!悪女め!元老院の皆様のお言葉を!!貴様を罰したいと心から思っているぞ!!」
台本を片手にドヤ顔で言われても知らんがな。インテリモブはめっちゃニヤニヤしてるんだけど…おめーが言わせてんのか張本人!
「ふざんけんなあのアホ!!」
「あのアホに付き合い切れんわい…」
「ユリアリィーゼ様に迷惑をかけて何してるんじゃあのポンコツは…」
……元老院の皆様は頭を抱えて白目をむいていた。
完全に見捨てられてるけどよほどのことだぞ。
元老院の方々にまでポンコツ呼ばわりなあの王子っていったいなんなんだ。
みなさん、お疲れ様です…!いや、まじで、本当に。
「ハーハハハッ!!貴様はここで破滅する!!俺とカノンの邪魔をした報いだな!!そら、兵士ども!この女を連れていけ!!」
なんでやねん。
兵士の皆さんめっちゃおろおろしとるがな。
うーむ、ここに集まってる兵士さん、服装見る限り下っ端のみなさんだなあ…あ、あの人、仲良くしてる城の門番さんだ。
城の門番さんはあの王子に頭が痛くなったのか、ぐらりと壁に頭をぶつけた。遠い目をして。
「な…なんでだ!!どうしてその女を連れていかない!!俺とカノンの邪魔をした悪役だぞ!!さっさと牢屋に連れていけっ!!」
そりゃあそうだろうよ。
こちとりゃ何もしてないわけだし。
何もしていないのに、国王の姪である私を牢にぶち込むなんて頭がおかしすぎる。
兵士たちも分かっているんだろう、あの王子が言ったのが全てくだらない妄想なのだと。
動かない兵士たちにわなわなと震え怒りを露わにしている王子だったが。
突如、シィンとした空気。誰もが振り返る。
豪華な甲冑を着た近衛隊の方々とやってきたのは。
…アストロメルレ王国、国王夫妻。
つまり、王様と王妃様。
あのアホの、両親。私に当たれば伯父と伯母。
王妃様はにっこりと笑っていらっしゃるけども、あの顔はガチで怒ってるし、伯父様も顔が般若のようになっている。
私もあの顔の国王夫妻は初めて見た。
うわあ、背後に龍がいるかのようにめちゃくちゃ怒っていらっしゃる…。
この場所から立ち去りたいいいいい……。
一般生徒は国王夫婦のガチキレモードを察してめちゃくちゃ震えていたが、あのアホはそんなこと気づいてもいないようで、ニコニコと話しかける。
「ああ!父上!母上!ちょうどいい所に!いまあの女を処刑しようと牢屋へ入れる所だったのですが、兵士の役立たずどもが動かなくて…父上からも言ってやってくださいっ」
「一体どういうことだ」
「父上…?」
「何故婚約破棄という前代未聞のことを引き起こしたと聞いている!さらに罪をでっち上げユリアリィーゼを処刑などと!!」
「あの女は俺の愛おしいカノンに数々の嫌がらせをしてきたんですよ!次期国王である俺の愛おしい人を!!それなら処刑となるべきと考えたのです。あの女は王族の害でしかない!!」
だからやってないってーの。
ああああーーーーもう、ドヤ顔が腹が立つ…!!!国王の前じゃなかったら一発ぶん殴ってたわ。
「……もうよい、これで分かった。」
ため息をつき、眉毛がぴくってなった伯父様。けれどぐっと抑えて、改めて振り向く。
そして、言い放ったのは。
「牢屋に入れられるのはお前だアホ愚息めがっ!!」
「牢屋に入れられるのはアンタよ!!」
―――へ??
国王と同時に叫んだのは、ポンコツにずっと肩を抱かれていた庶民の少女。
庶民の少女、もとい、ヒロインのカノンは自分の肩に乗せられている王子の手をパシッと振り払い、さらに
「触るんじゃないわよ、最悪最低のクズ王子っ!!」
ギロリと、虫唾が走るような汚らわしい何かを見たような嫌悪してる顔で、王子を睨みつけた。瑠璃色の瞳の中には怒りが見える。
「黙って聞いてればユリアリィーゼ様の暴言悪口ありもしない妄想を吐き捨てて…っ!!人として幻滅したわ、このクズヤロウっ!!」
きっぱり、はっきりと、彼女は告げた。
しーーーんとなる光景。
愛しい人の突然のことに思考回路が追い付いていないポンコツに、あまりの突然の出来事にポロリと眼鏡が落ちるインテリモブ。
そして当の張本人であるカノンは私に一直線に駆け出した。
「ユリアリィーゼ様、大丈夫ですか?ああ、こんなにもやせ細って…あのクズに見せしめされて心身ともに弱っていらっしゃるのね…!」
「いや、大丈夫…」
それしかいえん。
唐突の展開過ぎてよくわからんのだが。
カノンは私の言葉にホッと一安心したのか可憐な笑顔を見せた。
ヒロインの笑顔、う、やっぱかわいい…。ユリアリィーゼも絶世の美女だけど、カノンはヒロインというべき愛され気質の美少女。
この笑顔のためなら何でもやれるような気がする。その気持ちが分かる…!!
「……カノン!!その女から離れるんだ!その女はお前を陥れた悪女だぞ!!」
我に返ったポンコツ王子がこっちに来て叫ぶ。
「こっちこそユリアリィーゼ様に二度と近づかないで!妄想癖激しいポンコツ王子!!!
アンタなんか愛しの麗しいユリアリィーゼ様の足元にも及ばないわ!!」
しっしっ!!
アホ王子を追い返すそぶりをして負けじと叫び返すカノン
……私を間に挟んで言い争い止めてくれるかな!?!?なんでこうなった!?!?
ぎゃあぎゃあと私を間に挟んで言い争いをしてる状況に伯父様はゴホンッと大きく咳払いをする。
そして、近衛騎士によってポンコツ王子とインテリモブは取り押さえられた。
「何をするんですか父上!!あの女は俺の愛おしいカノンを苛めた極悪非道の女なんですよ!?」
「ええいやかましい!!地面に押さえつけろっ」
「ハッ!!」
「何するんだ俺は次期国王だぞ離せぇえええええ~~~~~!!!」
ぐぇえええええ、と地面にこすりつけられるようにして取り押さえられるポンコツ。
「…ええと、その、カノン、さん…?」
「カノンとお呼びください。ユリアリィーゼ様っ!」
「…では、カノン。貴方…その…あのポンコツ王子と恋仲、だったのでは…?」
「いいえ!!ぜんっぜん違いますわ!!」
えええええ~~~~~~………
きっぱりと言い切ったよこのヒロイン。
「だ、だっていつも一緒じゃなかった…?」
「ああ、それはですね」
カノンが答える前に
「私が頼んだのだよ、ユリアリィーゼ」
「伯父様!?一体それはどうゆう…」
伯父様がケロッとそう答える。
カノンがいつもあのアホと一緒にいた理由は伯父様…国王陛下からの頼み事…?
ぜんっぜん話が見えないんだけどどゆことなの。
すると、伯父様は近衛騎士に合図を送る。
近衛騎士が一人の男性を連れてきた。
目の前にゴロンと転がったのは拘束されたインテリモブによく似た顔立ちの男性。
「父上!?」
「大臣!?」
アホ王子とインテリモブが同時に叫ぶ。こいつはこの城の大臣…つまりインテリモブの父。
大臣は悔しそうに顔を歪め、国王を睨みつけた。
「大臣よ、お前は息子と共に第一王子であるこの愚か者を唆し、傀儡王にしてこの国を手中に治める計画を立てていたようだが…。残念だったな。お前の企みはすべて阻止させてもらったぞ。」
「くっ…クソクソっ!!椅子に座っているだけの役立たずの国王めが…!!」
「そう思っていた時点でお前の負けだ。お前が高笑いをしている間に私は着々とお前たち大臣親子の粛清の準備をしていたんだ」
「私の偉大なる計画が…一体誰が邪魔をした!!貴様の右腕は洗脳し私の手下となったはずなのに…」
「そこにいる聖女カノン様だ。聖女様にはスパイとなって頂いたのでな。貴様のかけた洗脳魔法は早いうちに聖女によって解呪されたぞ。それであえて洗脳にかかったふりをしてもらい、私にすべて情報が流れるようにしたというわけだ。」
伯父様は嬉しそうに笑う。大臣はとても悔しそうだ。
伯父様はこう見えて策士だからなあ…見た目そんなふうには見えないけど、普段はめっちゃ気さくな方だけど。
というか椅子に座っているだけの国王とか酷くないか大臣。伯父様めっちゃ真面目に仕事してるよ。
ただ、大臣と伯父様は昔から意見が合わないというか犬猿の仲というかそんな感じだったなあ。
…ん?いやまて。
伯父様、なんていった…?
聖女にスパイになってもらった…?聖女…つまり、ヒロインのカノン。
大臣親子もアホ王子もぽかーんとヒロインを見つめている。
聖女の存在は極秘であり、それを知るものは国王夫婦のみ。
全員がそれを知るのはかなり終盤なので、庶民の少女が実は聖女様だったなんて、この場にいるクラスメイトも先生も全員ぽかーんとしていた。
「ふふ、ユリアリィーゼ様のためならこんなアホクズ生物と共にいるのも耐えられましたわ。でももうおしまいです!私はユリアリィーゼ様と共にあるのですから!!」
カノンはそう言って私に満面の笑みで答えた。
この子こんなキャラだったか…?ゲームの中のヒロインは良い子だけども…少なくともどのルートでもアホ王子のことを名前で呼ぶカノンなのに、なぜか嫌悪して名前すら呼ばずに嫌いなものを見る表情でアホ王子を見つける。
「…伯父様は大臣の企みを阻止するために、聖女様を利用したと…?」
「いやいや、これは聖女が望んだことでもある。ユリアリィーゼを守るため、あの愚か者の王子を何とかしてほしいとな」
「ええ、ユリアリィーゼ様。私と国王陛下と意見が一致し、我らでユリアリィーゼ様をお守りするために!私の方から近づき、根掘り葉掘り情報を聞き出し、国王陛下や王妃様に報告をしていたのです。
私がお願いするとアホはペラペラと話してくれるのでそれ自体は楽勝でしたけど…凛々しく美しく可憐で宝石のようなユリアリィーゼ様の婚約者というだけで反吐が出るというのに、ユリアリィーゼ様に私が苛められたなどとくだらない妄想を吐き捨てたときには耐えられませんでした…!!
ユリアリィーゼ様は庶民な私に優しくしてくれた聖女のようなお方なのに…!聖女という言葉はユリアリィーゼ様のためにあるようなものなのです!!」
「ユリアリィーゼは天使のように美しい。それに加えて器量の良くて頭のいい。天使のように美しい我が姪に、やはりポンコツアホは相応しくなかった…。
ユリアリィーゼを次期王妃にと考えていたんだが、そのためには第一継承権をもつアホ王子を婚約者にしなくてはならんかったんだ。あんなアホでも人としての良心はあると信じていたのだが、まさか大臣に唆されるとは…大方、王になれると誘惑されたのだろうが…」
「実際は傀儡の王でしょうしね…」
私を間に挟み、今度は伯父様とカノンが私を褒めまくり、アホ王子を二人して罵っていた。うええー…なんだこれぇ…。
唖然とする放置されたポンコツ王子。
私の良い所を言いまくって(こっちはかなり恥ずかしい)満足したのかカノンと伯父様はくるりとポンコツ王子と大臣親子の方へ振り向く。
「大臣親子には数々の犯罪履歴が出てきたからな。公開処刑が楽しみだなあはははっ!」
「そうですわね。アホ王子も王位継承権剥奪、辺境の地へ追放が決まってますものっ!」
とても楽しそうに笑う伯父様に大臣親子は何も言えなかった。カノンもスカッとした表情だった。
大臣親子はガックリと項垂れて、近衛騎士に連れていかれる。アホ王子も近衛騎士によって連れていかれる。
「なぜ俺が牢屋に入れられるんだ!!何もかも悪いのはあの女だというのに…!!カノン!お前は俺が好きなんだろう!?聖女のお前ならたった一言で俺は解放される!!俺を助けろっ!!」
最後の悪あがきとして聖女だと知ったカノンに必死に叫んだ。
往生際が悪いというかなんというか……
しかし、カノンはクスッと笑みを浮かばせて
「私、一度も貴方を好きだなんて言ってませんけど?」
「―――はえ?」
そして、カノンがにっこりと笑って言ったのは。
「私は生まれたときからずーーーーっと、隠しキャラのユリアリィーゼ様ルートに一直線だったんだから!!」
……え??今、なんつったこの子!?!?
隠しキャラ…って言った。うん、間違いなく…そう言った。
は?へ?隠しキャラ?私?は???
もしかしてカノンも、まさか……。
「…あの、ヒロイン、さん…??えと、貴方が目指すのはシンデレラハッピーストーリーでなくて、ですか??隠しキャラの…私…??え…?はい??」
「ええ、そうです!私はずっと、隠しキャラのユリアリィーゼ様EDを目指していましたのよ!!」
え??むしろなんで??
可笑しいとは思っていたけども。
普通こういうのって、転生ヒロインってハーレムルートでちやほやされたり推しのルートに行くために手段を選ばなくてすげぇやべぇ奴になるのでは。
だけども目の前のヒロインに至っては、もはや 私 し か 見 え て い な い。アホ王子など眼中にない。
いくらヒロインと言えどもあのアホと結婚するのは流石に嫌がったのか分からんけども…。
それでも、分かることは1つだけだ。
転生ヒロインが目指していたのは、悪役令嬢ルートだということが!
それから3日後、大臣親子は色んな罪が暴露され処刑された。
事もあろうか、長い間行方不明であった大臣の奥方…自分の夫と息子によって殺され、黒魔術の生贄にされたことが判明した。
古代の黒魔術に魅入られた親子は巨大な黒魔術を操る力を得るための生贄として、もっとも近しい存在として、自らの妻…母親をその手にかけるなんて。
身も心も邪悪に染まり、自分たちがこの国を支配するという計画を立てていたそうだ。
そのために囁いたらケロッと堕ちる第一継承者であるポンコツ王子を唆し、傀儡王として君臨させる計画だった。
アホ王子は最後まで騒いでいたがガン無視され、王位継承権を剥奪され、辺境の地へと身1つで飛ばされた。
「今頃、ムキムキの筋肉お兄さんらにたっぷりとしごかれている頃だろうな、はははっ」
と伯父様は笑っていらっしゃったけども。
伯父様も伯父様でアホ王子は頭痛の種だったらしく、これで更生されてくれれば使用人として城へ戻ってきてもいい、と考えていたようだけど。
……あの性格では更生するのに時間がかかるんじゃないかなあ。
で、突然の婚約破棄に、やたらと私を処刑したがっていたわけは。
私の亡き母であり、国王の実妹であるユーリ…本名ユリアージュを黒魔術で生き返らせるための生贄が欲しかったため。というとんでもないことが分かった。
私の実母は身体が弱く、私が物心つくかつかない頃に病気で亡くなった。
アホ王子は私の実母に異常なレベルでそれこそ狂気レベルで敬愛しており、彼女が死んだのは「私を産んだせい」だと思い込み、私が生まれたときから存在を憎み、長年恨んでいたそうだ。
ただ死者を生き返らせるためには生贄を要する。その生贄は生き返らせる対象と血の繋がりが強ければ強いほど成功するらしい。
しかも生まれたときから決められた婚約者だというのだから、ますますイライラが募っていたアホ王子はこの誘惑に即刻飛びついた。
敬愛していた叔母が生き返り、邪魔な私が死ぬのだから、これほど嬉しいことはなかったのだそう。
大臣親子は自分たちが裏で操る用に傀儡の王が欲しくてアホ王子を唆し、アホ王子の「ユリアージュを生き返らせる」という望みを叶えることで、信頼をよりしやすくする。
私は婚約者で、その上、国王の姪で人気も絶大にあるそうで。
そのまま命を奪えば、王族にも国民にも反感を買う恐れがある。
だからこそ『婚約破棄。しかも何かしらの罪で処刑させる』というシナリオを用意したという。
けれど国王の姪である私との婚約を破棄するには簡単なことではない。
私の方から婚約破棄するならともかく、周りがそう簡単に許しちゃくれないだろう。
そこで、金を積まれれば都合よく動いてくれそうな庶民に恋人を演じてもらい、私を『次期国王の恋人を苛めた罪』で処刑にかけようと計画を立てていた。
都合のいい庶民を探していた所、入学式でカノンを見かけた。
その際に、カノンにぞっこんラブしてしまったアホは、カノンに猛アタックしていた所、カノン自ら近づいてくれたのでもうこれは恋仲でゴールインするしかないと思い込んでいたそうな。
…そのカノンは国王自ら放ったスパイであるのだから何とも皮肉な話である。
私も私で婚約破棄しようと動いていたけれども、まさか急に婚約破棄、処刑にまで話が飛ぶなんて。
しかも国王の姪を独断で処刑しようというのだから、アホ王子は相当なアホでしかない。
「…あれがユーリに異常な…それこそ狂気レベルで敬愛していたのは知ってはいたが…。
実はユーリの葬儀の時、大臣とその息子と共におったのを見かけたのだが、てっきり悲しみにあけくれたのを励ましているのだと思っていたのでな…。
おそらくその時に唆されたのだろう。あそこで私が怪しんでいればこんなことにはなかったのかもしれぬ。本当にすまなかったな……ユリアリィーゼ、いや、ユーリィよ」
「本当にごめんなさい…!あの子は大臣の息子といつも一緒にいたから、私が見ていなくても大丈夫だろうって思っていたの…。私があの子のことをよく見ていればこんなことにはならなかったわ。
…今思えばユーリが亡くなって…あの時から、大臣親子によって歪められてあのような最悪最低な下郎に成り下がってしまったのね…。」
「いえいえ、全然ですよ。みなさん、頭を上げてください。終わり良ければ全て良しです!」
伯父様が頭を下げる。続けて王妃様も申し訳なさそうだった。王妃様は少なくともアホ王子に対して息子としての愛情も多少なりとあったのだろう、自分の不甲斐なさに悔しい思いだった。
近衛騎士の皆さんも頭の甲冑を外し、申し訳なさそうに頭を下げた。
いやいやいやこっちは全然大丈夫でしたよ!?いまだに全然話が付いていけてないけど。
私は母上のことはあまり覚えていない。
けれども私の名前は、母の愛称であったユーリにしたがっていて、父親や伯父様は混乱する!と反対したのだが母は頑なに譲らなかった。
なので、呼び方や響きがそっくりな「ユーリィ」という愛称で呼べるように「ユリアリィーゼ」という名前になったのだとか。
ユーリィちゃん、と愛おしそうに何回も呼んでいたと、父は微笑んでいた。
私もその愛称は気に入っているし、流石に使用人たちは人前では本名を呼ぶことをお許しくださいって言われたけども。
そんな優しい母上は、あのアホ王子のストッパーだったのか…母上は多分そんなつもりじゃなく、単純に甥として可愛がっていたんだろうけどね。
……母上が亡くなっていなければ、アホ王子は少しはマシになっていたのかもしれなかった。
そう思うとなんだかなあって思う。
…次の休みに、ユーリ母上のお墓参りに行って今起こったことを話しておこう。
そして、こちらのことは気にせずに見守ってくれると嬉しいです、って言おう。
「あ、そうそう。ユーリィ、実はね聖女カノンから提案があって、私と王と第二王子はもちろん、全員満場一致でなんだけどね」
「あ、はい?」
王妃様はニコニコ顔で言った。伯父様もみなさんもめっちゃ嬉しそうだけどあれ?え?まさか―――。
数年後…私は執務室にいた。
たくさんの紙の束や承認希望の書類、その他もろもろの資料に囲まれた。
コンコン
「はい、どうぞ」
声をかけると、美しい女性がティーセットをもって入ってくる。
「女王陛下、休憩に致しましょう。」
「……どうしてこうなったのか……」
ふわりと漂うオレンジティーの良い香りがして、私はため息をつく。
「如何なされましたか?女王陛下?」
「どうして私が女王になってるのか、よ…」
「それは貴方が一番相応しいからですよ、ユリアリィーゼ・ローゼマリー・エッケハルディン・アストロメルレ女王陛下」
「フルネームが長いわっ!!というか、カノンはこれでいいの!?聖女様が女王のお付きだなんて聞いたこともないけど!?!?」
「うふふ、それは私が望んだからです。
それに、これは隠しキャラであるユリアリィーゼENDですから♪私はとても幸せですっ!!!」
ぺかーーーーっ!!
数年経って聖女カノンの満面の笑顔に磨きがかかっている。
色々と言いたいことがあるけれど、その笑顔ですべて許してしまう自分がいるうううう……
―――そう。
あの時、王妃様が言った「聖女カノン」の提案。それは私を次期女王に指名する、ということであった。
第一継承者であったあの元アホ王子がいないのなら、次の次期国王は第二王子のはずだった。
だけども「いえ、僕は未熟ですから。それよりユーリィお姉様の元で学ばせていただきたいです!(瞳キラキラ)」と言われてしまっては…。
さらに、カノンと伯父様が手を組んだらとんでもなかった。
私が状況を把握しきれないうちにさっさと手続きを取ってしまって、私は王族入りとなってしまった。
父上は「ユーリィは陛下の姪なんだしどっちにしろ王族の血筋入ってるからねぇ」とのんきだし、お義母様は「可愛い私の娘が女王に…!心配だわ…護衛やボディガードを強化しなくてはね…」と真剣に考えだした。やめてくださいお義母さまー!これ以上護衛増やされたらたまったもんじゃないー!!
義妹は「あのアホ王子からお義姉様を守れなかった後悔…!お義姉様が女王になられるならば今度こそ私がお義姉様をお守りいたします!!」となぜか騎士を目指すことに。
やめてー!花のように可憐な義妹なんだからつよくならなくていいのー!って心の中で泣いたことか…。
お付きメイドのソフィ曰く「エッケハルディン家は全員ユーリィ様ガチ勢なので」だそう。ガチってなんだガチって…。
国王夫婦はというと、「ユーリィが女王かー!私たちは安心して隠居できるなー!」「そうね、あなた。ユーリィなら安心だわ♪」とさっさと王の座を私に継承し隠居してしまった。
そして、私が晴れて女王になり、そのお付きとなった聖女カノンは―――
なんと私と同じ転生者であることが分かった。
私と違って赤ん坊のころから前世の記憶があったカノンはこの世界が、やりつくした乙女ゲームの世界だと知り、一番好きだったED、隠しキャラEDを目指すと決めていたそうな。
隠しキャラ、つまり、私、悪役令嬢ユリアリィーゼだ。
そういえばこのゲーム、全EDを回収すると隠しキャラが解放されるということはちらっと聞いたことがあるけど、私はその前に交通事故に遭ったから知らなかった。
まさか、隠しキャラがヒロインを散々苛めてた悪役令嬢とは思わないし!!
カノンから聞いたけど、隠しキャラEDに行くにはアホ王子ルート前提で婚約破棄イベントで分岐するらしく、それもあってアホ王子に接近する必要があったらしい。けれどもアホ王子からラブコールを受け続けユリアリィーゼEDのために心身ともに耐えていたその時、伯父様からの依頼が舞い込んできたので、それならば!と、ユリアリィーゼを守るために嬉々として引き受けたそうだ。
ちなみにゲームのユリアリィーゼEDのラストは、姉妹の契りを結び、大親友となったカノンとユリアリィーゼが共に国を繁栄に導くという、別名百合エンドというものらしい。
私だって乙女ゲームの女友達とヒロインとの、きゃっきゃうふふは微笑ましくて好きだけども!!!
「でも本当にこれでよかったの!?これでいいの!?カノンは未練がないの!?愛されヒロインなんだからもっとこう、ハーレムエンドでイケメンたちに囲まれて、ちやほやとかいう!!」
「ええ。まっったくありませんわっ!私は幸せですっ!!ああ、夢にまで見たユリアリィーゼED…これほど嬉しいことはありません…!!」
「顔怖いから、近いからっ」
「あんっ」
まあでも、破滅フラグよりかは、断然ましなのかもしれないけど。
それに、ヒロインのことは嫌いじゃないし、こうやって仲良くなれるのは嬉しいけどね。
「そういえば前世の名前って何?」
「前世の名前、ですか?」
「みんながいるときは無理だけど、二人だけの時はそっちがいいかなーって。というか本音としては女王陛下って言うのやめてほしいな。」
「女王陛下は女王陛下ですし」
「じゃあ私も聖女様って呼ぶ。」
「そそそそそ、滅相もありません!!私なんぞ呼び捨てで十分です…!」
「じゃあユーリィで」
「それも駄目です!!憧れのユリアリィーゼ様を愛称で呼ぶなど恐れ多い…!」
「…だから、前世の名前ならいい?…ってこと!私の前世の名前は、市川沙耶。貴方は?」
「……藤宮、花音です」
「…………そうなの?!?」
悪役令嬢に転生した私の末路は、ヒロインとのエンドでした。
転生ヒロインの前世は女の子が大好きな女子大生。女の子同士がきゃっきゃうふふするのが好きなので、女の子同士のENDがあるゲームは買って周回プレイしまくってる。
アホ王子は一応アルスレッドという名前があるが、みんなアホ王子とかポンコツ呼ばわり。
真の悪役は大臣親子。アホ王子は敬愛していた人が亡くなり、少しずつ狂っている所に大臣親子に止めをさされた感じ。
ユリアリィーゼはもはや、ツッコミ係