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92.ウォルフ・レッドロライン2

「アホ! 俺をあんまり買いかぶるな」


ウォルフはそういって苦笑を浮かべた。


「俺はウォルフ・フォン・アルフォードでいいんだよ。

 ただひとつ、お前が俺の隣にいてくれさえすれば」


そう言葉を紡ぐウォルフが複雑な表情をする。

そして口調を変えて、真剣な眼差しをユウラに向けた。


「それとも、他でもないお前がそれを望むのか?」


ウォルフの問にユウラは小さく首を横に振った。


「いいえ。

 私はあなたがあなたらしくあることを望むだけ」


ユウラが静かにウォルフを見据えた。

ウォルフはその視線を受けて僅かに目を細めた。


「そうか、お前がそう言うのなら俺は揺るがない。

 この身分を偽ろうが、この心を殺そうが、

 俺はお前を守るまでだ」


ウォルフの言葉にユウラは口を噤んだ。


ウォルフの意思の如何にかかわらず、

恐らくそれは叶うまいと、ユウラは思う。


ウォルフは生まれながらの帝王だ。


その英知、カリスマ性、統率力、どれにおいても、

比類なき輝きを放つ。


そして何よりも結果を叩き出し続けてきた。

皇女という偽りの身分のハンデをものともせずに。


ウォルフの父であるレッドロライン王も、

重臣たちもきっとウォルフを離すまい。


そして何よりもこの国の民は、きっとそれを望んでいる。

国を安寧へと導く、この英雄を。


「その存在を偽ることも、心を殺すことも、

 それはきっとできないわ、ウォルフ。

 だってみんなもうすでに知っているんですもの。

 あなたが万民を照らし、導く光であることを」


ユウラが、真っすぐにウォルフを見つめた。


「虚像だ。そんなもん」


ウォルフが吐き捨てるように言った。


「勝手に俺のイメージをデフォルメするなっつうの!

 俺はそんな御大層なもんじゃない。

 聖人君子でもなければ、神でもないし、

 ただの人間だ」


ウォルフはユウラをその胸に抱きしめて、苦し気に呟いた。


ユウラはそんなウォルフの背中を優しく撫でてやる。

その背に背負うものの重圧に思いを馳せながら。


「ついでに言うなら、お前を愛しているただの男だ。

 それじゃダメか?」


少し拗ねたようにそういったウォルフに、

ユウラがくすくすと笑いを忍ばせる。


「ダメじゃないよ。

 二人きりのときは……ね」


ユウラはそんなウォルフの頬を掌で包み込んだ。


「ほおぅ……じゃあ、キスすんぞ?」


そういってウォルフは挑発するようにユウラを見つめた。


「お好きにどうぞ」


ユウラもそんなウォルフに、にっこりと笑って見せる。


「ちぇっ、つまらん。いつの間にか成長しやがって。

 ちょっと前までは、キスひとつでおたおたしていたくせに」


ウォルフがそういって鼻の頭に皺を寄せた。


「あら、それは一体誰のせいかしら?」


そういってユウラがとぼけて見せる。


「それは……俺だな」


ウォルフが満足気に笑みを浮かべた。


「でも俺は今もお前を前にして、

 すっげぇドキドキしてんだぜ?」


そういってウォルフはユウラの手を自身の胸に当てさせた。

その温もりと鼓動を感じて、ユウラが赤面した。


「俺に触れて。ユウラ」


黄昏の陽光が窓から差し込んで、二人を金色に染めていく。


◇◇◇


戦艦『Black Princess』の改修と、レッドロライン王への謁見のために、

ウォルフはレッドロラインを発った。

その帰還は3日後だ。


一方ユウラは、王宮のオリビアの館にて、

女官たちに追い回されている。


通称、チームオリビアだ。

普段は主にオリビアの身の回りの世話を請け負う女官たちである。


「ユウラ様、お待ちください」


脚力には自信のあるユウラだが、逃げきれずに

じりじりと壁際に追い詰められる。


「も……もう本当に結構です」


青い顔をして断りをいれるが、女官たちは許してくれない。


「全然結構じゃないですよ、ユウラ様。

 オリビア様のご命令なのですから、

 従って頂かなくては困ります」


そういって女官たちは、ユウラに詰め寄る。


「ですが武骨な私にそのようなドレスは……」


一応の抵抗を試みるものの、

ユウラの軍服は女官たちによってはぎ取られ、

オリビアが選んだというドレスを着せられた。


「何が武骨なものですか。

 大変お美しゅうございますよ、ユウラ様」


女官が満足気にユウラを見つめた。


なるほど、淡いピンクのAラインドレスは、

ユウラの美しさを上品に引き立てている。


オリビアのセンスにユウラは唸る。

  

「ユウラ様は他国の姫君よりも、レッドロラインの王族の方よりも、

 よっぽどお美しくておられます。

 騎士服に身を包んでおられることの方が、勿体のうございます」


古参の女官であるスノーリア・ハイアットが言った。


スノーリアはもともとウォルフの実母である

シャルロット第一王妃に仕えていたが、

シャルロット亡きあとは、オリビア、

つまり姿を偽ったウォルフに献身的に仕えてきた。


王宮でのウォルフの正体を知る数少ない腹心の側近なのである。


「3日後にご帰還後、

 オリビア様……いえ、ウォルフ様は

 ユウラ様と契りを結ぶつもりでおられます。

 今は非公式とはいえ、この国の第一皇子としてのご身分を

 公にされる日は近こうございます。

 ユウラ様にはウォルフ様を公私ともに、

 お支え下さらなければなりません。

 そのためにはこういった演出も必要なのでございますよ」


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