76.山だ! キャンプだ! バーベキューがしたいのだ!
「山だ! キャンプだ! バーベキューがしたいのだ!」
トレーニングもそこそこに、ナターシャが拳を突き上げた。
「ちょ……ちょっとナターシャ!」
エマとダイアナが慌ててナターシャを宥めにかかる。
「無理を言ってレイランド教官の
貴重な時間を割いていただいているのよ?
そんな我儘を言ってはいけないわ」
ダイアナの言葉に、ナターシャは不服そうに唇を突き出した。
「だけどぉ、ちょっとくらいレイランド教官も
息抜きが必要だと思うの。
マシュマロを火で炙って食べるとかさ、
チョコレートファウンテンとかさ」
ナターシャの言葉に、ルークがピクリと反応する。
「マ……マシュマロの炙り焼きに、
チョコレートファウンテン……」
そんなルークにナターシャがもう一押しと言うがごとく、
たたみかける。
「そうだよぅ~、美味しいよぉ?
焼きリンゴや、焼き芋のアイス添えもいいよねぇ~。
しかもただの焼き芋じゃなくて、
最高級『紅はるか』糖度30%で作る焼き芋だよぉ?」
そう言って、ナターシャが懐からサツマイモを取り出した。
「ひぃ……ナターシャ……。
あなた一体どこからそんなもの……」
ダイアナが若干ひきつった表情をする。
「そ……そうだよねぇ。
僕も気分転換はとても大切だと思うよ?
だったら午後は麓のショッピングセンターに、
バーベキューの食材を買いに行こう」
「やったー!」
ルークの一声に、ナターシャが両手を上げる。
麓のショッピングセンターには、
ルークとエドガーそれぞれ二台の車で行くことになった。
ルークの車には、ユウラとダイアナ、そしてナターシャが乗車する。
そしてエドガーの車には、エマがその隣に乗車する。
「わたくしが……あなたの車で良かったのかしら?」
エマが少しためらいながらそう言うと、
「へ? 別にいいんじゃねぇの?」
エドガーが不思議そうに目を瞬かせた。
「それより車の室温これでいいか?
お前さっきクシャミしてただろ?」
そう言ってエマを気遣う。
「え? ええ、大丈夫よ。
ありがとう」
そういって、エマは視線をエドガーから外して、
車窓を眺めた。
「わ……わたくしが言いたいことは、この車に乗るのが、
ユウラさんじゃなくて良かったの? ってこと」
エマが口ごもる。
「ああ、あいつな……」
エドガーはバックミラーに目をやる。
「ルーク・レイランドの妹なんだってさ」
「え?」
エドガーの言葉に、エマが目を見開く。
「なんか色々事情があって、
今までその素性をアイツは知らずに育ったそうなんだ。
だから今日は兄妹が誰に気兼ねせずに会うことが出来る
貴重な時間なのだとよ。
くれぐれも邪魔をするなと、昨日電話で姉にきつく言われてな」
エドガーの眼差しは、ひどく優しい。
「エドガー様はオリビア様のことが、本当にお好きなのね」
そんなエドガーの横顔を、エマがチラリと盗み見る。
「まあな。誰よりも強くて、温かくて、
聡明な私の自慢の姉だ」
エドガーがひどく幸せそうに笑う。
「少しだけ、お前と似ている気がする」
いきなり投下されたエドガーの爆弾発言に、
エマが盛大に咽た。
「ああん? 大丈夫か?」
エドガーがハンドルを握る反対側の手で、
エマの背中をさすってやる。
「は……はあ?」
エマが赤面する顔を上げた。
「ふんっ! お前もやっぱり無自覚なんだな。
そういうところもやっぱり姉と似ている。
情に厚くて、誰よりも仲間想いで、
完璧人間を気取るくせに、どっか抜けてるんだ」
そういって、エドガーがクスクスと笑う。
「どっ……どっか抜けてるは余計でしょう!」
そう言って、エマが照れを隠すために、
エドガーの腕を叩くと、
その拍子にハンドル操作が少し乱れた。
「おわっ! ちょっ、おまっ、あぶねぇーだろ」
エドガーが青い顔をする。
◇◇◇
エマはスーパーの食品棚から、
バーベキューの食材を手際よく、
手にもっている買い物カゴの中に放り込んでいく。
「ふぅん、手慣れたもんだな。
まあいい、荷物くらいは持ってやる。よこせ!」
そう言ってエドガーが、エマが持っていた買い物かごを
奪い取った。
「エマちゃーん、これも、これも」
そう言って、ナターシャがエマのもとに持ってきた食材に、
エマが凍り付く。
「これ忘れちゃダメでしょ。
だって今夜はバーベキューなんだよ?」
それはピーマンの詰めあわされた、お徳用の大袋だった。
「す……少し、量が多いのではなくて?
ナターシャ、あっちの少量サイズの方が……」
エマが歯切れの悪い物言いをする。
「何言ってるのよぅ、エマちゃん。
今日は大人数なんだよ?
それにピーマンは栄養満点でとっても身体に良いんだからね」
ナターシャの言葉に、エマは若干顔を引きつらせる。
「そ……そうね、じゃあ、
エドガー様のカゴの中に入れて下さる?」
「うん!」
ナターシャは元気よく頷いて、エドガーの持つ買いカゴの中に、
ピーマンの大袋を放り込んだ。
「ま……まあ、緑色で艶々していて、とても美味しそうね……」
そう言って、若干涙目になってエマが微笑みを浮かべる。
(いっ……言えない。学級員であるこのわたくしが、
実はピーマンが苦手だなんて……)
「ふ~ん」
そんなエマを、エドガーが意味ありげな表情で見つめる。




