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75.太陽と月

ルークが愛剣、フラガッハを構えた。


「行くよ、ユウラ」


ユウラの剣が空を切ると、ルークがその剣の切っ先にきつい視線を向けた。

繰り出したルークの剣をユウラが受け止め、切り結ぶ。


剣と剣とが激しく切りつけ合い、火花が散る。


「ふぅん、調子でてきたんじゃないの?」


ルークが涼しい顔をしてそう言うと、ユウラの瞳孔が開く。


煌めく閃光に全身が粟立つ。


(気圧されるな、自分っ!)


ユウラは竦んでしまう自分を叱咤した。

剣を構え、床を蹴って攻めに転ずる。


「てやっあああ!」


掛け声とともに繰り出すユウラの剣を、ルークが受けとめる。

金属音が耳障りな音を立てて甲高く武道場に響く。


血潮が滾る。

滾る血潮とは裏腹に、ひどく冷静なもう一人の自分がルークの動きを追っている。


「さすがはレッドロラインの鬼神と畏れられるだけはありますね」


ユウラの息が上がる。

ルークから繰り出される剣の閃光を、ユウラが目で追う。


「見えてはいるんだよね」


ルークは攻撃の手を緩めはしない。

その切っ先を際どい所に突いてくる。


「ぐっ!」


ユウラが押されている。


(この人は、ウォルフに並ぶ人)


ユウラは唇を噛みしめた。


(その力を持った人)


その力量は圧倒的で、ひょっとすると自分には

生涯届かない領域なのかもしれない。


そんな絶望がユウラの心に満ちる。


幼い頃に母が亡くなって、

乳母から母上がお空の星になったと聞かされた。


その日から夜ごと私は空に手を伸ばして、

星を求めた。


だけどどんなに背伸びをしても、ジャンプをしても、

決して空に届くことはなかった。


(あの時の感覚と似ている)


ユウラの心に悲しみが過る。

そんなユウラの心の機微を、ルークは見逃さない。


すかさずその喉元に愛剣を突き付けた。


「これが戦場だったら、君は死んでいたね」


そういってルークが剣を収めた。

ユウラは悔し気に唇を噛みしめて、下を向いた。


その拍子にユウラの胸にかけられていた金のオーバル型のロケットが、

騎士服の上にこぼれた。


そのロケットを目敏く見つけたルークの瞳が、懐かしさに潤む。


「それ、肌身離さず持っていてくれるんだね」


ユウラがキョトンとした顔をする。


「これだよ」


そう言って、ルークが自身の胸にかけられていた金のロケットを取り出した。


「同じだわ」


ユウラが食い入るようにルークのロケットを見つめ、

自身の胸にかかるロケットと比べて見せた。


ルークがロケットを開くと、オルゴールの音色が懐かしい旋律を奏で、

写真に写る亡き母がやさしく微笑みかけている。


「もしかして、これを私にくれたのはあなただったの?」


ユウラがルークに視線を向けた。

ルークが優しい微笑みをユウラに向ける。


「母が死んで星になったと聞かされた君が、

 空に向かって手を伸ばして泣いているのを見て

 たまらなくなったんだ」


ルークの微笑みは哀しい、とユウラは思う。

月のように静かに闇を照らし、抱く。


「どうして知っているの?」


ユウラが目を瞬かせた。


「君は知らないだろうけど、僕は定期的に父に呼ばれて、

 エルドレッド家で過ごしていたんだよ」


そしてユウラは父に思いを馳せる。

本来は誰よりも家族思いで、子煩悩な父なのだ。

いくら養子に出したとはいえ、そのままにはしないだろう。

そういう時間を親子で持っていたとしても不思議じゃない。


「そうだったの」


ユウラは自分の知らない家族の時間があったことを知る。


「君に会うことは禁じられていたけど、遠くからずっと見ていたんだ。

 これが僕の妹なんだって」


ユウラの頬に涙が伝った。

母を求めて、空に伸ばした手は届かなかった。


だけど、その想いは巡り巡って、この人にちゃんと届いていたのだ。

母とよく似た面影の(この人)に。


ルークが涙を流すユウラを、無言のままにきつく抱きしめた。


そこに確かに温もりがある。


この人は手を伸ばしても届かない存在ではない。

こうして触れ合い、ちゃんとその温もりを感じることのできる存在なのだ。


今までずっと、ウォルフだけがユウラを照らす唯一の光であった。

それは太陽のように眩しくて、この身を焼き尽くすように激しい光。


しかしその裏で、ただ静かにこの身を身を包み、

照らす光があったのだ。


「このロケットを私の首にかけてくれたとき、ウォルフが言っていたわ。

 これはお前のことを本当に大切に思ってくれている人から預かった。

 だから決して失くすなと、ひと時も肌身離さずに持っていろと。

 今は会うことはできなくても、お前がそれを持っている限り、

 いつの日か、必ずお前はその人に会うことができるから、と」


ユウラはルークの胸の中で、言葉を紡いだ。


「そう……あいつがそういうふうに言ってくれたんだ」


ルークが少し目を細めた。


◇◇◇


「へぇ~、結構いい感じのところじゃん?」


車から降りたエドガーが、レイランド家の山荘を眺めて

そう言った。


深緑の木々の向こうに、

チェダーゴシック様式のレンガ色の屋根が見える。


「ほんと、素敵ね」


赤服の乙女たちも、うっとりと山荘を眺める。


執事に案内されたサロンからは、中庭が見渡せる。

今はちょうど睡蓮が見ごろを迎えており、

中央に配された池に咲き誇る色とりどりの睡蓮が、

幻想的な空間を演出している。


純白の花弁に透明の雫の玉を抱くものや、

鮮やかな紅色、また、ほんのりと白を染めるような薄紅。


そうかと思えばさわやかな檸檬を彷彿とさせる淡い黄色、

そして薄闇を連想させる紫。


エマ・ユリアスは暫しその景色に見入った。


「これがかの天才画家クロード・モネも描いたとされる睡蓮か。

 美しいものだな」


そう言って、いつの間にかエドガーが

その傍らに立った。


「そうね」


エマも相槌を打つ。

そしてその拍子に小さなクシャミを一つした。


「んだあ? 風邪か? お前。

 まあ、山間部は冷えるからな。

 取り敢えずこれを着ていろ」


エドガーは自身が着ていた、

薄手のジャケットをエマに着せかけて、


執事に室温の調整を言伝る。


そんなエドガーに、エマは意外そうに目を瞬かせた。

 

 



















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