表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/118

68.赤き薔薇の騎士団

「え~、ルーク教官って、甘い物好きなんですか?

 なんか意外です」


ナターシャ・ラヴィエスが好奇心にその瞳を輝かせた。


「そう? なんだか恥ずかしいな」


ナターシャに見つめられたルークが、何気に頬を赤面させた。


「そうですよぅ、レッドロラインの鬼神と畏れられる教官が、

 こんな美少年で、しかもスイーツ男子だなんて絶対誰も思いませんって」


ダイアナ・ウェスレーも目を白黒させている。

そんな友人たちをユウラが、微笑まし気に眺めている。


「でもぉ、なんかルーク教官、可愛いです」


そう言ってナターシャがにっこりと笑った。

刹那、ユウラは背後にそこはかとない殺気を感じ、その場に固まった。


「今夜の夜会は楽しんで頂けて? ご同輩」


エマが抜き身の剣を握りしめて背後に立っていた。


「ま……まあ、エマさん、まるで正義の女神のようよ」


ユウラが引きつった笑みを浮かべる。


「ありがとう、ユウラさん。それよりも何のお話?」


エマの瞳孔が開いている。


「ええ、レイランド教官がスイーツがお好きなのだと伺って」


ユウラはエマの迫力に押されて、その視線が泳ぐ。


「わたくし、学級委員として、

 レイランド教官に対する無礼は許しませんことよ?」


エマが抜き身の剣で、ナターシャの頬をぺちぺちと叩いた。


「ご……ごめんなさい」


ナターシャが涙目になる。


「まあまあ、ユリアスさん。それよりも、君が持っているその剣は、

 ひょっとしてエル・シッドの名剣かな?」


ルークがさり気なく話題を変えた。

ルークに名前を呼ばれて、エマが赤面する。


「まあ、お恥ずかしい。ティソーナ(炎の剣)です」


エマがミリタリーマニアのルークの気を引くために、

オークションで大枚を叩いたことは周知の事実だ。


「ところでユリアスさんはどうしてこの場所で、

 そんなものを持っているんだい?」


ルークが不思議そうにエマに問うた。


「ああ、これですか? わたくしは騎士を志す者。

 剣は騎士たるものの魂ですもの。

 というのは建前で、エドガー様との見合い話をぶち壊すために、

 果し合いを挑もうかと思っていたのですが、どうやら平和的に解決しそうなので、

 オークションで大枚を叩いたこの愛剣の出番も今夜はなさそうです」


エマが肩を竦めた。

その後ろで、エドガーが思いっきり顔を顰めた。


「は? 何、お前そんな物騒なこと考えてたのか?

 私はどこからどう見ても優男だろうが。

 絶対にそんな果たし合いは受けないぞ?」


エドガーの言葉に、級友たちが思わず噴き出した。


「ダッサ。ところでエドガー様は王太子という肩書以外に、

 誇れるものってないんですか?」


エマが腕を組んで、柳眉を顰めて見せた。


「美貌かな? この容姿と金と権力があれば、

 私は最強だろが」


エドガーに軽薄さと高慢さが戻った。

不快なはずのその軽口に、エマは何処か安堵を覚えた。


「キッモ! 実力が全く伴ってないじゃないですか」


エマはエドガーに容赦なく悪態を吐く。

しかしエドガーはどこかそれを面白がっているようだ。


「だから王太子という肩書に執着しているんだ。

 なにせ王太子として皆にチヤホヤされないと

 私は生きていけないからな」


エドガーの言葉に皆がまた笑う。


「ああやっぱり、今この場でエドガー様の腐りきった性根を、

 叩きのめして差し上げたい」


エマが悔し気に、剣を握りしめた。


「嫌なこった。私は正々堂々と権力を笠に着て、

 王太子権限を行使するぞ!

 そうだな、さしずめ、この場では私の代理として、ルーク貴様を立てるぞ?」


エドガーがにやりと人の悪い笑みを浮かべた。


いきなり話をふられたルークが、

食べかけの抹茶プリンを喉に詰まらせた。


「ふぐっ! え? 僕ですか? 別に構いませんけど。

 日々丹精込めて指導している愛弟子に、果し合いを挑まれるなんて、

 ちょっと憧れちゃうシチュエーションだな」


まんざらでもない様子でルークが頬を染めて応答すると、

エマがぎこちなくその動きを停止させた。


「レ……レレレレ……レイランド教官に個人授業をしてもらえるなんて……、

 そ、そんなわたくしっ……心の準備が」


エマが恋する乙女の眼差しでルークを見つめると同時に、

エドガーが悲鳴を上げる。


「痛い痛い痛い痛い痛い……抜き身の剣で私を突くな」


エドガーの瞳が恐怖で引きつる。


「う~ん、個人授業はまだ早いかな? 

 この場にいる赤服全員が一斉にかかってきたとして、

 ようやく授業になるかな、といったところかな」


ルークが思案を巡らせる。

ルークの言葉にエマが破顔し、

夢見るような眼差しを友人たちに向けて、胸で手を組んだ。


「ご同輩の皆さん、よろしくて?

 レイランド教官が特別に授業をしてくださるそうよ?

 すぐに用意をなさって?」


エマの言葉に、一同が凍り付く。


「え?」


しかしエマが異を唱えることを決して許してはくれないことを、

その場にいる全員が理解していた。


「わたくし、いつの日にか皆さまと私設自警団を結成しようと、

 密やかに皆さまのユニフォームを制作済ですの。

 こちらに着替えてくださいませ。

 赤薔薇をイメージした軍服ですの」


そして控室に連れていかれた、赤服のメンバーは、

エマが私的にデザインした軍服を手渡された。


「何気にサイズがぴったりなんですけど」


鏡に映るその姿に、誰もが口を噤んだ。


ルーク以下、赤服の乙女たちとエドガーは、

地下にあるユリアス家のトレーニングルームに案内された。


「なんか……私たち報われない地下アイドルみたい……」


ダイアナ・ウェスレーが鏡に映る自身の姿に哀愁を込めて呟いた。


「まあ、アイドルだなんて、心外だわ。

 そんな俗的なものと一緒にしないでいただけるかしら。

 わたくしたちはこの国を守るという崇高な志のもとに、

 神聖なる騎士を目指す者なのよ」


エマ・ユリアスがきっとダイアナを睨みつけた。


「ええ、この国を守る崇高なる騎士団、

 その先駆けとしてわたくしは、

 ご同輩の皆様とぜひ私設自警団を結成したいのよ」


エマが胸で手を組んでうっとりと夢見る眼差しを潤ませる。


しかしエマの話が熱を帯びれば帯びるほど、

乙女たちは遠くに視線を彷徨わせる。


「ユリアスさん、それは面白い発想だよね」


唯一その場でルークだけが、ノリのいいトークを展開する。


「やっぱりレイランド教官は分かってくださると思っていました。

 わたくしすでに名前も決めてありますの。

 赤服の乙女たちで結成する自警団ですから、

 『赤き薔薇の騎士団』というのはどうかしら?」


凍り付く乙女たちを置いてけ掘りにして、エマのトークは更に熱を帯びる。


「いいんじゃ、ないかな?

 戦場に咲く気高い赤薔薇。

 とてもいいネーミングだと思う」


エマに呼応するかのように、ルークもまたその口調に熱をこめる。

そして二人だけの世界を形成していく。


「団長はもちろん、ユウラさん、お願いね」


エマの言葉に、適当に意識を飛ばしていたユウラが正気に戻った。


「え? 私ですか?」


いきなり話を振られて、ユウラの表情が引きつる。


「ええ、そうよ。

 だってユウラさんが一番の実力者なのですもの。

 戦略、剣術、統率力、どれをとってもあなたの右に出る者はいないわ。

 アカデミーの入学試験でのユウラさんの実技に、わたくし心から心酔しておりますの。

 あのときに、わたくし是非この方と共に志を一つにして、戦ってみたいと、

 そう思ってしまったのですもの」


エマのアクアブルーの澄んだ瞳が、ユウラを真っすぐに映し出した。


(どうしよう……。すごく嬉しいかも)


ユウラの胸が知らず、高鳴る。


「女の人にこんな言い方は適切ではないのかもしれない。

 ですが、有体に言うとわたくし、あなたに惚れてしまったのですわ」


エマがにっこりとユウラに笑いかけた。


「あなたを団長に据えるその代償に、

 わたくしの命をあなたに賭けさせていただくわ。

 あなたの背中はわたくしが、きっちり守って差し上げる」


そう言ってエマが自身の剣に口付けた。


「エマさんたらずるいわ!

 ユウラさんとのお付き合いは私のほうが長いのよ?

 ユウラさんの後ろは私が守るんだからっ!」


エマの言葉にダイアナが頬を膨らませた。


「そんなぁ、私だってユウラさんに憧れて、

 アカデミーに入学したのに」


ナターシャ・ラヴィエスも唇を尖らせた。


「ああん? お前たち、何勝手なことを言っているんだ。

 赤毛の後ろはこの俺が守るんだろうが」


エドガーまでもが参戦してくる。


「じゃあ、これで決まりね。

 我らユウラ・エルドレッドの名のもとに集いて、

 此処に赤き薔薇の騎士団を結成する」


エマがそう言って自身の剣を掲げると、

乙女たちとエドガーがそこに自身の剣を重ねた。


「我ら一同、生まれたときは違えども、

 同じ時その瞬間に共に死することを願わん」


ルークがうっとりとその光景を眺めている。


「桃園の誓い……か。いいねぇ、若いねぇ」


ルークもまた愛剣を鞘から静かに引き抜いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ