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64.つかの間の再会

「ここは……どこ?」


ユウラは重い瞼をゆっくりと開いた。


「安心なさい、ユウラ。

 ここは王宮のわたくしの部屋よ」


ユウラの視界に絶世の美女が映り込む。

緩くカールされた栗色の髪が、軽やかに肩のあたりで揺れて、

知性を称えるエメラルドの瞳は、深い海を思わせる。


「おっオリビア皇女殿下!」


ユウラが条件反射で、身体を起こそうとするが、

がっちりとホールドされてしまう。


「急に動くな! シェバリエが攻撃を受けた際に、

 お前、結構強く頭を打っているんだからな」


そう言ってオリビアが軽くユウラを睨むと、

ユウラの眦に涙が盛り上がる。


「ウォルフ……あのね……、

ルーク教官がっ! 兄が……」


ユウラの脳裏にシェバリエのコクピットに、

自分を導いたルーク・ラウンドの姿が過る。


腹を剣で刺されて、夥しい血が流れていた。


ユウラが手の甲で顔を隠してすすり泣く。


「あのバカ……実の妹になんちゅうことさせてんだ。

 完璧にトラウマになってんじゃねぇか!」


そんなユウラにオリビアは頭を抱え込む。


「ウォルフ……?」


ユウラがキョトンとした表情をしてオリビアを見つめる。


「さっき連絡を取った。

 ルークは無事だ。

 戦艦『White Wing』の医務室には、

 高濃度酸素カプセルを積んでいるからな、

 大概の外傷なら、2時間程で完治するだろう」


オリビアの言葉に、ユウラが目を瞬かせた。


「兄は無事なのね……良かった」


そう言ってまた涙ぐむユウラに、

オリビアがやるせないため息を吐いた。


(ああ……良心が痛む)


『あのさあ、ウォルフ。

 僕今血まみれで動きがとれないんだよね。

 そういう状況なんだけどコロニーが、攻撃されてて、

 今ユウラが出撃したんだけど、ユウラ一機なんだよね。

 取り敢えず秒で帰ってきてくんない?』


そんなルークからの通話を受けたのが今から約二時間前だ。


青くなって事情を話すと、ミレニス公国の第四皇女が速攻で次元回廊を開いてくれて、

現在に至る。


(間に合って良かった。本当に良かった)


感慨深げにオリビアがユウラを抱きしめる。


「ウォルフ?」


ユウラが心配そうにオリビアを窺う。


「ん? これか? お前の充電中」


そう言ってオリビアがニヤリと笑ってユウラの肩口に頭をもたせ掛けると、

ユウラが分かりやすく赤面する。


「すっげぇ、お前に会いたかったんですけど?」


ユウラの耳元に低く囁く。


「馬鹿だよな。お前のことが死ぬほど大事で傍に置けないくせに、

 ほんの少し離れているだけで、

 お前に餓えて死にそうになってんだぜ? 俺」


オリビアの掌が、ユウラの髪を何度も撫でていく。


自分のことを傍に置けないというウォルフの想いと事情を、

今ならユウラは理解ができる。


それほどにウォルフが身を置く戦場は、過酷を極めている。


「私が強くなるよ、ウォルフ。

 あなたを守れるくらいに」


ユウラが、オリビアに微笑んだ。


「もう少しだけ待っていてよ。

 あなたに並ぶことのできる実力をつけるから。

 オリビア様の専属騎士として、

 そしてもちろんあなたの妻となるための花嫁修業もね」


ユウラがオリビアの頬を包み込むと、

オリビアがため息を吐いた。


「もうね……俺、

 お前のことが好きすぎてヤバイんですけど、ユウラさん……」


オリビアが両の掌で顔を覆った。


「知ってる」


ユウラが顔を覆ったオリビアの手を取ってにっこり笑う。


「お前は随分余裕だな。なんか悔しいんですけど」


オリビアの眼差しが半眼になる。


「ん? はっきり言って余裕はないよ? 

 だけどウォルフに好き好き言ってもらうのは嬉しいの」


ユウラが幸せそうに笑うと、

オリビアはその笑顔に見とれてしまった。


「俺はお前のその顔を見れただけで、

 なんか100年くらい生きれそうな気がする」


少し呆けたように呟いたオリビアに、


「何よそれ」


ユウラがぷっと噴き出した。


「俺はお前がいれば生きられる。

 どんなに過酷で凍えそうな世界であっても。

 だから、お前は俺より先に死ぬな。

 約束しろ! ユウラ」


ユウラを見つめるオリビアの顔から、

すっと笑みが消えた。


「俺はお前に何かあれば、とても生きてはいられない。

 そういう弱い男だ。女々しいと嗤うか?」


オリビアの問いに、ユウラは小さく首を横に振った。


「私も生も死もあなたと共にありたいと願うから」


ユウラの鳶色の瞳は、ひどく澄んでいる。

そこに迷いはない。


ドアをノックする音がすると、

オリビアはユウラをその腕から解放する。


「オリビア様、お時間です」


執事の言葉に、オリビアの表情が曇る。


「もう、そんな時間?」


その眼差しに切なさが過る。


「はい、次元回廊が消滅する前に、

 オリビア様にはL4宙域に戻られますように」


無機質な執事の声色に、オリビアは重い溜息を吐いた。


「行ってください。オリビア様」


そう言ってほほ笑むユウラに、オリビアが少し拗ねたように

唇を突き出した。


「ちぇっ! あっさりしてやがるな」


小声でユウラに囁き、執事に目配せすると、

執事が部屋を退出した。


それを見届けて、オリビアが再びユウラを抱きすくめる。


「ケガしてるのに、ついててやれなくてごめん。

 今夜は安静にして、何かあればすぐに

 病院に運ぶように手配してあるから」

 

オリビアが辛そうに言葉を紡ぐ。


「平気です。これくらい」


ユウラは強がって見せるが、


「俺は平気じゃない」


そう言ってオリビアがユウラに口づける。


「すぐに戻るから、そのときにはちゃんとケガを直して、

 とびきりの笑顔で俺を迎えてくれよな」


オリビアはユウラに背を向けて、

戦場へと戻る。










 







 





 





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