63.陽動
「我らはあくまで陽動に過ぎん。
レッドロライン内部への攻撃はできる限り
最小限にとどめよ!」
シェバリエ『まほろば』に搭乗する仮面の女騎士は、
通信機越しに、部下たちにそう命令を下すが、
「ふんっ! 陽動だろうがなんだろうが、
ここは俺たちにとっちゃ敵国だ。
どうなろうが知ったこっちゃねぇ」
男たちは仮面の女騎士をせせら笑う。
今回、レッドロラインのコロニーへの侵入に成功した
『暁の女神』と名乗るテロリスト集団のその実態は、
アーザス・リアンの連合から借り受けた傭兵部隊である。
「レッドロラインを甘く見るな!
腐っても銀河の覇者だ。
お前たちが思っているほど、軟な国ではないぞ」
一応忠告を兼ねて、仮面の女騎士が無機質な声色でそう言ってみるが、
男たちは耳を貸そうともせず、
シェバリエを駆って空へと飛び立ってしまった。
「やれやれ、私はちゃんと忠告したぞ?」
そう言って仮面の女騎士は、シェバリエ『まほろば』の中で
自身の部隊が消えた空に目をやった。
刹那、シェバリエの起動画面が、
自身の部隊の分布図に切り替わり、
忙しなくアラートを鳴らす。
「ん?」
仮面の女騎士がそれを注視する。
分布図には約30機ほどの自軍のシェバリエの位置情報が記されているが、
瞬く間に赤文字で『Lost』と表示されていく。
「ほぉ? 大したものじゃないか。
これはルーク・レイランドの機体か?」
送られてきた画像を拡大していき、
仮面の女騎士は眉根を寄せた。
「いや違う。ルーク・レイランドの
シェバリエ『エクレシア』ではない。
これは……新型か?」
そう言うが早いか、
仮面の女騎士がシェバリエ『まほろば』を駆って
空を翔ける。
濃紺の機体に三日月のエンブレムを煌めかせて。
◇◇◇
「ひぃっ! い……命だけはお助けを……」
主戦場となった、アカデミーのグランドには、
屠られた敵のシェバリエの残骸があちらこちらに散らばっている。
炎を上げて、ちりちりとくすぶっているものや、
手足をビームサーベルで切り落とされて、操作不能になったもの、
もうこの場所には、動かすことのできる敵の機体はない。
「許さ……ない」
そんな惨状の中で、シェバリエ『アルビレオ』が、
最後に残った敵機のコクピットに、ビーム・ライフルを突き付けた。
「やめておけ! 勝負はすでに決している」
仮面の女騎士が、
シェバリエ『アルビレオ』への通信回路を開き、
ユウラに話しかける。
「黙って下さい……あなたは……誰ですか?
いきなりやってきて、この国を……私の大切な人を……傷つけた。
私はあなたたちを……許さない」
ユウラが『アルビレオ』のビームサーベルを引き抜いて、
上空から舞い降りた仮面の女のシェバリエ『まほろば』に切りかかる。
通信機越にも、
ユウラが震えながら泣いているのが、
仮面の女にも伝わる。
「泣いているのか? お前……」
それは言葉を発した仮面の女騎士自身が驚くほどに、
優しさの滲んだ声色だった。
『まほろば』は左手に装備された盾で、
軽々とユウラのビームサーベルを受け止める。
切りかかるユウラと受け止める仮面の女騎士、
どちらも一歩も引かない。
ぎりぎりと音を立てて、そこに火花が散る。
「泣くな。私も悲しくなる」
通信機越に仮面の女騎士の声を聞いて、
ユウラの全身が怒りに粟立つ。
「ふざけるな!」
怒りに我を失ったユウラが、
滅茶苦茶に『まほろば』に切りかかると、
その一太刀が『まほろば』の脇腹の辺りを深く抉って、
機体の回線がショートしている。
その瞬間に『まほろば』のコクピットで、
仮面の女騎士が不敵な笑みを浮かべた。
「ほう……この私の機体に太刀傷を負わせるとは、なかなかやる。
それでは、私も少しだけ本気を出すとするか……」
言うが早いか、仮面の女騎士の『まほろば』が、
ユウラの『アルビレオ』を拳で殴りつけた。
全長20メートルの鉱物が、
地響きを立てて地面に倒れ伏す。
ユウラはその一撃により、
コクピットの中で意識を失った。
装甲の電源が落ち、機体が灰色に変わると、
今度は仮面の女騎士の『まほろば』が無情にビームライフルを、
ユウラの『アルビレオ』のコクピットに突き付ける。
その引き金に指をかけたところで、
もう一機の機体が現れ、『まほろば』の肩のあたりを掴んで、
強引に引き離した。
『まほろば』はグラウンドを抉り、
数十メートルの後退を余儀なくされる。
「ぐっ!」
仮面の女騎士はコクピットで、
歯を食いしばって耐える。
そして画面に映り込んだその機体に、
激しく舌打ちした。
「獅子に牡丹の紋章……。
シェバリエ『ラルクアンシェル』
ウォルフ・フォン・アルフォードの機体か」
仮面の女騎士は、味方の生存機を掴んで、
『まほろば』を後退させる。
そんな『まほろば』の足元に
『ラルクアンシェル』が頭部のバルカンを打ち込んで威嚇する。
「ちっ!」
仮面の女騎士は、更に『まほろば』を後退させ、
戦線を離脱した。
ウォルフの駆る『ラルクアンシェル』は、
敢えて『まほろば』を追いはしなかった。
敵機の撤退に、一応の危機を脱した後で、
ユウラの機体に直行する。
「なんだ、この出血はっ!」
ウォルフはユウラの手に、服にべったりとついている血に、
一瞬肝を冷やすが、ユウラのものでないことを確認し、
ほっと安堵の息を吐く。
「ユウラ! しっかりしろ」
ユウラを抱いて、コクピットを降りた。




