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42.天国と地獄

エドガーがその場を立ち去ると、

ウォルフのまわりを女性たちが取り囲む。


「まあ、ウォルフ様!

 無事のご帰還、

 心よりお喜び申し上げますわ」


皆一様に熱っぽい視線をウォルフに送る。


夜会におけるおなじみの光景だ。


そんな令嬢たちに、

ウォルフは卒なく対応している。


誰も傷つけないように、

誰をも敵に回さぬように。


それが宰相家の跡取りとしての、

筆頭貴族であるアルフォード家の

ウォルフの役割であることは理解している。


ユウラは寂し気な笑みを浮かべ、

飲み物を取りに行く振りをして、ウォルフに背を向けるが、


その手首をきつく握られる。


ユウラは小さくため息を吐いた。


(この人のこういうところがなぁ……)


これでは、振り払えない。


この手を握る力の強さに、

自分への想いが込められていることもまた、

理解はできる。


(ひょっとすると、この人を取り巻いているものは、

 私が思うよりももっと危ういのかもしれない)


ユウラはふとそんなことを思った。


でなければ、その振る舞いはあまりにも完璧過ぎた。


その代償として、どれほど心をすり減らしているのだろうかと

案ぜずにはおれない。


そして同時に、自身のことを震えながら庇う

オリビアのきつい眼差しを思い出した。


『お前は満足なのか? 

 そんな一方的に庇護されるだけの

 哀れな関係に』


先ほどエドガーが不意に放った一言が、

ユウラの心に突き刺さっている。


満足なわけがない。

それはウォルフに対しても、

オリビア様に対してもだ。


二人が危ういところに置かれているのなら、

尚更、守られるだけの存在ではなく、

大切な人を守る存在になりたいと、

ひりつくほどにそう思う。


「なあ、ユウラ。

 そんなドレスなんて脱ぎ捨ててしまえよ。

 そんで俺とずらかろうぜ」


ウォルフが不意に、耳元に囁いて、

いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

それでもウォルフは笑うのだ。

どれだけ傷ついても、なんでもない振りをして、

自分を背に庇い、余裕綽綽で笑って見せるのだ。


「ええ、いいわよ。

 あなたと一緒なら、天国でも地獄でも。

 その覚悟はできているわ」


そう言ってユウラも不敵に微笑んで見せる。


その鳶色の瞳が、

真っすぐにウォルフを映し出すと、


ウォルフの闇色の瞳に痛みが過った。


◇◇◇


ロッカールームにて、ユウラが目を瞬かせる。


「ちょ……ちょっと待って、ウォルフ。

 なんでロッカールームまで一緒についてくるの???」


ユウラが高速で目を瞬かせる。


ウォルフはユウラのロッカーの前で、

パイプ椅子を反対にしてまたいで座り、

その背もたれに手をかけている。


「ええー、ユウラお前、

 俺と一緒だったら天国でも地獄でも

 覚悟はできてるって言ったじゃん」


そういって口を尖らせる。


「だけどロッカールームまで一緒とは、

 言っていないわよ」


ユウラが眉を吊り上げる。


「場所はどうでもいいよ。

 それよりもお前の覚悟って何?」


ウォルフの闇色の瞳が、

じっとユウラを見据える。


「俺はそいつを見せて貰おうかと思ってな。

 でなきゃ、俺はお前を天国にも地獄にも連れてはいけない。

 何せこっから先は、天国も地獄もきれいごとじゃ済まない世界だから」


ウォルフの言葉に、

ユウラはきつく唇を噛んだ。


「どうすれば……いいの?」


ユウラの鳶色の瞳が、

ウォルフを真っすぐに見つめた。


「そのドレス、俺の前で脱いで」


その言葉にユウラが目を見開いた。


「出征の前に言っただろう?

 お前は俺の妹なんかじゃない。

 俺の女だと。

 お前は? お前の答えを聞かせて。

 お前は俺のこと、ちゃんと一人の男として見てる?」


ウォルフの闇色の瞳が、不安げに曇る。


「もうっ! ウォルフったら。

 よっぽど私がこのドレスを着ているのが嫌なのね。

 誤解のないように言っておくけど、 

 私だって好きでこのドレスを着たわけじゃないんだからね。

 いいわよ、脱ぐわ!

 だから背中のホック外して、ファスナーを下してよね」


そう言ってユウラがウォルフに背を向けると、

ウォルフが複雑な顔をして横を向く。


「お前……やっぱり俺のこと……

 異性として意識してねぇだろ?」


ウォルフが涙目になる。


「ああもうっ! だったらどうしろっていうのよっ!

 ウォルフは私が好きでもない男の前で

 平気で服を脱げる露出狂だとでも思ってるの?」


ユウラの言葉にウォルフが目を見開いて、

ぎこちなく動きを止めた。


「ユウラ、お願い。

 今のもう一回言って」


ウォルフがパチクりと目を瞬かせて、

ユウラを見つめた。


「はあ? あなたが私のことを

 露出狂だと思ってるってこと?」


ユウラが首を傾げる。


「いや……それだと

 ただの変態になってしまう。

 っていうか、大事な部分が全部抜けてる。

 じゃなくて、お前は俺のこと……好きってことで、

 いいんだ……な?」


ウォルフの真剣な眼差しに、ユウラは口を噤んだ。


確かにこの心は、

ウォルフへの愛が滴っている。


だけど、今はまだこの思いを、

胸を張ってウォルフに伝えるだけの自信と実力がない。


「なんで……黙ってるの? ユウラ……」


ウォルフの闇色の瞳が、

泣き出す前の子供のように


ひどく不安定に揺れている


「あなたも私に黙っていることが、

 あるでしょう?

 天国と地獄の件、とか。

 やっぱり言わなくてもいいわ」


そう言ってユウラが肩をそびやかした。


「ユウラ、お前、それはどういう……」


ウォルフの表情が凍り付く。


「誤解しないで。

 実力をつけて、自力で聞き出すわ。

 あなたが私を守りたいと思ってくれたように、

 私もあなたを守りたいって思ったのよ。

 まずは実力をつけて、あなたのことも、オリビア様のことも、

 必ず守ってみせる」


決意のこもったユウラの眼差しに、

ウォルフが目を瞬かせる。


「ユウラ、俺はお前のそういう正義感に満ち溢れたところは

 嫌いじゃない。

 だがな、ちょっと待て、

 なんでお前の中でオリビア皇女とこの俺が同列なんだ?

 ねぇ、ユウラ、ちゃんと理解してる?

 俺はお前の婚約者で、オリビア皇女は女だぞ?(本当は男だけれどもっ!) 

 お前のそういうとこが俺を不安にさせるんだよっ!!!」


ウォルフが頭を抱える。


「わかんないわよ! そんなのっ!!!

 だけどどうしてだか、私の中ではウォルフもオリビア様も、

 どっちも同じくらい大切で、この命を懸けてでもお守りしなきゃって

 そう思っちゃうんだから仕方ないでしょ!」

 

ユウラが逆切れした。


(コイツ……動物的直観で、

 俺とオリビアが同一人物なのだと見抜いていやがるのか?

 それとも……。

 俺のこと……未だに異性として意識していないんだろうか?)


ウォルフは底なしの思考の沼にはまっていく。









 















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