表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/118

37.オリビア皇女殿下の帰還

レッドロラインの宇宙港に、

戦艦『Black Princess』が帰艦すると、


騎士服を身に纏うオリビア第一皇女が、

優雅な足取りでタラップを降りた。


オリビアの近衛隊がドックに控えており、

最敬礼をもってオリビアを出迎える。


「ご苦労様です」


オリビアは近衛隊員たちを見回して、

氷の微笑を浮かべる。


「どうしてこの場に、

 わたくしの専属騎士である

 ユウラ・エルドレッドがいないのかしら?」


顔こそは笑顔を絶やさぬ、

この絶世の美女のそこはかとない圧に、


その場にいる誰しもが凍り付いた。


「なんか、アカデミーで君の帰還パーティーを催すらしくて、

 その実行委員に選ばれたらしいよ?」


そう言って、

戦艦『White Wing』から降り立ったルーク・レイランドが

いつの間にかオリビアの隣に佇んでいる。


「ふぉ~ん、そりゃ、初耳だ」


オリビアの眉間に皺が寄る。


「そりゃあ、サプライズだもの。

 っていうか僕、今言っちゃって良かったのかな?」


ルークが慌てて口を覆った。


「いいんじゃねぇの? 

 っていうか、そういうことなら、

 まあ、仕方ないっていうか……」


オリビアは口を噤み、車に乗り込んだ。


◇◇◇


「う~ん、これはちょっとピンチかも……」


ユウラは軽く涙目になる。


「きゃあっ! ユウラさんっ!!!

 とにかく動かないで。

 すぐに梯子をもってくるからっ!」


エマが血相を変えて、校舎の中に走っていった。


「ちょっと、あれ、大丈夫か?」


士官候補生たちが、人だかりとなって、

心配そうにユウラを見つめている。


ユウラは今、校舎の三階から飛び移った、

木の上で身動きが取れなくなっている。


そもそもなぜ、

このようなことになってしまったのか。


回想とともにユウラは高速で目を瞬かせた。


アカデミーで士官候補生たちが中心になって、

オリビアの帰還祝いのパーティーを準備中に

アクシデントは起こった。


オリビアの到着後、在校生全員が風船を空に飛ばして

その帰還を祝おうと、準備していたのだが、

ユウラのクラスメートが

うっかりと風船を空に飛ばしてしまったのだ。


風船は校舎のすぐ近くに植えられていた、

メタセコイアの枝に引っかかってしまったのだが、


「私に任せて! 木登りは得意よ?」


友人たちが止めるのも構わず、自信満々で木に飛び移り、

風船を窓辺に立つ友人に渡したまでは良かった。


しかし刹那、足掛かりにしていた枝がぽっきりと折れ、現在に至る。


ぷら~ん。


咄嗟に掴んだ木の枝は、とても細い。


そんな状況の自分を、風が煽ると、

乾いた枝が、ミシミシという嫌な音を立てた。


「ふっ……ふぎゃああああああああ!!!」


ユウラが恐怖の絶叫を上げる。


◇◇◇


アカデミーに到着したオリビアは、

車のドアを開けた瞬間に、その悲鳴を聞いた。


人だかりの上で、

木にぶら下がる赤髪が揺れているのを見つけると、


理性で判断するよりも先に、細胞が動いた。

まさにそんな感じだった。


オリビアは跳躍し、落下するユウラを空中でキャッチし、

華麗に地面に着地したのである。


刹那、大歓声が沸き起こる。


風船が空に飛び、フラワーシャワーが二人に振ってくる。


「只今戻りました。

 お久しぶりね、ユウラ」


そう言って、

オリビアはユウラに大輪の薔薇の笑みを向ける。


「おっ……お帰りなさいませ、オリビア様」


ユウラは条件反射で言葉を紡ぐが、

分かりやすく固まる。


ユウラはオリビアの腕の中にすっぽりとおさまっており、

ちょうどお姫様抱っこの体制だ。


ルークが楽団のコンサートマスターの耳元で何事かを囁くと、

オリビアを迎えるためにと用意されていた楽曲が、


メンデルスゾーンの結婚行進曲に差し替えられて奏でられる。


周囲は笑いに包まれるが、

オリビアはまんざらでもない様子で、

上機嫌でユウラを抱えて、

中央に敷き詰められた赤い絨毯の上を悠々と歩く。


「あっ……あのっ……オリビア様?」


ユウラが恐る恐る、オリビアを窺うが、


「ああ、これ? 気になさらないで、ユウラ。

 これはただの新たなパワハラの一種なのですから」


オリビアが艶やかな笑みをユウラに向ける。


「怒っていらっしゃるのですね」


その微笑みにそこはかとない圧を感じ取ったユウラが、

恐れのあまり軽く涙目になる。


「ええ、もちろん。

 いくらわたくしを迎えるためとはいえ、

 どこの世界に空から降ってくる専属騎士がいるのです?」


オリビアは笑っている時が一番怖い。


ユウラは胃の腑のあたりが、

きゅっと縮こまるのを感じた。


「大変な不作法をいたしました。

 お許し下さい。

 土下座してお詫びいたしますので、

 もうそろそろ降ろしていただけませんでしょうか?」


泣きの入った詫びを入れるが、

オリビアは許さない。


「いいえ、わたくし許しませんことよ?

 このままあなたをわたくしの馬に乗せて、

 この後の凱旋パレードにも繰り出します。

 名付けて『お姫様抱っこで都大路一周の刑』よ。

 覚悟しなさい。ユウラ」


オリビアは喜々として、まるで恋人の睦言のように、

ユウラの耳元に甘く囁いてくる。


「そっ……そんなぁ」


ユウラが情けない声を上げると、

オリビアはふっと優しい笑みを浮かべて、

その頬に愛し気に口付けた。




 


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ