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34.戦場の歌姫

対艦刀を構えた一体のシェバリエが、

戦艦『Black Princess』を背に庇う。


「こちら『White Wing』所属、ルーク・レイランド。

 『Black Princess』は後方へ移動されたし!

 後の艦は僕の援護を!」


通信回路からルークの声を聞いた、オリビアが知らず、

安堵の息を吐く。


『White Wing』をはじめ、レッドロラインの船団が、

『Black Princess』を守るために、陣形移動をはじめた直後、


「アーザス国一番艦『カイザー』が、とんでもない速さで、

 近づいていますっ!」


オペレーターが金切声を上げた。


「ばかなっ! 相殺するつもりか?

 ダメだっ! この距離ではよけきれない」


オリビアが拳を握った。


刹那、ルークのシェバリエ『エクレシア』が対艦刀を掲げて、

単身でアーザス国の戦艦『カイザー』へと突っ込んでいく。


「待てっ! ルーク、引けっ!

 行くなァァァァァ!!!」


オリビアが通信機越しに、絶叫する。


アーザス国、一番艦『カイザー」の主砲が、

ぴったりと『エクレシア』に向けられ、輝きを増していく。


一方で、『エクレシア』の対艦刀が、

『カイザー』のブリッジに突き付けられる。


あわや、両者による相打ちかと、オリビアが息を飲んだ瞬間、


「なんだ、これはっ!」


敵味方関係なく、全軍の通信回路が何者かにジャックされ、

亜麻色の髪の乙女が映し出される。


乙女はこの凄惨な戦場を背に、歌を歌う。


耳によくなじんだ『アメイジング グレイス』だ。


それはひどく澄んだ歌声で、

誰しもの動きを止めた。


「わたくしは、ミレニス公国第四皇女、

 レーナ・リリアンヌ・ミレニスと申します。

 どうか皆さま、わたくしの願いを聞き入れ、

 まずは銃を下してください」


そして映像は少女の周りに切り替わり、

同じく監禁されている少年少女を映し出す。


「皆様が御覧の通り、わたくしたちが乗るこの船は、

 武器を持たぬただの民間船でございます。

 広がる戦火の犠牲となった方々への追悼慰霊団として、

 わたくしたちはこの場に参りました」


言葉を紡ぐ少女の顔は、

緊張のためにひどく青ざめている。


「本来ならば、レッドロラインにも、アーザス・リアンの連合にも

 そのどちらにも属さない、中立の小国の者たちです。

 L4宙域において平和の式典を行っている最中に、

 アーザス軍によってこの船に押し込められ、

 そして心ならずも、この戦火に巻き込まれてしまったのです。

 きゃっ!」


刹那、少女の背後にいるアーザス兵が、

銃の柄で少女をこずいた。


「余計なことは言わなくていいっ!」


小さく囁いて寄越すアーザス兵の言葉に、

少女は悔し気に唇を噛み締めた。


「わかった。では貴殿のいう通り、

 銃をおろすこととしよう。

 この戦域にいるレッドロライン軍、

 アーザス・リアンの連合の全軍に告ぐ、

 この場には、心ならずも戦禍に巻き込まれてしまった

 民間人が紛れ込んでしまったようだ。

 人道的見地に基づき、我がレッドロライン軍は、

 アーザス・リアンの連合軍に停戦を要求する」


オリビアが通信回路を開き、

この戦域にいる全軍に向けて言葉を発した。


◇◇◇


撤退するアーザス・リアンの連合を見届けた、

オリビアが険しい眼差しを、宇宙(そら)へと向ける。


おもむろにルークのシェバリエ『エクレシア』への通信回路を開く。


「すぐに戻れ!」


不機嫌にそれだけを言うと、

一方的に通信を切った。


オリビアは無言のままに席を立ち、

シェバリエの格納庫に向かう。


ルークが『エクレシア』から降りてくると、


オリビアはつかつかとルークのもとに歩み寄り、

きつくその胸倉を掴み、


「お前、自分が何をしたかわかってる?」


ルークを睨みつける。


「俺、お前に戻れっつったよな、

 この戦いの総司令官は俺だ。

 そのこと、ちゃんとわかってる?」


オリビアの言葉を受けて、

ルークが鳶色の眼差しを真っすぐに向ける。


「わかってる。

 だから行った」


オリビアの脳裏に、

『カイザー』に対艦刀を振りかざして突っ込んだ

ルークの『エクレシア』の映像が過ると、


その表情が苦し気に歪む。


「俺は出国前にユウラに寛大になったと言われた。

 大人になったとも。

 だがな、俺は大人にも、寛大にもなっちゃいねぇ。

 覚えておけ!

 俺はひどく心の狭い人間だ。

 もう……何一つ、誰にもくれてやる気はない」


オリビアの頬に涙が伝う。


「敵の戦艦がお前に主砲を向けたとき、

 俺がどんな気持ちだったと?」


オリビアが震えている。


「だって仕方ねぇだろ? もともと何も持ってねぇんだ。

 生まれてすぐに実母と姉を奪われて、

 地べたを這いつくばったこの俺が、やっと掴んだもの、

 それがお前であり、ユウラであり……」


言葉はやがて嗚咽に呑まれていく。


「ごめん、心配かけたね」


ルークがそんなオリビアを抱しめる。


「うるっせえ! 

 土下座して詫びろ! 

 このボケっ!!!」


オリビアがその胸の中で悪態を吐く。


「兄妹そろって、

 この俺に心配かけやがってっ!」


そんな二人のやり取りを、

遠目にオペレーターのお姉さんたちが、

微笑ましく見守っている。


「皇女殿下とそれをお守りする騎士様、

 本当に、お似合いですわ」





 

 










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