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26.上司による膝枕……それは軽く拷問です。

ユウラは王宮のオリビアの部屋へと通されて、

ソファーに腰かけるオリビアの膝の上に

頭を置いて固まる。


いわゆるところの膝枕の体制である。


(上司による膝枕……。

 これは……一体なんの拷問なの?)


ユウラは高速で目を瞬かせる。


「気にしないで、ユウラ。

 これはただの新たなパワハラの一種ですから」


そういってオリビアは、

大輪の薔薇の微笑みを浮かべる。


何度もユウラの髪を撫でていく優しい手の感触とは裏腹に、

その言葉に込められたそこはかとない圧に、ユウラは震え慄く。


「あら、あなた震えているの?」


オリビアがユウラを覗き込むと、


「い……いえ」


ユウラが軽く涙目になる。

そんなユウラにオリビアが小さくため息を吐いた。


「そう? わたくしは、

 少しあなたに怒っていてよ?」


その言葉にユウラは、血相を変えて身体を起こそうとするが、

オリビアによってがっちりホールドされてしまう。


びくともしない。


「ふんっ! ふ~んっ!」


ユウラが起き上がろうと、腹筋に力を入れると、


「あなたは頭を強く打ったのだから、

 急に動かしてはいけないと、

 わたくし、申し上げましたわよね」


オリビア皇女の瞳孔が開く。


「ひっ!」


その迫力に押されて、ユウラが小さく悲鳴を上げた。

そして観念したように、ユウラはオリビアの膝の上に身を委ねた。


そんなユウラにオリビアは満足げな笑みを浮かべた。


「オリビア様は……、

 どうして私に怒っているのですか?」


ユウラが悲し気に、オリビアを見つめる。


「どれだけ、わたくしが

 あなたのことを心配したと思っているのです?

 グラウンドに倒れ伏しているあなたを見て、

 この身に流れる血液が凍り付いたかと思いましたわ」


その時を思い出したオリビアが、震えている。


「あのっ……心配をおかけしてしまい、

 申し訳ありません」


愁傷気に謝るユウラに、

オリビアが複雑な表情を見せる。


「こんなことなら、あなたをわたくしの

 専属騎士になどしなければ良かった……」


苦し気なオリビアの呟きに、

ユウラが身体を起こして、

目を見開く。


「オリビア……様?」


見開いたユウラの鳶色の瞳から、

大粒の涙が零れ堕ちる。


そんなユウラをオリビアが抱きしめる。


「誤解しないでね、これはそれだけあなたのことを、

 大切に思っているってことですから」


ユウラはオリビアの胸の中で、身体を強張らせる。


「あなたは一体何に心を奪われて、

 そんな怪我をなさったの?

 戦場はあなたが思っているほど生易しい場所ではないわ。

 ほんの少しの油断が、気の迷いが、あなただけでなく、

 多くの人たちの命に関わってくる」


オリビアの言葉に、ユウラは下を向き、


「申し訳……ありま……せん」


涙を堪えて、声を絞り出す。


「わたくしはあなたに謝って欲しいわけではないわ。

 あなたが心を乱した理由を聞いているの」


オリビアのエメラルドの瞳が、

真っすぐにユウラを映し出す。


「本当に私的なことなんです。

 皆が国のために命を懸けているのに、

 そんな私的なことで、心を乱し、

 私はオリビア様の手を煩わせてしまいました」


ユウラが辛そうに言葉を紡ぐ。


「ロザリオね」


オリビアの言葉に、ユウラが目を見開いた。

その表情に、オリビアは確信を得る。


(っんだよ……傷ついたのなら、

 ちゃんとそのときに言ってくれよ……。

 じゃないと俺、鈍いから

 分かんなかったじゃねぇか……)


オリビアが天を仰ぎ、掌を額に当てた。


「オリビア様?」


ユウラが、オリビアを窺う。


「いいえ、なんでもないの」


オリビアが表情を取り繕った。


「そういえば、ウォルフ・フォン・アルフォードと、

 エマ・ユリアスが同じロザリオを着けていたのを見たわ。

 それであなたは傷ついたのではなくて?」


オリビアの問いにユウラは口を噤む。


「ウォルフはあなたの婚約者ですもの、当然よね。

 でもそのロザリオはウォルフがエマにあげたものではなくてよ?

 そして、ルークレイランドも同じものを持っているの」


オリビアは立ち上がり、

机の引き出しから一枚の写真を取り出した。


それは赤の軍服を着て敬礼する、

セナ・ユリアスの写真だった。


桜の季節、その両脇には、

今よりも幼いウォルフとルークがおどけたように笑い合っている。


アカデミーの入学式の日に、三人で記念に撮ったものだ。


「オリビア様はどうしてこれを?」


ユウラが顔を上げた。


オリビアはユウラの問いには答えず、

曖昧に笑う。


「あなたたちの二学年上に、とても目立つ三人組がいたわ。

 そうね、ちょうどユウラやあなたの赤服のお友達にようにね」


オリビアが優しい眼差しをユウラに向ける。


「宰相家のウォルフ・フォン・アルフォードと、

 大祭司の息子、ルーク・レイランド、そして大臣家のセナ・ユリアス。

 本人たちに自覚はないのだけれど、

 周囲の人々は、この三人を天才だともてはやした」


オリビアの眼差しが、懐かしさに潤む。


「最初は衝突しあいながらも、

 やがて三人は戦友として深い絆で結ばれていくの。

 まあ、それを腐れ縁、と呼べなくもないわね」


そう言って自嘲する。


「生も死も、共に分つ友として誓いを立て、

 そしてそのとき、お揃いで作ったのが、

 あのロザリオというわけ。

 でもね、そのとき実はルークとセナは付き合っていたのよ?」


オリビアが面白そうに笑う。


「二人はとても深く愛しあっていたわ。

 とてもお似合いのカップルだと思った」


その眼差しに一抹の悲しみが過る。


「だけど二年前の大戦のとき、

 セナは死んでしまった」


オリビアのエメラルドの瞳が、悲しみに揺れている。


「姉を失ったエマ、そして恋人を失ったルーク、

 その傷は今も癒えてはいない。

 だからウォルフはエマの指導を買って出たのよ。

 ウォルフにやましいところはないわ。

 だから少しだけあなたも、見守っていて欲しいの」


オリビアの言葉に、ユウラが頷いた。


「ご機嫌は直った? ユウラ」


オリビアがユウラの顔を覗き込んだ。

ユウラはそんなオリビアににっこりと微笑む。


「ああ、可愛いユウラ」


オリビアがぎゅっとユウラを抱きしめる。


「その代わり、あなたにはこのわたくしが、

 ロザリオを授けます」


オリビアの言葉に、ユウラが驚いた表情をする。


「そんな……オリビア様?」


恐縮するユウラに、オリビアが微笑みかける。


「わたくしの妹におなりなさい、ユウラ」


オリビアのエメラルドの瞳に見つめられて、

ユウラは身動ぎができない。


「あなたはわたくしの専属騎士で、

 契約の妹(スール)になるのよ。

 生も死も共に分ちあう、特別な存在」


オリビアはポケットから小箱を取り出してユウラに開いて見せる。


紫水晶のロザリオが、照明に反射して

キラキラと輝いている。


「あなたのために、

 わたくしの守護石を

 あしらった最高のものを用意させました。

 わたくしの思いがあなたを守るようにと。

 受け取って下さる? ユウラ」


ユウラはオリビアの足元に身を屈め、

臣下の礼を取る。


「お受けいたします。オリビア様」


ユウラが揺らぎのない眼差しを、

オリビアに向けると、

オリビアが満足そうに頷いて、

ユウラの華奢な首にロザリオをかけた。



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