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15.オリビア皇女の専属騎士

「なにをしている? 私はこの国の王太子だぞ?

 そして君には、この私を拒否する権利など与えられていない」


エドガーは勝ち誇ったようにそう言った。

ユウラはその場に跪き、エドガーの手を取った。


躊躇いに震えながら、その手に口付けようとしたその時、

白い手袋が飛んできて、エドガーの頬を打った。


「痛ってぇなっ!」


エドガーの目が屈辱に血走っている。


「おやめなさい、あなた。

 無理をしてそんな歩く病原菌みたいな男の手に、

 口づけるものではないわ」


ユウラの傍らに絶世の美女が佇んでいる。


そのあまりの美しさに、周囲から黄色い歓声が上がる。


彼女の凛とした声色に、ユウラがハッとしたように顔を上げた。


美女は栗色のやわらかな髪の色を肩のあたりでゆるくカールさせ、

ベージュのシフォンドレスを身に纏っている。


「あなたはっ!」


ユウラが目を見開いて、食い入るように美女を見上げた。


「姉上っ!」


同時にエドガーの顔が恐怖に引きつった。


美女はユウラの手を取って立たせた。


「エドガー、わたくしがあなたに手袋を投げたということが、

 どういうことであるかは、ちゃんと理解できて?」


美女は優雅にエドガーに微笑んだ。

その美しさたるや、匂い立つ大輪の薔薇のごとくである。


「奇遇ね、わたくしもこの子を気に入ってしまったの。

 譲ってくださらない?」


美女はごく当然のごとくに、エドガーにそう言った。


「ふぇぇぇ?」


あまりの出来事に、ユウラの思考がついていかない。


「は……はい、もちろんです。姉上」


しかしそういってエドガーは、ユウラの前から速攻で退いた。


「まあ、ありがとう。優しいのね、エドガー」


美女がユウラに向き直る。


「そういうわけですから、あなたは今日からわたくしの専属騎士です。

 異論は認めません」


美女は大輪の薔薇の微笑みを浮かべ、ユウラをその胸に抱き寄せた。

艶やかな微笑みとは裏腹に、ユウラを抱き寄せる腕が小刻みに震えている。


「あ……姉上のお役に立てたのなら……光栄です」


そういってエドガーは、後ずさる。


「では、私は用がありますので、これで失礼いたします」


エドガーは声を上ずらせながら、その場をそそくさと立ち去った。


美女は表情を崩さないままに、

キツイ視線をエドガーの消えた方向に向けたままだ。


ユウラが心配そうな視線を美女に向けると、美女が表情を緩めた。


「ごめんなさい。少し感情が激してしまったわ」


そう言って美女は大きく息を吐いた。

そして口調を改める。


「わたくしはエドガーの姉、オリビア・レッドロラインです。

 いきなりあなたを専属騎士に指名してしまったので、

 驚いてしまったのではなくて?」


そういって親し気な視線をユウラに向けた。


「よろしくね」


オリビアが茶目っ気たっぷりに、

ユウラに片目をつぶって見せると、


「オ……オリビア様にお仕えできること、光栄ですっ!」


ユウラがその場に跪き、オリビアの手の甲に口付けると、

今度はオリビアが赤面し、その場で固まった。


「ユ……ユウラさんとおっしゃったかしら? とても……可愛い方ね」


オリビアの声が上ずり、微妙な空気が流れる。


◇◇◇


「ヤッベー……、まじでヤバイかも」


控室に戻ったオリビアは後ろ手にドアを閉じると、

その場にへたり込んだ。


「心臓がバックバクいってらぁ……」


そして先ほどユウラが口付けた手の甲を感慨深げに見つめて、

そっと胸に抱きしめる。


「何せ、10年もアイツに片思いをしていたもんで、

 アイツの不意打ちの破壊力がマジで半端ないんですけど……」


切なげに呟いて、自身の膝に顔を埋めた。


◇◇◇


「そういうわけで、

 私、オリビア皇女殿下の専属騎士になっちゃんたんだ」


アルフォード家の別館にて、

お揃いのユニフォームを着用し、


お揃いのカップでお茶を飲みながら、

ユウラがウォルフに今日の報告をする。


「ふ~ん、そうなんだ」


割とあっさりと了承したウォルフに、

ユウラが目を瞬かせる。


「何?」


ウォルフが訝し気にユウラを見る。


「いや、なんていうか、

 もっと怒られるかと思った。

 『なんで俺に相談せずに決めるんだ!』って

 感じで」


(もちろんブチ切れるぞ? 

 『オリビア=俺』でなければな)


そんな言葉を胸に飲み込んで、

ウォルフがにっこりと笑う。


ユウラは背筋にうすら寒いものを感じて、

思わず両手で自身の肩を抱き寄せた。


「で、お前はオリビア皇女殿下のことを、

 どう思っているんだ?」


ウォルフは横目で、

ちらちらとユウラの様子を伺う。


「それがね、聞いてよ、ウォルフ!

 もう、女神なの、女神!」


ユウラが身を乗り出して、熱弁する。


(え? 女神って、おいおい、

 よせやいっ! 照れるべ?)


ウォルフが薄っすらと頬を赤らめて、

ニヤつきそうになる口元を覆った。


「総代の挨拶をする前に、すごく緊張していた私を、

 こう、ギューって抱きしめて下さって、

『大丈夫、あなたならきっと

 総代の挨拶も上手くできるわ』って言って下さったの。

 キャーーーー!」


ユウラが掌で顔を覆って、悶えている。


そんなユウラをウォルフが、

生暖かい眼差しで見つめている。


(ほーか、ほーか、そんなに好きか、俺の女装が)


悪い気はしない。


「式が終わって、最初はエドガー様に専属騎士になれって言われて、

 とても困っていたんだけど、

 そしたらそこに颯爽とオリビア様が現れて助けて下さったの」


ユウラがうっとりと胸の前で手を組んでいる。


「エドガーは責任をもって俺が

 後できっちり絞めておく。

 任せておけ」


どさくさに紛れて、

ウォルフがさらっと恐ろしいことを言ってのける。


「そして私をオリビア様の専属騎士にするって言ってくれたのよ。

 私、今すごく幸せ。あんな素晴らしい方にお仕えできるなんて」


ユウラはうっとりと瞳を潤ませた。


「あの方のためなら、喜んでこの命を差し出すわ」


その言葉を聞いたウォルフの顔から、

笑みが剥がれ落ちる。


「それは許さない」


ウォルフがユウラの華奢な手首を戒める。


「ちょっ、ちょっと、ウォルフっ!」


焦ったようにユウラが身じろぐが、

ウォルフは許さない。


「お前はオリビア皇女の専属騎士である前に、

 この俺の、ウォルフ・フォン・アルフォードの妻だ。

 そのことを忘れるな」


ウォルフの闇色の瞳が、

きつくユウラを見据える。


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