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111.悲報:ウォルフ、やさぐれる。

戦艦『Black Princess』から降り立ったウォルフを、

アーザス国王自らが宇宙港に迎えに来たことには、

クルー一同が少々面食らった。


「ふんっ! あの狸、一体何を考えてやがる?」


遠目にミハイルに目をやってウォルフが呟くと、


「本当にね、今まで散々こちらの足を引っ張り、

 嫌がらせの限りを尽くしてきたくせに、

 ここまで掌を返すのは、少し気持ちが悪い。

 気を付けて、ウォルフ」


隣に立つルークも全身に緊張を漲らせている。


「これは、これは。

 ようこそ参られた、ウォルフ・フォン・アルフォード殿」


アーザス国王ミハイル・アーザスが、食えない笑みを浮かべて

ウォルフを出迎えると、


「お初にお目にかかる。ミハイル国王」


ウォルフも薄い笑みを張り付けてそれに応える。


(へえ? 意外ね。外見だけなら結構イケてるんじゃない?)


父王の秘書として付き添ったフレイア・アーザスは、

ウォルフの全身を値踏みするように見つめた。


(これが、レッドロラインの次期国王となる男)


そんな言葉を飲み込む。


(ふんっ! 悪くないわね)


フレイアは内心ほくそ笑んだ。


そんなフレイアの表情を読み取って、ミハイル・アーザスが切り出す。


「ときにウォルフ殿は御年18歳の男盛り、恋人はおられるのか?」


軽口を装っていきなり切り出されたミハイルの言葉に、

ウォルフを取り囲むレッドロライン側の要人一同が凍り付いた。


(ああ~ん? なんだよ、それは。

 和平交渉に関係あんのか? ああん?

 戦闘宙域で最愛の恋人を亡くした不幸のどん底のこの俺への当てつけか?

 おっ? そうなんか? 喧嘩売ってんのか?

 買うぞ? 買っちゃうぞ? 今なら俺、核兵器の一つや二つ

 平気で発射スイッチ押せちゃうテンションだからな?)


ウォルフの眼差しが、死んだ魚のように虚ろになり、

軽く瞳孔を開きながら、

隣のルークにだけようやく聞こえる小声で毒づく。


(ウォルフ! こらえて)


ルークが短くウォルフを制する。


「いや、お恥ずかしい。

 今はまだ、様々なことを学ぶことに忙しくて、

 正直恋人どころでは……」


なんとか堪えたウォルフが、

はにかんだような笑みを浮かべる。


「いやいや、そんなことではいけない。

 ウォルフ殿はまだお若いが、光陰矢の如しとはよく言ったもので、

 貴殿が思っているよりも月日の経つのは早いものだ。

 どうだろう? この和平交渉をより強固なものにするためにも、

 我が娘、こちらのフレイアを貴殿に差し上げようと思うのだが」


ミハイルの言葉に、ウォルフが表情を改める。


ちらりとミハイルの横に立つ女性に目をやれば、

彼女も満更でもないような顔をしている。


(これは結構ヤバイかもな……)


ウォルフが逡巡し、ルークに小さく目配せすると、

何かを悟ったルークが『ひぃっ!』と小さく悲鳴を上げた。


「ありがたいお申し出ですが、

 実は俺、男しか愛せないんです。

 あっ、ちなみにコイツが将来を誓い合った俺の恋人なんです」


ウォルフがにっこりと笑って、ルークの襟首を掴むと、


ルークが固まり、ムンクの叫びを上げている。



◇◇◇


アーザス・リアンの連合国とレッドロライン和平交渉は、

気持ちが悪いくらいに順調に進んでゆく。


そんなアーザス・リアンの連合の意趣返しに、ウォルフとルークはどこか違和感を感じて、

警戒を強める。


一方で会議の合間をぬって控室に戻ったアーザス国王が、

秘書として付き従う自身の愛娘、フレイア・アーザスに切り出した。


「ふんっ! ウォルフ・フォン・アルフォード、

 アレはなかなかの切れ者だな。

 道化を装いながら体よくお前との婚姻を断りおったわ」


ミハイル・アーザスは安楽椅子に深く腰をかけて、

目を細めた。


「これはこれは。お父様とも思えない(おっしゃ)りようですのね。

 回りくどいったらありゃしないわ」


対面するソファーに座するフレイアが、甲高く笑った。

そしてその笑みが引くと、


「ねぇ、お父様、これは戦よ?

 お父様はわたくしを通してレッドロラインを欲しておられるのね。

 欲しいものがあるとき、お父様ならどうなさって?」


小首を傾げて愛らしい仕草で父王にそんな問いを投げかけると、

フレイアの硬質な金色の瞳が光を帯びる。


「わたくしは、それを下さいと誰かに頭を下げるのはまっぴらごめんだわ」


フレイアのルージュが、

血の色のように艶めかしく濡れている。


「だったらどうする?

 盗むの? それは卑怯ね。

 だからわたくしは力尽くでそれを奪うの。

 とても公正な方法だと思うわ」


フレイアの言葉にミハイルが満足気に頷くと、


「そうか。ではお前にそれを任せることにしよう。

 ウォルフ・フォン・アルフォードを落とせ。

 方法の如何(いかん)は問わない」


フレイアは酷薄な笑みを浮かべた。


◇◇◇


「間違いありません。

 彼女には生態CPUとしての処置が施されています」


レーナ・リリアンヌ・ミレニスは、母国であるミレニス公国に戻ると、

ユウラを専門の病院で精密検査を受けさせた。


「それでユウラの記憶を取り戻す方法は?」


レーナが年の若い青年医師に問うと、青年医師は表情を曇らせる。


「おそらくはブロックワードの発動か、もしくは彼女を施術した研究所(ラボ)

 行けばなんらかの手がかりがあるはずなのですが」


青年医師の報告を受けて、レーナは考えを巡らせる。


人為的に記憶を操作し兵器として使用される生態CPUは、

人道的見地からも国際法で厳しく制限が加えられているにも関わらず、


それに批准せず合法としている国がある。


「アーザス国、もしくはリアン国のどちらかね」


レーナの呟きに、

隣に立つ専属騎士のクライス・ライディーンが小さく首を横に振る。


「今は時ではありません、レーナ様。

 それはあまりに危険です」


クライスの言葉に、レーナが目を閉じて小さく息を吐いた。

 












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