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103.ウォルフさん家の家庭の事情

「目的は果たした。

 これで我々の任務は無事完了だな」


セレーネの声に安堵の色が滲む。


「それで、あの方はどこにおられる?」


セレーネがそう問うと、ゼノアが親指で後方の小惑星を指さした。


「隠しドッグの船の中だ」


◇◇◇


精巧に作られた小惑星の岩間に、滝が流れている。

水流の弱い部分から奥へと進むと、洞窟がある。


そこに鎮座するのは、レッドロライン国王専用船『ガイア』だ。


プロムナードにぼんやりと佇む男がいる。


きちんとセットされたブロンドの髪に、

深緑の瞳に憂いを帯びて、


濃茶のスーツにボルドーのタイを合わせた品のよい紳士の面影は、

髪や瞳の色は違えど、ウォルフに生き写しだ。


「ただいま戻りました。陛下」


そういってゼノアが親し気に、男に近づくと、

男はハッとしたように顔を上げた。


深く物思いに耽っていたのだろう。

ふと我に返った自分を恥じるように、顔を赤らめた。


「これは、ゼノア殿。こちらへ」


そういって自身の前に席を勧めた。

ゼノアは勧められるままに、席についた。


ゼノアはサイファリアという小国の王太子だ。

しかしそれは表の顔で、裏では部隊を率いて『請け』を負う。


『請け』とは各国が抱える闇の仕事だ。


特殊な戦闘能力を身に着け、各国の闇に根を張り、生き延びる。


ゼノアは少年ながら、

『生き血を啜る蜘蛛』そんな物騒な二つ名を頂くその国きっての手練れだ。


「陛下のご依頼の通り、カルシア様の乗船される『クレア』を

 無事にリアン国へと入国させることに成功しました」


そういってゼノアはレッドロライン王に向けて、

とっておきの微笑みを浮かべる。


それはどこまでも清らかな天使の微笑みで、

その本性を知らぬ者は、きっと誰もが騙されてしまうだろうと、セレーネは思う。


「ああ、ご苦労だったね。二人とも」


そういって男が二人を労うと、

ゼノアの傍らに立っていたセレーネがその仮面を外して

男の前に跪き、臣下の礼をとった。


「我が主、レッドロライン王よ

 すべては御心のままに」


そんなセレーネに男が苦笑を浮かべる。


「そんなにかしこまらなくてもいいよ、セナ。

 私的な場面では昔のように 

 『ウォルフパパ』とか『おじさま』とか呼んでくれたらいいし」

 

男の言葉にセレーネが顔を赤らめる。


そうなのだ。

その昔、セナはしょっちゅう幼馴染のウォルフの周りに現れるこの男のことを、

よもや自国の国王だとは夢にも思わずに、そのように呼んでいた。


(だけど、息子が熱を出したからといって、

 ママチャリぶっ飛ばして幼稚園に迎えに来る国王が

 どこの世界にいるっていうのよ?)


と心の中で突っ込む。


ウォルフの育ての親と、実の親が別であることは幼いながらに理解していたが、

まあ、この人の子煩悩さはすごかった。

そして異様に腰が低いのだ。


(そりゃあ、お釈迦様でもわかるまいよ?)


とセレーネは思う。


しかしこの男の濃い愛情と、たぐいまれなるイクメンとしての才能が、

ウォルフという傑作を開花させ、世に送り出したのだろうと、

セレーネは信じて疑わない。


一方ではレッドロラインを銀河の強国に導いたこの国王の手腕や実力を、

セレーネは心底尊敬している。


二年前、戦場で窮地に陥った自分の命を助けてくれたのも、

実はこのレッドロライン王だった。


当時の上司が無能だったため、上訴したにも関わらず、

まんまと敵の陽動作戦に引っかかってしまい、

セレーネの部隊は全滅の危機にさらされた。


その一報を受けたレッドロライン王が、

密かにサイファリアに『請け』を依頼したのだ。


セレーネは持ち前の生まれ持った男気を発揮し、

自分の属する部隊のしんがりを務めたはいいもんの、


シェバリエの電源が落ちて、コクピットにまともに敵のビームライフルを

くらって確実に死ぬところを、ゼノアの国の特産品である秘薬『キヨシ』

によって助けられたのである。


(えっ? なにそのふざけたネーミングは……)


三途の川に片足を突っ込んだ状態だったが、

意識のどこかで冷静にその秘薬の名前にツッコミを入れたのを

昨日のことのように覚えている。


「東洋医学の権威、マツモト先生監修の万能薬だ。

 くれぐれも駅前の薬局で売っているような代物ではない」


ゼノアは大真面目にそういって自分に秘薬『キヨシ』を飲ませた。


(え? 私……それで治っちゃうわけ? 

 なんか悔しい……)


そんなツッコミを入れる間もなく身体はみるみる回復し、今日に至る。


その後、自分が母国で死んでしまったものとして扱われ、

すでに葬儀も済ませてしまったことを知り、

これでは帰るに帰れないと悩んでいたら、

レッドロライン王から


「だったら逆にその設定を活かしたら?」


と専属騎士の依頼を受けたのだ。


そういうわけで少しややこしいのだが、

本名『セナ・ユリアス』は、仮面を被り、

現在は『セレーネ・ウォーリア』という偽名を名乗って、

傭兵の振りとかもしているのだが、


正式に所属しているのはレッドロライン軍であり、

レッドロライン王の専属騎士として、主に隠密の作戦実行を受け持つ。


さすがにユリアス家の両親には、セナが生きていることは知らせているが、

国家機密にかかわることなので、

幼かった妹のエマには姉の生存が知らされていないという事情がある。


「あとはどうやって、ウォルフのもとにユウラを返すか」


子煩悩な国王が、やりきれないため息を吐いた。



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