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100.星の瞬き

レッドロライン国、商業区の宇宙港に停泊する一隻の戦艦、『Black Princess』。

そこにレッドロライン王の臣下たちが、最敬礼をもってその主を出迎えた。


兵士以下、その乗組員たちがそれに準じる。

総指揮を執るのは、レッドロライン国第一皇子、ウォルフ・レッドロラインだ。


黒の軍服はそのままに、しかし今、ウォルフはその真の姿を皆の前に晒す。

驚きの静寂が歓喜の叫びへと変わる。


やがてその熱量は、レッドロライン軍の士気を煽って、

そんな熱気の中を悠々と歩み、ウォルフは艦長席に着いた。


「よっ! ウォルフ!

 結婚式の招待状届いたよ」


ただ一人、何食わぬ顔で副艦長席に座る者がいた。


「しっかし、いつもながらに派手な登場の仕方だよね」


少し呆れたような表情を見せて、軽口をきく。


「ちっ! ルーク・レイランド」


ウォルフもルークに憎たらし気に、鼻の頭にしわを寄せて見せる。

しかしその行動とは裏腹に、ウォルフはルークの顔を見て心底ほっとした。


そんなウォルフの様子をルークが注視する。


「何? もしかして緊張してるの? ウォルフのくせに」


そう言ってルークが目を瞬かせる。


「あほ、そんなんじゃねぇよ」


そういって口ごもるが、

先ほどとは打って変わって真剣な表情をルークに向けた。


(この戦いはおそらく一筋縄ではいかない)


ウォルフはそんな予感を抱き、そしてすでにそれは確信へと変わっている。


商業区への攻撃が陽動であり、

その混乱に乗じてカルシアが逃がされた。


なぜ陽動としての攻撃対象に商業区が選ばれたのか。

そう考えたときに、おそらくそれも計算づくだったのではないかとウォルフは思う。


カルシアを近衛府にとらえたことに油断してしまったことと、

コロニーのセキュリティーを過信し過ぎたこと、


それは確かにウォルフの痛恨のミスであった。


しかしそれ以上にウォルフを不安させるのが、

その状況下でユウラとはぐれてしまったことだ。


ウォルフの脳裏に、

雨の中庭でカルシアに打ち据えられるユウラの姿が過った。


(ひょっとすると、俺の予定がカルシア側に漏れていたのではないか?)


ウォルフはそんな一抹の不安を拭えない。


(だとしたら、ユウラは……)


ウォルフはきつく拳を握りしめて、唇を噛み締める。


「ルーク、先に言っておく。もし俺がこの戦いでほんの少しでも取り乱すことがあったら、

 迷わず俺を退けてお前が総指揮を執れ! いいな」


きつい口調でそういったウォルフに、ルークが目を丸くした。


「は……はあ? 何が一体どうしちゃったのさ? 

 変なものでも食べたの?」


ただならぬウォルフの様子に、

さすがにルークもそこはかとない危機感を覚えた。


「総員第一戦闘配備! 

 本艦はこれより逃亡を図った謀反人、カルシア・ハイデンバーク、

 及び、彼女が率いる親衛隊の征伐に向かう」


ウォルフの声とともにブリッジが遮蔽される。


「カルシア・ハイデンバーグは王族専用船『クレア』に乗船し、

 現在セイラン宙域を通過中」


オペレーターによって読み上げられた情報とともに、

ウォルフのモニターに映像が送られてくる。


ルークがウォルフの隣に立ち、その映像に目を通す。


「王族専用船『クレア』は戦艦としての武力は持っていないけど、

 その分シェバリエ等の武装兵力がこの船の警護にあたっているんだろうね。

 油断は禁物だよ」


ルークの表情に緊張の色が走る。


「某君の乗るシェバリエに傷をつけた敵さん、とか……ね」


ルークが言葉を切る。


「まあ、もっとも彼女がお出ましの暁には、僕が出るよ」


きつい眼差しとともにそう言ったルークの手を、ウォルフが強く握った。


「ウォルフ?」


ルークが訝し気に、ウォルフを見つめた。


「お前は俺のそばを離れるな!」


ウォルフが吐き捨てるようにそう言った。


◇◇◇


「さすがは銀河一と噂に高い、レッドロライン軍の主力艦だな。

 まもなく追いつかれるぞ?」


セレーネ・ウォーリアが、王族専用船『クレア』の操縦席のモニターを見つめて、

何でもないことのように言う。


「だったら早く貴様のシェバリエ部隊を出せ! 貴様が盾となりこの船を護れ!」


横に立つハイネスが、青い顔をしてセレーネに怒鳴り声を上げた。


そんなハイネスを鼻で笑い、

少し肩をそびやかしてセレーネが操縦室を後にした。


セレーネの軍靴の音が、その部屋の前で止まる。

モニターに暗唱番号が撃ち込まれると、部屋の鍵が開錠された。


ベッドに座る赤髪の少女が虚ろな眼差しを、セレーネに向ける。

セレーネが少女の顎に手をかけて、その顔を覗き込む。


「薬がよく効いているようだな。

 そのほうがいい。

 研ぎ澄まされた神経のままに死に赴くのは、耐えがたい苦痛だからな」


セレーネの脳裏に、一瞬過る光景があった。


宇宙(そら)の戦域で、ビームライフルによって自身が乗るシェバリエが打ち抜かれ、

大破する場面だ。


視界が血の色に染まって、そこで記憶は途切れるのだ。


赤髪の少女は、セレーネに答えない。

ただ、虚ろな眼差しをセレーネに向けるばかりだ。


「なあに、恐怖を感じることがなければ、一瞬で終わるさ。

 命なんてものは、そんなもんだ」


セレーネはそういって、窓の外に燦然と輝く星々を見つめた。


「ほら、星が瞬いているだろう? それと同じだ。

 命の終わる瞬間なんてものは」


セレーネの言葉に、赤髪の少女は光のない眼差しを向け続ける。

そこに表情はない。


しかし、その頬に一筋の涙が伝った。


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