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7・逃走先の町に着きました

 ミシャの町に到着すると、辺りは既に真っ暗だった。


「いやぁ。君たちは上級のポーションを持っていたんだねぇ。少し寝ている間に傷が綺麗に治っていてびっくりしたよ。ありがとう」


 馬車を降りてお腹をさする商人に、ケイトとサクラは顔を見合わせて笑う。


 朦朧とした中で癒しの魔法を使ったため、彼はポーションによって傷が治ったのだと信じ切っているようだ。ケイトはストールで自分の髪をしっかり隠しながら微笑んだ。


「いいえ。本当に良くなってよかったです」


「上級ポーションを使ってくれたんなら、代金を支払わないとな。ただ、手持ちは全部盗まれちまってな……銀行が閉まっていてすぐには払えない。明日の朝でもいいかな」


「いえ、お代は結構です。その……ポーションは……いただいたものでしたし……」


 言葉を濁すケイトに、サクラは重ねる。


「そうそう! それよりも、あなた商人なんでしょう? だったらこれを買い取ってくれない?」


 サクラが取り出したのは、ケイトが自分で購入したジュエリーの一つだった。さっき、馬車の中で二人は逃走資金の作り方を決めた。


 逃走資金作りのルールは二つ。『変な噂になったり狙われるのを避けるため、宝石は一度に売り払わない・買い取り先も複数に分ける』というものだった。


(ミシャの町に常駐しないこの商人さんを介して資金をつくれれば……怪しまれたり変に資産を持っていると勘違いされることもないわ)


 サクラの頭の回転の速さに、ケイトは感心する。


「上級ポーションの対価が、そんなことでいいのかい。お安い御用だよ。……うん、これは……上質な宝石だね。鑑定しなくても分かる」


 サクラから受け取った宝石を街灯の灯りの下、じっくりと観察してから商人は言った。


「ただ、買い取りは明日の朝、銀行が開いてからだ。銀行の前で待ち合わせしよう」


「承知いたしました。では明日の朝に、また」


 翌日の約束をして、三人は別れたのだった。



「ねえ。ちなみに、上級ポーションのお値段っていくらぐらいするの?」


「一本で五万ルネぐらいかしら」


「五万ルネ……?」


 異世界から来たサクラはいまいち感覚が掴めない様子だ。サクラの家はパン屋をしていると言っていたのを思い出して、ケイトは微笑む。


「そうね……百ルネで、小さなパンが一つ買えるわ」


「へえ……って! つまり! 円と同じぐらいの価値ってこと!? ……ねえ、それお代をもらっといた方が良かったんじゃない!?」


「いいえ。実際に使っていないものにお代をいただくわけにはいかないわ」


「真面目すぎ! でも、そんなところがケイト様らしくていいと思う! 清廉潔白な聖女! ヒーローがたじたじになるのも分かる! だって私も一緒にいるだけでドキドキするし!」


 サクラはまた妙なテンションになりつつも、周囲に気を遣っているのか、声は幾分小さかった。


 そうして話しているうちに、二人は一つ目のホテルに到着した。


「一晩、泊めていただきたいのですが」


「ああ。あいにく、さっき最後の一部屋が埋まっちまってね。この町にはホテルがもう一つあるから、そっちに行って見てくれるかい」


「「……」」


 ケイトとサクラは顔を見合わせる。


「おかしいなぁ。ゲームでは、ミシャの町で泊るところに苦労するはずはなかったんだけど。まぁ、途中で怪我人に会うなんて分岐もなかったんだけどね」


「もう暗いし、仕方がないわ。教えていただいたもう一つのホテルに行ってみましょう」


 サクラのぼやきにケイトは冷静に返答したものの、焦っていた。


(どうしよう。このままじゃ、聖女サクラ様を野宿させることになってしまうわ……!)


 案の定、もう一つのホテルも満室だった。


「あの、どこでもいいので、一晩置いてはいただけないでしょうか。このロビーや、倉庫などでもいいのですが。もちろんお代は支払います」


「それはちょっと……」


 食い下がるケイトに、受付の女性は困ったように眉を寄せている。


「全然いいよ? 一晩ぐらい野宿でも! 私、小さい頃キャンプとか好きだったよ?」


「いいえ、それはだめです! 先ほどの商人の方もドラゴンに襲われたでしょう。夜、外にいるのは危険ですわ」


 このミシャの町周辺は森に囲まれている。ケイトには町周辺の魔物が気になっていた。


「何か、揉めているのかい」


 背後から、しゃがれた声が聞こえたので二人はくるっと振り向く。そこにいたのは、丸顔のかわいらしいおばあちゃんだった。


「あら、エリノアさん。この子たちが宿を探しているみたいなんだけど、うちはもう満室で……」


 エリノアと呼ばれた丸顔のおばあちゃんは、困り顔の受付の女性、ケイト、サクラ、と三人の顔を交互に見る。そして、しわが刻まれた笑顔で、ニッコリ笑った。


「そうかい。じゃあ、うちに来ると良いよ。部屋は余ってるからね」


「えっ! ありがとうおばあちゃん!」


 サクラの大きな声がホテルのロビーに響いたのだった。


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[一言] しばらくはパン屋でスローライフ?(笑)
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