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どうしようもない転生  作者: 邪道
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第15話 catastrophe(3)

ブルーベリー食べて視力回復します

「報告させていただきます。


まず、ご存じの事かと思いますが、瞠慶がやられました。


それから、15歳以上の訓練生が全て死亡しました。


え~、後は…全部ですね!


勝手に絶望して勝手に行動したバカが100名以上死にました!


そんで、寺のあちこちに潜んで命を狙ってた教導師範が全滅。


残りは功名心に駆られて内部分裂、今もチビの女の方に殺されまくってます。


デカい女の方は、そこの道場で崇魁とやり合ってます」


幹部の頼灰が、親指で自身の背後を示す。


「そうですか、意外と早いですねえ。


まあ、暁青くんを倒したくらいですし、崇魁くんには荷が重いかな?」


「しかし奴の場合、2対1でやられました。


1対1なら、崇魁だってやるでしょう」


ツォンの眼が、一瞬ギラつく。


「…では、賭けましょうか」


「ええ、いいですよ。


今日の晩飯、奢ってくださいね」


そう取り決めた瞬間。


「やめとけよ!


どうせテメェらは晩飯なんて食えねえぜ」


部屋の扉を蹴破って、アニマが現れる。


その手には、赤黒い塊。


幹部師範・崇魁の、無残な末路であった。


「ほ~れ!今日の晩飯、奢ってもらいますよ」


「う…わ、分かりました。あんま高いの頼まないでくださいね」


「なに無視こいてんだコラァ!


テメェら、んな事言ってられる場合かァ?」


凄むアニマに、


「わ~ったって!落ち着け、チンピラのお嬢さん。


俺たちは祝勝会の話してんだから、ちょっと待ってろ!」


と事も無く告げる。余裕である。


「…そりゃ皮算用が過ぎんじゃねえの?


オレ、結構強いんだけど?」


「でも多分大丈夫でしょ、余裕余裕」


本気なのか挑発なのか分からない返しをする。


「…あのなぁ、ひょっとして、まだ立て直せるとか思ってんのか?


だいぶグダってんぞ、この組織!」


「だから大丈夫だって!立て直さなくたって!


また作りゃいいんだから、ねぇボス?」


ツォンは仰々しく頷いて、


「ていうか、もういいでしょう。組織はもう飽きました。


元々シミュレーションゲームにハマってた時に、ノリで作ったんですから」


と肯定した。


「自慢じゃねえがなぁ、うちのボスはせっかく作った組織もすぐ飽きて、全部暁青に任せちまった、筋金入りの三日坊主だぜ!」


「ホントに自慢じゃねえよ…。


ていうか、あれ?それじゃ戦う理由も無くない?」


これは、真理であるように思われた。


しかし、彼らは狂っていた。


「いやあ、でも、せっかくなので…」


「ああ、物のついでだ。遊んで行けや」


頼灰もツォンも、そのダブルのスーツに似合わぬ拳法の構えを取った。


「え、2人はずるくねえ?」


「お前らも、2人だろうが」


「…まあ、な。じゃ、いいか」


アニマが歩き出す。


そしてそのまま、握手でもするかのような気軽さで、頼灰の腕を掴んだ。


そのまま、渾身の力で握る。


「よっと」


「おろっ?」


しかしするりとすっぽ抜けた。


「そう難しいことじゃない。力の加減と、関節の動きでな。


しっかし、映像で見るより恐ろしいな、この腕力は…なァ!」


気さくに喋りつつ、不意に殴った。


アニマは、眼をしばたたかせてよろめく。


「行くぜ。死生拳・幻舞(げんぶ)


続いて、眼にも鮮やかな『気の爆発』。


拳に乗った爆発の威力は大したこともないが、眼がチカチカして意識が飛ぶ。


「う、おお、おおお?」


「こっちもお忘れなく」


不意に死角から、ツォンの打撃。


脳に効く、強烈なものを1発貰った。


(いかん、頭は守らないと…)


首筋に温かいものを感じる。


耳からの出血は、かなり危険だ。


脳は、不死身の彼女の唯一といっていい弱点。


(…でもなぁんか違うんだよなぁ)


あの、魔導ハッカーと戦った時の嫌な感じだ。


確かに死にかねないほどの相手ではあるが、なんとなく『勝てるんだろうな』、という感覚がある。


「あよいしょっと」


「げぼォッ」


ツォンの、重いのに素早い拳打。


腹に直撃し、呼吸を阻害する。


「さすがですボス!じゃ、俺も…」


思わず下がった頭を、待ち受けての膝蹴り!


「死生拳・闢鈷(びゃっこ)!ってかぁ!」


かち上げられた顔面に、肘の連撃が入る。


グラグラと揺れた頭部を抱え込み、更に膝蹴りの連撃、5発!


これは肘や膝などといった突端に気を込めて鈍器とする、極めて危険な奥義。


あくまで対人において、だが。


(めっちゃ痛いし、脳にも大分響いた。


でも即死には遠く及ばない。もちろん受け続ければ死ぬかもしれないが)


全身の筋肉を隆起させる。


「ッ!!」


頼灰は何らかの予兆を感じ取り、飛び退いた。


(ほら、この通り。


ちょっと暴れる雰囲気を出してやれば、向こうが勝手に警戒してくれる。


だってオレの力をまともに受けたら、即死するのはあっちだから)


そうして生まれた隙は、脳のダメージを回復させるのには充分過ぎた。


(どうもダメだな…つまらんくなってきた)


いっそのこと、抵抗せずにどこまで生きられるか、試そうという気分になっていた。


(そんで向こうが疲れたタイミングで、1発ぶち当てて殺す…)


その無抵抗さが、結果的に、アニマから殺気を消すこととなった。


そして、余計に警戒を生んだ。


「…?どうした、攻撃しないのか?」


「よく言う!下手に攻め入ったらたちまち殺されるだろうよ」


「は?」


「そのだらりとした構え…殺気をまるで感じない。見事だ」


この勘違いも、アニマの幸運のひとつであった。


(意外だが…技術も相当のものだというのか…?


今までの報告映像では、パワー頼りの女に見えたが)


頼灰は、己のボスの顔を見た。


暴力を振るいたくて仕方がないという、バカ丸出しの面である。


(コイツ何も考えてないんだろうな…)


「どうしました頼灰くん?早くぶっ飛ばしましょうよ!」


ため息をつく。


「あのね、凄いヤバそうな構えしてるの、見えるでしょボス?」


「でも、早く倒さないともう1人が来ちゃいますよ」


「そりゃあ、そうですが」


もう1人も、今まで情報網の端にも引っかからなかったにも関わらず、突如現れて暁青を倒した恐ろしい脅威であった。


「大丈夫、ヤツは今1000人以上を同時に相手している。


いくら強くても、1000人は無理です、絶対に」


「あれ、まだそんなに部下残ってたんですね」


その会話を聞きながら、アニマは、呑気に物思いに耽っていた。


(1000人相手は誰でも無理、って認識なんだな。


なんか強い魔法とか持ってる奴なら、ギリギリ行けそうな気もするけど…。


ま、そりゃ1000人はダメか。アイツも今頃、逃げ回ってんだろうなぁ)


それでもあれだけの強さだから、死にはすまい、とアニマは楽観する。


(戦力の判断基準として、『魔法使いかどうか』が重要視されてるのは分かる。


多分こいつらも、何らかの能力を持っているはずだ)


だがそれにしても、彼ら自身がどう勝算を見積もっているのかが気になった。


「アンタら尻込みしているようだから、ここらで質問コーナーといこう」


「休憩タイムね。いいんじゃないか?」


頼灰が探るような目つきで肯定する。


「ええ~休むんですか~」


不満げなツォンはさておいて、一つ質問する。


「オレは今日、200人以上殺した。


あるいは、生きてる奴もいるかもしれんが、200人は倒した。


なのでオレ>200人。


そのオレに、2人がかりなら余裕だと思っているアンタら。


つまりアンタら>オレ>200人って、考えてるんだよな?」


「まあ、単純計算ではそうなるな」


アニマはふと思う。


(ずいぶん余裕だなコイツら…。


オレの再生能力を知らないわけでもないのに、妙に落ち着いてやがる…。


時間をかけたら、ジリ貧になるのはあっちなのに)


普段はあまり考えずに戦っているが、一度考え始めると止められなかった。


「あのさ…お前ら奥の手とか隠してる?

だったらもったいぶらずに出してほしいんだけど」


「奥の手?…ふふ、さてな」


頼灰がニヒルに笑うと、続いてツォンが皺面で屈託なく笑う。


「ええ!ありますよ!」


「ボスさぁぁ!何で言うんだよぉぉ!!」


(コイツらイカレてんのか…?)


アニマはうなだれて溜息をつき、再び前を見る。


頼灰が目と鼻の先にいた。


「うわっ?」


視界が激しく揺れる。


後頭部に痛みを感じ、感じてからやっと、『自分は転倒させられたのだ』と気づく。


「おいおい、話の途ちゅ…」


言いかけるが、喉に打撃が入る。


「悪い、隙があったんでな?」


立ち上がる暇もない、2人の見事なコンビ攻撃。


「クソが…」


完全に思考の埒外からの攻撃で、混乱する。


「ボス、反撃させたらまずいですから、気を付けてくださいよ」


「分かってますとも、バッチリですよ!」


まさに息もつかせぬ乱打、抵抗不可の『拳の牢獄』である!


(お喋りに夢中で、ボーっとしてた…。


でも、アレだな。この程度じゃ死ぬほど痛いだけで、死にゃしない)


腕が折れたが、何の問題もない。眼が潰れたが、それがどうした。


(ダメだ、死ねない、この程度じゃ…)


もう、殺されてやろうか。


死んだところであの世に戻るだけだし、それも良かろう。


そんな思考がよぎった、瞬間。


「いくぞ、死生拳!」


胴体を貫通する突き!


主坐紅すざくッ!!」


内臓だけではない、背骨も震える衝撃!


(おお、これはなかなか…)


更に追い打ちのツォン、喉をえぐり取る拳だ!


ダメ押しに額への正拳突きを受けて、吹き飛んでいった。


「っし、決まったァ!」


「何とかなりましたね」


確かに、見るも無残なダメージ。


だが読者の皆様は、これが勝ち誇れるほどのダメージでないことが、分かっているはずだ。


「…よし、じゃねーのよ」


起き上がる、アニマ。


「ああ?」


「おやおや」


もううんざりだ、という表情。


へこんだ右目が形を取り戻し、腹の穴が消え、喉の傷が塞がる。


完全再生まで約10秒。唖然として動かなかった2人である。


「おいおい、嘘だろ!?」


「こりゃ凄いですねえ」


まるで、再生能力を知らないかのような驚きよう。


「…やめてくれよ、今更何に驚いてんだ…?


この期に及んで、知らねーはずねえだろ、アンタら…?」


もはや半泣きで、祈るように手を合わせて、問う。


だが、皆さんお気付きだっただろうか?


市中での襲撃、暁青との戦い、寺内の戦闘。


映像として残っていた戦いの中で、彼女は一度たりとも、再生能力を使っていない。


だから、知らないのだ、彼らは。


「…ビビッてンじゃねえよ、ザコ共がァ!!」


アニマが怒りに任せて振りかぶったパンチを、驚きの余り避けられず、ギリギリで受け流す頼灰。


「うおッ、死生拳・星柳せいりゅう!」


だが奥義でも受け流しきれず、右腕とあばら骨数本を犠牲にする。


「ててて…クソ、やられちまった…!」


「…『やられちまった』だァ?


ふざけんな、報告されなかったのか!?オレの能力について!」


「いや~、初耳ですねえ」


そう、まさに、呪わしい幸運だ。。


「…ふ~ざけんなよおおおおんもおおおおおおお!!


なんで、なんで、なんっで!ちゃんとやらせてくんないんだよおおおお!!」


地団駄を踏む。床が割れるほど。


「な、なんだぁ、コイツ…?」


「うがあああああああ!!」


頭を振り乱して暴れ、呻き、絶叫し、突然真顔になった。


「…よし、死ねよ」


不意の猛撃だが、既に平静を取り戻していた頼灰、今度はつつがなく避けおおせる。


「あぶねえあぶねえ!


なるほど、タネが割れりゃどうってこたぁないさ、ねえボス?」


「ええ、面白いですねえ!」


本気で面白がっているツォンに対し、頼灰の方は震えていた。


(こいつ、不死身か…?


いや、そんな生き物いるわけ…だが、事実あの回復っぷりは…!)


皆さんからすれば、彼女の再生能力も無敵ではないことは分かっている。


だが初めて目の当たりした頼灰の立場では、それは看破しようがない。


その焦りの滲む顔を、アニマは冷ややかに見つめた。


(…何じゃこいつら)


アニマは、暁青という久しぶりに勝てない敵に出合った。


それを従えるボスなら、魔王のように自分を追い詰めるほどの相手ではないかと考えていた。


だが実際は、ご覧の通りであった。


これは頼灰にとっても、衝撃をもたらす事実であった。


(何だ…遊んでるつもりが、このザマか?


笑わせるぜ…これじゃ幹部なんて名乗れねえな)


ツォンたちは、『アルビノの女』をこれまでで最も警戒すべき敵と考えていた。


だがそれでも、ここまで圧倒的に、生命体としてのレベルが違うとは思いもよらなかった。


(なんか強いですねえ。もう引くに引けませんし…どうしましょ)


自らが『挑戦者』であることを受け入れるには、彼らは強すぎた。


〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.59【崇魁】

霊拳会において『最強』の名をほしいままにする幹部の1人。

彼の持つ『黒忌拳』は、特殊な気によって触れた個所の細胞

を壊死させる効果があり、超再生能力でもない限り手足を奪

われて嬲り殺されるだろう。

その特殊な『黒い気』は、骨を通り抜けられないため、頭蓋

に守られた脳だけは壊死させられないが、大した問題はない。

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