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どうしようもない転生  作者: 邪道
27/62

第7話 Empty(4)

ドリル犬

芽生えていた苦悩をガヤルドに指摘され、激しく動揺するアニマ。


ペースを乱され、アビゲイルも戦闘不能になり、自身も追い詰められる。


しかしッ!彼女は自分という存在に失望することで、苦悩を克服する!


…克服したのだッ!


今、死なぬ身体と死せる心を持つ、ニュー・アニマが立ち上がる!


「と、いうわけで。死んでもらうぞ、オッサン!」


「殺したらいけませんよ!捕まえて尋問するんですから!」


唐突に聞き慣れぬ声!


「おお、会長さん!下りてきたんだ」


生徒会長であった。アビゲイルを介抱しているようだ。


「そいつ生きてんの?」


「…あ、はい。か、辛うじて、ですけど…ゲホッ!」


「こらこら、喋らないでください!」


本来なら死んでいるはずの重傷だが、不死の術を自分にかけ、延命したらしい。


「全く、私がいなきゃ死んでますよ!」


会長はアビゲイルの傷口に手をかざし、治療しているようだった。


その様子を見たガヤルドは、


「ほおー、会長殿は治癒魔法を使えるのですか!」


と呑気に言った。


「何だぁ、そんなに珍しいのか?」


これまたアニマも呑気に聞いた。


「おや、知らないんですか?現在治癒魔法を使える人間は、私を含めて世界で5人しかいないんですよ。

…もっとも、公式な記録ですから、ホントの所は分かりませんけどね」


平穏な会話の雰囲気に流されかけて、ハッとする。


「おっと!こんな会話をしてる場合じゃなかったな。

おい、続きを始めようぜ、オッサン…」


ふとガヤルドの方を向いたアニマの視界を、闇が覆った。


「ほへ!?」


『影』である。ガヤルドの、魔法による目くらましだ!


「すまんな!右腕が使えないと、さすがに無理だ!

勝負はまたにしよう!じゃあな!」


声は既に街灯の上に移動していた。脚力だけで飛び乗ったらしい。


「はあ?…そっちから喧嘩吹っ掛けといて、勝手だなあ」


そうは言うが、追いかけるつもりはない。


数分前の彼女ならムキになって追いかけていただろうが、今となってはどうでもいいことだ。


「あ、待ってッ…」


そこで治療を受けていたアビゲイルが立ち上がり、ナイフを投擲した。


「むぐッ…!」


強力な麻痺毒を塗った2本のナイフは、右大腿部と左肩に命中する!…が。


「ぬうう!すっごい痺れてしまう!」


そう言いつつ、街灯の上を飛び移っていく。


「あいつ凄いなあ」


「こりゃダメそうですね。ご苦労様です、お2人とも」


会長は諦めの境地でアニマとアビゲイルを労う。


(あの男、中々できますね。呑気な様子で話しかけて、雰囲気を弛緩させた所で一気に逃げるとは)


会長の考察は、まさに当たっていた。油断ならぬ男である。


と、その時、当の本人が振り向いて、


「おお、そうだ!拙者を追い詰めてくれた礼に、ひとつ教えてやろう!

拙者をこの島に引き入れたのは、お主らと同じくらいの『学生』であったぞ!」


また向き直って、街灯の上を逃走していった。


「…ま、収穫はありましたね」


会長はため息をつき、アビゲイルに肩を貸しつつ立ち上がる。


「うわっ、血と汗がもう…すっごいですよ!

しょうがない。近くの寮で、ひとっ風呂浴びていきましょうか!

…ほら、ええと、アニマさんも!」


確かに、ここ数日風呂に入っていない。ここらでスッキリするのも良かろう。


「ああ、その寮ってどこだ?勝手に行くから、話を通しておいてくれ」


「そんなぁ、どうせ一緒の風呂入るんだから、一緒に行きましょうよ」


アニマは、妙な違和感を覚えた。


「…そりゃ、建物は一緒だけどさ。浴場は別だし、いいだろ」


「ええ?女用の浴場は1つしかありませんよ?」


固まる。


「おん…な」


「私たちは女でしょうよ!」


会長は、自分とアニマの乳をわし掴んで言う。


「…あっ、そっか。そうだな!一緒だ!

あっ、あっ、やっぱいいわ!風呂は遠慮しとく!」


慌てて前言を取り消すアニマ。


「何言ってんですか、水臭いですよ!

あと身体も臭いです。風呂、入りましょう!」


「いや、いいって!まじ、そういうの、苦手なんだ!」


心は死んだが、それはそれとして羞恥心はあるのだ。


(いいか、オレは男なんだ。いくら身体が女でも、それはまずい!

精神的には覗きと一緒だ!)


とはいえ、それを口に出すわけにはいかぬ。


「…無理強いはいけません、会長。

こう見えて、きっと、内面は乙女なのかも…」


「あ、そうなんですか?」


「いや、むしろ真逆というか何というか…。

とにかく!風呂には行かねえからーッ!」












『で、結局断っちゃったんですか?もったいない』


「しょうがねーだろ!さすがに平然と同じ浴槽に入る訳には…」


『…童貞のくせに』


「どどどど童貞ちゃうわ!その、あれだ、純潔なんだよ!」


錯乱した発言だ。


『…それにしても、今日は随分とテンション高いですね。今までで一番かも』


「あ?…まあな。色々思う所が…無くてな」


『無いんですか!?』


「思う所も無いから、悩む事も無いのさ」


これは純然たる本音であった。


彼女が苦悩することは、もう無いだろう。


『…それにしても、お風呂は入っておくべきでした!

いくら美少女でも、くっさい奴は嫌われますよ~?』


「まだ引っ張るのかその話!いいよ、誰もいない時に寮の風呂借りるから!」


『どうせ心はそのうち女の子になっちゃうんですから、いいじゃないですか』


「そりゃあ、そう…ん?え、何?今なんて?」


聞き捨てならぬ台詞である!


『いや、だから、心はそのうち女性的になっていくんですよ。

ま、アニマさんはもう悩む事も無いそうですから、どうでもいいでしょうけど…』


「全然よくないんですけど!?

…え?マジで?乙女になっちゃうわけ?」


なよなよ歩いたり、殴られて『いやん』とか言ってしまうのだろうか。


想像しただけで気色が悪い。


『想像力が乏しいですねぇ、さすが童貞』


「やかましいわ!

…ああ、嫌な事聞いちまったなぁ…」


せっかく迷いを忘れたのに、新たな心配が持ち上がってしまった。


「今日から、早めに寝よう。そんで、忘れよう!

…じゃあ、神様!おやすみ!」


『はいはい、おやすみ』


彼女はその夜から、夢を見なくなった。












さて、ところ変わって、ある国のある都市、ある屋敷。


6人の男女が、部屋の灯りも点けずに顔を突き合わせている。


彼らは、それぞれ6つの邪悪な組織の長たちであり、この会合での決議こそ、世界の動きを決するものなのである!


…とは言うものの、今回は、いささか雑談に流れ気味であった。


「あの~、私の食客に、ガヤルドという武芸者がおりましてな」


「ええ、知ってるわ。教団の狂犬でしょ?

…あら、今は教団を追い出されたんだっけ?」


話題は、あのガヤルドの事である。


「ええ。それで、しばらく外出していた彼が、今日戻ってきまして。

そしたら、彼の右腕がぽっきり折れてまして、はい」


紳士風の男がそう言うと、話し相手の女が目を見開く。


「ぽっきりって…怪我をしてたってのかい?あのガヤルドが?」


「左様です。もう、完全にボキッと、いや、ぐにゃっとかな」


女は呆れたように、


「嘘でしょお、あのオッサン、殺したって死ななそうな面してるわよ」


「ですから、生きてます。


もっとも、『もう少し撤退が遅かったら死んでいたかも』と言ってましたが」


「あのオッサンにそこまで言わせるとはねぇ!で、相手は誰だったの?」


「学園に侵入していたみたいです。


そこでノワーリエ家の令嬢に鉢合わせたようで」


女が首を捻る。


「1対1で、女の子に負けたって?そんなわけ…」


「ああ、いえ!

もう1人、『アルビノの女』がいたそうで、そっちに腕を折られたと」


「!!」


この言葉で、会話に参加していなかった4人が反応した。


1人は黒い能面を被った男、


1人はメタリックな質感のゴリラ、


1人は頭部が無く、8本の腕にそれぞれ8色の頭蓋骨を持った男、


1人は角と尾が生え、目に光の無い少女である。


「…アルビノの女ですか?」


黒い能面が喋る。


「ええ。髪が白くて、眼が赤い女だそうです。

怨勒さん、何かご存じで?」


この能面の男は、傭兵集団『封魔忍軍』の長、封魔怨勒(おんろく)という!


「むしろ知らないのですか?…あの、噂を。

お前は知ってるだろ、ゴリアテ」


メタルのゴリラに話しかける。


「ウホ。ウホウホ!…ウホ?」


このゴリラはゴリアテ。強力な獣人だが、獣の血が濃すぎてほぼゴリラだ。


もっとも、知能は高く、今の言葉も人間のものに直せば、


『ああ。だがあくまで噂だろ?…マジでいるのか?』


という意味になる。


そのゴリアテに答えたのが、8つの腕の首無し男だ。8色の内、赤い頭蓋骨がケタケタと声を発する。


「ビビッてんのか、ゴリアテ!OKOK、このアーリマン様に任せときな。

すぐにその女の死体持ってきてやっからよ!」


この奇妙な異形の男は、魔神アーリマン。彼については、今はあまりご説明できないことをお詫びする。


「騒がしいわよ、あなたたち。品性が伺い知れるわね」


そして全員をたしなめたのが、角と尾の生えた少女。ヨトゥンである。


「全く、『アルビノの女』だか何だか知らないけど、所詮は都市伝説。

殺害された人間や場所に共通点は無いんでしょ?」


そりゃそうだ。アニマは、神の命ずるがまま殺しているだけなのだから。


「別々の事件を勝手に結び付けてるだけで、たぶん何の関係もないわ。

それより、Mr.ツォン、Ms.ガルーダ!」


最初に話していた紳士風の男と、相手の女のことだ。


「ここは小学校の教室ではないのよ、無駄なお喋りはやめてほしいわね」


女が鼻で笑う。


「ええ、そうね。教室はこんなに暗くないもの。

…電気が止められてなければね!」


この部屋は、ある屋敷の一角にある。この屋敷は、彼らが密談を行うためだけに用意されているのだ。


「この屋敷は、月ごとに当番制で家賃や光熱費を払うって、最初に決めたわよね?

…今月の当番は誰だったかしら?」


「うっ」


ヨトゥンは、眼を逸らした。


「Ms.ガルーダ、過ぎたことを責め立てるのは感心しないわね…」


「忘れてたんでしょ、当番!」


有無を言わせぬ断定口調だ。


「…まあ、その、何というか…」


言葉に詰まる。


その様子を、他の3人は気の毒そうに見守る。


だがアーリマンだけは、密かに期待していた。


(さァて、ガルーダ姐さんのキツーイ責めだ。

開き直るか、素直に謝るか…どちらにしても、株を下げることになる。

組織の長としての器量が問われるぜ)


ヨトゥンはとある組織の2代目であり、この会議に参加するのはこれで3回目。


そろそろ失敗のひとつもやらかすのではないかと、話題になっていたのだ。


(ここでどう出る?お嬢ちゃん)


視線を一身に受けたヨトゥンは、やおら立ち上がる。


「…どうしたの?謝罪する気になった?」


「…ええ」


謝罪を選んだらしい。


だが自分の非を認めることは、相手との上下関係をつくる事にもなりかねない。


組織を背負う身として、立場を下げずに謝ることができるか…?


そこでヨトゥンは、自らの頬に指を当てて、言う!


「ごめーんねっ♪」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


そして、顔を真っ赤にして俯いた。


アーリマンの8つの頭蓋骨が、同時にゲタゲタ震える。


「可愛いっ!自分でやって恥ずかしくなる所まで入れて可愛い!

姐さん、許してやれ!」


アーリマンのこの弁護には、確かな説得力があった。


「ウホ。ウホウホ(ああ、あまり子供をいじめるものではない)」


ゴリアテは女子供に優しい。


「恥ずかしくなるなら、やるなよ…」


怨勒はいつでもクールだ。


「それよりガルーダさん、私の眼鏡はどこでしょう?」


ツォンは人の話を聞かない。


「…頭に乗ってるわよ」


ガルーダが答える。


「お?おお、本当ですな」


その間抜けな様子にため息をつき、ついでにヨトゥンを窘める。


「…まあ、いいわ。次からは気を付けなさい」


「ええ。気を付けます!」


そして話題を変える。


「で、『アルビノの女』の話だったわね!


何にせよ、学園に白い髪と赤い眼を持つ女がいるのは事実よ。


噂の女と同一人物かどうか…ちょっと気になるわね。ツォン!」


「はい、何でしょうか?」


「ガヤルドのオッサンはどうやって学園に入ったの?」


「はぁ。何でも、手引きをしてくれる方がいたそうで」


「へぇ?ちょうどいいわ、1人くらいなら簡単に潜り込めそうね」


そう言って、ガルーダは薄笑いを浮かべた。


学園の平穏は、まだまだ遠そうだ。


〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.28【ガルーダ・スメラギ】

アマツガルド帝国に拠点を置く麻薬カルテルのボス。

むやみやたらとセクシーなことで有名。

20代の頃は人間の頭をかち割る仕事をしていたが、ある日麻薬密売の黒幕を

かち割った時、大量の麻薬を入手し、それ以来麻薬を売りさばくようになった。

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