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どうしようもない転生  作者: 邪道
25/62

第7話 Empty(2)

ふごふご

柱に縛り付けられた男に近づく、アビゲイル。


ナイフを取り出し、これから残虐な拷問を始めようというのか…?


しかし、アビゲイルはその刃を、なんと心臓に突き立てた!


「うがああああああッ!」


「うわっ、殺すの!?」


「は~い、あなたは死にま~す。でも、それは3分後で~す」


男に語りかけるアビゲイル。


「いや、3分どころか今すぐ旅立っちゃいそうな顔色してっけど…」


「そうでしょう?でも、大丈夫なんです。少なくともこれから3分間は」


「は?大丈夫って…」


「これから3分間、彼は何をされても死にません。心臓を抉られようが、首をもがれようが、絶対に」


彼女はいったい何を言っているのか!?それだけされればアニマでも死ぬ!


「なあ、不死身歴半年のオレが言うのも何だけどさ、例えそいつが不死身の力を持ってたって、さすがに死ぬと思うわけ。

割と簡単に死ぬからね、不死身って」


「ノンノン!彼ではなく、私です!力を持っているのは、私」


そういう事だ。ズバリ彼女の魔法は、付呪術!


3分間のみ有効な、『不死』のエンチャントを与える能力!


「私の力を与えられた彼は、正真正銘の不死身ィ!

だ・か・らァ~、例えどんなに酷い事されてもぉ~」


そう言いつつ、腹部にナイフを突き刺し、そのまま横一文字に切り開く!


「うあっ、あああああッ!」


「ほら、死なない。面白いでしょ?お兄さんもそう思うよね?

…そんな顔しないで?私だってホントは仕事抜きで楽しみたいのです」


男は金切り声をあげつつ頭を振り乱す!


「あらあら、あなたの腸は血色がいいですねぇ。

あっ、血まみれだからか!アッハハハ!イッヒヒヒヒ!」


「…ううっ。なんて」


酷い、と言おうとした。事実、酷いと思った。


が、この凄惨な現場を見てもなお、吐き気さえ感じない自分に気づいて、やめた。


(これはグロいぞ。ああ、酸鼻を極めている。あんまりだ。ひどすぎる)


だが、心は凍土めいて、冷たく平らかだった。


(なんでこんなん見て、澄ました顔してんだオレは!

…ち、違う、違うぞ。オレは断じて狂ってなんかいない!

見てろよ、その内吐き気がこみ上げてゲェーッと…)


だが結局、アニマは3分間、拷問を見つめただけだった。


「終わりました。…じゃあ、あの、帰りましょう、か…?」


再び歯切れの悪い口調に戻った。


「あー…うん、そうだな」


特に動じた様子もなく返答したアニマだが、内心は平静とは言い難かった。


(…何普通に答えてんだよ!『こんな事して楽しいか?』って、ドン引きしながら言うんだろ!?

それがマトモな奴の反応だろ!!)


だがとうとう最後までその言葉は出なかった。その代わり口をついて出たのは、


「…お前さ。どうして、人殺しになったんだ?」


素朴な疑問であった。


これを受けたアビゲイルは、少し驚いた様子で、


「えっと、元々そういう人間だったというか…何というか。

す、すみません。あんまり、そういうの、聞かれた事なかったので」


「あ、触れられたくない感じ?」


少女は激しく首を横に振って、


「いえいえ!…ただ少し、驚いて、しまって。

私の『これ』を見た人は皆、『異常だ』とか、『狂ってる』とかおっしゃることが多いので…」


その寂しげな表情を見た時、さっきドン引きしなかった自分を、少しだけ褒めてやりたくなった。


(ま、こんな性癖持ってるやつが、周りと仲良くできるわけないしな…)


狂気を生まれ持つ人間の孤独は、余人には測りがたい。


そして、気付く。


(同じなんだ、オレも。この世界で1人きりだ。


オレが『別の世界から来た』ってことを知ってんのは、この世界でオレ1人だけ。

ってことは、オレが事実を言ってるかどうか、証明できねぇって事だ。

だったら、狂った妄想と何が違う?)


そう考えた瞬間、アニマは、足元が崩れ去る感覚を覚えた。


「ど、どうしたん、ですか?顔色、悪いですよ?」


アビゲイルの声で我に返る。


「あ、いや、なんでもねぇ。大丈夫だ、本当に」


「そ、そうですか?

…じゃあ、帰りましょうか」


そそくさと死体を片付けだすアビゲイル。


「あれあれ、収まりませんね。…仕方ない、よいしょっ!」


用意していたキャリーバッグに入らないので、死体の肉と骨を破砕し始める。


(…いや、やっぱ全然違うわ。オレにはあんな事できねえもん)


唖然として見つめつつ、思い直した。









「なるほど、彼らは暗殺教団の一員でしたか」


「はい。リーダーらしき人物に聞いてみた所、その、彼はただの部隊長だそうで。

有望な生徒を拉致して、教徒に仕立て上げようと、してたみたい、です」


学園内、生徒会会長室。そこにいるのは、会長含む3人の女である。


「よくそこまで聞き出せたものですねえ、どうやって…。

…いえ!方法はおっしゃらなくて結構!」


会長はアビゲイルの『手口』を熟知しているらしく、詳細な報告は求めなかった。


「…で、あの~…。そちらの方は?」


「あ?学園長のジジイから聞いてねえか?」


アニマは意外そうに答える。


今や学園の実質的な経営は生徒会が担っており、当然知っていると思っていたが…


「いいえ?…あ、学園長のお知り合いなんですね!」


「ああー…。まあ、そんなとこだ」


「ええと、仕事にご協力いただいたみたいで、ご迷惑をお掛けしました。

初めまして!私はこの学園の生徒会長、カシマール・ヴィエトです」


差し出してきた手を、アニマは一応握った。


「はぁ、ご丁寧にどうも…」


改めて会長の顔を、まじまじと見つめる。


ゆるいカールのかかったブロンドの長髪に、整った顔立ち。そして、尖った耳。

お察しの通りエルフだが、今はそんな事どうでもいい。


「あの、ちょっと聞きたいんだけどさ」


「はい?」


「生徒会ってのは、島の治安維持までしてるわけ?

そういうのは、ほら、普通大人がやることっつーか…」


カシマールは頷いて、


「まあ、元々はそうだったんですけど。色々事情がありまして」


「で、拷問までしちゃうわけ?正直な話、これ、違法だろ?」


「この島はどの国の領土でもありません。『校則』が全てに優先される。

そしてその校則において、生徒会はこの学園を守る義務があるからです」


決断的な言葉だ。


そして、違法である事自体は否定していない事から見て、どうやらアビゲイルの『仕事』は隠蔽されているらしい。


「いやいや、でもさ。オレの殺人に関しても、お咎め無いわけ?

いくら不法侵入者とは言え、殺しちゃったわけだしさ」


「まあ、いいんじゃないですか。生徒のためですし」


平然と言うカシマールの眼に、迷いの光は無かった。


(これも1つの狂気、ってやつか)


自分と重ね合わせてみるが、よく分からなかった。


「報告が、終わりました。帰りましょう、か」


「ああ、分かった。じゃ、そういうことなんで」


「ええ、お疲れ様でした」


そのまま何事もなく退室、校舎を出た2人であったが、陽はまだ高い。

「あ、あっ、まだ9時なんですね」


「ん?まあ、会ったのが朝早かったからなぁ」


「そ、そうですね…。あ、あのっ!」


「…何?」


それきり口を噤むアビゲイル。


「どうした?なんで黙ってんの?」


「あ、え、ええと…。せ、せっかくなので、2人で遊びませんか!?」


顔を真っ赤にして言う。


「その、『遊ぶ』ってのは『戦う』っていう…」


「そそそそうじゃなくて!普通に!一緒に!

あ、い、嫌なら別に、全然断っていただいてもっ…!」


うるんだ眼を泳がせながら、必死にまくし立てる。


(こう見ると、かわいいんだけどな…。狂人でさえなければ…)


まあ、ちょっと暗い気分だった所だし、気晴らしに遊ぶのも良かろう。


「いいけど、何すんの?」


「は、はい!えっとですね、えっと…」


また無言になった。


「な、なんだよ!」


「…と、友達と、遊んだことがないので…思いつかない、です」


恥じ入るように俯く。


「何だ、そういう事か!だったら、オレが…」


アニマにも、そういう経験は無かった。


「…」


「…」


気まずい沈黙が空間を支配する。


「すみません、私が、言い出しっぺなのに…」


「いや、別に…。こっちこそ、何か偉そうにして、ごめんね…」


見かけや態度は正反対の2人だが、友達がいないという所は共通している。


「何か…どうする?」


「どう、しましょう?」


校舎前に立ち尽くし、黙って俯く2人。


「あ、じゃあ、オレは、これで…」


「そ、そうですね!…ホント、すいません」


お互いに曖昧な笑みを浮かべる。


このまま別れて帰ろうとした、その時。


「待たれい。ノワーリエ家のご令嬢とお見受けしたッ!」


野太い大音声!


「は、はい!?…どちら様、ですか?」


「拙者、ガヤルド・ヒッテンボルクと申す者ッ!仲間の仇を取りに来たッ!」


屈強な偉丈夫!


ギリシャ彫刻めいた筋肉バランスと、仏像めいた立ち姿!


見るからに只者ではない!


その上、いくら休日とはいえ、こんな明るい内に、しかも生徒会の本部がある校舎の前で、クソでかい声で宣言するとは、やはり狂人か!?


「あのぉー!校舎の前で騒がないでいただけますかぁー!」


案の定、校舎3階の窓が開いて、会長が顔を出す。


「失礼ッ!生徒会長殿、あなたも後で殺しに行くので、そこでお待ちをッ!」


「あ、はいー!お待ちしてますー!

あっ、学園長の知り合いの方!手伝ってあげてください!」


唐突な指名!こっそり帰ろうとしていたアニマは、うなだれてため息をつく。


「あ、はい…。

おい、オッサン!2対1だが文句はねえな?」


「うむ。もとより目撃者は全員殺すつもりだったので、ちょうど良い!」


男の背後の空間が揺らぎ、影めいた人型の何かが大量に湧き出した。


「では、白髪のあなた。この『影の兵士』の相手をしてもらおう」


この男、ガヤルド・ヒッテンボルクの魔法は、自らの影から兵士を生み出す能力!


兵士は自立して行動し、敵を殺すまで止まらない!


「いいぜ、相手してやる。

…なあ、アビゲイル!」


「な、何ですか?」


そう言って振り向いたアビゲイルの口元は、僅かに吊り上がっていた。


「やっぱり、『遊ぶ』は『戦う』って意味だったらしいな」


「…みたい、ですね。私には、普通の喜びなんて望むべくもないようです」


背中に隠した2本の棒を取り出し、連結させて槍にする。


「さぁ!皆で遊びましょうかぁ!イヒヒャハハハハァッ♪」

〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.26【カシマール・ヴィエト】

公式には世界で5人しかいないとされている、『治癒魔法』の使い手。

エルフの里で育っていない、珍しいエルフ。

生徒会長になって以来、その強引な手段で、多くの『害悪』を密かに葬ってきた。

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