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どうしようもない転生  作者: 邪道
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第6話 lunaticus(下)

暗黒の尻

「貴様ら…我らの同志を殺したな?」


「悪いが生かして返すわけにはいかん」


教師1人・生徒1人を囲む男たち。10人ほどいる。武装、技術ともに充分であり、本来なら対処できる相手ではない!…だが、彼らとてただの教師と生徒ではないのだ!


「テメェらも学ばねえな!とっとと逃げればいいものを…」


正確に言えば、彼女は教師ですらない!正真正銘の殺人者だ!


「まあ、死にたきゃ好きにしたらいい。正直言ってオレはウキウキしてんだ」


「そうか。ではそのまま死ね」


ナイフが飛んできて、女の心臓に突き立った。


女はキョトンとして、ぱたりと倒れる。


「バ、バカもの!なぜ避けぬのだ!片付ける死体が増えたではないか!」


レルムがギョッとして言った。


だがアニマは平然と上体を起こし、胸に突き刺さるナイフをじっと見つめて、


「うおッ、びっくりした。はあ?ちょっ、マジで、痛ったー…」


それを引き抜き、握り潰した。


「ほほう!面白い特技だのう!死なぬのか?」


「まあ、完全に不死身ってわけじゃないけどな」


しかし男たちも優秀な戦士だ。驚きはしたが、士気が下がることはない。


「…よかろう」


ある者はナイフを取り出し、ある者はボウガンを向ける。


レルムは不快そうに言う。


「おうおう!ここは学び舎ぞ?かように下品なものを持ち込むでない!」


「…あー、まさかそのオモチャでオレとやりあうつもりか?」


「ああ、少なくとも貴様を殺すには充分だ」


アニマの化け物じみた能力を見てもそう言えるのは、未熟が故か、練達が故か。


「…行くぞッ!」


襲い来るは、極めて巧緻な殺人技術!


腹を刺されながらも反撃しようとするが、素早く離脱される。


「痛って!このッ…ちょこまかと!」


喉を裂かれ、内臓を切り刻まれ、背中を削がれる。


彼女に再生能力が無ければ、3度ほど死んでいただろう。


「痛い痛い痛い!もう、やめっ…んもう!」


刃物を回避すると、そこに矢が飛んでくる。構わず突き進むと、軽々と躱される。

連携においては今まで戦ったどの敵よりも精密だ!


「クソッ…そっちは大丈夫かァ!?」


「うむ。自分の心配をしておれ!」


突きを躱して肘打ちを叩き込み、気絶した敵を盾にしつつボウガン使いに近づく。


「うおおッ!?く、来るな…」


「騒ぐな下郎!」


ボウガン使いを組み倒し、反撃を許さぬ鋭い当身!続く援護射撃をバク転で躱し、射撃者を殴り殺す!修羅の如き戦いぶりだ!


「おい、ボウガンとか拾って使えよ!」


「断る!武器なぞ野蛮極まりない!」


レルム自身の主義として、決して武器は使わないことにしている。


貴族として、優雅でありたいからだ。素手こそ貴族にふさわしい。


「どうした先生よ!余裕がないなあ、もっと楽しめ!」


「うるせえなあ!」


はしゃぎまくるレルムと比べて、アニマは敵に翻弄されて疲弊していた。


それも無理はない。彼女は化け物じみたパワーとスタミナが売りである反面、技術においては素人同然!


彼女の悪い癖なのだ。格下の相手に侮ってかかり、その度に後悔する。


(これは、ひとつ教訓だな)


どうせ次の日には忘れているのである。


「ああッもう、クソォ!…ガキィ!どいてろォ!」


ついに痺れを切らし、アニマが叫んだ。


「な、何だと?キサマ、貴族に向かってよくも…ゲッ!」


敵勢は嘲笑うように、


「素人め。お前ごときが何をしようと…うっ!?」


次の瞬間彼女が取った行動は、その場にいた全員の度肝を抜いたッ!


「ドオオオオオオオルルァァァァッ!!」


絶叫とともに木を1本、片手で引っこ抜いたのだッ!


木といっても、街中に植えてあるようなものとは、高さも太さもまるで違う!


「オレは使うぜェェェ…『武器』ィィィ…

この棒きれ、とっても軽くって振り回しやすいからよォォォォ!!」


「ま、待て…!何だそれは、人間のやることではないぞ!?」


大きく横薙ぎ!直撃した敵はことごとくバラバラになって吹き飛ぶ!


「ぼがッ!?」


「くぺっ!」


「ほォ~ら当たったァ!もういっちょォ!」


「な、何という…おごぉッ!」


アニマが木を振り回す度、他の木々が倒壊して巻き添えを生む。


竜巻に関節技を仕掛けても意味がないように、キレた彼女の前では技術などクソの役にも立たない。


「おらァ!おらおらどうしたァ!来やがれ雑魚どもがァ!」


「クソッ、化け物め!退け、退けっ!」


アニマ狂乱!災害を前に、さしもの熟練者たちも逃走せざるを得ない!


行きはよいよい、帰りは恐い。結局退却できたのは、2・3名のみであった。


「…おらァ、どうだァ…ハァ、ハァ…すっきりしたぜェ!」


怒りが収まり、木の重量を思い出す。


「うわっ、重っ!」


木を地面に投げ出し、帰ろうとして…とどまる。


「あっ、そうだ忘れてた!…レルムくぅ~ん!息してるかァ~!」


「しておるわ!」


突如地面からキノコの如く出てきた。巻き添えを食わぬよう、土の中に隠れていたらしい。


「いやぁ、げに恐るべき力だのう!久々にいいものを見られたわ!」


「暴れたら疲れた…あっ!」


そういえば少女を1人置き去りにしていたことを思い出した。


「え~と、アビゲイルだったっけ?」


「…ひょっとして、置いてきたのか?」


アニマが、はにかんだ。


レルムが、青ざめた。


「…早く戻るぞッ!」


「な、何をそんなに慌ててんだよ!待てって!」





レルムがアニマを尾行している間、アビゲイルは1人で待っていた。


飽きもせず、無言で木を見つめ続けていた。


「…」


1時間以上は待っていただろうか。『そいつ』は、森の奥から突然現れた。


「おお?何だ君は…この学園の生徒か?」


アニマがこの男の姿を見れば、『襲ってきた奴らと同じだ』と言っただろう。


実際その通り!アビゲイルの目の前に現れたこの男こそ、襲撃者たちの首領なのだから!


「…はあ、まあ」


「そうか…君の他に生徒はいるかな?」


「…はあ、まあ」


「要領を得ないな、いるのか、いないのか?」


ナイフを取り出しながら、近づいてくる。アビゲイルは未だ動かない。


「今ここにはいませんけど。他に2人くらい、同じ班の人が」


「ああ、それなら知っているよ。部下が丁重にもてなしている。彼ら以外にはいないってことだね?」


「…あ、いや…まあ、そういう事でいいです」


既に間合い。男の手には凶器が握られているが、アビゲイルに動揺は無い。


「じゃ、もういいか」


「はあ、まあ」


不意に突き出されたナイフを、わずかに身を逸らして躱す。身体を密着させて足払いを仕掛けると、脛で受け止められた。


「おやおや、やるもんだねぇ。流石ノワーリエ家の一人娘だ。鍛錬は相当に積んでいるらしい」


アビゲイル・ノワーリエ。彼女の本名を知れば、誰もが恐れる。それだけ高名な暗殺者一族なのだ。


「…よくご存じで」


「とは言え、今の君たちは訓練を続けているだけの家系だ。違うかね?」


まあ、この現代において暗殺などという生業が許されるはずもないので、仕方ないと言えば仕方ない。


「実戦を積まぬ鍛錬は思い上がりを生む…そうは思わんか?」


「…ん」


アビゲイルは華麗にバク転して距離を取ると、背中に隠された2本の棒を取り出した。


「君の得物はその棒かね?」


「そんなとこです」


そして2本の棒を連結させて捻ると、先端から刃が出てきた。


「なるほど、槍か!」


「そうですね」


刃は当然、皮膚を裂き肉を貫く切れ味を持つ。殺傷力は充分にある。


(まんざら実戦経験が無いわけでもないらしい)


一切の躊躇がない鋭い突きからは、確実な殺意を感じ取ることができた。


「…だが、ここだ!」


切っ先を蹴りで逸らすと、首筋めがけて切りつけた。


「うおっ、びっくりした」


槍はリーチの長さが何よりのアドバンテージである反面、防御に回ると扱いづらい。

その隙を衝いた見事な奇襲であったが、素手で払われてしまった。体術も相当に鍛えられているようだ。


「結構!大変よく出来ました!…でもね!」


突然男の全身から煙が噴き出た!


「ッ!?」


生まれた一瞬の隙に乗じて、側頭部へハイキック!


「うわっ…」


体格差も手伝って、アビゲイルは軽くすっ飛んでいった!


「どうだい、私の魔法は?ショボいだろ?だからここぞという時だけ使うようにしているんだ」


ベラベラ話しながらも、男に油断は無い。素早く走り寄り、とどめの追撃を…


「…かはッ!?」


アビゲイルが倒れた姿勢から突き出した槍の穂先は、男の喉を寸分の狂いも無く貫き潰していた。


「…煙に目を慣らす訓練も積んでおります。実戦で使用したことはありませんでしたが。貴重な経験をさせていただきました」


「ご、ひゅ、ふう…」


男が喋れなくなった途端、よく喋り始めるアビゲイル。


「痛いですか?」


喉を繰り返し抉る。


「質問に答えてください。痛いですか?」


男は必死に頷く。頷く度に傷口が広がる。


「うふ、うふふ…そうですか、痛いですか!」


退屈そうな仏頂面が、満面の笑みに変わった!何たる豹変か!?


「ああ、それでェ?どういう風に痛いですか?」


「ごぼッ、あがッ、げぼぼォ」


喋れないと分かっていて質問しているのだ。


「痛かったら手を上げてくださいねェ~」


そして両手を切り落とした。何たるサディズム!


「アヒ、アヒヒ!苦しいでしょう?でも、これは正当防衛です!全部貴方が悪い!」


男の胸元に顔を押し付けて、大きく息を吸う。


「アアーッ!発汗していますね、いい臭いです!ご存じですか、汗には感情が現れるそうですよ!貴方の汗からは恐怖の臭いがします、とても興奮します!」


この狂気的趣味を、木の陰から眺める人間が2人。


「…う~わ。うわうわ。うわうわうわぁ」


「ふむ、やはり1人にするべきではなかったな」


アニマとレルムである。レルムは、興奮して頭を振り乱すアビゲイルに呼びかけた。


「お~い!相変わらず陰気な趣味だのう、貴様は!」


「!!」


アビゲイルは振り返った。その表情は、既にいつもの無表情に戻っていた。


「…あ、先生。お帰りなさい」


「で、どうする?そろそろ2時間経過するぞ」


「え?…ああ。集合場所に、戻ろう」


人間誰しも狂気を孕んでいるとは言うが、自分の周りにこれだけの殺人鬼が揃っていようとは、夢にも思わなかったアニマである。


(こいつらに比べれば、オレはまだまだ大丈夫だな)


比較対象が間違っている。


なぜなら彼らは裏社会でもその名が轟く、高名なる殺人鬼であるからだ。


他にも学園には危険な犯罪者が在籍しているのだが、それはまた別の機会にご説明させていただこう。






「いやあ、本当によくやってくれた!おぬしのおかげでつつがなく課外活動が終わったわい!」


「わい!じゃなくてさぁ!どうなってんの!?森で変な奴らに襲われたんですけど!」


学園長の表情は気まずそうであった。


「たまたま…というわけにはいかんか」


「当たり前だバカ!たまたまあんな奴らに遭うわけねーだろうが!」


ストレスが溜まったし、頭のおかしい奴らを相手にして疲れたし、彼女としては良い事無しであった。


「実は、この島に最近、きな臭い連中が出入りするようになっての…


誰かがそういう奴らを手引きしているとしか思えんのだ。学園の警備か、業者か、保護者か、あるいは…」


次の台詞は、非常に言いにくそうであった。


「…生徒とか」


疑い出したらキリがない。元々混沌とした校風の学園ではあるが、このまま放っておくわけにはいかなかった。


「わしらでは処理出来ず、かと言って外部から人を呼ぶわけにもいかず…おぬしを騙してしまった。すまん…」


「事情は何でもいいの!オレを騙したのが問題なの!オレらは一蓮托生でしょ!?頼むから隠し事とか無しにしてくれよ!」


「ああ、すまん…何じゃと?」


学園長にとって、この言葉は意外であった。彼女のような狂気の殺戮者にとって、他人のことなど何の価値も無いだろうと思っていたのだ。


「す、すまんな!これからはちゃんと言うことにするよ」


アニマは、学園長の手をがっしりと掴んだ。


「そうそう!何かある度にオレに報告してくれ!でないと…」


そして、そのしなびた指を握り潰した。


「今度は指じゃ済まなくなる。分かった?」


激痛に、思わず悶絶する。


「…ッ!」


その眼を見て、老人は確信した。彼女は、人ではない。


心が通った気がしても、それは単なる気のせいに過ぎないのだと。指の数本でこのことが学べただけでも、運が良かった。


「も、もちろんじゃ…」


そして、彼女を利用しようとした自らの浅薄さを呪った。


(孫娘の言う通りじゃったわい。こやつは、人の手に負えるものではない)


この痛みは、愚かさの代償だ。戒めを心に刻みつつ、老人は部屋を後にした。


残された女は1人、廃教室で呟く。


「…脅しが効きすぎたかな?

ま、オレを騙そうとしたんだからこれくらいは当然だ。

…あれ?当然だよな?むしろ殺してないから慈悲深いよな?」


狂気は、すぐそこまで来ているのかもしれない。


「…おじいちゃんの指折ったのは、まずかったかな」


気付いたとて、どうしようもないことではあるが。


〈おわり〉



どうしようもない名鑑No.24【アビゲイル・ノワーリエ】

かつて暗殺の名家と恐れられたノワーリエ家の令嬢。

極めて無口で愛想が無いものの、根は友達想いの心優しい性格。

暴力を愛情表現と捉えており、与えるのも与えられるのも好き。

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