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どうしようもない転生  作者: 邪道
19/62

第5話 terror(中)

しゃあっ

闇の中から現れた、複数人の怪しい男たち。どう見てもカタギではない。


「…ああ、あなた方の事でしたか。面倒な奴らというのは」


「我々のことを知っているのか?…ああ、あの女が話したのか」


男は顔をしかめる。ゾーイはため息をつく。


(知ってたんですね、アルゴスさんも人が悪い)


両手を重ね合わせ、魔法発動の準備をする。男たちも懐に手を入れた。銃だろう。


「君の魔法がどんなものであるにせよ、この数に勝てるとは思えないが」


「そうですかね?」


男たちが銃を抜いた瞬間、手の内に隠しておいた瓶を投げつけた!

瓶の中の薬品は瞬時に気化し、有毒なガスを発生させる。


「ぐおッ…」


「あばよ、です!」


ゾーイは全速力で逃走した!物陰に身体を隠すような蛇行は、銃撃しづらい事この上ない!


「ふ…慣れていやがる」


「あ、兄貴!どうします?」


リーダー格の男が答える。


「どうするかを、俺に聞くのか?」


「ッ!す、すいません!すぐに追いやす!」





かくしてゾーイは窮地を乗り切り、校舎内の一室に隠れた。


(ここから出入口は遠い…今から行っても待ち伏せされてるでしょうね。と、なると…)


薬品はあれ1つのみ。武器は無し。魔法は…ここでは使えない。


(一難去って…というやつですね)


部屋から頭だけ出し、周囲を確認する。人の気配は無く、音もしない。

…今だ。教室から転がり出ると、廊下を音も無く疾走した。


(さて、どう逃げたものか…)


今の所人の姿は見えないが、いつ現れるか分からない以上、さっさと脱出したいものだ。


(窓を割って逃げようにも、2階じゃ…受け身を取れば両足骨折で済むかな?)


窓から下を覗き込む。結構な高さだ。衝撃を逃がして着地しても、骨折するだろう。死ぬよりはマシかもしれないが、動かない足を引きずって逃げるのはきつい。やはりここは…


「やめといた方がいいよ」


「ヴぉッ!?」


不意に声が響き、思わず奇声を上げた。


「いつの間に…!」


銃を構えた例の男たちがいた。反対側を見ると、そっちにもいた。完全に挟まれていた。


「あれ?さっきまで…あれ、あれ?」


「うん、驚いているようだな。俺の魔法だ」


説明しよう!この魔法は、術者が選択した人間(自身含む)を透明化することが可能なのである!透明化には対象の魔力を使用するため、魔法の規模と比較しても術者の消費魔力は限りなく少ない!ただのチンピラが使うには強力過ぎる能力だが…


「ひょっとして、マフィアの方とかでしょうか?」


リーダー格の男が頷いた。


「まあ、そういうこと。さ、授業の時間だ。教室に入って」


銃口を押し付けられては逆らえない。仕方なく教室に入り、授業を受けることにした。


「じゃ、先生に君の素性を教えて貰おうかな?」


「わ、私はただの新聞部です!お化けが出ると聞いて、この校舎に来ただけで…」


それを聞くと、子分の中でも一番血気盛んそうなのが、


「ふざけるんじゃねえ!ガキどもをボコボコに痛めつけるのを、俺たちゃ見てたんだぜ!ただの新聞部なわきゃねーだろうが!」


掴みかかろうとするチンピラを制しつつリーダー格の男が、


「落ち着けや!この学園じゃ何が起きても不思議じゃねえ。だからこそ、俺たちみたいなのが侵入してもバレにくいんだ。…ま、一応は信じてやろうや」


「へ、へい…」


島が丸ごと学園なのだから、管理しきれぬこともある。その危険を差し引いても子供を通わせたい、という親が多いのだ。


「いい学校だよ、ここは…俺がカタギならガキを通わせたいくらいさ。

…君のお母さんはどう思ってるのかな?まさか自分の子供が、マフィアに銃を突き付けられているとは思わないだろうな!しかも学校で!」


「あ、あの…もう帰らせてくださいませんか?私、何も見てません!」


恐る恐る発したゾーイの言葉は、容易く打ち砕かれた。


「それは無理だなあ。何も見てないって言うけどさ、俺らの姿、見ちゃってるわけだしね」


ゾーイは必死で首を振る。不良を悠然と倒した時の彼女の姿は、どこにも無い。

なまじ強いからこそ、相手の危険さがよく分かってしまうのだ。


「お、お願いします…私、誰にも言いません!」


「お願いされてもな…おやおや」


ゾーイは涙ぐみ、ついには縋りついて懇願し始めた。


「助けてください…し、死ぬのは嫌です!」


「分かった分かった…痛くないから大丈夫だよ」


銃を口に突っ込む。もごもごと命乞いするが、言葉にならない。


「…があッ!?」


男は突然ゾーイを引きはがし、飛びのいた。男の首筋には万年筆が突き刺さっている。不意打ちだ!


「チャオ!」


相手の油断を誘う哀れな態度と、一瞬の隙を狙える眼があれば簡単なことである。

後は動揺した子分どもを蹴り飛ばし、教室から脱出するだけだ。皆さんもマフィアに追い詰められたら、ぜひやってみてほしい。


「クソッ…何やってんだ!追え!」


「へい!」


雪崩のように教室から出ていった子分たちが見たのは、廊下で立ち尽くすゾーイの姿。


「へッ、まだこんな所にいやがったか!トロい奴だぜ…」


そしてその向こう側には、1人の老人。白髪に、赤い色眼鏡の、奇妙な老爺であった。


「う、うう…」


「どうしたのかね?お嬢さん。随分慌てていたようだが…」


「ば、番頭!どうしてこちらに…」


首筋にハンカチを当てて止血しながら、リーダー格の男が言った。子分たちはビビりあがった。


「ば、番頭!?と、言うとこのお方が…」


「ああ。ボスの側近、カウスマンさんだよ。…いらっしゃるなら事前にご連絡いただければ…」


老人は人の好さそうな笑みを浮かべて、


「いやあ、すまんね!また来ちゃったよ。…それより、このお嬢さんは?」


「はい。目撃者です。始末しようとした所を逃げられまして…」


カウスマンはますますニッコリと笑いながら、


「ははあ、その怪我だと、だいぶ派手にやられたみたいだね。…この子、学園の生徒だろう?殺すと後が面倒だよ?」


そのやりとりを間近で見ながら、ゾーイは考察する。


(噂のお化けは、どうやらこのお爺さんみたいですね。白い髪と、赤い眼は眼鏡の見間違い…女の子じゃなかったか)


若干残念に思いつつも、


(さあて、どうしよっかなあ。このお爺さん、隙が全く無いんですよねぇ)


カウスマンは、マフィアの№2というだけあって、老人ながら身のこなしは油断ならない。


「…学園内で生徒を殺すとなると、後始末が大変だからね。ちゃんとやってね」


「はっ、かしこまりました。…女押さえてろ」


その声で子分たちがゾーイの両脇を抱え、押さえつけた。


「ちょっと!エッチな人ですね!」


「そんな事言ってる場合かよ?テメェ、これから死ぬんだぜ?」


無論、言われずとも理解している。この状態ではさっきの作戦も使えないし、何よりあの老人がいる限り、この場からは逃げ出せない。


(やばい…せめて魔法が使えれば…!)


彼女の魔法は、外部の自然光を吸収してレーザーに変えるというもの。室内では著しくパワーが落ちる。せいぜいストーブ程度の熱が生まれれば良い方だ。


(仕方ない、ダメもとでやってみるか…)


息を吐いて集中し、光を集めようとした瞬間、地面に叩き伏せられた。


「しまっ…」


「余計な事をするな」


そして一切のためらい無く額に銃口を押し付け、引き金を引いた。



「ギャッ!…って、あれ?私、生きて…?」


銃身が断裂し、地面に落ちた。これでは弾丸を発射できるわけがない。


「!?…な、何が…」


次に、銃を握っていた右腕が地面に落ちた。そこでやっと男は気づいた。


「う、ぐッ…テメェ、何者だ…」


白い髪に、赤い眼の女。噂通りの姿をした『お化け』が、目の前にいたのだ。


(わっ!本物!?…いたんだ、お化け!これは大スクープッ!)


ゾーイはすぐさまスマホを起動させると、ムービーを撮り始めた。


「テ、テメェ!兄貴に何しやがる!…おげッ」


子分が、銃を抜く暇も無く首を蹴り折られる様子や、裏拳で顔面を吹き飛ばされる様子、身体を引き裂かれる様子がスマホに記録されていく。


(うへッ、これじゃあスプラッタームービーだよ…)


幽霊にこんな芸当は出来ないだろう。かと言って魔族でもなさそうだ。


(って事は人間…?)


女は獣の如く狂乱しつつ、人体を砕き潰していく。壁に叩きつけられた人間は血のシミになり、手足を折られた人間はボロ雑巾になる。その災害めいた殺戮が止んだのは、突然の事だった。


(何でしょうか…急に動きが…?)


眼を凝らしてよく見ると、女の胸から刃が突き出ていた。


「舐めやがってこのクソアマ…!死ねェ!」


女の背後の空間が歪み、男が現れた。右腕を銃ごと切断された、リーダー格の男だ。


(透明化を使ったのか…!ドスで後ろから心臓を一突き!あれは間違いなく即死ッ!)


女はしばらくボーっと静止していたが、不意にドスを引き抜くと、男を踏み殺した。あまりにも不条理なその光景に、思わず目を疑った。


(…死んで、ない?そんなのありえない!ホントにお化けだって言うの?)


かすれた呻き声を上げながら、ゾーイに近づいてくる。


(やばッ!?なんでこっちに…)


そして通り過ぎ、老人と向き合った。


「いやあ、今日は来たかいがあったねえ。まさかボスを殺した『仇』が、自分から出てきてくれるとは!」


そう、この男、カウスマンがここに部下を送り込んだのは、ボスの敵討ちの為だった。ボスを殺した『アルビノの女』がこの学園に潜伏しているという情報を手に入れた彼は、女を捜索し始めた。そして今日ついに、ここで相まみえる事となったのだ。


「私も少々魔法を心得ていてね。肉体を変化させる術なんだが…見てくれるかい?」


女は無言で頷く。老人の肉体が膨らんだ。上着が破れ、硬い外皮に覆われた身体が露わになる。


(おっと、こちらもスクープ!)


口が裂け、牙が伸び、全身が強靭に変化していく。



「な~に、大した魔法ではないのだが…どうかね?」


女は、その言葉に応えるように歯をむき出し、獰猛に笑った。

〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.20【ミヒャエル・カウスマン】

ボルキア・ファミリーの『魔神』として恐れられた、最古参の幹部。

ファミリーのボスであるボルキアは、フォビオ・ダーランの娼館から逃走した後、他のマフィアと抗争になり、それに紛れてアニマに殺害された。

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