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どうしようもない転生  作者: 邪道
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第5話 terror(上)

チョウ・ユンファ

ゼパル学園ッ!勇者の末裔にして大賢者アラナン・ゼパルが経営するこの学園は、島ひとつを丸々敷地としており、これが世界最大の学園と呼ばれるゆえんであるッ!

あらゆる国の貴族子女が通うと同時に、世界一平民の多い教育施設でもある。それ故に差別が横行しないよう気が配られており、身分差別でもしようものなら生徒会にしばき回される。

もっとも、それでも偉そうな貴族はいるが…その話はまた今度だ。


さて、そんな学園に今、ある噂が流れていた。とある休み時間の女子2人の会話を聞いてみよう。


「ねえ、あの噂知っとる?」


「何ね?」


「ほれ、旧校舎あんでしょ」


「あー、でも3つくらいあんじゃん、どれ?」


この島にはいくつもの校舎があるが、その中にはもう使われていないものもある。


「どこかは分かんないんだけど…お化け出るらしいよ」


「…まあ出そうだしね。ていうか誰が広めてんのこういう噂?」


「知らんけど、行った奴いるんじゃね?

…でさ、それが女の幽霊らしいんよ。髪の毛ブワーッて白くて、眼が真っ赤で、背もこんくらい…でっかくてさ」


噂によると、旧校舎に侵入した生徒が気味の悪い女を見た、ということらしい。学校の怖い話というやつだ。


「あたしこういう話を聞く度に思うんだけど、『だから何だよ』って思うの多くない?」


「それな!行かなきゃいいだけだしね!

つーか別に襲われたわけじゃないんでしょ?他校舎の先生とかじゃねーの?」


学園の規模が極めて大きいため、卒業まで一度も面識の無いままの教員もいる。

そもそも本当の話かも分からないので、考えるだけ無駄ではあるが。


「ちょっと!その話、詳しくお聞かせ願えませんか?」


「え?…ゾーイさんっ、何で!?」


「うわ、びっくりした!」


突然現れた彼女はゾーイ。猛者が多く在籍するこの学園でも、特に有名な女である。

彼女は今日の朝からこの噂について追っていた。


「でも、ホント…噂以上のことは知らないっていうか…すいません」


「いえいえ!わざわざありがとうございます」


(ふむ…やはり噂の発生源が見つかりませんね。やっぱり現地に行ってみる必要があるか)


彼女は新聞部なのだ。今この校舎を席巻している噂、その真相を探るため調査を開始していた。


「…うしッ!あそこへ行きましょうか!」


この校舎どころか、学園全体の…ひいては社会全体の動向を深く知る情報屋がいるのだ。彼女ら新聞部を始めとして、裏社会の連中もこぞって利用する、かなり危ない人物ではあるが。


「善は急げ!というわけで、失礼いたしました!」


マイペース極まる。普通の学生からは敬遠されているだけあって、中々にエキセントリックな性格をしている。


「…行っちゃった」


「マジでビビったわー…」


彼女が教室を出ると、ある人物に呼び止められた。


「あらあなた!ちょっとよろしくて?」


この口調からも分かる通り、貴族のお嬢様。フロウラ聖国の大貴族、『アルゴス家』の一人娘、イライザ・アルゴス。大変気位の高い性格で知られており、いつもは取り巻きを連れているが、今日はいないようだ。


「おや、ちょうどあなたの所に行こうと思っていたんですよ。ミス・イライザ」


そして、件の情報屋でもある。


「…噂の件ですわね。お耳が早いことで!…ここでは何ですから、場所を変えて」


使用されていない会議室を見つけて、中に入った。


「…で、どうです?噂のお化けについて、何か情報は?」

「これが、驚くことに、ほとんど何にも。根も葉もない噂ってわけではなさそうですが…」


彼女ほどの情報屋でさえ、何も掴めないとは。驚くべきことである。彼女は、大貴族という立場と財産を利用して、極めて広大かつ緻密な網を張っている。隣の奥さんのホクロの位置から、マフィアの金庫の番号まで、知らぬものはないのだ。


「何にもってことはないでしょう?…おいくらほどで?」


ゾーイの問いに、イライザは黒い笑みで答えた。


「分かってらっしゃる方、大好きですわ♪…では、『セプトゥス』で」


隠語である。セプトゥスは古代アトランティス帝国26代皇帝なので、この場合『26万ルーメル』の報酬を要求している。日本円に換算して約50万円だが、まあ覚える必要は無い。


「あら、随分良心的なんですね?」


「まあ、大した情報ではありませんから。…で、噂のある旧校舎というのは『ザドキエル校舎』のことらしいですわ」


ザドキエル校舎。西の森の奥にある、一番新しい旧校舎である。椅子やテーブルなどもそのまま残っており、ガラの悪い連中がたむろしているという。


「なるほど。噂を流したのは不良どもですかね」


「おそらくは」


「…取材へのご協力、ありがとうございました!お礼は後ほどさせていただきますね!」


急いで退室しようとするゾーイの背に、イライザは声をかけた。


「ああ、この情報はサービスなのですが…校舎に入る時にはお気を付けて!」


「不良でしょう?分かっておりますとも!」


「もちろんそれもありますが、もっと面倒なのもいるようです。あなたのことだから、心配は不要だと思いますけれど」


もっと面倒なの?不良以上に面倒となると、限られてくるが…どちらにせよ、イライザが情報をサービスすることなど、滅多に無い。よほど厄介な連中らしい。


「わざわざ私のために、ありがとう!」


屈託のない笑みを見せて、ゾーイは部屋を出た。イライザもニコニコと手を振っていたが、扉が閉まってから、


「…嫌な笑い方ですこと。思わず心を開きそうになりましたわ」


忌々しそうに吐き捨てた。




ザドキエル校舎に到着したのは午後の2時であった。


「明るいうちに入ろうと思っていましたが…中は随分暗いですねえ」


錆びたドアの鳴らす甲高い音や、静寂の中ただ響き続ける靴音は、雰囲気があった。


「でもお化けってよりは、やっぱり…」


そこら中に張り巡らされた椅子と机によるバリケードからは、人の存在が感じられる。


「誰かいるんだよね…おや?」


ガリガリと、硬いものを引きずる音がする。それは前方から、ゆっくりと近づいてきた。


「お姉ちゃァ~ん…1人で来たの?大丈夫?」


学園の制服。しかしその着こなしは粗雑。右手には鉄パイプを握っている。


「不良、ですか」



「まあ、『良』ではないよね。とはいえ、俺らも女の子を1人で放っておくほど、悪い奴じゃあないのよ」


周囲から薄ら笑いが聞こえたかと思うと、のっそりと現れた。1人2人ではない。5・6人、しかも武装している。


「どう?俺らと一緒に遊ばない?」


「構いませんよ!何から始めましょうか?」


最初の男がニヤリと笑う。


「そんじゃあ、まずはスイカ割りだッ!」


鉄パイプを思い切り振りかぶり、ゾーイの頭めがけて振り下ろす!


「OK!私の番からですね!」


わずかに後退して躱すと、相手は隙だらけになった。顔面に裏拳を叩き込む。


「がッ…」


怯んだ隙に鉄パイプを奪い取ると、一切の躊躇なく振り下ろした。


「やったあ、当ったりぃー!」


「テ…テメェ!よくも!死ねやァーッ!」


他の連中も、慌てて襲い掛かる。


「それっ」


鉄パイプをみぞおちに突き入れる。激痛でうずくまった相手に、フルスイングだ。


「あらよっと」


ナイフ使いと斧持ちの敵が同時に仕掛けてくるが、まずナイフを蹴り落としてから腹部に一撃、気絶した相手を盾にして斧を防ぐ。


「しまったァ…」


「あ~あ、ひっとごろし!ひっとごろし!はいっ!」


はやし立てながら目潰しをかまし、追撃のかかと落としで沈める。


「クソッ…まさかテメェか!?あいつらが襲われたお化けって…」


ゾーイは苦笑しつつも目を光らせる。


「おやおや、お化けに遭ったのはあなた方のお知り合いでしたか!ぜひ詳しくお話を伺いたいのですが…」


「あァ?テメェに話すことなんて1ミリもねえんだよ!」


逆上しつつ一斉に襲い来る3人のうち、2人を回し蹴りで蹴散らすと、残った1人を肘打ちで無力化して胸倉を掴み上げる。


「もちろん強制はいたしませんが…ぜひ、ご協力をお願いしたいんです。断られたら私、悲し過ぎて…」


いつの間にか拾い上げていたナイフを突きつける。


「ま、待てッ!分かった、話すッ!」


ゾーイは満足そうに頷いた。


「…つっても、遭った奴はもう学校にも来てねえから、詳しくは分かんねえけどよ」


「構いません、お話しください」


その不良が、被害者から聞いたところによると…


いつものように旧校舎にたむろしていた被害者は、ある時妙な事に気づいた。

自分たち以外の人間が出入りした形跡があるのだ。勝手に入ってきた奴がいるならぶっ飛ばしてやろうと思い、仲間と手分けして調べてみたが全く見つけられない。

気のせいかと調査を中止してから、数日たったある日のことである。『それ』と出会ったのは。


「白髪に赤い眼の女…ですね」


「さあ、暗いから性別までは分からなかったと言ってたが」


「おや、そうなんですか?」


メモ帳に細かく書き込む。


(性別は不明…っと。お化け=髪の長い女というイメージが結びついたのか?)


「で、もう行っていいっすか?あの、もう…何も知らないんで…」


ゾーイの眼が、無感情に相手を見つめる。不良は思わず身震いした。


「…はい!ご協力ありがとうございました!」


不良はあからさまに安堵して、走り去っていった。いや、走り去ろうとした。


「あぎっ」


妙な声を上げて転倒する不良。


「ちょっとちょっと!大丈夫ですか?」


笑いながら歩み寄ろうとして、止まる。ただならぬ気配。


「彼なら心配いらん。ちょっと寝ているだけだ」


倒れている不良から、赤いものが広がり始めた。


「それで、君は?不良には、見えないんだが」


闇の中から出てきた男たちは、みなスーツを着ている。不良どもとは比べ物にならぬ風格だった。


〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.19【イライザ・アルゴス】

大貴族アルゴス家の一人娘。その立場を利用して情報を集め、色々な業界の者に売りさばく。裏社会では重宝される一方、常に命を狙われている。

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