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どうしようもない転生  作者: 邪道
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第4話 Erlkonig(8)

勘で押すと意外と当たる『刹那の見切り』

四肢が吹き飛び、内臓のほぼ全てが破裂したこの状況で、どう抵抗するのか。

彼女の再生能力にも限度があり、それは近い。再生の速度もガクッと落ちている。このままでは、殺される。


「う…うう…」


それでも、逃げることはできない。魔王の接近を、ただただ待ち続けることしかできないのだ。


「や、やめろ…来るな…」


その口調が徐々に、見た目にふさわしい女性的なものになっていく。眼には涙すら浮かんでいる。


「やだっ、来るな、こ、来ないでっ…」


「脆いな。誇り無き心こそ、脆いのだ」


そして、到達した。


「外道として生きる者は、所詮その程度までしか強くなれん。故に、人間という種族そのものが衰退していく」


女の襟を掴んだ。拳を振りかぶり、渾身の一撃を構える。


「この我が!人類に、引導を渡してやる!貴様はその幕開けとなれ!」


「ううっ…」


女が身をよじると、服が破けた。


「!」


「いやぁっ!み、見るなぁ…っ」


傍からは、魔王が服を破ったように見える。魔王自身も、強姦魔になった気分であった。


「ぬ…」


「スキありだバァーカ!」


とどめを刺そうとする者こそ、隙が生まれやすい。魔王の胸に、全力の蹴りを叩き込んだ!


「貴様、足が…」


再生力を右足に集中しつつ、服をはだけて隙をつくるという作戦。この痛打を受けた魔王はしばらく立ち上がることが出来ず、再生するには充分な時間を稼ぐことができた。


「…ってわけです」


「ぬう、何と…!命乞いとは…!」


この卑劣な策には、3老人も思わず唸った!


「…ま、見た目はどうあれ、命乞いは有効。孫娘も言うとった」



『お祖父さま、命乞いって意外といい作戦ですのよ。

自分は相手の生殺与奪を握っている、と思わせることで、色々隙も見えてくる。

まあ、そんなみっともない姿、あまり見せたいものではありませんけどね。

だから私の命乞いを見たものは必ず…』



「で、どうじゃ?おぬしら若者から見て、あの状況は」


魔王は激昂しつつ襲い掛かり、アニマは躱しつつ罵倒している。


「若者も年寄りも無いと思いますけど…ま、お嬢ちゃんのペースってとこですかね。ただ相手はあの魔王ですから…何とも言えませんね」


猛攻をかける魔王。確かに普段の『あえて受けて返す』戦法からは逸脱しているが、むしろピンチなのはアニマの方かもしれない。

あえて受けてくれるからこそ、攻撃を当てることもできた。

だが本気で回避と攻撃をし始めた魔王に対し、アニマの攻撃は当たるだろうか?


「この戯けが!よくも、よくもこの我をたばかってくれたな!」


「うるせえんだよバカが!おっぱい見て内心ガッツポーズだったろ?このスケベ!」


猛攻をかいくぐって攻撃しようとするが、やはり隙はない。


「この魔王、もう隙は見せん!全身全霊で貴様を倒す!」


「最初からそうしろっての、このバカ!結局テメェはオレを見下してたんだ!誇りだ何だと偉そうに言っちゃいるが、オレみたいな弱者をいたぶり殺してプライド保とうとしてただけだろ?」


魔王、さらに怒る。


「下らぬ!その駄弁を垂れ流す舌を引き抜き、自らの愚かさを思い知らせてやろう!」


タックル、ラリアット、蹴り飛ばし。こうなると体格差が恨めしい。接触すれば容易く吹き飛ばされてしまう。なんとか避けるが、反撃しても怯まないので防戦一方だ。


「筋肉は鎧。力を入れているだけで、驚くほどダメージを防いでくれる。故に我に隙はない」


そう、不意を突かれるからこそ攻撃は痛いのであって、前もって予測できていたらさほど効きはしない。


「クソッ、効いてねえのか!?」


本来人間も魔族も、全身の筋肉を硬直させることなど出来ない。

だが魔王は、ごく短時間、意識を集中させておくことで、それを可能にする。

『あえて受けて返す』戦法を用いる中で生み出した、魔王だからできる技術である。


「どうした?動きがスローになってきたぞ。どうやら貴様のおぞましき再生能力も、疲労は回復してくれないようだな!」


「うげッ…」


地面でバウンドするほど蹴りつけられ、動けなくなる。


「認めよう。貴様を侮っていた。だがこの戦いは、我の誇りを賭けたもの。我はまた過ちを犯す所であった。礼を言うぞ、アニマとやら!」


「…い、いや、気にすんな。オレも礼を言うよ。…ここまで近づいてくれてありがとうってなァ!」


「何ッ!?」


見よ、これは禁断の技!種族に関わらず男であれば誰でも苦しむ奥義!金的である!


「うわッ!あれは痛いぞい!」


「おう。ワシも、震えてきよったわ…」


「あ、あかんわあ…」


「まあ、痛そうっちゃ痛そうっスけど」


ギャラリーは賛否両論!だが魔王には確実に致命的ダメージを与えたはず…


「…フハハハハ!筋肉は鎧と言っただろう!」


「…嘘だろ?」


何ということだ!効いていない!文字通り、全身無敵なのだ!なんと恐るべき、魔王のタフネスか!


「これが貴様の逆転策か?」


「…いいや、違うね!」


続けて繰り出した喉への蹴り!苦し紛れと見えたこの攻撃だが…


「ゴホッ…!?」


これが意外に効いている。どういうことか!?


「流石の魔王も金的にはビビったとみえる。股間に意識を集中させ過ぎて、他の部位の防御が疎かになってるぜ!」


「ぐ、き、貴様ァ…」


集中が途切れ、全身防御が無くなる。ここだ。


「おるあああああッ!」


雨の如き乱打を浴びせる!肩!腹!顔!


「死にさらせェーッ!」


そしてとどめの一撃で、魔王をロープまで吹っ飛ばす!


「決まった!さしもの魔王とて、無事ではすまぬ!全身の肉が爆ぜ、内臓にもダメージがいったはずじゃ!」


「当たり前だぜ、ボケッ!…へへへ、どうだァ?痛えだろ?泣いてもいいんだぜ、痛えよ~ってなあ!」


煽る!持ち前の下劣を最大限発揮した挑発である!

…だが、人類は、この時思い知る。魔王の魔王たるゆえん。その恐ろしさを。


「フ、フハハハハハ!…なるほどのう。この魔王が。貴様のような下衆なチンピラに、ここまで。なるほど、なるほど!」


魔王の眼が凄まじい光を放ちはじめる。身体はロープに深く寄りかかったままだ。


「へ、へへへ!何を言っていやがる。そんなぼろクズみてえなザマでよお!」


アニマは笑うが、顔が引きつっている。まだ来るのか。この状態で。


「フフフ…全くだ。魔王ともあろう者が、なんと惨めな…」


地面を踏みしめる。更にロープに寄りかかる。…地面を蹴った。


「な、何ィッ!?」


ロープの反動を利用した、マッハスピードの飛びかかり!避けられぬ!


「我は我自身の誇りを取り戻す!」


アニマにしっかりとのしかかる!そして魔王の背中には魔法陣。

『ピンフォール』だ。


「ど、どきやがれ…!」


「どかぬ、どかぬぞ!命に代えても決して!」


「い、いかん…!あの姿勢では!彼女ひとりの力では絶対に抜け出せん!」


カウントは3。抜け出さねば、死ぬ。


「ち、ちくしょおおおお!ふざけんな!こんなっ、こんなこと、ありえねえ!」


アニマはもがく!もがくが、抜け出せない!魔王の誇りを懸けた一撃が、遂に敵を捉えたのだ!カウントは、2!


「何が誇りだ!偉そうにしやがって!クソッ、クソッ、クソォォォッ!」


何か策は無いか。何かこの窮地を抜け出す良い策は。…そして気づく。


「テ、テメェら!手伝いやがれぇ!」


ギャラリーに向かって叫んだのだ。唖然とする一同だったが、1人はすぐ返答した。


「…いくら出せる?」


黒い甲冑の騎士。ツームストン卿である。


「オレの分の報酬!それを全部くれてやる!好きに山分けしろ!」


「…乗った!」


背負った魔剣を抜く!刃が伸びて、鞭のようにしなる!


「君らはどうする?」


「私は良いっスよ!お金くれるなら!」


「…ほな、もうひと頑張りしよか」


「ワシはやめとく。会社からも報酬が出るしな」


魔王は言った。『金と快楽のために戦う外道ども』と。その通りであった。そして今その外道どもによって、魔王の誇りが汚されようとしていた。


「そ~れッ!」


魔剣の切っ先が、無慈悲に魔王の背中を切り刻む!


「ぐッ…貴様らァ!この…下衆どもがァァァァァァァッ!」


悪霊が首に巻き付いて締め上げ、毒のナイフが肩に突き刺さる。当然隙が生まれ、それに乗じて、アニマはあっさりと抑え込みを脱した。


「ぐうう…おのれ、おのれぇ…!」


「へへへ…よくもやってくれたなぁ、このクズが!」


倒れた魔王を、思い切り蹴る!悶える魔王、反撃しようと手を伸ばすも、踏み潰される。


「ぐあッ!」


「誇りが大事なんだろ?じゃあ立てよ!立って卑劣な人間どもに裁きを下せよ!」


もうダメだ。緊張の糸が切れたことで、痛みが一気に押し寄せ、立ち上がる事もできない。毒も全身に回り、意識が混濁してきている。


「おのれ人間…卑劣なり…!」


「なァにが卑劣だ、クソ野郎が!テメェだって人殺しじゃねえか!理屈をつけて殺すのがそんなに立派かァ!?」


アニマの蹴りは、怒りに任せて放っているように見えて、急所ばかりを狙っていた。魔王は屈辱に耐えるため、過去の記憶に思いを馳せた。


「わ、我の戦いは圧勝のようで、いつもギリギリの勝利だった…」


「はぁ?聞いてねえよ!」


魔王の眼は、もうアニマを見ていなかった。彼の意識は遥か昔、人間との戦争の頃に戻っていた…


「人間たちは、圧倒的に強い我らに対しても、臆せず挑んできた。偉大な戦士たちだった…」


そして勇者たちの登場。『暗殺者』の勇者はカリスとメルトール、『魔導士』の勇者はボリスとバミュラを封印して、倒れた。2人の生命エネルギーを受け取り、パワーアップした『剣士』の勇者が、魔王に単身で挑戦したのだった。


「フハハハ…たった1人でこの我に挑むとは…その度胸だけは褒めてやる…」


うわ言のように、呟いた。


「チッ、壊れやがった。…やっぱり脆かったなァ、オラァ!」


魔王の頭を蹴り飛ばす。その様子を見ていた老人はというと…


「何というザマだ、見ちゃおれん…」


仮にも剣士であるクラウゼヴィッツは、あまりの惨状に目を伏せた。


「いくら世界を守るためとはいえ、惨い…」


「…だが、これが時代なのかもしれんな」


「ん?」

アラナンの言葉に、首を傾げる。


「どういうことじゃ?」


「戦に誉れと武勲を求めた時代は、遥か昔。

これこそが現代の戦争だ。血にまみれた金を拾い集める、狂った獣の喰い合い。そこに、掟は存在しない…」


「戦争なんて昔からそんなもんじゃろ。それに気づいたのが、今だっただけのこと」


暗殺王のゴーシュが言う。そこには、確かな実感があった。


「そうじゃな。…わしらもいい加減、受け入れるべきかもしれん。でないと…」


魔王は今、とどめを刺される所であった。


「時代の流れを受け入れられず!色褪せた思い出に溺れ!」


魔王の首を太股で挟み、頭をがっしり掴む。


「口癖は『昔は良かった』と『今の若い者は』!テメェみてえな奴なんて言うか

分かるか?」


思い切り首の骨をへし折った。


「『老害』だよ!バァーカ!」


こうして誇り高き魔族の王、魔王は死んだ。血と裏切りと、罵声にまみれて。


「終わったな…長きに渡る因縁の…」


アラナンがしみじみとーー


「あの、報酬の話なんですけど…」


いきなりツームストン卿が言う。


「む…分かっておる。アニマの分を再分配して、口座に送る。それでよいな?」


「は~い!」


「いやあ、お疲れさんっス!」


「ほんま、こら当分他の仕事はできひんなあ」


「ワシはすぐにでも喧嘩したいがのう!」


和気藹々と語り始める戦士たちをよそに、さっさと帰り支度を始めるアニマ。


「もう行くのか?」


アラナンの問いに、


「え…はあ、まあ。一応自分、指名手配犯なんで」


先ほどの狂乱は影を潜め、間の抜けた表情で答える。


「そうか…なあ、もしお主が良ければじゃが…」


「はあ」


アラナンの次の言葉は、アニマにとっても驚くべきものであった。


「わしの経営しとる学園に来んか?」


「…はあ?」


アラナンは、世界最大の学園を経営している。しかしそれにしても、驚くべき質問だ。


「オレが?学校っすか?…いや、結構です。オレ勉強とか嫌いなんで」


「生徒としてではない!おぬしを、我が学園内にこっそり(かくま)うということだ!」


「…?」


彼女には、この老人がどうして自分にそこまでしてくれるのか分からなかった。だが、アラナンにも意図があった。


(この女について知ることは、新たな時代について知ることではないか。この謎多き女を近くで観察すれば、何か分かるかもしれん)


魔法使いというのは、多少の差はあれ皆研究者だ。彼を大賢者と呼ばわしめた好奇心が、今久々に燃え上がっていた。


「…まあ、そういう事なら…いい、かな」


「OKか?OKなのか!?」


「そ、そうですね。じゃあ、よろしくお願いします」


「ぃよしッ!」


年甲斐もないガッツポーズ!


「…また始まった、あやつの悪い癖だ」


「しかし、面白いことになるかもしれんな」


これにて世界の平和は守られた。もっとも、世界の危機などそう珍しいことではないことを、アニマと皆さんは知っている。

今日という日は、そのうち誰からも忘れ去られるに違いない。

〈おわり〉

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