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どうしようもない転生  作者: 邪道
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第4話 Erlkonig(3)

『黒沢』とか『銀と金』とか好きです。

「アニマさん、もし魔王を倒したら、賞金が出ると思うんですけど…何に使われますか?」


カメラを構えた妖精が、アニマの周りを飛び回って質問する。


「え?そ、そうですね…とりあえず、美味しいものとか食べたいですね」


魔王城内に飛び込んだ5人は、それぞれバラバラに行動していた。一人ひとりに、妖精カメラマンが付いて、外に生中継している。


(なんだよ…わけわかんないよ…!さっさと魔王を殺して帰るつもりだったのに…世界中の金持ち共に顔が割れちまった!)


嫌な気分になった。いかに極秘のショウだとしても、指名手配犯である彼女にとっては致命的だ。…それだけではない。世界の危機という時に、バカ騒ぎしている人間共。無茶苦茶だ。狂気じみている。ましてやここに呼ばれた金持ちたちは、普段は裏で世界を操るような連中なのだ。


「…何やってんだよ、あんたら…こういう時に役に立ってこその金持ちだろうが」


「はい?何かおっしゃいましたか?」


カメラマン妖精に聞き返され、あわててごまかす。


「い、いや、なんでもないよ…お客さんは盛り上がってる?」


「ええ、ものすごいはしゃぎっぷりですよ!」


はしゃいでいる、か。救いようがないクズ共だ、と思った。


(ここで魔王を倒したとしても、ゲームクリアってわけじゃない。『神』が命令する限り、殺し続けなきゃいけねえんだから)


そしていつか、ここにいる金持ちが標的になることもあるだろう。


(…せいぜいはしゃいでいやがれ、いずれテメェらも殺すことになるさ)


アニマは内心で陰気な笑みを浮かべた。





「どうだ、この催しは」


アラナン老人が、2人に言う。


「この茶番はお主の発案であったのう」


「分からんな。こんなことをして何の意味がある」


おっしゃる通りとばかりに首肯する。


「まあ、そう思うのも無理はない。わしもそう思っとった」


「はあ?これはお主のアイデアでは…」


「実は違う。わしの孫娘のアイデアなのじゃ」


アラナン老人の孫娘は16歳。ピチピチのハイスクールガールである。2人とも交流があり、幼い頃から可愛がってきた。


「あの娘が…?」


「ああ、孫娘によると…」



『魔王?お祖父さまも大変ですねえ』


『そんな呑気なことを言っとる場合じゃないのだ!このままでは奴の復活が世間にバレて、大混乱が起きかねんのだ!』


『でも魔王さんが納得するアイデアを出せば公表は待ってくれるんでしょう?』


アラナンは激しく首を振る!


『どんな案でも奴は納得せん!するわけがない!奴はわしらを困らせて楽しんでいるのだ!』


孫娘はにっこりと笑い、祖父の肩に手を置いた。


『お祖父さま、諦めてはいけません。例えばこんなのはどうでしょう?魔王さんとの決戦を、ショウにしてしまうのです!魔王さんが喜びそうなアイデアでしょう?』


戦いを見せ物にするというアイデアは、古来より存在する。皆さんもご存じの、古代ローマにおける奴隷剣闘士などが、後世に伝わっている事からもそれが分かる。しかし…


『おいおい、そんな事をしたら公表するのと同じじゃないか!』


『ですから、ごく一部の大金持ちの皆様をお呼びするのです。最近よくお会いになられているでしょう?』


そう。この時アラナンは、その手の金持ちとよく会っていた。魔王討伐の資金を集めるためだ。

しかし結果は散々であった。危機感のない彼らは、魔王の名前を出しても興味を持たなかった。

魔王の実在を疑っているのではない。いたとしても大した脅威ではないと思っているのだ。


『人間が勝利すればそれでよし。もし人間が負けても、その時は魔王の恐ろしさを目の当たりにした大金持ちの皆様に協力を得ることができる、というわけです』


確かに理にかなっては、いる。

だが、人間の敗北を前提とした策は、以前の彼女であれば決して選ばない手であった。彼女はどちらかというと騎士道バカの性格であったからだ。

故にその話を聞いた2人の老人は、首をかしげた。


「あの娘がそんな事を?最近会ってないが…変わったなあ」


「孫は成長するものよ。…こうも言っておった」


『バカは尻に火が付くまで気づきませんからねえ。自分たちがいかに窮地に置かれているのか、思い知っていただきましょう』


散々な言い草である。彼女も心の中では、大金持ちを見下しているとみえる。


「…あまり好ましい成長を遂げているとは言えませんな」


「それはわしの弟子もそうだがな」


鎧の老人クラウゼヴィッツが、観客用のモニターを指さす。画面内では、黒い甲冑の騎士が魔族の群れを惨殺している。血しぶきが吹き上がる度、観客が歓声を上げる。


『ま、待てッ!降参だッ!おれの負けだッ!』


『いや、ボクは別にいいけどさ…この映像魔王も見てるよ?降参したら怒られちゃうんじゃない?』


命乞いしていたオーク兵士は、震えながら剣を取り、立ち上がった。


『そうだよ!頑張って!ほら!』


騎士がはやし立てながら、オークを蹴り飛ばす。


『ほらぁ!立って!立たなきゃ刻んで豚の餌にしちゃうぞ!あっ!そしたら共食いじゃん!キャハハハ!』


前回も紹介されていたが、彼の名前はツームストン卿。フロウラ聖国の貴族であり、クラウゼヴィッツの弟子である。3年前に侍女を殺し、領地内で蟄居(外出することを禁じる刑罰)を命じられた危険な男であった。


「わしは今でもあやつを解放した事を後悔しとる…世界を救うためとはいえ、本当に自由にして良かったのか、とな…」


「今更何を言うとるか。ここに来たのは、皆その手の危険人物ばかりじゃろう」


アラナンがモニターを指しつつ解説する。


「まずあのゾンビのお嬢ちゃん、キャスパー、といったな。あの子は自分の身体で死霊術を試し続けた挙句ゾンビになってしもうたらしい。とある小国の住民を丸ごとゾンビにしたり…まあ、テロリスト扱いされとる」


画面内では悪霊が飛び回って殺戮を繰り広げている。魔王城の中で殺された人間たちの怨念は、死霊術師にとって最高の地の利である。そして殺した魔族の霊を操り、更に多くの魔族を殺す。

恐るべき鏖殺永久機関だ!


「次にあのヤクザ。あれもかなりの手練れよ。たった1人でマフィアと敵対し、壊滅させたことがあるらしい。とにかく喧嘩が好きなやつでの…親分からも恐れられとる。それにあやつの右手、何か仕込まれとるようじゃ」


吾虎組長は、サキュバスと凄まじい肉弾戦を繰り広げている。

サキュバスがサバットめいた蹴り技を放てば、吾虎組長はカポエイラのような挙動で躱しつつ蹴り返す。それをサキュバスが左手で掴んで組み技に持ち込むと、組長が右手で顔面を殴打し抜け出す!何と濃密な近接格闘応酬か!観客も湧きかえる!


「それから、ゴーシュが連れてきた…ケサル、じゃったか。素性を調べてみたら、南方で盗賊王と呼ばれて恐れられとるそうじゃないか!よくこんな人材を見つけてきたもんじゃ!」


「え?そうなの?」


ゴーシュはビビった。まさか飲み屋で知り合った親切な少年が、盗賊だったとは!


「そうなのって…分かってて連れてきたんじゃ…」


「い、いや、実はその…酔った勢いで…」


アラナンは思わずガックリと膝をついた。


「バ、バカお前…なんちゅうことを…」


「い、いやしかし!実際強いんじゃからええじゃろ!」


ケサルは小回りを活かした戦法で魔族の群れをミンチにしていく。華は無いが着実に殺していく姿は、玄人好みである。観客は気づいていないが、彼の使用する黒い曲刀は凄まじい熱を放っているため、現場は肉の焼ける臭いが充満している。この臭いが、魔族兵士の戦意を折るのだ。


「ま、よいか。わしの連れてきた姉ちゃんも、おんなじようなもんじゃからな」


アラナンが左奥のモニターに視線を向ける。写っているのは、白髪に赤い眼を持つ、背の高い女。その端正な顔は、ベトベトの血液で汚れている。


「アラナン、あの女は貴様が呼んだのだったな。どういう素性だ?」


「知らん。つい最近会ったばかりでな。出身、家族構成、その他全てが不明。分かるのは『アニマ』っちゅう名前だけじゃ」


モニターの中の彼女は、壮絶に暴れ回っていた。石壁にスケルトンを叩きつけ、骨粉にする!動く鎧を素手で引き裂く!彼女の肘や膝にかすった魔族が、豆腐のように砕けていく!人間離れした膂力が、災害めいた破壊を可能にしているのだ。


「身体強化…いや、そんなレベルじゃないな。あれは、何だ?」


「魔法の気配は無い。純粋な身体能力じゃよ。それだけではないのじゃ…ほれ、見よ!」


単眼の巨人が手に持った大剣で猛打し、アニマが両腕をクロスさせて防ぐ!一撃目で皮膚が裂け、二撃目で骨が折れ、三撃目で完全に千切れた。断面から血液が勢い良く噴出し、女は苦悶の声を上げる。巨人は武勲の予感に打ち震えつつ、追撃の四撃目を叩き込んだーー


「な、何じゃあ?」


「これ、は…」


アラナン以外の2人は絶句した。観客もどよめく。それもそのはず、切断されたはずの両腕がたちまち再生し、巨人の1つしかない目玉を殴り潰したのだ!


「…アラナン。これも()()()()か?」


「左様。魔法ではない事は確かだ」


大賢者と呼ばれ、魔法を極めた彼が言うのだから間違いない。何の神秘も介在せずに、人体修復という奇跡を起こしたのだ。


「これが人間だというのか…?」


その問いに答えるように、画面の中のアニマが叫ぶ。


『アハ、アハハ!オレはァ!神の!使いだァァァ!』


クラウゼヴィッツは、眉をひそめてこの言葉を聞いた。


「神の使い?」


「ああ、わしと会った時もそう名乗っておった。とんでもない自信家か、あるいは…」


アラナンはこめかみの辺りで指をクルクル回した。クラウゼヴィッツも頷く。


「十中八九、後者だろうな。しかし言うに事欠いて『神の使い』とは…」


しかし、その言葉をあながち否定できない不気味さを、この女は孕んでいた。

いや、この戦いに臨んだ人類側の戦士全員が、得体の知れない空気感を持っている。そういう意味では、伝説に残っている分魔王たちの方がよっぽど安心できた。


(魔王は強大な暴力で人間を脅かした。奴に仕える四天王は、火・水・地・雷を操る。単純明快だ。だが味方についてはどうだ?その素性さえ完全には把握していない始末…本当に彼らに任せて良かったのだろうか)


本当に危険なのは魔王か、人間か。3人の老人の心を、不吉な予感がかすめた。

〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.13【ツームストン卿】

剣聖クラウゼヴィッツ・イナバの弟子。フロウラ聖国の貴族であり、従者を殺した咎で裁かれたことがある。他にも数十件の無差別殺人の容疑をかけられている。


どうしようもない名鑑No.14【精髄のカリス】

四天王の一人で、種族は不明。極めて強力な魔法を使うらしい。性格は悪くないが、個性に乏しいため『いい人』止まり。

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