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✖︎✖︎✖︎までのカウントダウン1

「あぁ……今日は、まじで疲れたな……」


毎度お馴染み、1人ぼやく帰り道。

今日はいつも以上に疲れた。

後輩が営業先でトラブルを起こし、その尻拭いに時間がかかってしまった。


「何とか終電に間に合って良かった……」


腕時計をチラリと見ると、既に日を跨いで1時間が過ぎていた。

会社からダッシュで駅に向かい、滑り込みで終電に乗る事ができたのだ。

疲労困憊の体に鞭打つような行為だが、帰れないのは尚困る。

タクシー代も馬鹿にならないのだ。


「今日が金曜で良かった……待ち遠しかったぜ3連休。」


折角の3連休、無駄にはしたくない。

何をしようかと考えたところで、膨らみかけた胸が萎むような気がした。


「そういや、連休中もあいついるんだよな……」


生意気な義妹の存在を思い出し、憂鬱になる。


「あんなのでも昔は可愛かったんだけどなぁ……」


もう、戻れないのかねぇ。








「ただいま……」


ドスドスドスドス。

荒い足音。

俺は思わず溜息をつく。


「遅いっ!!」


憤怒の気配。

般若の形相。

仁王立ち。


小さな魔王が現れた。



「悪かったよ。」


流石にいまは相手をしたくない。

それ以上なにも言わず通り過ぎようとするが、仁王立ちの魔王が道を塞ぐ。


「待ちなさいよ!」


「…なんだよ?」


「あんたのせいでまだお風呂に入れてないんだけど、謝りなさいよ!」


「…俺のせいじゃねぇだろ。勝手に掃除して入ってろよ。それかシャワーで我慢しろ。」


「はぁ!?なにそれ?馬鹿にしてんの!?」


「デカい声出すな。うるさいんだよ。」


「なっ………」



絶句するリエの横を通り過ぎ、部屋へ向かう。

荷物を置いてスーツを脱ぎ、そのままベッドにダイブしたい欲求に何とか抗い、浴室へ向かう。

どうやらリエは部屋に戻ったようだ。

浴室に人の気配はなかった。






「ふぅ……」


手早くシャワーを浴び、自室へ。

ベッドに倒れ込んだ瞬間、強烈な睡魔が襲い掛かる。

しかし、睡魔に降伏する寸前、部屋の扉がガンガンと叩かれる音がした。


「………なんだ?」


起き上がる気力もなく、顔だけを向けて声を返す。

勢いよく扉が開けられ、仁王立ちの魔王が見えた。


「ちょっと!お風呂沸かしてないじゃない!」


「は?」


「お風呂!掃除してたんじゃなかったの!?」


「……いや、ただシャワー浴びてただけだぞ。」


「何で掃除しないのよ!」


「疲れてんだよ。そんなに風呂入りたいなら勝手にしてくれ。俺はもう寝る。」


目を閉じてスリープモーションに入る。


「はぁ!?」



荒い足音が枕元まで近づいてきた。

ドンっと体に衝撃が走った。


「いっ……なんだよ…」


痛みはそこまででもないが、眠りを妨げられて感情が昂る。


「さっきから何なのよ!あんた調子乗ってるんじゃないの!?」


「意味わかんねぇよ。とりあえず眠たいから出てってくれ。」


「それが調子乗ってるって言ってるのよ!!」


もう一度叩かれる。

思わず舌打ちしながら体を起こした。




「………おい、いい加減にしろよ。」


「な、なによ…」


「こっちは仕事で疲れてんだ。生意気言うのも大概にしろ。」


「なっ……あ、あたしが生意気だっての!?」


「お前が生意気じゃなかったらなんだってんだ。傲慢か?横暴か?何でも良いがいまはお前と話す元気はねぇんだよ。頼むから黙ってくれ。」


「なっ……なっ……」


唖然とするリエ。

こんな風に俺が言い返すのは、いつ以来だろう。

もしかしたら初めてかもしれない。



「ぱ、パパとママに言いつけるわよ!!」


「好きにしろ。」


疲労と眠気のせいで頭がまともに働かない。

今まで気にしていたものがとても些細な事のように思えて、全てがどうでも良くなっていた。


「ほ、本当に言いのね!あんた、捨てられちゃうわよ!!」


「既にほぼ捨てられてるような状態だろうが。それに、俺はもう1人でも生きていける。今更あんな奴らに頼る事なんてねぇよ。」


思考はグチャグチャなのに口だけはよく動く。

きっと普段から溜め込んでいた何かが、堰を切ったように溢れているのだろう。





「ふ、ふん!パパとママの言う通り、あんたは本当にどうしようもないグズね!この期に及んでそんな強がり言うなんて!!」


捨て台詞にしては嫌なところをついてくるじゃないか。

今にも寝ようとしていた俺の頭が怒りに支配されそうになる。


「……親父が何か言ってたのか?」


あの女の事は心底どうでも良いが、親父とは血を分けた親子だ。

俺を好いていないとは理解しているが、蔑んでいるなどとは聞きたい事じゃない。


「パパはいっつもあたしに言ってくれるわ!『リエはあいつと違って頭が良くていい子だ』って!」


「……あっそ。」


「ママも『リエがあんな子にならなくて良かった』って言ってるもん!きっと母親が悪かったんだって!!」




…………なんだと?




「おい、いま何て言った?」


「え、なっ、なによ……」


「いま、何ていったよ?母さんが悪かった?あの女が言ったのか?上っ面でしかものを見れないあの頭空っぽの女が?」


「なっ、なによそれ!ママは…」


「うるせぇよ。」


ふらりと立ち上がる。

自分が何をしているのか、よくわからない。

ただ込み上げる怒りに身を任せていた。


「ふざけんなよ。散々俺の事を馬鹿にしやがって。挙句の果てに故人まで蔑むのか?どこまで腐ってやがんだ、あのクソババアは。」


「な、なにを……」


「親父も親父だ。あの女が母さんの事をそんな風に言ってるのも知らねぇで……いや、知ってるかもな。知っててそれを受け入れてんのかもな。あの腑抜け親父ならあり得る事か。」


この世の全てがどうでも良くなった。

腐ったあの女も情けねぇ親父も、そんなにこいつが大事なら、俺がこいつを穢してやる。

あんたら2人が蔑んだ俺が、あんたらの宝を汚してやるよ。




「な、なによあんた……は、離しなさいよ……」


後ずさろうとするリエの肩を掴む。

華奢な体が震え、潤んだ瞳には恐怖の色が浮かんでいた。


「もういい……こうなったらとことんやってやる……」


「は、離しなさい……離して……いやっ………」


「覚悟しろよクソガキ……調子に乗ったお子様に、兄としてお仕置きしてやる……」


クソ女でもクソ親父でも頼れば良いさ。

もっとも、あいつらが助けに来るまで、俺の好きにさせてもらうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写がリアルで丁寧だと思いました。 [気になる点] 義妹と兄の二人の関係が最後どうなったのか気になりました。
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