✖︎✖︎✖︎までのカウントダウン3
また新作です。
5話くらいで終わると思います。
R18警告もらうの嫌なので、あまり詳細な描写はない予定です。
「あぁ…疲れた。」
時刻は23時を過ぎたところ。
街灯に照らされた夜道をトボトボと歩く。
俺の家は都心に近い住宅街にある賃貸マンションだ。
持ち家が欲しいと思わないでもないが、仕事が忙しくて平日は家では寝るくらいしかする事がないし、家族ができる予定もないから暫くは先の話になるだろうな。
「休日まであと2日……それを乗り切れば3連休だ……頑張ろう。」
ブツブツと独り言を呟きながら歩く。
社会人になって早3年。
俺も今年で25歳になった。
大学入学から一人暮らしをしている為、もう7年ほど1人で生活している事になる。
独り言も多くなろうというものだ。
「夜飯どうしよ…インスタント……湯沸かすのも面倒だ……今日も食わなくて良いか。」
何が楽しくて生きているのだろう、と自分でも思う。
毎日残業して深夜に帰って、朝も早く出社して働かなければならない。
うちの会社は休日出勤は滅多にないし残業代もちゃんと出してくれる。
それなりに大きな会社で基本給が高いから、給与額だけならこの歳にしては貰っている方だと思う。
だが、金を出して休日に休める分、平日は文句言わずに必死に働かなければならないという暗黙の了解があった。
それが独身者であれば尚更だ。
家に待つ者がいない。
それだけで拘束される理由になってしまうのだ。
それなり以上に給与を貰っているだけあって、それに異を唱えるものは少ない。
だがきついものはきつい、と思ってしまうのだ。
勿論、きつくない仕事などないのだろうが、他者が感じている苦痛を自分に照らし合わせたり比較したりするのは無意味だしナンセンスな事だ。
俺自身がきついと感じているし、疲れもするのだ。
それでも辞められないのは、他に行くところもなければしたい事もないからである。
結局、俺が何を言いたいのかというと。
仕事、きついです。
「………ん?」
見慣れたマンションに到着。
ロビーを通ってエレベーターで7階へ。
そして自宅の扉の前で鞄から鍵を取り出し、鍵穴に挿したところで、違和感に気づく。
鍵が、開いている。
「朝、閉め忘れたか?」
やっちまったな、と思いつつ扉を開けた。
まさか泥棒に入られたわけでもないだろう、と頭の片隅で考えていた。
結果として、泥棒は入っていなかったが、他の誰かが侵入していたのだ。
その誰かは、俺が家に入るやいなや、ドスドスと荒い足音を立てて現れた。
「遅い!!」
怒りの形相で仁王立ちした少女。
「な、何で……」
疲れも相まってか、この状況に頭が追いつかず混乱する。
「こんな時間まで何してたのよ!?連絡しても全然出ないし!!」
慌ててスマホを取り出して見る。
数件の着信や怒り口調のメッセージが届いていた。
全て発信元の名前は一緒。
『リエ』と出ている。
「わ、悪い。気付かなかった。」
これ以上怒らせても面倒な為、とりあえず謝る。
「スマホくらい見なさいよこの役立たず!あたしを無視するなんて何様のつもり!?」
「いや、別に無視したわけじゃ……」
「うるさい!」
取りつく島もない。
「さっきまで仕事だったんだ。仕方ないだろ。」
「は?なにそれ、言い訳?」
「いや、そうじゃなくて……っていうか、どうしてここにいるんだ?」
「パパとママが旅行に行くからあんたの所に泊まりなさいって……話くらい聞いてるでしょ。」
「あっ………」
そういえば、1週間前くらいにそんな連絡がきていたような気がする。
用件だけ伝えてすぐに切られたから忘れてた。
「どうせ忘れてたんでしょ。どんだけ記憶力ないのよ。ほんとグズね。」
……どうして俺がここまで言われないといけないんだ。
「鍵はどうしたんだ?」
「パパから預かってるわよ。それくらいちょっと考えればわかるでしょ、マヌケ。」
そういや、ここに住み始めた時に一回だけ顔合わせて、渡していた気がするな。
相変わらず口の悪い少女を見てふとそんな事を思い返した。
「とにかく、早くお風呂沸かしてよ。」
「は?」
「お風呂!沸かしなさいよ!」
「いや、なんで?」
「はぁ?馬鹿なの?お風呂入るからに決まってるでしょ!!」
「……シャワーで良いだろ。もうこんな時間だし。」
「嫌よ!あたしが言ってるんだから、さっさとしなさいよ!」
「そんなに言うなら自分ですれば良いじゃないか……」
ボソッと呟くが、少女は聞き逃さない。
「あんたが使った後の汚い浴槽なんて触りたくないわよ!きっちり洗いなさいよね!少しでも汚れてたら許さないんだから!!」
あまりにも横暴な態度に怒りが込み上げるが、抑制する。
こいつは前からこんな感じだ。
相手にするのも馬鹿らしいし、怒ったら色々と面倒な事になる。
両親から何を言われ、何をされるかわかったもんじゃない。
「……わかった。少し待ってろ。」
「急ぎなさいよね!…まったく、誰のせいでこんなに遅くなったんだか……」
ブツブツと文句を垂れ流しながら少女はリビングの方へ消えていった。
疲れがどっと押し寄せる。
数日間、あいつと過ごさなければならないのか。
そう考えるだけで頭痛がはしるような気がしたが、こんなところで頭を抱えていても仕方ない。
俺はひとまず部屋に鞄を置く為に、靴を脱いだ。
全てを放り投げられたらどんなに良いだろうかと思う。
嫌味ったらしい上司を殴って、生意気なあいつをここから叩き出して、もう何年も顔を合わせていない親とも絶縁して……それができたらどんなに気持ち良いだろうか。
しかし、俺にはそれをする気概もない。
心のどこかで、家族との関係を大切にできる未来がくるのではないかと、未だにそんな事を考えてしまうのだ。
だからあいつを怒れないし、追い出す事もできない。
あんなのでも一応………
義妹、だからな。