回り出した運命の歯車
レオは売人からケインに引き渡された。
「お前の名は?」
クラレンスは、レオを冷たい眼差しで眺めながらたずねた。
レオはクラレンスを憎々しげに睨み付け、答えようとしない。
その様子にしびれを切らしたカインがパシンと頬をぶった。
「答えろ!この方がお前の御主人様だ」
レオはケインの手を払いのけ叫んだ。
「へん!そんなのごめんだね。お前が俺の御主人だと?笑わせるぜ!金の力でなんでも出来ると思ったら大間違いだ。お前に飼われるなんて死んでもごめんだぜアッカンベー!」ケインはレオの襟首を掴んだ。
「こいつ!もっと痛い目にあわなければわからないらしいな。
クラレンス様、しばらく地下牢にでも閉じ込めて自分の立場というものを教えてやった方が良さそうですな」
クラレンスはクスリと微笑み
「ケインおとなげないぞ。そう脅かすな。僕はこいつに用などない。この亀だけあればいい。こいつは逃がしてやれ」とケインに指示した。
「!…クラレンス様、この亀のために1000バレンもお支払いになったのですか?」
クラレンスはケインをジロリとみると
「悪いか?父上の汚い金などどんどん使ってやったほうが世の中のためだ…そう思わないか?」
ケインはフゥとため息をつくと、レオにその頭の上に乗っている亀を渡すよう言った。「嫌だね!玄武はただの亀じゃない。聖獸なんだぞ。オレは玄武に選ばれたんだ。人間が決めることじゃないんだよ!わかんねぇかな〜」
クラレンスは驚きの表情を浮かべた。
「この亀が玄武だと?」
クラレンスはまじまじと小さな亀を見た。
「すごい苔だな…そう言われるとそんな気も…」
ケインは眉をしかめ
「そんなの嘘に決まっていますよ!亀を渡したくないための言い訳でしょう」
と言い捨てた。
クラレンスはおもむろに玄武を掴んだ。
すると、なんと玄武は金色に輝いたと思うと一瞬にして姿を消してしまった。
「ああっ!?」
叫び声をあげる二人をフフンと鼻で笑ったレオにクラレンスは詰め寄った。
「おい!なんで消えたんだ?」
レオはさも嬉しそうに
「そりゃあ決まってる。お前が嫌いなんだろ」
とシラッと答えた。
クラレンスはレオに向かって
「いいか!お前は僕のものだ。だからお前の亀も僕のものだってことを覚えておけよ!」
といい放ち、レオの両手にガチャリと手錠をかけた。
「さあ、行こうケイン。用事は済んだ」
「コロシアムに出す戦士はどうするつもりですか?」
ケインの問いに笑いながらクラレンスは答えた。
「もちろんコイツを出すのさ。なんせ聖獸使いだ。もしあの亀が本当に玄武なら優勝間違いなしだろう?」
ケインはもう何を言っても無駄だと悟りレオを馬車の後ろに乗せた。
「おい!どこに連れていく気だ?」
「もちろん僕の屋敷だ。お前は戦士だからな丁重にもてなしてやる。優勝すればお前も貴族の仲間入りだぞ、負ければ惨めな死が待っているだけだ…シュバイツァー家の名誉がかかっているんだ。恥はかかせるな」
「勝手なことをいいやがって!地獄に堕ちろ、このクソガキ!」
ケインは子守りほど大変な仕事はないなぁ…とつくづく感じた。
そして先程の競りを思い出していた。
あの老人は一体…?
やはりあの亀は本物なのか?
でなければあんな大金を積むはずがない。
だとしたら…逆に安い買い物だったかもしれないな。
なんにしてもコロシアムに出す前に正体を暴いておく必要がありそうだ…。
ケインの思惑を知ってか知らずか、クラレンスはスヤスヤ眠ってしまった。
ケインは目を細めてクラレンスの寝顔を見つめた。
この方も気の毒な子供だ…まだ母親に甘えたい年頃だろうに。
産みの親で正室のマリア様が亡くなってからは側室ルイザとその息子ライナスの勢力におされ気味だ。
我々側近がしっかりお守りせねば!
ケインは後ろの座席でイビキをかいているレオのあどけない顔を見て、胸が傷んだ。
この子も独りぼっちか…。
クラレンス様のよい慰めとなってくれれば良いが…。
ケインが想いに耽っている間に馬車はシュバイツァー家の門を潜っていた。
遠くの丘に白い城が見えてきた。
「クラレンス様、もうすぐ城に着きますよ」
クラレンスはハッと我に返り、急いで後ろを振り返った。
レオはまだグゥグゥ寝ている。
クラレンスは呆れた顔でレオを見た。
「コイツ…大したもんだな。手錠されてて眠れるなんて、なかなか胆が座ってる。そう思わないか?ケイン」
ケインも思わず笑みがこぼれた。
「 そうですね。この子はけっこうな大物かもしれませんよ」
レオはこれからどんな運命が待っているかもしらず、夢の中をさ迷っていた。




