星の船Ⅱ
船の舵をとっていたセオドアは、息を切らしながら駆けてきたテレサの方にのんびりした顔を向けた。
「なんだいお姫様、そんなに慌ててどうしたんだい?」
テレサはセオドアの顔を見るなり頬を赤らめスカートの裾を下ろした。
「セオドア…ハァ、ハァ大変よ!あっちの波間に船が見えるの!」
「ん〜?船ねぇ…どれどれ」
セオドアの望遠鏡の先には小さな船の上で手を振る派手な衣装の女達がハッキリと見えていた。
「フム…あれは華舟だな。しかし…おかしいな、ここらへんの海域は月の城のテリトリーのはずなんだが、あの旗印は月じゃなくて星だぞ」
テレサが怪訝な顔でセオドアの袖を掴んだ。
「私にも見せて」
セオドアはテレサに望遠鏡を渡すと、アゴに手をやりボソリと呟いた。
「しばらく御無沙汰だし…月の城に入る前に情報も欲しいしな」
テレサは望遠鏡を外し、不機嫌な顔でセオドアを睨んだ。
「今なんて?」
「えっ?ほら…あれだよ。なんで月のテリトリーにいるのか聞いておいた方がいいんじゃないかと…アニータにも現実を見せておいた方がいいんじゃないかなぁ」
テレサは不信感いっぱいであったが、確かにセオドアの言い分にも一理あったので渋々うなずいた。
「…仕方ないわ。あの船を呼び寄せましょう」
セオドアは船のマストの先ににテレサの赤いスカーフを巻き付けて手を振った。
すると船の女達は嬉しそうにキャッキャとはしゃぎながら自分たちの船を近づけてきた。
「なんだ?あの船!」
それに気付いたレオとアニータも駆けつけてきた。
初めてみる華舟の派手な装飾にアニータの目は釘付けになった。
今まで見たこともないような花や蝶をあしらった豪華な衣装を纏った美しい女達に皆圧倒され、思わずため息が漏れる。
「みんなお姫様みたいに綺麗!ああ、なんて素敵なの」
レオはそんなアニータを心配そうに見ていた。
まったく…見せかけのきらびやかさにすっかりのぼせあがってら。困ったもんだぜ
レオの心配をよそに、船の奥から女将らしい恰幅の良い年輩の女が、孔雀の扇子を優雅にそよがせ姿を現した。
「お久しぶりでございますセオドア様。お元気そうでなによりです」
「アンジェラ、お前も元気そうじゃないか!でも少し老けたかな?」
アンジェラはホホホと笑い、セオドアを軽く睨んだ。
「まぁ!相変わらずの憎まれ口、せっかく久しぶりの会瀬ですのに」
テレサはその艶やかな流し目にムッとしながらも表面上にこやかに話しかけた。
「まぁ!お二人共お知り合いなのね?これも何かの縁ですもの、今日はそちらの舟で楽しんでいらっしゃいな」
欄干に並ぶ女達はしきりとセオドアに投げキスしたり、手招きしながら自分を指名させようと躍起になっている。
「ナスターシャは?」
セオドアの問いに意味深な眼差しで、「奥であなた様を待っていますよ。あの子…ずっとあなたのお出でを心待ちにしておりました」と答え、舟の方に手招きした。
「じゃあ今晩は帰らないからよろしくな!」セオドアは満面の笑みを浮かべながらそう言うと、女達に絡まれながら船室へと消えて行った。
「オイ、いいのかよ?」
今にも泣き出しそうなテレサの顔をなるべく見ないように、レオはそっぽを向いて投げやりな態度でたずねた。
「…知らないわよあんなヤツ。大っキライ!レオも行ったらいいでしょ?男なんて不潔よ!」
レオは途方にくれ、地平線に沈んでいく太陽をじっと眺めていた。




