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自分を信じて

アニータは恐怖で歯をカチカチ鳴らし、テレサの後ろに逃げこんだ。


「アニータ…どうしたの?」


「この人…怖い…」


テレサはそっとアニータを引き寄せその手を握った。


「アニータ、リンは偉大な精霊使いなのよ。こんな体になったのは精霊と戦ったせいなの。だから何も怖がることなんてないのよ。リンは人一倍優しいひとよ…私はそう思ってる」


テレサの揺るぎない態度がアニータの不安を少し和らげたようだ。

アニータの小さな手がリンの額にもう一度触れた。


リンはボーッとした意識の中で、その柔らかな感触にハッとした。

「…ン…誰?…テレサかい?」


アニータはビクッと手を引っ込めた。


「リン!目が覚めたのね?彼女はアニータよ。私達はいま月の城に向かっているところなの。彼女、ルイザの元で舞いや踊りを習いたいんですって」


リンはテレサの手を借りながらゆっくりと起き上がった。


「アニータ…よろしくね。僕…すっかりみんなに迷惑かけちゃって…君にも挨拶するのが遅くなっちゃったね。ごめんよ」


アニータは首をブンブン振ってテレサの後ろに隠れてしまった。


「アラアラ、アニータはリンの前だとまるで別人ね!すっかり照れ屋さんになっちゃって」


アニータはテレサのスカートの後ろからリンを覗き見ると、アッカンベーをして部屋から逃げて行ってしまった。


「まあ、アニータ!待ちなさい!」


リンは力無く微笑むと「どうやら僕…嫌われちゃったみたいだね」と呟いた。


「ううん、そんなことないわよ!精霊使いに初めて会ってちょっと驚いてるだけだと思うわ」


テレサはリンにそう言いながらもさっき見せたアニータの恐怖にひきつった顔が頭から離れなかった。


あの子…何か勘づいたのかしら?

そんな…まさかね!

あの事を知るのは私達だけだもの。当の本人のリンだって知らない事よ。


テレサは気をとりなおしてリンに薬を飲ませた。



慌てて船室から出てきたアニータの頭にアビゲイルはオレンジをパコーンとぶつけた。


「痛ったー!!女の子に何すんだ!」


アビゲイルはケタケタ笑い声をあげてまたオレンジを投げつけてきた。


アニータは今度はそれをしっかり受け止めると、しゃがみこんでオレンジにかぶりついた。


「オーオーまるで子猿だな!オメェが舞姫なんてチャンチャラ可笑しいぜ」


アニータは汁だらけの口をニッと歪ませてアビゲイルをせせら笑った。


「フン!笑ってられるのも今のうちさ。アタイはいまに世界一の舞姫になって王子様と結婚するんだ!そんときはお前なんか私の足下にひざまずかせてやるんだからね〜っだ!」


「ハァ〜感心するね。その自信は一体どこから湧いてくるんだい?」


アニータは澄んだ青空を仰ぎ見た。

風が優しく頬を撫でていく。


「母さんが言ってたんだ。信じれば必ず叶うって…だからアタイ、自分を信じる事にしたんだ」


アニータの瞳は一点の曇りもなく、夢と希望に光り輝いていた。

「そうか…羨ましい限りだよ。俺は一度だって自分を信じたことなんかねぇや…いつだって俺を裏切るのは俺自身なんだからよ!」


アビゲイルは持っていたオレンジを握り潰した。


アニータはまるで血のようにポタポタ滴る雫を呆然と見ていた。



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