悪夢
目を覚ましていたリンはそんな二人のやりとりに耳をすませていた。
仲間というより家族…か。
リンの心はテレサのその一言でほっこりと温まった。
壁の向こうからテレサの声が聞こえた。
「これ、男物で悪いけど…」
「ありがとうお姉ちゃん」
あらためて見ると、アニータは浅黒い肌にアメジストのような瞳を煌めかせ、野性動物のようなしなやかな肢体を持つ魅力的な少女であった。
「アニータ…あなたとても魅力的よ。きっとルイザ様の目にとまるわね」
「ウフフ頑張るわ!」
テレサはすっかり綺麗になったアニータをレオ達の前に連れてきた。
「オオッ!これがさっきの汚いガキか?」
「どう!美人でしょ〜? これなら玉の輿も狙えるかもね」
セオドアは眉をひそませた。
「やっぱり月の城に行くのか?」
テレサはため息をついて「仕方ないわ…決意は固いみたいだから」とアニータの髪を撫でた。
「分かった、じゃあ月の城に向かって出発だ!」
レオはセオドアの側について地図を広げた。テレサはアニータに好きに遊んでいていいからと許可を出してリンの看病に戻ろうとしたが、アニータはしっかりとテレサのスカートの裾をつかんで放さない。
「私は病人の看病があるんだけど…一緒に来る?」
アニータは嬉しそうにニッコリした。
「眠ってるから静かにしてなくちゃダメよ?」
アニータはコクコクうなずいた。
船の中は穏やかな波のおかげで、まるで揺りかごの中にいるように気持ちいい。
リンはいつの間にか、またウトウトと夢の中に落ちていた。
リンは一面の花畑の中でゆっくり流れる白い雲を見ていた。
「リンー、ご飯よ!」
あっ!母さんが呼んでる。
もう行かなくちゃ…
リンは立ち上がろうとしたが、体がまるで鎖で縛られているように全く動かない。
慌てるリンを幾つもの顔が覗き込んでいた。どの顔も、残酷な笑みを浮かべてもがいているリンを嘲笑っていた。
「この悪魔め!人のふりをしていてもムダだぞ!体に染み込んだ血の匂いは消せやしない。お前は呪われた存在なのだ!死ね!死ね!死ね!」
いつの間にか花畑は血の海になり、地面から幾つもの手が延びてきてリンの体を押さえつけた。
「放せ!僕は何もしていない…」
「ケケケケケッ!何もしていない?バカを言うな…お前は人殺しだ!人殺しー!ケーッケッケッケ」
テレサはうなされるリンの額を冷たいタオルで拭ってやっていた。
「お兄ちゃん…大丈夫かなぁ?」
アニータは心配そうにたずねた。
「大丈夫よ…お兄ちゃんはちょっと疲れているだけだから」
「…ふぅん」
アニータはリンの額に手を当てた。
「ヒッ…」
アニータはビクッと震えて手を放した。
「どうしたの?」
恐怖に凍り付いたアニータの顔をテレサは不思議そうに見つめた。




