人で無しの国Ⅹ
「ウッ……ゴホゴホッ」
リンは意識を取り戻すと辺りに充満する血の臭いにむせこんだ。
「リン!気が付いたのね良かったわ」
テレサはリンの血にまみれた手をとった。
「テレサ…僕…ここは?血の臭いがする。一体何があったの?」
「何も…覚えてないの?」
リンはクラクラする頭を抱えてうなずいた。
「ヘッ!これだけのことをしといてそれはないぜ。あのな、お前は…」
アビゲイルがそう言いかけたのを慌ててレオが遮った。
「お前はテレサが拐われたのを知って谷に向かったんだ。そして足を滑らせたらしい…ずいぶん捜したんだぜ俺達。とにかく無事で良かったよ!このアビゲイルがお前を見つけて俺達に報せてくれたんだ。な?そうだよな?」
「あ?ああそうそう、そうなんだ。どこか傷めてないか?」
リンは立ち上がろうとして尻餅をついた。
「なんだかアチコチ痛いよ…体もなんだかフラフラして力が入らない…」
「大丈夫!明日になれば元に戻るさ。変身は体力使うからな」
セオドアはアビゲイルを思い切りどついた。
「イテテテ!何すんだよもう!」
レオはすっかり小さくなってて弱ってしまった青龍を腕に貼り付けた。
「お疲れさん…ゆっくり休めよ」
青龍は「ミュ〜…」と小さく鳴いて目を閉じた。
レオはセオドアに耳打ちした。
「早くここから引き揚げよう。村人たちがこのまま黙っているとも思えない…この国から出るんだ!」
レオは玄武を呼び出し、その背にみんなを誘導した。
セオドアにおぶわれて玄武に乗ったリンは先ほどの所業が嘘のように無垢な少年に戻っている。
このことは絶対リンに知られないようにしなくちゃ!
テレサはリンの頭を膝に乗せ、優しく撫でてやりながら決心を固めた。
村の上空から下の光景を眺めると、怒り狂った村人達が武器を手にとり谷に向かおうとしているところであった。
「船は無事かしら?」
「大丈夫さ、あの船はリンデンハイムのマークが入っているからな。滅多なことじゃあ手出ししてこないだろ」
セオドアの言う通り、船はちゃんと来たときのまま海の上に浮かんでいる。
「よかった!玄武、なんとか上手く船の上に着地しろ」
ところが玄武はみるみるうちに小さくなって、リン達はザブンと海の中に落ちてしまった。
「バカ!玄武のやつ…みんな、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ!早く助けてよ。リンが沈んじゃう!」
アビゲイルはスイスイ泳いでいくと、あっというまにリンを抱えて船まで泳いで行った。
「なにやってんだお前達!サッサと来いよ。ほら、追手が来たぜ!」
アビゲイルの声でテレサも慌てて船まで泳いだ。
「よし、碇をあげるぞ!」
岸から弓矢がビュンビュン飛んでくる。
たまらずセオドアが叫んだ。
「リン!風を起こしてくれ、頼む!」
リンはなんとか力を振り絞りラシードを召喚した。
「ラシード、この船を沖に流してくれ!」
「お安い御用!」
ラシードが翼を広げパサリと羽ばたいただけで船は猛烈な勢いで沖まで一気に流されていった。
「ヒュー!スゲェや。でもさ、何でこんなに砂が…」
アビゲイルが辟易しているのをテレサは笑って、「だってラシードは砂の聖霊ですもの」と教えてやった。
「へぇー、なるほどね…俺は火でアイツは砂…ゲッ!それってもしかして俺の天敵じゃんか。俺が火を出しても村人のやつら、砂をかけて消してたもんな。でもまぁ今は仲間だし?気にすることもねぇか」
「な〜にブツブツ独り言いってるんだ?」
「ああ、兄貴か。なんだか腹減ったな〜と思ってさ」
「食糧庫になんかあるだろ。そうだな…お前は今日から食事当番だ、分かったらサッサと支度しろ」
「エエ〜、マジですか?」
「お前が一番下っぱなんだから当然だろ?あっちが食糧庫だ、頼んだぞ!」
「チェ〜ッ!分かりましたよ。味は保証しませんからね」
アビゲイルは仕方なく食糧庫を開けた。
「どれどれ何があるかなぁ〜っと。オッ旨そうなソーセージがあるじゃないですか。ん?なんだ、これ?」
アビゲイルがつかんだのは小さな耳であった。
「イタタ!あにすんだ放せ、放せよチクショ〜!」
食糧庫から引きずり出されたのはザンバラ髪の汚ならしい痩せた子供であった。




