レオの御主人様
二人が表に出ると
「ドーン!ドーン!」と大きなドラの音が聞こえた。
リンはテレサに何が始まるのかたずねた。
「奴隷の競りが始まる合図よ。ロイが誰を競り落とすか見に行きましょうよ!」
テレサはリンの手を引っ張るとズンズン人混みの中に入って行った。
ロイは舞台の上に並ぶ奴隷達に釘付けで全くこちらに気付く様子はない。
舞台の上には老若男女が一斉に並び人々の好奇の目に晒されていた。
まずは屈強そうなガタイのしっかりした若い男の競りが始まった。次々に値段がつり上がっていく。
リンはその様子を見て複雑な表情を浮かべた。
「僕のいた村には奴隷なんていなかった。みんな平等で助け合いながら仲良く暮らしていたよ。だから奴隷っていわれてもなんだかピンとこないんだ。もし…もしも買い手がつかなかった場合どうなるの?」
テレサは舞台を眺めたまま
「そういう場合は大抵棄てられちゃうわね。ようは釈放よ。だって買い手がいないのに養っても損するだけでしょう?だけど…こんな世の中ですもの浮浪者でいるより奴隷になって養われていた方が食べ物も住むところもあって幸せよね。だからみんな自分から奴隷市場に来るのよ。誰か私を買ってちょうだい!ってね。たまに未成年の犯罪者も売りに出されるわ。野放しだとまた犯罪者になっちゃう。だから奴隷にして誰かに監督してもおうってわけ」
と説明してくれた。
リンはそれを聞いてさっきのレオはどうみても自分の意志であそこにいたのではないと思った。
あの鎖…レオは奴隷になりたくないんだな。誰も買い手がつかなければいいけど…
リンの心配をよそに舞台の袖からレオが売人に引っ張られて出てきた。
頭の上には相変わらず玄武がどっかりと座っている。
「放せよ!痛いってんだ。掴むなよ〜」
レオは売人の手をふりほどくと
「お前らなんかに買われてたまるかってんだ。俺は誰かの世話にならなくても自分で生きていけらぁ。ほっといてくれ!」と叫び、その場に座りこんでしまった。
会場の人々はその様子にクスクス笑ったり、眉をひそめて呆れていたりでレオの狙い通り誰も買い手はつかないだろうとリンとテレサはその様子を見守っていた。
ところが、小さな手がまっすぐにあがっているではないか!
「クラレンス様!今日はマッドコロシアムの戦士を選びに来たのですよ。あんな少年を買ってどうするつもりですか!?」
クラレンスと呼ばれた少年は仕立てのよいスーツを着込み、貴族の印である錫杖でコツコツ床をつつきながら守役の男に言った。
「僕は別にあの少年に興味はない。だがあの亀が欲しいんだ。いいだろう?どうせ誰も手をあげやしないよ。僕の小遣いで買えるさ」
守役の男は困った顔で小さな主人をたしなめようと口をひらこうとしたその瞬間、会場からざわめきの声が聞こえた。
もう一人手を上げている人物がいるではないか。
クラレンスは驚いた顔でその主を見ると、薄汚れた衣をまとい長い髭をたくわえた老人であった。
挑戦的に笑みを浮かべ、クラレンスに視線を送ってきた。
「何者だ?アイツ僕と競りあおうというのか?面白い!のってやろうじゃないか」クラレンスは300バレン!と声をあげた。すると老人は500バレン!とすぐに声をあげた。
「ハハハどうやら本気で僕と競り合うつもりのようだな。さて、どこまでついてこれるか楽しみだ」
クラレンスはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
リンとテレサは思わぬ成り行きに狼狽えた。
「レオ…まさか買い手がつくとはね。やっぱりロイに買うよう勧めるべきだったかな?」リンがそういうと、テレサはお手上げポーズで
「ダメよ無理無理!もうすでに500バレンなのよ。ロイがそんなにあの子にお金を出すとは思えないわ…あの二人、一体レオのどこに惹かれて買う気になったのかしら?理解不能だわ!」
とため息をつきながらリンに話した。
その間にも老人と子供の競り合いは続いていた。
「600バレン!」
「800バレン!」
「850!」
「1000!」
クラレンスがそう声をあげたが最後、さすがにそのあとは老人も諦めたのか声はあがらなかった。競り終了の合図のドラがドーンとなり、レオはクラレンスに競り落とされた。
クラレンスはほくそ笑み、老人の方に視線を送ったが既に姿を消していた。
「クラレンス様!1000バレンも使ってしまってはもう戦士を買うことはできませんよ!父上にどうお話になるつもりですか?」
クラレンスはチッと舌打ちして
「うるさいぞケイン!父上にどう話すかは僕に任せておけ。それよりあの少年がおとなしくついてくるとは思えない。手錠を用意しておけ。いいな!」
と言い放った。




