人で無しの国Ⅴ
窓からは柔らかい光が射し込み、リンの体を優しく包んでいた。
「う…ううん…もう朝かな。テレサ、まだ寝てるの?」
リンは隣のベッドを手で探った。
すでにベッドには温もりは残っておらず、冷たいシーツはグチャグチャに乱れている。
「テレサ…テレサどこだ?テレサー!テレサー!」
叫び声を聞き付けた村長達は慌ててリンの部屋に入ってきた。
「どうしました!?」
「あの…テレサがいないんです!誰か彼女を見かけませんでしたか?」
「いや…リン様の部屋でまだ寝ているとばかり。ん?あれは…」
ユーリは部屋の柱に矢文が刺さっているのを見つけて引き抜いた。
紙を広げると、そこには『精霊使いは我々が預かる』と書いてあるではないか。
「た…大変だ!ホロン達はテレサさんが精霊使いだと勘違いして連れ去ったんだ」
「そんな…どうしたらいいんだ」
リンは途方にくれてガックリと崩れ落ちた。
「オーイ、リンいるかー?テレサ迎えにきたぞ!」
「あの声は…レオ!レオー!こっちだ、早く来てくれ!テレサが大変なことに…」
扉をバタンと開けて、レオとセオドアが姿を現した。
「あなた達は?」
ユーリは怪訝な顔で二人を見た。
「こいつの連れだよ!いやぁ、ずいぶん捜したぜ…この村に砂嵐があったって聞いてピピンときてさ。ところでテレサがどうしたって?そういえば姿がないな」
ユーリは矢文を渡した。
「なんだこれ?誰だよ、テレサを拉致ったのは?」
セオドアはレオから矢文を取りあげてざっと見たあとその紙を丸めて棄てた。
「何で犯人は精霊使いを必要としているんだ?どうなんです、何か知っていることがあれば教えてくださいよ」
「………」
村人達はみな口ごもってしまいレオが近付くとスッと逃げてしまう。
「おかしいな。なぜみんな黙ってる?何か隠してますね、村長どうして言えないんですか?」
セオドアは村長に詰め寄った。
「そ…それは…そのぅ…」
レオはペッと唾を吐いた。
「こいつら吐かないつもりだぜ、仕方ないなこんな事はしたくないが…リン!今すぐラシードを呼び出せ、こんな村あっという間に吹き飛ばせるだろ?」
リンはうなずいておもむろに立ち上がった。上を向いて大きく息を吸いこむ。
そして口をあいた瞬間、青ざめた顔でユーリが叫んだ。
「生け贄だ!ホロンは精霊使いを生け贄にして神に病気の治癒を願うつもりなんだ!」
「な…なんだって!?それは本当ですか?」
「え、ええ本当です。ヤナ谷の奥に火の海があるんです。そこにホロンたちが祀る巨神像があります。そこには火に投げ込まれた精霊使いから神が生まれ、その神が病を退治する様が画かれているのです」
リンは怒りに満ちた顔でユーリの襟をむんずと掴んだ。
「そのヤナ谷とはどこだ!どこにあるんだよ!!」
今まで見たこともないリンの恐ろしい形相に、セオドアもレオも冷たいものを背中に感じた。
それは紛れもなくリンから放たれる強烈な負のエネルギーだった。
「止めろリン!放してやれ、そいつは意識を失ってる…」
セオドアは慌ててユーリからリンの手をもぎ取った。
リンは天を睨み大声を張り上げた。
「砂の精霊ラシード出でよ!!」
空はどんよりと曇り、遥か彼方から物凄い轟音と共に砂嵐が現れ、リンを吸い上げるとそのまま森の方角に行ってしまった。
「まずいぞ、リンが暴走した!追いかけないと…レオ!玄武か青龍を出してくれ」
「そ、そうだな。よし!青龍お前頼むよ」
レオは腕に貼り付いているミミズ大の青龍を掌に乗せた。
指先で突いても何の変化もない。
しかもよくみるとなんだかカサカサして干物みたいに縮んでしまっている。
「ヤ…ヤバイ!そういえばずっと放っておいてほとんどコイツの存在忘れてたんだよな。セオドア、水だ!水を持ってきてくれ!」
セオドアは近くの井戸から水を汲んできた。
レオはその水桶の中に干物になった青龍をペイッと投げ入れた。
すると、青龍はあっという間に元気を取り戻しスイスイと泳ぎ回った。
「上手くいったぜ〜!よし、青龍命令だ。俺達を乗せてラシードを追え!」
青龍は水桶から空中に跳ね上がった。
みるみる巨大化した青龍に跨がった二人は空高く舞い上がって行った。




